マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第256話 走れちょびハヤテ

 ネフィリム滞在2日目、小人特区の港でネフライト王国の軍用船に乗って帰国していくエルフ工兵を見送った俺達は探索者ギルドに足を運んでいた。

 

 次の目的地である迷宮都市イクリプスはここから北東の内陸部に存在する。

 俺達はそこに向かうキャラバンの参加登録をしに行かないといけない。

 

「イクリプス行きの次の隊商に参加したいのじゃが、一般枠は空いておるかのう」

 

 アンバーは探索者ギルドロビーの受付に行って天使の職員さんに声を掛けた。

 小人特区のダンジョンマスターは上級天使だから、必然的にサブマスターなどのギルド職員も天使になる。

 

「少々お待ちください」

 

 天使の職員さんは分厚いファイルをペラペラとめくってスケジュールを確認すると、タブレットみたいな端末をちょんちょんとスワイプした。

 

「2日後のキャラバンは一般枠がすべて埋まっていますね。もしも参加されるとしたら来月以降になりますが、どうされますか?」

「わしらはBランク探索者パーティーなのじゃが、護衛枠はどうじゃ?」

 

 アンバーは懐から取り出したギルドカードを差し出しながら尋ねる。

 ギルドカードを端末のカードリーダーに通して情報を確認した天使の職員さんは、にこりと微笑んだ。

 

「パーティーリーダーのアンバー様には十分な護衛クエストの実績がおありのようですね。よろしいでしょう、手配しておきます」

「うむ、助かるのじゃ」

 

 全員のギルドカードを提示してキャラバンの参加登録を済ませた俺達は、天使の職員さんにお礼を言って受付を後にした。

 

 フリーペーパーが積まれている棚から観光ガイドブック「みるだむ ネフィリム」を取りつつ、人通りの多いロビーを歩いて探索者ギルドの外へ向かう。

 

「済まんのう、また仕事をすることになりそうじゃ」

「アイリスはともかく、俺達は探索者だしな。見張りくらいやってもいいさ」

「大してお金にはならないけどにゃー」

 

 ちょっと前にこの間のクエスト報酬1億メル(一人当たり3000万メルちょい)が口座に振り込まれたので、俺達はお金には一切困っていないから問題ない。

 

 アイリスに至っては、教授職の年金だけで来世まで遊んで暮らせるレベルだ。

 まぁ、それは全部研究開発費に消える予定だけどね……。

 

「わたしは全然気にしてないよ。どの道、魔獣が襲ってきたらやることは変わらないんだからねー」

 

 アイリスは指輪のいっぱい着いた右手をぶらぶらさせた。

 その指輪型装具の一つにはスーパーマナバレットガトリングの魔杖(まじょう)が入っている。

 

「それもそうじゃな。……さてと、その仕事の前に気分転換でも行くとするかのう」

 

 探索者ギルド前の公園までやってきた俺達は、大きな木の日陰にあるベンチに腰掛けてさっき貰ってきた「みるだむ ネフィリム」に目を通し始めた。

 

 ジャイアントシティは一般人には危険がいっぱいなので、掲載されている観光スポットは小人特区オンリーだ。

 

 それでも西大陸における交易の中心地だけあって、面白そうな商業施設が選り取り見取りで目移りしてしまう。

 

「アンバー、今日はどこに行く?」

「わしは昼間のうちにクロミノ劇場のチケットを確保して夜の公演に備えておきたいと思うておる。老舗の焼肉屋ゴローは外せぬな、ミュールの好きな食べ放題じゃ。それと――」

「はいはい、あちしはカジノに行きたいにゃ!」

 

 ミュールが俺達に開いて見せたページには、どこかで見たような覚えのあるスライムのマスコットと一緒に「すらりんカジノ・エスポワール」と書かれている。

 

「好きにせい……と言いたいところじゃが、そこだけはダメじゃ」

「なんでにゃ、遊びの範囲なら問題ないはずにゃ!」

「遊びで済まぬのがギャンブルの怖いところじゃ。ディーラーにお主が上級探索者ということがバレたら、しっぽの毛まで(むし)られるぞ」

「アンバー、そこまで言う?」

「わしの知り合いがここで借金を作って、50年もダンジョンでタダ働きをさせられたと言うておった。負けるのは勝手じゃが、問答無用で置いて行くからのう」

「むむむ……あちしもタダ働きはごめんにゃ……」

 

 アンバーはミュールの無一文イベントを容赦なく叩き潰した。

 借金のカタに持ち出したハーフリングオーブをカジノの支配人に渡してそこからジャイアント氏族の族長との出会いが……なんて妄想をしていたのだが、そんなことにはなりそうもなかった。

 

「カジノはダメみたいだけど、こっちの競ハム場ならどうかなー?」

「け、競ハム場……?」

 

 初めて聞くぞ、そんな単語。

 ニュアンス的には競馬場の亜種みたいなものに思えるが。

 

「うん。ハルトくんこういうの好きでしょ?」

 

