マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第260話 ゴブリン革命

 ネイルズ地方のジャングルに点在する迷宮都市群の中でも飛び抜けて人口の多い迷宮都市ネイルズの夜はとても華やかだ。

 

 探索者ギルド最寄りにある繁華街では着飾った女性による男性への客引きやナンパの声が絶えず、他の街とは貞操観念が綺麗なくらいに逆転していた。

 3人の女を連れている俺でさえ、店に着くまでに5回も声を掛けられたくらいだ。

 

 誘惑に負けてお持ち帰りされた旅行客が翌日の便に乗り遅れ、そのままズルズルと滞在を続けて気付けばヒモ男としてアマゾネス達に飼われているっていうのがこのネイルズの黄金パターンなんだよな。

 

 女を取っ替え引っ替えしたい男にとっては理想の街かもしれない。

 年老いてからが悲惨かもしれないが、そこはご愛嬌ってことで。

 

 さて、俺達はそんなネイルズの街の繁華街にあるキャバクラでネイルズ魔道具職人(クラフター)組合の組合長、アイリスの兄のアセビから接待を受けていた。

 

「今日はおじさんの(おご)りだからね〜。好きなものを頼んでいいよーん」

 

 アセビの両脇には、おっぱいを強調した服を着たラミアとハーピィが(はべ)っている。

 彼が探索中に連れていたアマゾネスのサブマスター達は愛人でも何でもなく、ただのパワーレベリング相手だったらしい。

 

「それにしたってキャバクラはなくない?」

 

 ここはホストクラブや男娼を抱える娼館、ラブホテルがしのぎを削る中にぽつんと存在する小さなキャバクラ「リリーアイランド」だ。

 他の客はみんな女性だから、百合好きに需要があるのかもしれない。

 

「ノンノン、ハルトくんは甘いね〜。ジャイアントコーラよりも甘い。ここは下手なお店に行くよりも安全だよ〜」

「安全じゃなかったらどうなるんだ……」

「食事に睡眠薬を混入されたり、ぼったくられたりするのう。全部男限定じゃが」

「若い子は慣れるまで苦労するんだよね〜」

 

 いくら何でも肉食系女子が多すぎる。

 

「それで、あちしを満足させる飯はちゃんと出るのかにゃ?」

 

 お通しで出されたナッツの皿を腕に抱えて独占しているミュールが尋ねた。

 

「それはもちろん。ここの支配人はティアラキングダムの高級ホテルで腕を鳴らしたシェフなのさ~」

 

 確かに言われてみれば、メニュー表はお酒よりもサイドメニューが充実している。

 お値段はキャバクラ価格だが、その味には期待が持てそうだ。

 

 俺達はキャバ嬢にお勧めの料理を聞きながら、遠慮なく好きなだけ注文した。

 それからシャンパンを頂きながら、適当にアセビから話を聞く。

 

「お主はここでずっと暮らしておるのか?」

「おじさんは昔から女の子が大好きだったから〜、夢を追って移住したんだよ〜」

 

 アセビは500年も前からこの街で暮らしているそうだ。

 組合長になったのは100年ほど前なので、割と最近と言えなくもない。

 男エルフらしく性欲は薄めで、女性と肉体関係を結ぶことはあまりないのだとか。

 

 彼はここのダンジョンマスターとは血縁関係があるそうで、時々ああいったパワーレベリングのような手助けをしているらしい。

 例えるならば、俺とエクレアの関係性が近いだろうか。

 

「ううむ、お主はギザードとは違ってしっかりしておるようじゃな」

「アレはおじさんも驚いたね〜。ダンジョンマスターが殺される事件なんて、それこそ300年ぶりくらいだもの〜」

「ちなみにその300年前の事件って、どんなものか知っています?」

「ええと、何だったかな〜」

「リョウリョウ暗殺事件だよ」

 

 俺の右隣にいる爆乳ミノタウロスのキャバ嬢(ミルクちゃん22歳)に対抗して、左隣からしな垂れかかっていたアイリスが教えてくれた。

 なお、アンバーは膝の上の定位置にいる。

 

「そうそう、それそれ! ゴブリン革命のきっかけにもなった事件だね~」

「ああ、あの……」

 

 リョウリョウ暗殺事件、それは今から316年前の月光歴2225年に西方諸国の小国、ニコチャン王国の迷宮都市バックマで起きたゴブリン農奴による集団一揆だ。

 

 当時、ジャイアント・ホールディングスのロビー活動で中央大陸における奴隷制度の撤廃運動は活発化していた。

 

 安価な労働力を失うことにはどこの国も及び腰だったが、それでもゴブリンの扱いは少しずつ良いものへと代わっていった。

 

 その中でもティアラキングダムは迷宮都市ジャスティンなどのゴブリンダンジョンの運営が軌道に乗っていたこともあり、積極的に改善に動いていた。

 

 しかし時代に取り残された西方諸国の一部の国は、その活動を無視してゴブリンに対して過酷な奴隷労働を強いていた。

 

 ゴブリンはこの世界で最も弱い立場にある種族だ。

 他の種族とは比べ物にならないほどに短命、貧弱なステータス、上下関係を死ぬまで遵守(じゅんしゅ)する働きアリのような特性……。

 

