マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第258話 キャラバンの旅

 翌日の早朝、俺達は小人特区の探索者ギルド横の駐車場にやってきていた。

 ガラガラの駐車場の一角には、何台もの装甲トラックや装甲バスが駐車されている。

 

「イクリプス行きのキャラバンに参加する皆様ー、受付はコチラでーす!」

 

 ふよふよと空中に浮かんで手を振っているモブ天使近くの小さな建物には受付窓口が開いており、手荷物を持ったバスの乗客が行列を作っていた。

 俺達もそこに並んで、天使の職員さんにギルドカードを提示する。

 

「Bランク探索者パーティー『こん棒愛好会』の皆様にはあちらの3号バスを担当して貰います。登録時にお渡しした業務マニュアルにはきちんと目を通しましたか?」

「うむ、問題ないのじゃ」

「それでは、お仕事頑張ってください」

 

 俺達は担当の装甲バスの運転手をしているドワーフのおじさんと挨拶して、それから装甲バスの横に付いていた小さな梯子(はしご)を登って装甲バスの上の手すりで囲われた見張り台まで上がった。

 

 そこから周囲を見渡すと、他の装甲トラックや装甲バスの上にもそれぞれ担当の探索者パーティーが待機しているのが見えた。

 

 装甲トラックにはそれぞれ「グンシ株式会社」や「バードマン郵便」、「魔道具職人(クラフター)組合」といった大企業のロゴがでかでかと描かれている。

 

 家や倉庫を丸ごと持ち運べるマジックバッグやマジックコンテナがあるので、この世界における迷宮都市間の物資輸送は非常にコンパクトだ。

 

 トラック1台で十分に間に合うのはいいが、その分だけ失った時の損失は大きい。

 大事な貨物を守る彼らは大企業に高給で雇われている紐付きの上級探索者だ。

 笑顔で手を振られたので、俺達も笑顔で手を振り返した。

 

 

 午前7時、迷宮都市イクリプス行きのキャラバンは定刻通りに出発した。

 12台の装甲車両が列をなして、小人特区東側の開放された城門を通って外の道路を走り出す。

 

 周囲に広がるのは塩害にやられてしょぼくれた木や草しか生えていない荒れ地だ。

 そうでもなければ、この辺りにも普通にジャイアントが入植していただろう。

 わざわざこんな場所を耕さなくても豊かな土地は沢山あるから、現状のまま放置されている。

 

 潮風の吹き抜ける海沿いの道路をしばらく進むと、キャラバンはT字路から北に向けて(かじ)を切った。

 

「そろそろ第一チェックポイントじゃのう」

 

 周囲の景色が荒れ地から森に変わった辺りで、蜂のシルエットが描かれた道路標識――魔獣出没注意の看板――を見たアンバーがぽつりと(つぶや)いた。

 

「みんな、何かくるにゃ!」

 

 そのミュールの警告と同時に先頭車両からクラクションの音が鳴り響いた。

 ブレーキを掛けた車両の列が止まると、それぞれの車から半透明の青い障壁が展開される。

 

「いよいよわたしの出番だね!」

「いやさ、アイリスもマニュアルは読んだでしょ? ここはプロに任せようよ」

「いいじゃん、きっと助かったって()めて貰えるよ?」

「経費が浮いて助かったの間違いじゃないか?」

「そうとも言うねー」

 

 アイリスは機関銃のような見た目の魔杖(まじょう)を床に設置して構えた。

 俺も装具から取り出したこん棒のような見た目のスーパーマナバレットの魔杖(まじょう)を右手に握り込む。

 

「見よ、これが悪名高いレギオンビーじゃ!」

 

 羽音を立てて森の奥から雲海のごとく押し寄せる巨大なスズメバチの群れ。

 こうして最初の迎撃戦は始まった。

 

 

 レギオンビーはこの森の全域に縄張りを持つ肉食の蜂だ。

 地中深くに無数の巣を作る性質を持ち、一つでも女王蜂のいる巣を駆除し損ねるとあっという間に復活する厄介極まりない害虫。

 

 探索者ギルドは何度もこの森のレギオンビーを根絶しようと試みていたが、そのすべてが失敗に終わっていた。

 森を焼き払っても無理だったそうだから、相当なサイズのコロニーなのだろう。

 

 地形的にこの森を迂回(うかい)することはできないので、働き蜂が全滅するまで狩り尽くしてから通過する必要がある。

 下手に縄張りを広げられても困るから、レギオンビーのトレインは厳禁だ。

 

 

 各車両の運転手と護衛の探索者達による、魔石を湯水のように消費する銃撃戦は2時間にも及んだ。

 

「はー、楽しかったー」

 

 バキバキと音を立ててレギオンビーの死骸を踏みつけて走り出した装甲バスの上で、アイリスは満足した様子で汗を(ぬぐ)う仕草をした。

 

「それはそうだろうな……」

 

 俺はスーパーマナバレットを30万発くらい撃ってからは手伝うのを止めて見学に移ったが、アイリスは最初から最後まで撃ちっぱなしだった。

 

