マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第253話 登山道整備の旅

 俺達の乗るハムカーはディオゲネス山脈の上を続く黒く幅の広い、中央に白線の引かれた二車線道路をのんびりと走っていた。

 

 竜の背に例えられることの多いディオゲネス山脈の南端の(ふもと)から北端の山頂まで続く、正式名称をディオゲネス山道と呼ぶこの道路は4万年以上前に存在したアルカ文明によって築かれたとされている。

 

 魔道電力エネルギーによって一大勢力を築いたこの文明がどうして滅亡したのか、魔道学院の考古学者にさえ未だに正確なことは分かっていないらしいが……俺は彼らが外宇宙に旅立ったのではないかと考えていた。

 

 その理由の一つとして、中央大陸から西大陸にかけての鉱物資源の枯渇にある。

 

 地質学に造詣(ぞうけい)の深いレクナムの話によると、いわゆる都市鉱山—―ダンジョンスタンピードで滅んだ数々の文明の遺跡から回収されたものを含めても、この世界で出回る地上産の金属の量が明らかに少ないのだという。

 

 現在、この世界で広く扱われている金属はそのほとんどがダンジョンで採掘されたものだ。

 魔道スキルでちまちま生み出すよりも、鉱夫を雇って掘り出した方が安いからな。

 

 地上で採掘された鉱物資源が東大陸や深海に存在している可能性もあるにはある。

 だけど俺の脳細胞に残るSF漫画知識が(ささや)くのだ。

 

 未だにこの惑星上を周回する数万の人工衛星(スペースデブリ)を作れるだけの高度文明が、一切の文書記録を残さずある日ぱたりと消滅することなんて有り得るのだろうかと。

 

 この黒い道やハイランドの里の地下施設の内壁を構成する素材もそうだ。

 4万年以上に渡って風雨に晒されてもビクともしないというのに、どちらもダンジョンや元素生成スキルといった魔力由来の物質ではない。

 

 鉱物資源の枯渇、ダンジョンの起源、ブルームーンの存在……考えれば考えるほど謎は深まるばかりだ。

 

 おっと、どうでもいい考察で話題が()れた。

 俺達の旅に関係する話に戻るとしよう。

 

 この古代人が敷いた超絶頑丈な道路とは違って風雨の影響をモロに受けた山々は斜面の崩落や植生の変化が相次いでおり、ディオゲネス山道は多くの場所で通行障害が起こっている。

 

 ハイランド派遣隊の第一陣がわざわざジェット輸送機を使ってディオゲネス山脈の山頂まで行ったのもそれが理由だった。

 

 ハイランド高原までの道はシロクマ商会が毎年のように通っているからある程度は整備されているけど、所詮は本職ではない人間のやっつけ仕事だ。

 

 これからマジックポーションの輸送で頻繁に(ふもと)まで下りるなら、きちんと整備しておかないと事故が起きた時に困ったことになるだろう。

 

 幸いなことに、俺達は熟練のエルフ工兵を10人ばかり引き連れている。

 整備が必要な危険エリアはハイランド派遣隊の第二陣が往路で一通り記録してあるので、一つ一つ順番に片付けていかなければならない。 

 

 

 出発から7日後の昼過ぎ、俺達は6つの山を越えた先で斜面の擁壁(ようへき)工事を行っていた。

 

 空中に浮かんだ台座の上に乗っているエルフ工兵達が、崩落の跡が残る土の剥き出しになった斜面に間隔を空けて取り付き両手を当てて魔力を込める。

 すると崩落した斜面全体が青く光り、見る見るうちに強固な岩壁に変化していく。

 

 ただの鍛冶スキルによる組成変化と驚くなかれ、表面からは見えない山の奥の奥まで根を張るようにしっかりと施工されているのだ。

 豪雨や地震にも強い、1万年の歴史を持つネフライト王国が誇る土木技術である。

 

 俺がそんな擁壁(ようへき)工事の様子を眺めながら崖際に土属性スキルで生み出した鉄材で一体成型のガードレールを設置していると、道路脇に止めたハムカーの近くで待機していたアンバーがやってきた。

 

「見よハルト、丸々太ったオオヅノカモシカじゃ。解体して今夜の鍋にしようぞ」

 

 アンバーが小さな両手で頭上に持ち上げるようにして掲げているのは、曲がりくねった角を持つ3mはありそうなサイズの巨大カモシカだった。

 こん棒で一撃を食らったのか、頭のところがべっこりと凹んでいる。

 

「まだ昨日の猪肉が残っているでしょ。そっちはどうするのさ」

 

 この山道を走っているとやたらと野生の魔獣に遭遇するので、俺達は肉には一切困っていなかった。

 というか消費するよりも補充される方が早いので、むしろ肉ばかりを食べている。

 

「命を粗末にするのは勿体(もったい)ないからのう、余った分は干し肉に加工することにしたわい」

 

 恐らく、その干し肉の大半はミュールのおやつになるだろう。

 

「見よ、アイリスがジャイアントコーラで漬け込み液を作っておるところじゃ」

 

 言われてみれば確かに、アイリスがハムカーのボンネットをテーブル代わりにして作業をしているのが遠目に見える。

 

 ミュールはその味付け肉を魔道コンロで焼いてつまみ食いしながら、ハムカーの上で他の魔獣がやってこないか警戒しているようだ。

 

「大活躍だな、ジャイアントコーラ……」

「買っておいてよかったじゃろ。血の臭いで他の魔獣が集まってもいかんからのう、またお主が血抜きをしてくれんか?」

 

 血の臭いなんかよりも焼き肉の臭いの方が問題じゃないか……というツッコミを入れたい気持ちをグッと抑え、俺は鷹揚(おうよう)に頷いた。

 

「いいよ、すぐにやろう」

 

 もう何度もやっているから慣れたものだ。

 俺はガードレールの近くに横たえられたオオヅノカモシカのまだ暖かい身体に手を触れると、医療スキルで汚れた毛皮を除菌した。

 

 毛皮に付いたダニみたいな寄生虫が魔力を嫌って逃げ出していくのをいやーな顔で見つつ、一通り毛皮が綺麗になったところで念動スキルを使って空中に浮かべる。

 

 後は首元の動脈に穴の開いたぶっとい石の針をぶっ刺して医療スキルで心臓を無理矢理動かすだけで、下に置いた石の箱にどんどん血が溜まっていった。

 

「便利なものじゃのう。わしが狩人をしておった時にハルトが居てくれたらどれだけ助かったことか」

 

 13歳で里を飛び出したアンバーは成人して自由にダンジョンに潜れるようになるまでの間、西大陸の迷宮都市を渡り歩いて魔獣の狩猟で食い扶持(ぶち)を稼いでいた。

 

 街道に出没した危険な魔獣を巨大なこん棒一つでやっつけるその姿を見て、西大陸の人々はアンバーのことを蛮族のようなハーフリング、小さな巨人(リトルジャイアント)と呼ぶようになったのだ。

 

「アンバー、血抜き終わったよ」

 

 血が一切出なくなったので、俺は魔道スキルで肉を冷やして劣化を抑えた。

 石の針を引っこ抜いて石の箱に混ぜ込んだら、きゅっと閉じてポーチに仕舞う。

 これは次の宿営地の近くにあるダンジョンで処分するとしよう。

 

「うむ、助かったのじゃ」

 

 巨大カモシカを小さな両手で高く掲げて車の方に戻っていくアンバーの背中を見送った俺は、再びガードレールを設置する作業に戻ることにしたのだった。

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