マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第255話 大迷宮都市ネフィリム

 腹もくちたところで、俺達は売店を一人で切り盛りしていたジャイアントのおばちゃんにお礼を言ってからグラテス展望台を後にした。

 

 エルフ工兵が乗る2台のオフロードカーを引き連れたハムカーでジャイアントの敷いた道幅20mはある灰色の二車線道路の山道を下ること30分、俺達はついに大迷宮都市ネフィリムの市街地までやってきた。

 

 ジャイアントサイズの道路標識に従って信号を左折したハムカーは、ジャイアントサイズの乗用車に混じってPUIPUIと足音を立てながら東の方角へとひた走る。

 

『ちょっとそこのハムカー! 止まりなさい!』

 

 おっと、前方の路肩に停車しているジャイアントサイズの警察車両に拡声器で呼び止められてしまった。

 

 俺がハムカーを路肩に止めると、警察車両から2人のジャイアントが降りてきた。

 のしのしと大股で歩道を歩いてきた彼らは膝をつくようにしゃがみ込んで、スキンヘッドに警察帽を被ったでかい顔で運転席を覗き込んでくる。

 

「何か御用でしょうか」

「運転手の君、ギルドカードを見せなさい」

「ええと、はい」

 

 俺が懐から取り出したギルドカードのステータスを見せると、じっと目を細めてステータスを読んだジャイアントは大きなため息をついて、それから忠告をした。

 

「やはり他所(よそ)からきた上級探索者か……。ここは一般車両用の公道だ。後ろの車のような乗用車を持っていないなら、徒歩なり公共交通機関なりを使いなさい」

 

 どうやらこの街の交通ルールはかなり厳格らしい。

 とはいえ、流石にこれくらいでは罰則を取られたりはしないようだ。

 

「それは失礼をしました。これからはバイクを使うことにします」

「持っているなら、なぜ得体の知れないハムカーなどに乗っているんだ……」

「俺達はディオゲネス山道から下りてきましたから」

 

 お忘れではないと思うが、ハムカーを運転中の俺はハーフリングスタイルである。

 

「そうか、君達はハイランドの……分かった。ゆめゆめ、ジャイアントには踏まれないよう気を付けなさい」

「はい。ご忠告ありがとうございました」

 

 警察車両に戻っていくジャイアント警官を見送った俺達はハムカーから降りると、装具から取り出したバイクに乗り込んだ。

 ダンジョンの時と一緒で俺とアンバー、ミュールとアイリスの組み合わせだ。

 

「ハルトくん、怒られちゃったねー」

「こういうのはミュールの役割だと思っていたんだけどな……」

「人聞きが悪いことを言うにゃ。清く正しく暴走するのが走り屋のモットーにゃ」

「初めて聞くぞ、そんな格言」

「ふふん、あちしが考えたんだから当然にゃ」

 

 ハムカーは石の流体に戻して俺のポーチに突っ込んでおく。

 魔力に還元するのは後でいいだろう。

 

「お主、ハーフリングのままで大丈夫なのか?」

「器用さが補正されるし、こっちの方が百倍安全だと思うよ」

「ならええか……」

 

 車と違って足がつかなくても大丈夫なのがバイクのいいところだ。

 転倒にさえ気を付ければハーフリングでも問題なく運転できる。

 

 どうやって停車状態で転倒しないようにしているのかだって?

 それはもちろん、念動スキルの力で支えているのである。

 

「じゃあ、そろそろ出発しますか」

「了解にゃー」

 

 ジャイアントサイズの車の流れが途切れたタイミングで2台のバイクが走り出すと、その後ろを2台のオフロードカーが続いたのだった。

 

 

 大迷宮都市ネフィリムはこの世界で最も大きな規模を持つ迷宮都市である。

 何しろ、一つの都市の中にAランクからCランクまで大小様々な10のダンジョンを抱え込んでいるのだから相当なものだ。

 

 しかしそのうちの9つのダンジョンは巨人族の占有財産とされていて、他種族が立ち入ることは原則として禁止されている。

 

 外から出稼ぎにきた他部族のジャイアント――いわゆる蛮族—―につまみ食いされたりする恐れがあるからだ。

 入国の時点である程度の審査はしているのだが、どうやっても抜けは出る。

 

 だからネフィリムで探索者として生きていきたいのなら、アザゼルがジャイアントと交渉して手に入れた出島町、小人特区にあるAランクダンジョンで探索者活動を行うのがいいだろう。

 

 一応上級探索者は申請して許可を得たら他のダンジョンにも入ることはできるが、この都市の代名詞とされるBランク迷宮ネフィリムだけは別だ。

 

 その特別なダンジョンこそ、ジャイアント氏族が西大陸においてここまで勢力を拡大した鍵を握っている。

 ヒントはジャイアントコーラ。

 

 そう、そこにはサトウキビが無限に採取できる異界が存在しているのだ。

 付け加えて言えば、アブラヤシの一種が群生している異界まである。

 

 砂糖とパーム油、この二つを掛け合わせたカロリー爆弾はエンゲル係数の高いジャイアントにとってなくてはならない存在となった。

 

 マジックバッグもない時代にディオゲネス山脈の登頂を可能にしたのも、そういった行動食を無制限に製造できる環境があったからこそだ。

 

