マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第265話 ラウズ樹海

 2日後の昼間、イクリプスを出立した俺達はキャラバンの旅の途上にいた。

 広大な丘陵地帯を越え、遠方に小さく見えてきたのはどこまでも続く万里の長城とその中ほどにある城塞都市だ。

 

 普段なら喜ばしい中継地への到着、しかし装甲バスの車内は重苦しい空気に包まれていた。

 それもそのはず、目前の前線都市ローディアは現在スタンピードの真っ最中だ。

 

 同乗者の多くは初めからそれを目的とした上級探索者であっても、到着早々に強制招集を受けて戦場に送られるのは本意ではない。

 

「早く着かないかにゃー」

 

 それも、ミュールのような戦闘狂を除いての話だが。

 ダンジョンの圏内(けんない)に入ったのか、懐のギルドカードがブルブルと振動した。

 仮眠から目覚めて身じろぎをする探索者達に乗務員の天使が呼び掛ける。

 

「もうすぐローディアに到着します。招集の対象である上級探索者の皆様は、到着後速やかに探索者ギルドで緊急クエストの参加登録をお願いします」

 

 今回のスタンピードはローディアの南部に広がるラウズ樹海に住むSランク魔獣の縄張り争いが起因と聞いている。

 はてさて、これからどうなることやら。

 

 

 ラウズ樹海—―それは西大陸東部の3分の1を占める広大な樹海であり、この世界で最も危険とされている禁足地だ。

 

 生息している魔獣は最低でもCランクに相当し、魔境の苛烈な生存競争を生き抜いたSランク魔獣は確認されただけでも38体存在する。

 

 単体で都市を滅ぼせるこれらの脅威的な魔獣は普段こそ自身の縄張りに収まってるものの、何らかの影響—―多くはラウズ樹海内でのダンジョンスタンピードによる生態系の変化――を受けて樹海の外までやってくる。

 

 探索者ギルドはラウズ樹海の西から北に蓋をする万里の長城と20を数える前線都市を築くことで、何とかラウズ樹海の外への魔獣の氾濫(はんらん)を抑え込んでいる。

 

 アザゼルが探索者ギルドを創立する以前は西大陸東部のおよそ9割9分が魔獣の楽園だったそうだし、西大陸が人の住むべき場所ではない化外(けがい)の地と称されたのも頷けるというものだ。

 

 かつて西大陸に追放されたジャイアントがディオゲネス山脈の向こう側に居を構えたことも、当時の西大陸東部がどれだけ危険であったかを証明している。

 

 今回、俺達はそんなラウズ樹海の北をぐるりと回り込むルートを帰路に選択したわけだ。

 

 大規模なスタンピードは年に1回もあれば多いと聞いていたから、まさか出発の直前になってスタンピードが始まるとは思っていなかったな。

 普通にネフィリムまで戻って、海路で帰った方が安全だったかもしれない。

 

 とはいえ……アンバー達はやる気だし、Aランク探索者がスタンピードを前に尻込みするというのもおかしな話だ。

 ここは一つ、前線都市の住民に「こん棒愛好会」の底力を見せてやるとしよう。

 

 

 ローディアの北側から城壁内に入ったキャラバンは畑の中の道路を走って2つ目の城壁を通り、頑丈そうな建物が建ち並んだ都市部までやってきた。

 

 見ると、この街の建物の窓には必ずと言っていいほど鉄格子が付けられている。

 やはり空を飛ぶ魔獣の侵入を警戒しているのだろう。

 

 探索者ギルドの駐車場で止まった装甲バスから降りた俺達は、他の探索者達に混じって探索者ギルドの中へと足を運んだ。

 

 ロビーは平常運行といったところで、スタンピードの最中とは思えない落ち着きを見せている。

 「スタンピード発生中!」という看板があちこちに立てられているくらいか。

 

「次の方、どうぞー」

 

 専用の受付に並んだ列は()けていき、すぐに俺達の番がやってきた。

 

「Aランク探索者パーティー『こん棒愛好会』じゃ」

 

 俺達はギルドカードを受付の端末にかざして緊急クエストの参加登録をした。

 アイリスの探索者ランクは一般人のEランクなので、彼女だけはお留守番だ。

 

 マジックポーションも医者の魔力も有限だから、足手纏いは少ない方が望ましい。

 どうしても参加したかったらこの街のダンジョン――Bランク迷宮ローディア—―の三層まで行って、Cランク昇格試験を受けたらいいのである。

 

「アンバー様、ミュール様はA地区の防衛を担当してください。ハルト・ミズノ様はB地区の前線基地で医療班として活動して頂きます」

 

 天使の職員さんは受付のカウンターに置かれたこの街の地図を指先で指し示した。

 万里の長城と繋がった北の農業区画と南の戦闘領域を区切る城壁が横一直線に引かれていて、モン〇ターボールっぽく見えなくもない。

 

「俺だけ医療班ですか」

 

 後衛職はパーティーメンバーに同行するか、あるいは戦闘領域にある前線基地の防衛を担当するって聞いていたんだけどな。

 

「高魔力の中級医師を腐らせるほど、我々も余裕があるわけではありませんので。再生スキルの第一人者としての腕前、期待していますよ」

「はい、善処します」

 

 スタンピードの注意事項が載っている冊子を受け取った俺達は受付を離れた。

 探索者ギルドの外に出て、道路脇に取り出したバイクに(またが)る。

 行き先は別々なので組み合わせは俺1人、そしてミュールとアンバーだ。

 

「みんな、くれぐれも怪我には気を付けてね」

 

 アイリスはローディア魔道具職人(クラフター)組合に行って、そちらに運び込まれた軍用魔道具の修理を手伝うとのこと。

 

