マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第262話 ギルドマスター・メタトロン

 迷宮都市イクリプスが収まっている巨大なクレーター、これは隕石や火山の噴火によってできたものではない。

 ダンジョンの生理現象であるダンジョンアポカリプスによってできたものだ。

 

 終末の光という意味を持つその現象は、ダンジョンゲートを長期間に渡って完全に封鎖することにとってのみ発生する。

 爆発の規模はダンジョンのランク――具体的には狭間(はざま)平原の広さ――に比例する。

 

 狭間(はざま)平原はいわばダンジョンの贅肉(ぜいにく)だ。

 このカロリーを消費して、大爆発を引き起こしているわけだな。

 

 ダンジョンアポカリプスは海底ダンジョンが土砂でダンジョンゲートを塞がれて起こることが多いが、大抵は若いダンジョンが断続的に引き起こすだけなので規模はそこまで大きくない。

 

 例え成長したところで、消費する狭間(はざま)平原が無ければ同じことだ。 

 しかし……これが高ランクダンジョンで起きると地震や津波の原因になる。

 

 かつて月光教はダンジョンゲートを塞いだ状態でダンジョンの討伐を試みたことがあるが、ダンジョンアポカリプスで都市部が丸ごと消滅した上に、その跡地にダンジョンゲートから(あふ)れ出した魔物が溜まって目を覆わんばかりの状況になったそうだ。

 

 このように高ランクダンジョンの討伐は普通に寿命待ちした方がいいレベルだが、聖都ブルームーンで行われていたようにミスリルの隕石でダンジョンゲートを封印する方法は何故かは知らないが大丈夫のようである。

 

 魔道学院は最近、無人島の若いダンジョンで人工ミスリルプレートを使ったダンジョン封印の研究をしているらしい。

 東大陸のカースダンジョンみたいにならないことを祈るばかりだ。

 

 

 Aランク迷宮イクリプスのダンジョンアポカリプスは小さな山の洞窟の中に口を開いたダンジョンゲートが地震によって塞がって発生したと言われている。

 この時の爆発は中央大陸からも観測できたというから恐ろしい。

 

 イクリプスのダンジョンを最初に探索したのは西大陸を放浪中だったアザゼルだ。

 ダンジョンゲートの位置的に、当時は彼しか探索できなかったとも言える。

 

 探索や魔物狩りのしやすい異界が各階層に一つ以上存在するかなりの好物件だったが、五層をチラっと見てすぐに引き返したという経緯がある。

 そこは雷鳴渦巻く轟雷(ごうらい)霊原、電磁波を嫌う天使にとっては致命的な環境だ。

 

 さて、この地のダンジョンマスターとなったのはメタトロンという上級天使だ。

 彼女は統一帝国時代より生きている、数少ない天使の一人。

 

 メタトロンはその身に受けた電力エネルギーを魔力エネルギーに変換する特別な固有スキルを持っている。

 言うなれば電撃吸収スキルといったところか。

 

 そのスキルは統一帝国時代に偶然習得したそうだが、彼女は感覚派すぎて他の天使に教えることができなかったそうだ。

 

 ポゴスタック帝国の皇帝の命で医療部隊から離れたメタトロンはドワーフの研究施設をたらいまわしにされた挙句、中央大陸西部のとある魔道発電所の中で長い眠りにつくことになった。

 

 彼女が次に目覚めたのはそれから2000年ほどが過ぎた月光歴1800年代半ば。

 それは月光教の最盛期の真っ只中のことで、歩く電磁波発生装置のメタトロンは悪魔の化身と呼ばれて迫害を受けた。

 

 訳も分からず逃げるように西大陸の迷宮都市アザゼルまでやってきたメタトロンはアザゼルと出会い、彼の勧めでイクリプスのダンジョンマスターとなったのだ。

 

 電気を食べるだけで生きていけるメタトロンにとって、轟雷(ごうらい)霊原の環境はそれこそ天国に等しいものだった。

 

 古い天使だけあって(固有スキルが遺伝するか実験もされたそうだが)血を分けた子孫は数多く、迷宮都市を運営するサブマスターには困らなかった。

 

 その子孫の内の一人が、後に探索者ギルドの2代目ギルドマスターとなった上級天使サマエルだ。

 職権乱用して嫌いな天使を聖都送りにしていた悪い天使である。

 

 ムーンサイド事変でサマエルはアザゼルによって石像刑に処されたが、その際に行われた幹部会議で次のギルドマスターに推挙されたのがメタトロンだった。

 

 いささか実務能力には欠けるものの、長年に渡って探索者ギルドの次元間通信網を監視してきた実績が認められたようだ。

 

 俺達はこれからAランク昇格試験を受けるわけだが、その試験内容はギルドマスターとの面接になる。

 

 天使の間でネットアイドルとして根強い人気を持つメタトロン……彼女は一体、どのような人物なのだろうか。

 

 

