マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
お昼過ぎにエピクロス川に架かる大きな石橋を渡ったキャラバンは、ジャングルを切り開いた林道を北東に進んだ。
先頭車両が何度か凶暴な大型魔獣と遭遇したものの、列のど真ん中の装甲バスを担当していた俺達には何一つ出番はなかった。
貨物よりも乗客の安全を最優先するのは当然っちゃ当然だ。
2時間ほどは代わり映えのない景色が続いたが、不意に視界が大きく開ける。
俺達のすぐ目の前には、濃いグレーの高い壁がどどんとそびえ立っていた。
「どうやら目的地に着いたようじゃな」
目的地といっても、ここはイクリプスではなく中継地の迷宮都市ネイルズだ。
Aランク迷宮ネイルズを抱える、この密林地帯で最も栄えた迷宮都市だ。
今日はこの街の宿泊施設で一泊して、また明日の朝早くに出発することになる。
しばらくして開いた城門から迷宮都市内に入ったキャラバンは、畑の中を通る道路を進んでネイルズの市街地へと向かった。
イメージ的にはジャスティンが近いだろうか。
西大陸の迷宮都市は自給自足が原則だから、これから何度もこのような風景を見ることになるに違いない。
そこはかとなく古代の遺跡っぽい石造りの建物が建ち並ぶ市街地に入ると、キャラバンの装甲トラックは
彼らはこの街にある自社の倉庫などでネイルズ宛ての貨物を下ろすのだ。
俺達の担当しているバスを含めた3台の装甲バスは、街の中心地にあるネイルズ探索者ギルドの駐車場で停車した。
ぞろぞろと降り立った乗客に、乗務員のモブ天使が大きな声で注意する。
「集合時間は明日の朝8時です! 乗り遅れる方は毎回のように出ていますから、お忘れのないようにお願いしまーす!」
今日の俺達の仕事もこれで終わりなので、
ドワーフの運転手さんと挨拶をして別れたら最寄りのホテルにチェックインする。
至って普通のビジネスホテルだけど、護衛クエスト中はギルドカードを提示することで無料で宿泊ができるのだ。
別にケチる必要はないが、だからといって無駄に贅沢をする理由もない。
ホテルのロビーの壁に掛けられた時計を見てみると、現在時刻は15時12分。
晩ごはんにはまだまだ早い。
俺達は適当なソファに座って、これからの予定を相談することにした。
「夜まで時間があるみたいだし、どこかに行ってみる?」
「アンバーはこの辺に詳しいって聞いたにゃ。案内するにゃ」
「そうじゃのう。当てはあるのじゃが、すぐに行ける場所となると悩むところじゃ」
「余裕があるなら、わたしはダンジョンに行きたいなー」
アイリスは近くの棚に置いてあった観光ガイドブック「みるだむ ネイルズ」を手に取った。
パラパラとめくって開いたページには、Aランク迷宮ネイルズの異界に出現する主要な魔物が紹介されている。
そういえばここにはシバトラダオと同じジャガーハムマンの原種が出現するのか。
黄色と黒と白を基調にした一匹一匹違う柄をした毛皮を持つジャガーハムマンは、ハムマン愛好家の間でも結構な人気を誇っていた。
俺はペットショップに行って可愛いジャガーハムマンを観察したいという気持ちが胸の内でふつふつと沸き上がってきたが、ここは抑えてアイリスに尋ねる。
「アイリスの希望となると、エレメンタル狙い?」
「うん。ここの四層に出るBランクエレメンタルのコアは市場に全然出回ってないんだよねー。
「それで何か作りたい魔道具でもあるのかのう?」
「加湿機能が付いたとっても性能のいいクーラーが作れるよーん」
なるほど、新居で使おうって心積もりか。
アクアマリンは乾燥帯に位置しているから湿度も低めだ。
そのクーラーがあれば、非常に快適な日常生活が送れそうである。
「あちしは探知スキルを使いっぱなしで疲れているんだけどにゃ。アイリスの為にもうひと頑張りするかにゃー」
「ありがとう、ミュールちゃん」
そういうわけで、俺達は早速ネイルズ探索者ギルドに向かうことにした。
街中を歩いていた時も思ったが、やけに男女比が女性に
それもそのはず、この街はアマゾネスのダンジョンマスターが統べる迷宮都市だ。
アマゾネスはこのネイルズ地方に住むヒューマンの一種族のことを指す。
少々筋肉質で、肌の露出が多い薄手の服を好むのが民族的な特徴と言える。
ネイルズはまさしく、腹筋フェチにとっては天国のような場所だろう。
ステータス自体はヒューマンに毛が生えたようなレベルなので、薄着にこだわりのない養成施設育ちのアマゾネスはヒューマンとまったく見分けがつかない。
大人になってから病院で検査を受けて初めて自分がアマゾネスだということを知った、みたいな話もちょくちょく聞く。