「なに、東大陸のカーススタンピードよりは遥かにマシじゃろう」

「久々の魔獣狩りにゃ。腕が鳴るにゃ……!」

 

 誰よりも信頼しているアンバーは絶対に大丈夫だとして、ミュールが調子に乗って頑張り過ぎないかだけが心配だった。

 アンバー、いつもみたいにストッパー役を頼んだぞ。

 

「それじゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃーい」

 

 巨乳褐色スク水ダークエルフの声援を受けた俺は最強無敵のスーパーマンだ。

 残念ながら、魔獣との戦闘には一切参加できないけどね。

 

 俺達はバイクをブーンと走らせて、ローディアの南部へと向かった。

 アンバー達の担当するA地区は南西の方角、俺の担当するB地区は南の方角なので信号の上の道路標識に従って途中の道で別れた。

 

 ラウス樹海から魔獣を引き込んで戦う戦闘領域と都市部を区切る円形の城壁の閉め切られた城門の前までやってきた俺は、その隣にあるジャイアントサイズの大扉を潜った。

 

 さっき貰った冊子の地図に従って城壁内部の通路を歩き、前線基地まで移動する。

 半円状に張り出した城壁に囲われた前線基地に建っている大きな建物の周囲は広場になっていて、魔獣との戦いから戻った探索者達が束の間を休息を取っていた。

 

 外周の城壁を守る専属の防衛部隊が魔石を使った軍用魔道具である程度まで数を減らしつつ、解放した城門から戦闘領域に引き込んだ魔獣を上級探索者が殲滅する。

 それがこの西大陸における、ラウズ樹海で発生したスタンピードの対処法だ。

 

 広場の一角では筋骨隆々の男達が外から運び込まれた魔獣の死骸を解体していた。

 ダンジョンを抱えているとはいえ、前線都市は慢性的な赤字体質だからああやって素材を回収することで少しでもその赤字を解消しているのだろう。

 

「さてと、いつまでもボケーっとしてないで仕事場に移動しないとな」

 

 俺は開きっぱなしのジャイアントサイズの大扉を潜って前線基地の建物内部に入ると、入口からすぐの場所にある救急室に向かった。

 

 部屋の入口には出入りする者の装備を除菌する薄緑色の結界が張られている。

 スッと通り抜けて部屋の中に入ると、薄っすらとした血臭が鼻をついた。

 

 救急室は結構広いが、並んでいるベッドに寝ている患者は1人もいない。

 今のところはMRIみたいな再生医療用の大型魔道具に寝そべって、浮かび上がった魔法陣でジリジリと腕を生やして貰っている探索者が1人いるくらいか。

 

「どうされましたか?」

 

 入口の受付で待機していた天使の看護師に声を掛けられたので、俺はギルドカードに中級医師免許証を添えて提示した。

 

「ここの医療班に配属されたAランク探索者のハルト・ミズノです」

「……! すぐに主任のところまでご案内致します!」

 

 やってきたのは救急室の奥、ハーフリングサイズからジャイアントサイズまで大小様々な手術台が並んだエリアだ。

 そこでは丸眼鏡を掛けた白衣の天使が丸椅子に腰掛け、両腕を組んで眠っていた。

 

 魔力の回復を助ける為か天井の照明の間にはミスリルプレートが何枚も設置されていたが、どうやらそれだけでは間に合っていなかったようで彼女の背後のテーブルにはマジックポーション(特濃、非売品)の空瓶が何本も転がっていた。

 

「院長、院長起きてください!」

「うるさい……聞こえている……」

 

 ちょっと低めのハスキーボイスだ。

 スッと目を開けた白衣の天使は目の前に立つ俺の顔を見て、それからはぁーと大きなため息を吐いた。

 

「その顔、貴様がハルト・ミズノだな」

「はい。貴女(あなた)のお名前は?」

「ローディア総合病院の院長、上級天使マリエルだ。中級医師と聞いているが、貴様は何ができる?」

 

 細い目の下には深い(くま)もあるし、随分(ずいぶん)と心が荒んでいるようだ。

 きっとスタンピードが始まってから休みなしで働いていたんだろうな。

 

「ユニエルに相当鍛えられましたからね、死んでさえいなければ身体が真っ二つになっていても治せますよ」

「ユニエルか……あのいけ好かない女のせいで、数少ない腕利きの中級天使が東大陸行きだ。確かにリジェネレーションの魔道具には助けられているが……」

 

 マリエルは不愉快そうに眉をひそめた。

 

「近隣の迷宮都市から応援はきていないんですか?」

「こちらよりも東の方が襲撃の規模が大きい。そして他の地区は私の部下が滞りなく回している……だから上は貴様だけで十分に間に合うと判断したんだろうさ」

 

 他のA地区、C地区の前線基地にある救急室にはそれぞれ2人ずつ中級天使が配属されているそうだが、B地区だけは目の前の上級天使マリエルでワンオペ状態だったらしい。

 

 いざとなったら銀行の頭取をしている中級天使が穴埋めをするみたいだけど、俺がやってきたことでその必要はなくなったようだ。

 

「期待に応えられるよう、精一杯努力します」

「当然だ。さてと……引継ぎをする前に、君は医者の正装に着替えてくれ」

「分かりました。白衣はどちらに?」

 

 俺が尋ねると、天使の看護師がマリエルの代わりに教えてくれた。

 

「あちらの仮眠室の棚に置いてあります!」

 

 案内して貰った仮眠室で白衣に着替えた俺は、徹夜でお疲れのマリエルを休ませる為に手早く引継ぎを済ませたのだった。

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