 結果として世界樹を伐採されたエルフにとっては悲劇的な話だが……ポゴスタック帝国はネフライト王国と敵対していたし、ジャイアント氏族もポゴスタック帝国に知られたら再び支配されると恐れて世界樹の伐採を断行したのかもしれない。

 

 当時の資料は何一つとして残されていないし、当時を知る者は誰一人として生きていないから真相はすべて歴史の闇の中だ。

 

 

 俺達の乗ったバイクは甘ったるい匂いが立ち込める製糖工場地帯の付近を抜けて、海から一直線に都市を分断する高い城壁の近くまでやってきた。

 

 この先がネフィリム在住の他人種が暮らす小人特区になる。

 検問所には普通サイズの乗用車が列を作っていたので、俺達もその後ろに並んだ。

 

 しばらく待つと俺達の番がやってきたので、天使の係員にギルドカードを提示して検問所を通り抜けた。

 

 小人特区の街並みを見ていると雑多、という感想が真っ先に出てくる。

 交易を求めてやってきた中央大陸の商人によって造られた貿易街という成り立ちからして、統一した文化を求めるのは酷と言えよう。

 

 様々な国の文化をごちゃ混ぜにしたような感じで、夕方前だというのにビカビカと光るネオンが付いた看板があちこちのビルから張り出している。

 

 俺達はそんな(きら)びやかな街の大通りを走って、小人特区の中心地—―探索者ギルドの目と鼻の先にあるネフライト大使館の前に停車した。

 既に日も傾きかけているが、なんとか明るいうちに目的地まで到着したな。

 

 ネフライト大使館はでかいビルを丸々一棟使ったネフィリム魔道具職人(クラフター)組合の隣に建っている、高い塀に囲われた広い庭を持つ小城だ。

 

 俺達がバイクや車から降りて門の前に立つと、すぐに警備のエルフから連絡を受けた責任者のエルフがやってきた。

 メリーベルによく似た顔をした、黒髪の優男だ。

 

 彼の名はコリウス・ネフライト。

 ネフライト王国のネフィリム駐在大使であり、俺達がダンジョンからの脱出に失敗した際にハイランドの世界樹の管理者になっていたであろうスペアの王族だ。

 

「皆様、遠路はるばるようこそお越しくださいました。ささ、遠慮せずどうぞこちらからお入りください」

 

 俺達はちゃっちゃとギルドカードを認証端末に登録して、小城を守る結界を通り抜けた。

 美しい花々が咲き誇る庭園をぞろぞろと歩き、我が物顔で屋内に入っていく。

 

「10日で済ませる予定だったのに、4日も待たせちゃってごめんねー。連絡もなくて心配したでしょ」

「アイリス教授、そのように謝られることはありませんよ。我々にとって、皆様が無事に任を果たして帰還されたことこそが何よりもの褒美なのですから」

 

 コリウスは金さえあればすべてが手に入る華やかな街での優雅な大使生活から一転、何もない辺境のド田舎に押し込まれる可能性を危惧していたようだった。

 まぁ、俺達も結構ギリギリだったんで確率的には9割近くあったと思う。

 

「ところで、ハルト・ミズノ氏はどちらにおられるのでしょうか」

「ああ、俺です、俺」

 

 俺はハーフリング化を解いてヒューマンに戻った。

 右手に握り込んだ青白い宝玉を見たコリウスは得心のいったように頷いた。

 

「なるほど、それが噂に聞いたハーフリングオーブですか……。ジャイアント氏族との関係もございますし、ここでの滞在中は余り使わない方がよろしいでしょう」

「ドロボーと勘違いされちゃうかにゃ?」

「そうですね。時たま、ネフィリムのジャイアントがそのようなオーブを使って小人特区にやってくることもありますので……」

 

 小人特区において、スキンヘッドの人間は要注意だという。

 大抵はジャイアント氏族のお偉いさんだから、何かトラブルが起こっても泣き寝入りすることになるらしい。

 

「ふむ、会う人がみなわしの髪を引っ張ったのはそういう理由じゃったか。ようやっと納得したわい」

 

 どうやら狩人時代のアンバーは、ハーフリングに化けたジャイアントがヅラを被っているんじゃないかと疑われていたようである……。

 

 それとこの手のオーブが今までオークションに流れなかったのは、ネフィリムとの関係性を重視する探索者ギルドが取引を制限していたからだそうだ。

 

 だからまぁ、出所のはっきりしたハイランドダンジョン産のハーフリングオーブが中央大陸に流れてきた時はアザミも驚いただろうな。

 

「こちらが皆様の客室となります。夕食の準備にはもうしばらくのお時間を頂きたいので、それまではサウナで長旅の疲れを癒すといいでしょう」

 

 さて、そんな話をしている間に俺達は用意された客室まで案内された。

 ハイランド城と内装がそっくりなので、注意する点も特にないだろう。

 部屋割は俺達に1部屋、エルフ工兵達に3部屋だ。

 

「色々とありがとうございます、コリウスさん」

「ふふふ、ごゆっくりお楽しみください」

 

 俺達はコリウスに礼を言うと、彼の勧め通りサウナを楽しむことにしたのだった。

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