 アイリスが開いて見せてくれたページには、屋内にある楕円形の芝トラックの上で背中にゼッケンを着けたハムマン達がレースをしている写真が載っていた。

 

「ふむ、最近できた家族連れでも楽しめる娯楽施設のようじゃのう。勝ちハムチケットと交換でお菓子やオリジナルハムマングッズが貰える……」

 

 どうやら子供向けのハムマンふれあいコーナーもあるようだ。

 隅っこには小さくハムマン愛好倶楽部ネフィリム支部公認とも書かれている。

 さっきのカジノとは違って信用できそうだな。

 

「俺は行ってみたい気もする。ミュールはどう?」

「オマエらにあちしの選ハム眼を見せてやるにゃ……!」

「決まりじゃな」

 

 そういうことになった。

 

 

 ブーンとバイクを走らせてやってきた大型アミューズメントパーク「GUNSHIネフィリム」の一角に造られたネフィリム競ハム場は強い熱気に包まれていた。

 

 20mほどの大きさがある楕円形の芝トラックの片側の観戦席の柵に押し掛けるように集まった大勢の博徒達が、チケットを手に推しハムマンを応援している。

 

「また稼がせてくれよ、シバトラダオ!」

「今年のテツカジバンバンは一味違う……大穴だ」

「いや、エルトシスピードに決まっている……!」

 

 俺達が競ハム狂いの彼らに混じってしばらく待っていると、パドックから係員が連れてきた10匹のハムマンがスタートゲートに収まった。

 

 スピーカーから盛大なファンファーレが鳴り響く。

 いよいよ全てのレースの中で最も格式の高いGⅠレース「第12回ギース記念」が始まろうとしていた。

 

「頼むにゃ、あちしのちょびハヤテ号……!」

 

 ミュールは赤いゼッケンのちょんまげ柄ハムマン、ちょびハヤテに賭けていた。 

 オッズは16.1倍の10番人気。

 もしも当たれば、これまでの負け分が全て取り返せる。

 

『—―ゲートに10匹のハムマンが出揃います。泣いても笑っても年に一度のギース記念これよりスタート……しました! 真っ先に飛び出したのはシバトラダオ! 今年も三冠王の大逃げが見られるのか!』

 

 聞き慣れた実況の声に合わせて、会場のボルテージもどんどんと上がっていく。

 

『それを追いかけるのはエルトシスピード! 老いてもまだまだ食らいつく! 続けてテツカジバンバンとピーチピンク、おっと、ちょびハヤテ出遅れたか!?』

 

 なんということだ、ミュールの応援しているちょびハヤテがビリッけつだ。

 鼻先に後続の団子集団ができていて、どうにも抜け出せない様子。

 

『先頭を行くのは変わらずシバトラダオ! どんどん距離が離れていく! 強い強いシバトラダオ!』

 

 これは終わったか……?

 

「負けるにゃー!!! ちょびハヤテー!!!」

 

 周囲の声援をかき消すように、大きな声で応援し続けるミュール。

 

『ここでテツカジバンバンが一歩抜けてシバトラダオに食らいつく! 競り合うテツカジバンバンとシバトラダオ、どちらが先に力尽きるか! いや、待て!?』

 

 最後のコーナーに差し掛かったところで沈んだはずのちょびハヤテが動き出した。

 

『ここにきてちょびハヤテが大外から回り込んだ! 異次元の伸びだ! 速い速いちょびハヤテ! しかしゴールは目前だ! 抜けるか? 抜けるか……!? これは――』

 

 俺の目には三匹のハムマンが同着でゴールしたように見えた。

 

『勝敗の行方は写真判定にもつれ込みました! 勝ちハムが確定するまで、お手持ちのチケットを手放さないようお願いいたします!』

 

 レースが終わると、ミュールはチケットを握り締めたまま床に崩れ落ちた。

 

「はぁ、はぁ、頑張ったにゃ……ちょびハヤテ……!」

 

 どんだけ全力で応援していたんだ。

 体力お化けの高レベル前衛職の息が切れるって相当だぞ。

 

「スタートで出遅れたというのに、まさかあそこまで伸びるとはのう」

「凄い勝負根性だったねー」

「これはファン爆増、間違いなしだな」

 

 近くの景品交換所にはハムマンレースの勝ちチケットで交換できるオリジナルハムマングッズがいっぱい置かれている。

 

 一番人気のシバトラダオはよく売れているのか欠品が目立ったが、ちょびハヤテのグッズは売れ残りが山ほど積まれていた。

 

『ついに判定が出ました! 一着シバトラダオ、二着ちょびハヤテ、三着テツカジバンバン! 今年のギース記念もシバトラダオで決まりだぁー!』

 

 大歓声とともに、外れハム券が宙を舞う。

 ちょびハヤテは頑張った。

 それでも、オーナー念願の初GⅠは実らなかった……。

 

「あちしの負け……にゃ……」

 

 大きなボードに貼り出された判定写真と点灯した魔光掲示板の数字を見て、ミュールはガクリと力尽きたのだった。

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