マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
残暑も過ぎた8月の末の日、ハイランド城を出立した俺達はハイランドの里の外れにある広場までやってきていた。
メリーベル達との挨拶は朝食の時に済ませてあるので(超ドライだった、やっぱり長命なエルフだからかな)次はハイランドの住民とお別れの挨拶をしよう。
見送りに集まってきたハーフリング達が興味津々に見ているのは木のシルエットのようなネフライト王国の紋章がプリントされた2台のオフロードカー、そして俺が石の流体で作ったハムカーだ。
これから俺達はディオゲネス山脈の上をうねうねと走る古代の登山道をひたすらに進んで、ディオゲネス山脈南端の
この旅の最終目的地は西大陸東部にある迷宮都市イクリプスの探索者ギルド本部だから、実はミュールの忍者ハヤテ号でハイランド高原の東側の
今回は俺達の他にも同行者がいるので、陸路でのんびりと向かうのだ。
その同行者とはハイランド城の建築に携わったエルフ工兵の皆さん、総勢10名。
彼らをネフィリムの港まで護衛するのが、俺達に残された最後の仕事だ。
「アンバー、達者でやるのじゃぞ」
「毎年手紙を送るからのう、フォス爺も元気に長生きしておくれよ……」
「分かっておる、分かっておるとも……」
フォス爺とぎゅっとハグしたアンバーのほっぺたから、つーっと一筋の涙が滑り落ちた。
どう言い
アンバーの結婚式の後からフォス爺は目に見えて眠りが長くなっていた。
それは天使でなければ絶対に逃れられない、魂の寿命が間近になっている証だ。
フォス爺との長い抱擁を終えたアンバーは、里長の家で飼っているハイランドアルパカの背中を撫で始める。
「フォス爺とシトリーのこと、しっかり頼んだぞ」
「ンェェ~ン」
俺もそれなりにこの里で過ごしているから分かるが、これは親愛を示す鳴き声だ。
「ハルトさんもアイリスさんも、このハイランドの里の為に色々として下さって本当にありがとうございました。私はあのお医者さんの先生と上手くやっていけるかちょっと不安ですけど……里長として、精一杯頑張ってみようと思います」
そう言ってシトリーはぺこりと頭を下げた。
俺の後任に収まった上級天使ウリエルは里の住民からすこぶる評判が悪かった。
腕はいいんだけどね、腕は……。
あの人、やたらと患者を怖がらせたがる趣味があるんだ。
「ところでシトリーさん、お見合いの方はどうなりました?」
「妥協するか悩んでいます……」
フォス爺が知り合いの伝手を
元々、フォス爺は西大陸のとある迷宮都市でCランク探索者をしている彼の父親宛てに手紙を出したはずだったんだけど、情報が古かったらしくとっくの昔に結婚して二人の子宝に恵まれていた。
1年ほど前にフォス爺から手紙を貰って、これもいい機会だと一家揃ってハイランドの里に帰郷してきたのが8月の半ば。
エルフのことは何も知らなかったそうだが、移住のタイミング的には最良だろう。
「妥協するなら早めに
アイリスはミュールに群がっているハーフリングの子供達の方に目を向けた。
ミュールはどこに行っても子供に好かれるんだよな。
精神年齢が近いからかもしれない。
「この際、里長権限で婚約したらどうかな。逆光源氏……無垢な少年を自分好みに旦那様に育てちゃえば悩む必要もなくなるでしょ」
「まるで他人事みたいに、簡単に言ってくれますね……」
ムッとした表情を浮かべたシトリーは、見上げるように俺を
俺はそんな彼女から目を
目の前の相手が例え義理の従姉であろうと、俺にとっては他人事である。
「オマエらの為にあちしが用意した秘伝の巻物にゃ。これを読んであちしみたいな立派な忍者になるのにゃ!」
ミュールはポーチから巨大な巻物を取り出すと、忍者装束を着た赤毛の幼女に手渡した。
忍者幼女は巻物をちいさな腕に抱えて、ジーンと感動して涙ぐんでいる。
「ししょー……あたし、ぜったいさいきょーの忍者になるから……!」
「うむうむ、いい心がけにゃ。……そろそろ時間にゃ、これにておさらば!」
ミュールが印を組むと、彼女はぼふんと発生した白煙に包まれた。
煙が消えると……そこにはミュールの形をした土人形が転がっていた。
「うう、ししょーが死んじゃった……」
泣き崩れた忍者幼女を周囲の子供達が慰める。
「スピネルちゃん、心配しないで。ミュールちゃんはずっと私達の心の中で生き続けるんだから……」
「そうだ、ここにミュールちゃんのお墓を作ってあげようよ。そうしたら天国のミュールちゃんも安心するでしょ?」
「ぐすん……おはか作る……」
なんか死んだような扱いになっているみたいだけど、ミュールは隠密スキルを使ってハムカーの中に隠れているだけだと思うよ。
とはいえ、子供のごっこ遊びにそれを言うのは無粋が過ぎるか。
「アンバー、そろそろ出発しよう」
アルパカのモフモフとした毛に顔をうずめていたアンバーは、ズボっと頭を引き抜いてこちらに振り返った。
「うむ、分かったのじゃ」
俺はハムカーの運転席に乗り込むとハーフリングオーブの力でショタになった。
こうして器用さを底上げすることで、これまでよりも遥かに快適な車旅をお届けするのだ。
……いや、ハムカーは車じゃないんだけどね。
危険がいっぱいな山道で慣れない四輪車を運転するくらいなら、こっちの方が臨機応変に対処できると信じたい。
「ミュール、ちゃんと乗っているか?」
後部座席に乗り込んだアンバーとアイリスをバックミラー越しに見ながら尋ねると、左から脇腹をツンツンとつつかれた。
姿かたちはまったく見えないが、ちゃんと助手席に座っているようだ。
「それじゃあ、出発進行!」
「みんな、元気でのぉー!」
アンバーは窓から身を乗り出して大きく手を振った。
それに応えるように大きく手を振るハーフリング達に見送られながら、2台のオフロードカーを引き連れたハムカーはPUIPUIと足音を立てて走り出したのだった。