 探索者ギルドの装甲バス護衛クエストの報酬は経費込みだから(レギオンビーの駆除は仕事に含まれていない)現時点で赤字確定なのだが、アイリスは一切気にする気配がなかった。

 

「あちしはちょー暇だったにゃ。アンバー、あちしの仕事はまだなのかにゃ?」

「見張りも大事な仕事じゃ……というのは置いておくとして、昼過ぎには第二チェックポイントに着くじゃろう。わしらの仕事はそこからじゃな」

「むーん、早くお昼にならないかにゃー」

 

 見張り台の手すりに寄り掛かったミュールはしっぽをゆらゆらと揺らしながら、遠くのディオゲネス山脈を見つめていた。

 

 レギオンビーの森を抜けたキャラバンは緩やかな小山を越えて、三本の爪痕のような深い渓谷の中を進んだ。

 

 見上げた斜面の中腹には小型のワイバーンっぽい竜種の巣があったが、遠巻きに俺達を見つめるだけで襲ってはこなかった。

 

 ダンジョンの生み出した疑似生物である魔物と違って魔獣は普通の生き物だ。

 凶暴な魔獣もいれば、温厚な魔獣もいる。

 生態系を壊してもいいことは何一つないから、無益な殺生は避けるのが賢明だ。

 

 それからもう少し進むと、遠方に大河が見えてきた。

 ディオゲネス山脈から流れ込んだ土砂が混じった茶色に(にご)ったような水を(たた)えるこの大河の名前は、西大陸で最大の流域面積を誇るエピクロス川だ。

 

 道路の先には大河を跨ぐ巨大な石橋が架けられているが、キャラバンはその手前にある広場で止まった。

 

 小さめの対魔獣結界で守られた広場には公衆トイレと雨避けの東屋。

 これまでの道中でも頻繁に目にしていた、西大陸の各地に作られた旅人や狩人の為のセーフポイントだ。

 

「皆様、これより1時間のお昼休憩でーす! それと、危険なので結界の外には絶対に出ないでくださいねー!」

 

 ぞろぞろとバスから降りた乗客に乗務員のモブ天使が大きな声で注意した。

 キャラバン登録時の特約で乗り遅れは問答無用で置いていくことになっている。

 軽く探知スキルで探したりはするが、それでも見つからないならサヨナラだ。

 

「さてと、わしらは働くとするかのう」

「あちしの仕事にゃー!」

 

 装甲バスの上から飛び降りた俺達は、石橋に向かう他の探索者達の背中を追った。

 この石橋の上には川から()い上がってきた野生の魔獣が結構いるので、先にしっかり掃除しておかないと事故の元になるのだ。

 

 現に石橋の中ほどには直径2mはあろうかという太さの胴体を持つ大蛇が道を塞ぐように横たわっていた。

 大きな魚か何かを丸呑みにしたのだろう、胴体がぼこりと膨れている。

 

「あちしの小太刀の(さび)になるにゃ! 首切り!」

 

 石橋の欄干(らんかん)—―金属製の手すり――をシュタタッと走って駆け寄るミュールに気付いた大蛇は鎌首をもたげてシャーッと威嚇したが、一瞬の交錯ののちにその首はずるりと斜めにずれ落ちた。

 

 頭のなくなった胴体が欄干(らんかん)を越えてくたりと川に倒れ込むと、飲み込まれていた何かが血で赤く染まる川面にもにゅっと抜け出てくる。

 バシャンと水を跳ね上げて飛び上がったのは、ピンク色の体表をしたイルカだ。

 

「まだ生きていたんだな」

「エピクロスカワイルカの変種かな? 可愛いねー」

 

 そのイルカは欄干(らんかん)に立つミュールの方を向いて、まるでお礼を言うかのように大きな鳴き声を上げると遠くに泳ぎ去っていった。

 彼(彼女かも)がちゃんと群れに合流できることを祈るばかりである。

 

「また一つ、(はかな)い命を救ってしまったにゃ……」

「それはよかったのう。じゃが、わしらの仕事はまだ終わっておらんぞ」

 

 大蛇の頭を川に投げ込んだアンバーは、ごんぶとの胴体を肩で担ぎ上げた。

 悠長に素材の剥ぎ取りなんてしている余裕はない。

 手早く石橋の掃除をしないとお昼休憩が終わってしまう。

 

 それから俺達は他の探索者達と分担して、石橋の上で日向ぼっこをしているオオツメカワウソみたいな温厚な魔獣を邪魔にならない対岸の陸地に運んだり、あるいは鳥が食い荒らした後にそのまま放置されて腐った魚の死骸を片付けたりした。

 

 こういう時こそ、得意技の石の流体が大活躍だ。

 なんとかお昼休憩が終わる10分前に石橋の掃除を終わらせた俺達は、急いで広場に戻ってエナジーバーとエナジードリンクの(わび)しい昼食を取ったのだった。

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