マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第264話 魔道顕微鏡

 審問の結果ミュールだけがAランク昇格試験を不合格となり……なんてことは起こらず、普通に合格して戻ってきた。

 

「ギルドマスターにギリギリ合格って言われちゃったにゃ」

「ポイントには結構余裕あったはずだけど、どこでマイナス評価を食らったんだ?」

「魔道列車にタダ乗りしたのが悪かったみたいにゃ」

「ああ……」

 

 ミュールはコバルトファミリーの追手から逃れる為に魔道列車の家畜車に隠れ、そのまま海都カナンまでやってきていたことを思い出した。

 

 後で駅に出頭して申告とかしてなかったんだな。

 確かに俺達もすっかり忘れていたけどさ。

 

「あれから13年も経っておるからのう、とっくに時効じゃな」

「ギリギリでも合格は合格にゃ。今日はお祝いにゃー」

「やれやれ、調子のよいことじゃ」

 

 そんなことを話しながらギルド本部の神殿から出た俺達は、浮島の端っこに安置されたままの台座まで戻り天使の人力エレベーターで地上に降りることになった。

 

 俺はゆっくりと降下していく台座の手すりを掴むと、巨大なクレーターにすっぽりと収まっている迷宮都市イクリプスの全景を見渡した。

 

 林立した高層建築物の中でも特に目立つのは、この世界における最先端医療を研究するイクリプス医学研究所と、その大学のような広大な敷地の一角を占めるドーム型の魔道顕微鏡施設だろう。

 

 

 俺は昨日、アイリスと2人であの魔道顕微鏡施設を見学させて貰った。

 

 ドームの内側にはアイリスが大興奮するような繊細かつ緻密(ちみつ)な術式が張り巡らされており、その中心部には天体望遠鏡をひっくり返したような巨大な顕微鏡が存在している。

 

 コックピットに座りヘッドギアのようなものを頭に着けて使用するのだが、使用者の意思を反映してピンポイントで細部を知覚できるという超便利な魔道装置だ。

 前にレクナムに見せて貰った原子の写真みたいに、印刷魔道具に念写までできる。

 

 人類の遺伝子研究が一通り進んだ現在は主に細菌やウィルス、医薬品などの研究に使われているそうで、案内してくれた数人の研究者から専門的な話を色々と聞いた。

 正直、医学知識に関わらない部分はアイリスの方が理解できていた気がする。

 

 何しろ、イクリプス医学研究所は科挙ばりの難易度の上級医師資格試験を合格してからがスタートラインという天才どもの巣窟だ。

 

 魔道学院の医学科と一緒で、人生の大半を医学の研究に捧げてきた変態長命種しか生き残れないような魔境である。

 

 そんなお偉い学者先生から再生スキルの第一人者として意見を聞かせて欲しいなんて言われても、「いやー俺は実践派なんで難しいっすね。ハハハ……」と乾いた笑みを返すのが精一杯だった。

 

 後はアイリスの提案で、ハーフリングオーブを使った実験を少ししたくらいかな。

 かなり昔にジャイアント氏族から数種類のオーブを借りて研究をしたことがあるそうで、アンバーと関わりのある情報がいくつか手に入った。

 

 どうもこの手のオーブを使用中に妊娠すると変身を解除できなくなるようだ。

 そして高確率で生まれた子供はギフトホルダーになるという……。

 ナチュラルに人体実験をしているのが怖いが、聞かなかったことにしよう。

 

 ダンジョンを用いたオーブの複製についても検討の段階に入っているそうだが、やはり貸与(たいよ)された現物を失うのは困るようだ。

 

 遠回しにハーフリングオーブを譲って欲しいと頼まれたが、きっぱりと断った。

 帰還者(リターナー)のゴミステータスを踏み倒せるのはやっぱり便利なんだよね。

 

 アザミの研究が終わったらハーフリングオーブは不要になるだろうから、そちらにお願いしたらいいんじゃないかな。

 数億メルで買い取るくらいなら他の研究費に回したい? じゃあ諦めてください。

 

 ユニエルが全財産を費やして魔道顕微鏡を造らせたように、大きな成果を生み出すには相応のお金が必要不可欠だ。

 

 研究に協力したいのはやまやまだが、友人でも何でもない赤の他人に大事なマジックアイテムをプレゼントするほど俺は甘ちゃんではないのである。

 

 

 地上に着いた台座から降りた俺達は案内人の天使にお礼を言って探索者ギルドを後にすると、イクリプス魔道具職人(クラフター)組合までアイリスを迎えに行くことにした。

 