 そんなゴブリンであっても人語を喋り、ステータスを持ち、そして人を愛する心を持っている。

 

 家畜の餌を与えられてゴミのように扱われたゴブリン達は、ついに悪徳領主に対して反乱を起こした。

 

 その契機となったのが、月光歴2222年に魔道学院、魔道工学科のバルサム教授によって発明された魔杖(まじょう)FCS(射撃統制システム)だった。

 

 器用さを補正する術式が組み込まれている魔杖(まじょう)は、世界中の魔道具職人(クラフター)組合を通して急速に普及を始めていた。

 

 迷宮都市バックマのダンジョンマスター、リョウリョウ・バックマは農奴のゴブリンにこのFCSが組み込まれた魔杖(まじょう)を与え、ダンジョンに送り込んで魔石集めをさせることにした。

 

 お隣のダンジョン貴族が似たようなことをして多額の収益を得たことを知った彼はその真似をしたのだ。

 

 そのダンジョン貴族はゴブリンを奴隷ではなく二等市民として扱っていたことは有名だったが、リョウリョウは配下の進言を無視して強行した。

 

 ステータスの貧弱なゴブリンは多少レベルが上がろうとも高レベルの熊獣人(ワーベア)には逆らえないだろうとたかをくくっていたリョウリョウだったが、その3年後の誕生日パーティーの最中、魔杖(まじょう)で武装したゴブリン農奴がパーティー会場に乱入し配下ともども銃殺されることになった。

 

 探索者ギルドの調査記録によると、ゴブリン農奴達はダンジョン探索中に魔物の肉を食うふりをして魔石を飲み込んで少しずつ回収し、壊れた魔杖(まじょう)の破片をオモチャにする振りをして持ち出し、自分達が住む家畜小屋で秘密裏に組み上げて修理していたのだという。

 

 ロクな教育を与えられずにただ虐げられるだけの農奴として育てられたゴブリンでさえ、ない知恵を絞ればこれだけのことができたのだ。

 

 一揆を起こしたゴブリン達は王都から駆け付けたニコチャン王国の兵士によって全員処分されたが、その事件がニュースとして広まると世界中で大きな反響が起こることとなった。

 

 それから5年が過ぎた月光歴2230年、中央大陸すべての国が加盟する国際連盟によってゴブリンの人権は公的に認められ、この世界の奴隷制度は完全に撤廃される。

 これがいわゆるところの、ゴブリン革命である。

 

 

 俺達がお酒を飲みながら他愛のないおしゃべりをしている間に、頼んでいた料理がやってきた。

 早速、腹ペコミュールが手を出す。

 

「はふっはふっ、美味いにゃー!」

 

 テーブルの上に並んでいるのは、ホカホカと湯気を上げる焼き立てのピザだ。

 皿が保温用の魔道具で、おしゃべりに夢中でも冷めない配慮がされている。

 その皿の縁を指先でつーっと()でたアイリスはうんうんと頷いた。

 

「このお皿、アセビ兄さんが作ったんだね」

「やっぱり分かっちゃう?」

「込められた術式が綺麗だもの。昔に見せて貰ったものとそっくり」

「よく覚えているね~。おじさん感動しちゃったよ~」

 

 俺達は手が汚れるのも気にせず、とっても美味しい創作ピザを堪能した。

 デザートはこの辺りでしか栽培されていない、南国フルーツの盛り合わせだ。

 大皿には一口大にカットされたフルーツがこれでもかというくらいに載っている。

 

「ほう、これは……」

 

 フォークでぶっ刺したブラッドパインをぱくりと食べたアンバーは、その味わいに感嘆の声を()らした。

 

「このお店の卒業生が経営している契約農園から一番いい果物を送って貰っているんですよ。私、これが毎日食べられるからここで働いているところありますもん」

 

 ミルクちゃんにあーん、と口に運んで貰ったジェリーマンゴーをもぐもぐする。

 なるほど、これはキャバクラに興味がない人でも楽しめる素晴らしい店のようだ。

 アセビが贔屓(ひいき)にするのも頷ける。

 

「……つかぬことをお聞きしますが、このお店って同伴とかあるんですか?」

 

 俺は右腕に押し付けられたミルクちゃんの爆乳おっぱいにメロメロだった。

 

「ハルトくん、ちょっとお酒を抜いたほうがいいんじゃないかなー?」

 

 アイリスにギューッと脇をつねられて、アンバーにも太ももをつねられる。

 痛い痛い、口は災いの元だ。

 

「いやね、俺はただこのおっぱい枕で寝てみたいなって思っただけで他意はないよ」

「何を言っておるんじゃ、お主……」

 

 キャバクラにハマって家庭をないがしろにするダメ夫になんて絶対にならないから大丈夫、大丈夫。

 

「うふふ、それは常連のお客さんだけですよ」

「ですよねー」

 

 ただ言ってみただけだから別に悔しくとも何ともない。

 全ての神経を右腕に集中させて、今この瞬間を全力で楽しむだけだ……!

 

「どーでもいいから早くあちしにお代わりを寄こすにゃ」

「はいはい、おじさんがお(しゃく)しちゃうよーん」

 

 こうして俺達は、ネイルズのキャバクラで楽しい夜のひと時を過ごしたのだった。

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