マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
ハーフリングママが連れてきた赤ん坊の粗相で汚れてしまったベッドシーツを洗った俺は、屋上まで行って干すことにした。
どうせ今日も暇だし、わざわざ下っ端天使の手を
「よし、こんなもんか」
物干し竿にシーツを掛けて洗濯バサミで止めて、ついでに洗った雑巾も干したらおしまいだ。
空にはカンカン照りの太陽が浮かんでいるし、きっとすぐに乾くだろう。
「赤ん坊の世話は大変じゃのう、わしにちゃんとできるじゃろうか」
屋上の縁に腰掛けていたアンバーが城壁の向こうに見えるハイランドの里を眺めてポツリと呟いた。
「あのろくでなしを絵に描いたようなリジーにだってできたんだ。母親になれば、アンバーだってすぐに慣れるさ」
「そんなものかのう」
「俺もいるし、アイリスやミュールだっている。大変なことは家族みんなで支え合って生きていこうぜ」
俺はアンバーを背後からぎゅっと抱きしめた。
「ハルト……」
いい感じの雰囲気が
このままお天道様の下で子作りに移っちゃうか?
と考えたのもつかの間、邪魔者が現れた。
「ハルト、アンバー! ちょっといいかにゃー!」
目と鼻の先にある城門の入口から、ミュールが大きな声で俺達を呼んだのである。
「今はちょっと忙しいから後にしてくれないか!」
「乳繰り合ってる場合じゃないにゃ! 里の広場に行商人がやってきたのにゃ!」
「ほう、行商人とな?」
ハイランドの里のハーフリング達をコーラ漬けにした犯人がのこのこ顔を出したってわけだな。
ようし、ここは医者として一発文句を言ってやらないと。
「分かった、すぐに会いに行こう!」
俺は二階建ての探索者ギルドの屋上からぴょーんと飛び降りると、プロテクションをゴムボールみたいにする裏技でポヨンと1回跳ねてから着地した。
続けてアンバーもシュタッと飛び降りてくる。
「わしの知っている人がおるとよいのじゃがな」
俺達は早速、ミュールのもとへ歩き出そうとしたのだが……。
「おっと、その前に……」
俺は探索者ギルド一階の受付で医学書を読んでいた勉強熱心な天使(本名メルエル)に、里に行くことと屋上にシーツを干したことを伝えた。
こうしておけば急な天候の変化で雨が降っても安心だ。
城門で入出を管理している警備の軍人エルフに挨拶しつつ、俺達は綺麗な石畳で舗装された道を歩いてハイランドの里に向かった。
ハイランドアルパカの足で5分くらいの距離なのですぐに到着する。
「見てみい、あそこじゃ」
里の外れにある元キャンプ地の広場には一台のオフロードカーが止まっていた。
その周囲には大きな
胸元に「シロクマ商会」のロゴがでかでかとプリントされたエプロンを着ている、真っ白な毛皮をした熊獣人がひいふうみい……裏方を含めて4人か。
息をするように化身スキルを使い
集まったハーフリング達が手に抱えたりアルパカの背に乗せたりしているのは、ハイランドアルパカの毛織物や木工細工、それにケツメオオウサギの毛皮だ。
冬の間に作り溜めたこれらの工芸品を行商人に売って、その代金で持ち込まれた商品を購入するのがこの里の古くからのやり方だった。
「うーん、なかなか頑張っているな……」
辺境への訪問販売の割に並んでいる商品の価格はグンシモールと大差なかった。
その上、ジャイアントコーラがガロンサイズの瓶で1本1メルとか……いくらなんでも安過ぎるだろう。
「もしかして、あなたが中級医師のハルトさんですか?」
「シロクマ商会」のロゴが入った帽子を被ったシロクマさんが話し掛けてきた。
こいつが店主か、俺が早速文句を言おうとすると……。
「そうだが――」
「それはそれは! 天使も驚くほどの腕前で腐れ病を治したばかりか、
「お、おう……」
開口一番、そこまで持ち上げられると文句の言いようがなくなってしまった。
いや、反撃の機会はまだ残されているかもしれない。
