マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

250 / 288
第250話 腐女子は高いところが好き

 アンバーの自慢話を小一時間ほど聞いたシロクマ獣人のポーラーは、すっかり冷めた世界樹茶をズズッと(すす)ると渋い顔をして、それから得心がいったように頷いた。

 

「なるほど、アレは新たな世界樹を守るネフライト王国の城だったわけですね。そちらに探索者ギルドの支部もできるとなると、私共(わたくしども)も商売のやり方を改めないといけないでしょうか」

「賃金の発生するような仕事はギリーオームシルクの加工とか農作業の手伝いくらいしかしていないから、今までとあんまり変わらないと思う」

 

 アバロンの里に住む竜人族(マムクート)と違って、ハイランドの里のハーフリングはネフライト王国の庇護下に入ったわけじゃないんだよな。

 言ってみればただのお隣さんだ。

 

 俺達というかアイリス教授が色々と口を出しているから融和政策を取っているだけで、本来なら城門を固く閉ざして対話すら拒絶していただろう。

 

「ギリーオームシルク……どうにか一噛みできませんかね……」

「マジックポーション原液と一緒にネフィリム魔道具職人(クラフター)組合の倉庫まで運ぶからのう、絶対に無理じゃな」

 

 マジックポーションの販売や魔道具素材の流通を一手に引き受けている魔道具職人(クラフター)組合はネフライト王国の下部組織なのである。

 

 ハイランド城の住民が使う生活必需品もその輸送のついでに手配をするわけだし、ネフライト王国のエルフに獣人の一商会が関わることなど一切ない。

 今から城を訪ねたところで警備の軍人エルフに門前払いされるのがオチだ。

 

「ですよね……」

 

 それでもハイランドの里の住民の収入が増えることには違いないわけだし、商人なら上手いことやるだろう。

 何しろ、シロクマ商会は500年も前からこの里と独占的に商取引をしているのだ。

 

「ポーラーさーん!」

 

 おっと、里長のシトリーがアルパカに乗ってやってきたぞ。

 

「どうやら私の休憩もここまでのようです。お茶、ご馳走様でした」

 

 ポーラーは俺達にぺこりと会釈(えしゃく)をすると、にゅっとケモ化して席を立った。

 どこからどう見ても、エプロンを着て帽子を被った大柄なシロクマさんだ。

 きっと、これがシロクマ商会の正装なんだろうな。

 

「シトリーさん、どうもご無沙汰しております」

「今年は早かったですね。何かありました?」

「いやあ、これが大変で――」

 

 二人が立ち話を始めたので、俺達もお暇させて貰うことにした。

 ミュールはハーフリングの子供達と忍者ごっこで遊ぶのに忙しいみたいだし、放置でいいだろう。

 

 椅子とテーブルを含めたティーセットを全部石の流体に戻して一纏めにした俺は、足元に侍らせた石の流体を魔力に還元しながらアンバーと手を繋いで歩き出した。

 

「俺はこのままギルドに戻るつもりだけど、アンバーはどうする?」

 

 あれから結構時間が経ってるし、そろそろ洗濯物も乾いた頃だろう。

 

「原稿作業が終わった今は特にやることもないからのう、隣でお主の仕事ぶりを眺めていてもよいか?」

「別にいいけどさ、多分何も起こらないと思うよ」

「それでよい、わしはお主と一緒に過ごせればそれで満足じゃ」

 

 実際、その日も特に何事もない素晴らしい一日で終わった。

 暇つぶしに探索者ギルド一階の受付で医学書を読んでいた下級天使メルエルの試験勉強を見てやったくらいだ。

 

 ぶっちゃけ試験対策については暗記するしかないので、俺は念動スキルの扱いの方を重点的に教えている。

 

 要地に派遣されてきただけあって実務経験も豊富みたいだし、努力を続けていればいずれは彼も中級天使になれることだろう。

 

 

 夕方になったので、俺とアンバーはハイランド城に帰ることにした。

 ハイランド城が完成してから、俺達はずっとこちらの客室で寝起きしている。

 

 なにせ、こっちならディヴレスの美味しいご飯が毎日食べられるからな……。

 いつまでも里長の家に世話になるわけにはいかないなどと言って、芋餅と白アスパラとウサギ肉だけの食生活におさらばしたのだ。

 

 城壁内に住んでいるほとんどの住民—―例外は規律に厳しい天使くらいだ――はハイランド城の大食堂で朝晩の食事を取っているので、俺達も必然的にそこに集まる。

 食事中の話題に(のぼ)るのは、もちろん今日やってきたシロクマ商会についてだ。

 

「へー、そんなのがきてたんだねー。何か面白い魔道具とか売ってなかった?」

 

 最近のアイリスは部屋にこもって新しい術式の研究をしている。

 せっかく休職したんだから少しくらい遊んだりしてもいいのに……と思わないでもないが、これが彼女のライフワークなのだからしょうがない。

 

「獣人の商会じゃぞ、売っているわけがなかろう」

 

 個人間での取引ならともかくとして、魔道具の販売には魔道学院の定める技術資格が必要不可欠だ。

 それを破ったのが発覚した場合、非常に重たいペナルティを受けることになる。

 

「わたしも生活魔道具の修理の関係で話を聞いてはいたけどね、ちゃんとしているみたいで本当によかったよー」

 

 どの道雪に閉ざされる冬の間は(ふもと)の街まで降りたりなんてできないから、この里のハーフリングはほとんど魔道具に頼らず大抵のことを自前の魔力を使ったスキルでどうにかしている。

 

 暖房や炊事はもちろんのこと、農業に裁縫、細工に果てはアルパカの世話まで……アンバーが魔力コンプレックスを(こじ)らせたのも頷けるというものだ。

 

「堅実な商売をしているからこそ、38代目まで続いたんだろうさ」

 

 その真面目さが(たた)って、この里のハーフリング達の望むままにジャイアントコーラを提供しちゃったのがいけなかった。

 いくら安いとはいえ、水代わりに飲むようじゃ病気になるのも当たり前だ。

 

「あの人、ポーラーさんって言うんですかぁ……うへへ……」

 

 空っぽの皿を脇に寄せたメリーベルが紙の上でシャカシャカと鉛筆を動かしてネームを量産しながら気持ち悪い笑みを浮かべている。

 あの人って言ったな、今。

 

「まさかとは思うが、部屋から望遠鏡でも覗いていたのか?」

「当然ですっ! 望遠鏡は引きこもりの必須アイテムですよぉ!」

 

 メリーベルの私室がやたらと城の高い位置にあると思ったらそういうことか。

 馬鹿と腐女子は高いところがお好きなようだ。

 

「メリーベルよ、生モノは駄目じゃぞ」

 

 ネームの一枚を手に取ったアンバーが眉間にしわを寄せて忠告した。

 ハム学風にアレンジされているが、どうやらポーラー×フォス爺のようだ……。

 

「これはリスペクト……リスペクトなので問題ないのです……」

 

 そうブツブツ呟きながら、メリーベルは新たな性癖の扉を開いていった。

 

「残念じゃが、もう手遅れのようじゃ」

「漫画なんて教えなきゃよかったかな」

 

 この分だと俺が彼女の標的にされる日も近いようだ。

 いや、見えないところで既になっているかもしれない。

 

 できればうっかり目にしてしまう前にこの里を離れたいものだ。

 早く天使のお医者さん、やってこないかなぁ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。