マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第266話 それぞれの戦場

 前線都市ローディア南のB地区に存在する前線基地の救急室に配属された俺だが、その仕事は想像していたよりも多くなかった。

 

 なぜなら簡易的に怪我を治せるハイヒーリングやエクストラヒーリングの魔杖(まじょう)が普及しているからだ。

 致死性の毒を食らっても、すぐに解毒の魔杖(まじょう)を使えば大抵は何とかなる。

 

 だから俺の仕事は魔杖(まじょう)で治し切れない複雑骨折した患者とか、内臓をやられた患者、あるいは死にかけの患者の相手だな。

 

 マジックポーションの節約の為、手足などの欠損はできる限り再生医療用の魔道具を使用している。

 

 高レベルの上級探索者は基本的に生命力が高いので、脳か心臓を損傷していない限り即死することは滅多にない。

 

 とはいえ心停止状態で時間が経つと魂がどっかに行っちゃうので、それまでに蘇生処置をする必要がある。

 

 

 先ほど首から上がない探索者が天使によって天窓から救護室に運び込まれてきたが、残念ながら彼は腕に巻いたトリアージ用のバンド――月光教の聖印の術式を改変して作られた魂の所在を証明する使い捨ての魔道具—―が白から黒に変色していた。

 

 死亡確認されたワーウルフの男—―チラっと覗いたふさふさの尻尾で分かった—―は担架に乗せられたまま、隣の霊安室へと運ばれていった。

 

「……可哀想だが、俺にできる仕事をしよう」

 

 俺は彼に続いて運び込まれてきたもう1人の探索者、クマの爪で顔面を大きく抉られてうめき声を上げるワーウルフの女戦士に麻酔を掛けて意識を深く沈めた。

 女の子だから、傷跡が残らないよう綺麗に治してあげないとね。

 

 目の前で恋人(多分)が死んだのがショックだったのか、彼女はしきりに「殺して……」と呟いていたが、俺は医者なのでその望みを叶えることはできない。

 

「この子は無理そうだから後方送りで」

 

 傷の治療をしながら、隣でカルテを取ってくれている天使の看護師に指示を出す。

 

「はい、ハルト先生」

 

 ベテランの上級探索者はほとんど救急室には運び込まれたりしない。

 自己診断で治りきっていないと判断したら自分の足でやってきて、ちゃっちゃと治して貰ってすぐに戦場に舞い戻る。

 

 大して金にもならないのに(1パーティー100万メルが上限)、彼らはどうしてそこまでして戦うのか。

 

 こういった緊急クエストでは昇格に必要な貢献度ポイントを多く稼げるが、Aランク探索者は貢献度を貯めてもペナルティを踏み倒せるくらいでそこまで意味がない。

 やはりそこは、西大陸の文化と歴史の教育によるものが大きいのだろう。

 

 西大陸の人間は前線都市によって故郷の安全が守られていることを知っている。

 だからこそ常に自らを鍛え、いつどんな形で現れるかも分からない未知の魔獣との戦いに備えることができるのだ。

 

 ダンジョンで特定の魔物を狩るだけで生計を立てているような、ぬるま湯の環境にどっぷり浸かった中央大陸の上級探索者とは強さの質が違う。

 

 ただしその境地に辿り着くまで、多くの死を乗り越えなければならない。

 そこで折れるかどうかが、強者と弱者との分かれ目でもあった。

 

「浅く眠らせておいたから、後のことはよろしくね」

 

 治療が終わったワーウルフの女戦士は浮遊するストレッチャーに乗せられて、救急室の外へと運ばれていった。

 メンタルが回復するまで、都市部の療養施設で入院して貰うとしよう。

 

 俺は近くの丸椅子に腰掛けて、次の急患がやってくるまでしばらく休憩だ。

 魔力は潤沢にあるし、車内で仮眠を取ったから頭も()えていた。

 ただ……救えなかった患者を見る度に、精神力が消耗していくのを感じる。

 

 カーススタンピードの時は運よく死人ゼロで行っていたからなぁ。

 知ってはいたけど、救急医療の最前線は大変お辛い職場だ。

 患者を不安にさせるわけにはいかないし、表面上は努めて冷静に振舞うけどさ。

 

「ハルト先生! C地区から3名、緊急搬送すると連絡が――」

 

 あれから30分も経たずに、新しい急患がやってくることが確定した。

 頼むから、今度は生きた状態で届いてくれよ。

 死んでさえいなければ、絶対に治してやるからさ。

 

「分かった。いつでも受け入れることができるように準備してくれ」

 

 ちなみに今の俺はハーフリングオーブを使用していないヒューマンの状態だ。

 確かに器用さを底上げすると楽にはなるが、繊細な技術を要する医療スキルでそれを続けるのはよろしくない。

 

 補助輪付きで医療スキルを行使するのに慣れ過ぎたら、いざという時に医療ミスを起こす原因にもなりうるからな。

 「いつまでもあると思うなハーフリングオーブ」の心を大事にしていきたい。

 

 

 その日の深夜、長い仮眠から起き出してきたマリエルとバトンタッチした俺は朝まで休ませて貰えることになった。

 

 血の匂いを嗅ぎ過ぎて馬鹿になった鼻をリセットするべく仮眠室でシャワーを浴びてサッパリした後、24時間稼働中の食堂でワンプレートセットを受け取った。

 外で夜風にでも当たりながら夜食としゃれ込むとしよう。

 

 建物内にあるジャイアントサイズの大階段を(のぼ)って屋上に行った俺は、

適当な場所にあぐらをかいて座ると望遠鏡を片手に夜の戦闘領域を見渡した。

 城壁の各部に据え付けられた投光器のおかげで、雲で月が隠れていても安心だ。

 

「今、何か光ったような……」

 

 ここから西の方角で、青白い光が一瞬だけ見えた。

 魔道スキルで焼き直して少し焦げたパンを口に(くわ)えて望遠鏡を覗き込む。

 ジャイアントよりも大きい巨大蜘蛛と対峙しているのはやはりアンバー達だ。

 

「頑張れ……頑張れ……よし!」

 

 アンバーがげっこう丸の光で気を引いているうちに、隠密スキルで夜闇に隠れたミュールがすっぱり首を切り落とした。

 傷を残さず倒して素材の価値を高める戦い方は貢献度ポイントも高く付くだろう。

 

 見通しのいい平地のあちこちには、緊急避難所としても使える小さなシェルターが建てられている。

 

 アンバー達の合図でそこで待機していた天使が飛んできて、蜘蛛の死骸をマジックバッグに詰めていた。

 

 その間見張りをしていたアンバー達は天使が回収を終えるとすぐに走り出し、今度は10頭近くいるメタルな毛皮をしたオオカミの群れに――。

 

「おっと、いつまでも観戦していたら夜が明けちゃうな」

 

 俺は望遠鏡を覗くのをやめてポーチに仕舞った。

 怪我もなく、元気にやっていることが分かっただけで十分だ。

 さっさと夜食を食べて、明日の朝に備えるとしよう。

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