 ここの魔道具職人(クラフター)組合も探索者ギルドのすぐ近く、一等地に建つ高層ビルだ。

 マジックポーションやミスリル発魔機、魔道具素材などなど……ここでしか手に入らないものは結構ある。

 

 ウィーンと音を立てて開いた自動ドアを潜って建物内に入ると、ロビーの受付に行ってエルフの職員さんに声を掛けた。

 

「すいません、アイリスを迎えにきたんですけど……」

 

 俺はアイリス同伴で何度かきているので、ギルドカードを見せずとも問題ない。

 

「アイリス教授は現在、3階の工房で講習中ですね。20分ほどで終わると思いますが、どうされますか?」

「うーん、邪魔しちゃ悪いかな。ロビーで待ってます」

「分かりました。講習が終わり次第、こちらからアイリス教授に連絡致しますね」

「よろしくお願いします」

 

 俺達はアイリスが戻ってくるまで、適当にロビーをぶらつくことにした。

 1階にある売店には、ここで見習いをしている魔道具職人(クラフター)の作った魔道具が並んでいる。

 

 俺はハムマンの装飾が施された魔道ランタンをなんとなく手に取って眺め回した。

 検品を通っているから、品質はそこまで悪くないな。

 ただ見習いが作っただけあって、デザインセンスに欠けているところが見られる。

 

 相場よりも安いし掘り出し物があったりするからお金のない若者に人気があるんだけど、天才魔道具職人(クラフター)の恋人がいる俺には不要だ。

 魔道ランタンを元の場所に戻した俺は、入口で別れたアンバー達の姿を探した。

 

 ……見つけた、2人は全自動ミスリルプレート製造機の前にいるようだ。

 

「アンバー、見るのは初めて?」

「おお、よいところにきた。使い方が分からんのじゃが、教えてくれるかのう」

「いいよ。まずはこうして――」

 

 ポーチから取り出した燃料用の魔石を機械の手前にある魔石計量器に入れる。

 余ったら戻ってくるから適当でいい。

 目印のランプが青く点灯したら、ギルドカードをかざして料金を支払う。

 

「動き始めたにゃ!」

 

 するとガラスケースの中心に、球体の形をした緻密な魔法陣が浮かび上がった。

 5秒ほど待つと、最初の昇華反応光が発生する。

 さらに5秒後、2度目の昇華反応光が発生—―。

 

 —―24回の昇華後、上下左右から現れた魔法陣が挟み込むように動き出してマンガン+24が薄っぺらい正方形のプレート状に変形した。

 その5秒後、最後の昇華によりミスリルプレートが完成。

 

 球形の魔法陣が消えると、今度は浮遊するミスリルプレートに上のノズルから液状のスライム樹脂が注がれた。

 再び上下左右から現れた魔法陣がスライム樹脂を板状に成形、硬質化させる。

 

 最後の工程が終わると、ゆっくりと下まで落ちたミスリルプレートはベルトコンベアによって機械の外に排出された。

 アンバーは手に取った出来立てほやほやのミスリルプレートをしげしげと眺める。

 

「よくできておるのう、流石はアイリスじゃ」

「オレンジジュースの自動販売機みたいだったにゃ」

「自動で絞るやつ? アレ美味しいよね」

 

 このミスリルプレートはミスリル発魔機にセットして使うほか、ダンジョン内での魔力回復用アイテムとしても利用されている。

 

 割れ物だから推奨はされないけど、必要とするのは基本的に後衛の魔導士(ウィザード)だから保護ケースに入れて持ち歩いている人もそれなりにいるようだ。

 

 ミスリルの首飾りが未だに市場に流通していないから仕方ない面もあるが、そこはミスリル職人の俺が何とかするつもりだ。

 

 上級探索者向けのオーダーメイドで1つ10万メルってところかな。

 マジックポーション抜きだと俺の魔力量でさえ1つ作るのに最低5日は掛かるし、魔力コスト的にそれくらいは取らないと足が出る。

 

 不壊性質で絶対に壊れないし紛失しない限りずっと使えるわけだから、ぼったくりというほどでもないだろう。

 

「いたいた、みんなお待たせー」

 

 どうやらタイミングよく、アイリスが戻ってきたようだ。

 

「昇格試験、どうだった?」

「当然、全員合格にゃ!」

「よかった。わたしミュールちゃんが落ちてないか心配だったんだよねー」

「その心配はあながち的外れでもないのう。結構ギリギリだったそうじゃ」

「ふふん、勝てば官軍にゃ」

「今夜はお祝いしないとね。ここの組合長にいいお店、聞いておいたよーん」

 

 迷宮都市イクリプスでの滞在も残すところ後1日。

 悔いが残らぬよう、しっかり楽しんでからアクアマリンに帰るとしよう。

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