そういった隠れアマゾネスにとっては、子供が女性しか生まれないという種族的性質は悩みの種になりがちだ。
ずっと男の子が欲しかったのに……みたいな感じ。
俺はそういった患者に対するメンタルケアのやり方なんかについても、初級医師免許を取得する際に受けた一般医療従事者研修で教わっていた。
……今思うと、あの研修は大変だったな。
アクアマリン迷宮の踏破から2ヵ月が過ぎた頃のこと、俺はユニエルの勧めで海都カナンにある教育センターに行き、下級天使や医者志望の大学生に混じって1ヵ月間に渡る泊まり込みのスパルタ特訓を受けていた。
患者の対応を間違えたら即体罰。
抜き打ちテストを間違えたら即体罰。
体罰、体罰、体罰……。
医療スキルの訓練を兼ねているとはいえ、絶対にこの地獄の研修をやり直したくなかった俺は寝る間も惜しんで勉強して初級医師資格試験に合格したのである……。
俺達は探索者ギルドの中庭にあるダンジョンゲートを潜って、
管理者のアマゾネスに安くない利用料金を取られたので、元を取りたいところだ。
「真っ白で周りが何も見えないにゃ。みんな、はぐれないように注意するにゃ」
ハーフリング化した俺が展開した強靭無敵なプロテクションに守られながら、俺達は白くけむる霧の中へと侵入した。
Aランク迷宮ネイルズ四層の
霧に紛れてやってくるストームミストは探知スキルでも発見が困難な強敵だ。
対策もなしに遭遇したら、肺を水で埋め尽くされて陸上で溺死する羽目になる。
エレメンタル種だから当然のように物理攻撃を無効化するし、Bランク以上の魔力攻撃で魔力体を削り切ることでしか倒せない。
しかし
そんなストームミストを俺達はどうやって倒すか。
「ストーンウォール!」
俺が石の流体で10mほどのかまくらを作ってストームミストを閉じ込めると、潜水マスクを身に着けたアンバーがその中にシュバっと飛び込んだ。
『ゆくぞ、げっこう丸!』
腕輪の装具からミスリルのこん棒、げっこう丸を取り出したアンバーはかまくらの中を縦横無尽に駆け巡る。
その余りの速さに、青白い光のラインが何本も残像として残った。
あっという間にミスリルのこん棒が放つ特殊な魔力波長で細切れにされたストームミストが消滅すると、空中に白い球体が現れた。
ミストコアを掴み取ったアンバーはとことこ歩いて俺達のところに戻ってきた。
「ほれ、これで3個目じゃ」
「ありがとう、アンバーちゃん」
潜水マスクを外しながらアンバーが差し出したミストコアを受け取ったアイリスは、それを腰のベルトポーチに仕舞った。
「もういい時間だし、そろそろ帰るか」
俺が懐中時計をポーチから取り出して時刻を確認すると、探索開始から2時間ほどが経過していた。
結構歩き回ったが、これだけしか見つからなかったな。
まぁ、魔石はそれなりに稼げたから上々といったところだろう。
「おっと、残念ながら先を越されてしまったみたいだね~」
ダンジョンから脱出しようとした俺達が
どうやら同業者がやってきたようだ。
「今回はわしらの方が
深い霧の中から姿を現したのはアロハシャツと短パンにサンダルを履いて、更にはサングラスを掛けたダークエルフの男だった。
なんというか、一見すると遊び人という印象が強い。
大きな虫取り網のような魔道具を肩に担ぎ、その両脇にはビキニアーマーを着たアマゾネスの女戦士を2人も
2人とも額に瞳を模した小刻印があるので、ここのサブマスターだろう。
「おじさんはストームミスト狩りのプロだからね~。普段着だって余裕のよっちゃんなのさ~」
「あ、アセビ兄さん……」
まーたアルメリアの息子かいなー。
「ん? んん?」
ダークエルフの男はグラサンを上げると、アイリスの顔をじーっと見つめた。
「誰かと思えばアイリスじゃないか~。前に見た時はあんなに小さかったのに、すっかり大きくなったね~」
「アイリス、知り合いかにゃ?」
「
「せいかーい! もう、ネイルズにくるんなら連絡くらいちょーだい!」
なんかうざいなこの人……。
「わたし達はイクリプスに行く道中で立ち寄っただけだし、別にいいかなって」
「ふーん、なるほど護衛クエストね。よし分かった、これから一緒に飲みに行こう!おじさんが君達に
「それは別に要らないかなー」
「ダメダメ、それじゃ詰まらないでしょ。これは組合長命令だよーん」
「それならわたしは教授権限で拒否しまーす」
「今は休職中だって、おじさんちゃーんと知っているんだから。さあさあ、近道を教えてあげるからおじさんと一緒に帰ろうか~」
なんだか面倒な人に絡まれてしまったが、これも何かの縁だろう。
こうして俺達はなし崩し的に、この変なダークエルフのおじさんと飲みに行くことなったのだった。