「商人として、コーラが売れなくなったことに不満はないのか?」
俺はポーラーの後ろに山積みされたガロンサイズのコーラ瓶に視線を向けた。
「ひと瓶だけ、ひと瓶だけでいいから買っておくれ~」
「駄目よお爺ちゃん、次は治せないってハルト先生も言っていたでしょう?」
物欲しそうな顔でおねだりするショタジジイを家族が物理的に引き留めている。
これがジャイアントコーラ中毒者の末路だ……。
「いやいや、
糖尿病の代表的な症状の一つに手足の痺れがある。
それは手先の器用なハーフリングの職人生命を終わらせるには十分なほどの悪影響を及ぼしていたのだ。
「それならいいんだけど……」
「おっと、自己紹介が遅れました。私はネフィリムに本拠を置く総合商社『シロクマ商会』の38代目代表取締役社長をしております、ポーラーと申します」
エプロンのポケットをガサゴソとしたシロクマさんは、かわいいシロクマのイラストが描かれた名刺を差し出してきた。
「これはどうもご丁寧に、ありがとうございます」
俺がお礼を言いつつ受け取った名刺を懐に仕舞っていると、アンバーがポンと手を叩いた。
「そうか、お主はポーラーじゃったか。わしじゃ、アンバーじゃ。あんなに小さかったのに、すっかり大きくなったのう」
「お久しぶりです、アンバーさん。私は里長の家に泊まった日の晩、
ポーラーが化身スキルを解くと、白い熊耳の生えた白髪のイケメンが姿を現した。
おおう、どこぞの
「あの時のお主は心底ビビっておったのう」
「当時の私は12歳でしたから。いくら鍛錬を積んでいたとしても、二層の魔物の群れを相手になんてできません」
「わしだって12歳だったわい」
「それ絶対、自分が特別だと分かってて言っていますよね……」
夜にダンジョンで大冒険か、このクマさんが俺の知らないアンバーの姿を知っているなんてちょっと嫉妬しちゃうな。
俺が嫉妬の炎をメラメラと燃やしていると、ポーラーはすぐに話題を切り替えた。
「ところで話は変わりますが、あちらの方にある大きな城はアンバーさんの住まわれているものなのでしょうか? 里の皆さんに聞いても要領の得ないような回答しか返ってこなかったので困っていたのですが……」
こっちの方角からじゃ、世界樹の若木も城に隠れて見えないか。
きっとアンバーの婿が魔道スキルを使って建てただの、みんなで刻んだ城壁の彫刻がどうのとか言っていたのだろう。
「アレは込み入った事情があってのう。少し長い話になるが……」
「手は足りてますし、お茶でもしながらゆっくり聞かせて貰えるとありがたいです」
「じゃあ、そうしますか」
俺は近くの空いたスペースに石の流体を使って丸いハムマンテーブルとハムマンチェアを3脚作った。
「聞きしに勝る素晴らしい腕前ですね。一体、いくらで売れるでしょうか……」
根っからの商人だけあって、
口ぶりからして俺のこともよく知っているみたいだし、知らないふりをして金になる情報を引き出そうとしているに違いない。
「売れるような代物じゃないんだけどな。せっかくの機会なんで、お茶は俺の方で用意しますよ」
ハムマンチェアに腰掛けた俺は、ポーチからハイランドの世界樹から採れた新鮮な若葉を使用した世界樹茶の入った缶を取り出した。
とっても苦いが、シロクマさんが地元のネフィリムから持ち込んだ甘ーいお菓子には良く合うことだろう。
これまた即席のティーポットに茶葉を突っ込んでスキルで作ったお湯を注げばお茶会の準備は完了だ。
そうそう、ティーカップにお茶請け用の皿も用意して……と。
「あちしが
「そ、それはちょっと困ります……こちらも商売なんですよ……」
「うえぇーん、ミュールちゃん、お腹空いたよー」
「見るにゃ、このままだと子供達が餓死しちゃうにゃ!」
「えぇ……」
販売されているお菓子を物欲しそうに見ているハーフリングの子供達を代表してシロクマの店員と値切り交渉をしているミュールの姿を眺めながら、俺達はのんびりとしたティータイムを始めたのだった。