 イクリプス滞在5日目の昼、俺とアンバー、ミュールの3人はイクリプス探索者ギルドまで足を運んでいた。

 

 同じパーティーに所属してはいるものの、Eランクのアイリスはお留守番だ。

 今頃はイクリプス魔道具職人(クラフター)組合で若手魔道具職人(クラフター)の指導でもしているんじゃないかな。

 

「Bランク探索者パーティー『こん棒愛好会』の皆様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ……」

 

 俺達が受付に行くと、金属製のサークレットを身に着けているサブマスターの天使に建物の裏手まで案内された。

 

 そこには手すりの付いた台座のようなものが安置されている。

 どうやらこれに乗って、上の浮島まで移動するらしい。

 

 俺達が台座に乗り込むと、その天使は外側から手すりを掴んで浮かび上がった。

 バサバサと白い翼を動かすと、ゆっくりと台座は上昇を始める。

 最新鋭の魔道エレベーターかと思いきや、ただの念動スキルによる力技だった。

 

 なんだかなぁという気持ちを抱えつつ待つこと数分、浮島に到着した台座から降りた俺達は神殿っぽい見た目の探索者ギルド本部の中へと歩を進めた。

 

 数多の天使が(せわ)しなく上空を飛び回っている広い施設内をゆっくりと歩いてやってきたのは満月を()む影……探索者ギルドの紋章が刻まれた巨大な扉の前だ。

 その周囲には見覚えのある意匠、この神殿も天才建築家ベリアルの設計のようだ。

 

「パーティーリーダーから順番に一人ずつ、審問室へお入りください」

「ふむ、まずはわしからか」

 

 音を立ててちょっとだけ開いた大扉の中にアンバーはとことこと歩いていった。

 俺とミュールは大扉の近くに設置されていたジャイアントサイズのソファに腰掛けて、アンバーの面接が終わるまで待つことにした。

 

 この辺りは普段利用されていないようで、シンとした静けさに包まれている。

 その静謐(せいひつ)な空間に、ソファの上でごろりと横になってくつろぐミュールが干し肉をもぐもぐと咀嚼(そしゃく)する音だけが響いていた。

 

 大扉の横にまるで門番のように立っている案内人の天使は、上級探索者の奇行に慣れているのかただ黙って俺達を見つめているだけだ。

 

 

 それから1時間ほど待つと、大扉が少しだけ開いてアンバーが戻ってきた。

 

「アンバー、どうだった?」

 

 俺は暇つぶしに読んでいた最新の医学論文が載っている雑誌を閉じてソファに置きながら尋ねた。

 

「合格じゃ。次はハルトの番じゃぞ」

 

 アンバーは手に持っていたギルドカードをプラプラと振った。

 

「分かった、すぐに行くよ」

 

 ジャイアントサイズのソファから降りた俺はぐーんと背伸びして、肩をぐるぐる回しながら大扉へと向かった。

 なお、待ちくたびれたミュールはぐうぐうとイビキをかいて昼寝している。

 

 潜った大扉の向こう側……審問室はまるで裁判所のようになっていた。

 天井の高い部屋の中央には被告が立ちそうな手すりのある演台があり、その向かいには少し高い位置に長テーブルと巨大なモニターが存在している。

 

 モニターの両脇のテーブルの前には金属製のサークレットを身に着けた偉そうな天使が2人ずつ、合計4人座っていた。

 俺が演台の前に立つと、ブゥンと音がして巨大なモニターに人影が映った。

 

『初めまして、探索者ハルト・ミズノ。私が探索者ギルドのギルドマスター、上級天使メタトロンです』

 

 編み込んだ白髪が特徴的な、どこか神々しさを感じるような美しい天使だ。

 ダンジョンコアを私室にしているらしく、椅子に座るメタトロンの背後には複雑怪奇な刻印が刻まれた白い壁と設置されたモニター類が映り込んでいる。

 

 そうか、ダンジョンコアには物を置いても大丈夫なのか。

 異界が胃袋だとしたら、脳みその部分に当たるのかもしれない。

 

 そしてこのモニターのリアルタイム映像……。

 天使のサークレットを見るに、統一帝国の魔道通信技術を使っているのだろうか。

 帰ったらアイリスに話を聞いてみるとしよう。

 

『これよりAランク昇格試験の審査を始めます。ラジエル……』

「はい、メタトロン様」

 

 ラジエルと呼ばれた天使は(まぶた)を閉じると、俺の経歴を読み上げ始める。

 

「水野晴人31歳、地球・日本国神奈川県川崎市出身。Aランク迷宮アクアマリンの帰還者(リターナー)。精神年齢21歳、魂魄(こんぱく)年齢3歳。父、水野—―」

 

 それは心を読まれでもしない限り、絶対に分からないような情報だった。

 俺が忘れていた些細(ささい)な情報さえ、記憶の奥底から掘り起こされる。

 ……これは面接という名の、探索者の人品を問う最終審問だ。

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