マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第268話 前線都市ケイロン

 あれだけ散々個人旅は危険だと言っておいて、勢いで街を飛び出してしまった。

 まぁ、万里の長城にはラウズ樹海の魔獣を前線都市の方に誘導する魔獣除けの仕掛けが張り巡らされていて付近の道はそこそこ安全だから気にせず進むとしよう。

 

 ぶっちゃけ俺のハーフリング化プロテクションがあればどうとでもなるからな。

 アンバー達もいるし、キャラバンに頼らなくとも戦力は十分だ。

 唯一の問題は、俺が7連勤明けでハイになっていることくらいだろう。

 

 

 俺達の乗るハムカーはSランク魔獣との激しい戦闘跡が残る城壁――もうあらかた修繕が終わっていた――の脇を通って、更に1時間ほど東へ走った。

 すると道の途中に小さな休憩所を発見したので、今日はここで休むことにした。

 

 公衆トイレ(ちょっと汚れていた)の陰に設置されていた結界魔道具をアイリスがチェックしている間に、アンバーとミュールは広場でキャンプの準備だ。

 俺はさっきバリアで()いたシザーオウルを使って晩ご飯を作ろう。

 

 頭を落としてちゃっちゃと血抜きを済ませた鋭い爪を持つ等身大フクロウを空中に浮かべた熱湯に1分ほど漬けた後、石の触手を操って羽を(むし)る。

 残った毛羽を火の球で(あぶ)ったら、お腹を切って内臓を掻き出す。

 

 胃袋から出てきた未消化のハムマンに食物連鎖の厳しさを感じつつ、手早く解体して一口大にカット、下味を付けてからステンレスの串に通して炭火で焼く。

 

「いい匂いにゃー」

 

 匂いに釣られてやってきたミュールに、俺はいい感じに育てた焼き鳥の串を差し出した。

 

「今夜は焼き鳥食べ放題だ。好きなだけ食え……!」

「にょほー!」

 

 隣の椅子に腰掛けて、幸せそうに焼き鳥にかぶりつくミュール。

 俺はタライに張った氷水に漬けて冷やしておいたビール瓶を取って栓を抜き、同じくキンキンに冷やしておいたガラスのジョッキに注いだ。

 

「コイツが欲しいんだろう? イッちまいな……」

 

 ミュールは俺が差し出したジョッキを奪い取ると、ゴクゴクと一息に飲み干した。

 

「ぷはーっ! 美味いにゃあああー!」

 

 泡で白い口ひげが付いているが、お構いなしだ。

 そーれ、お代わりもあるぞぉー。

 

「お主ら、もうやっておるのか」

「ミュールちゃんだけずるい。わたしもお酒飲みたーい」

 

 ミュールの歓喜の叫び声を聞いたアンバーとアイリスも戻ってきた。

 俺はさっきと同じように、2人にも焼き鳥とビールを手渡した。

 それから後はもう、楽しい酒盛りをするだけだ。

 

 もちろん危険な西大陸の野外だから、飲み過ぎには注意する必要がある。

 実際、一晩のうちに3回も結界を破壊して魔獣が侵入してきたくらいだからな。

 

 警報が鳴る前にミュールに起こされたから余裕を持って対応できたけど、そんな状況でお楽しみするなんてのはもってのほかだ。

 そういうことは、ちゃんと次の街に着いてからにしよう。

 

 

 翌朝、休憩所を出発したハムカーは再び万里の長城に沿って東に向かった。

 たまーにすれ違う車――きっと上級探索者のパーティーだ――に手を振って挨拶したりなんかしつつのんびりと道路を走り、昼過ぎには前線都市ケイロンに到着した。

 

 ぱっと見はローディアとほとんど変わらない。

 使われている建材の違いで微妙に城壁の色合いが異なるくらいか。

 そんな感想を抱きつつ、俺達は2つ目の城壁を越えて都市部にやってきたが……。

 

「うわー、あっちもこっちも崩れた建物でボロボロだ」

 

 そこはまるで、何かの爆撃でも受けたかのような状態だった。

 東の方が襲撃の規模が大きいと聞いてはいたけど、まさかここまで被害が大きいとは思ってもみなかったな。

 

「都市部への侵入を許すとはのう。不甲斐ないやつらじゃ」

「ローディアでもそこそこ飛行型の魔獣が侵入してきたって言ってなかった?」

 

 都市部を守る2つ目の城壁に常時展開されている対魔獣結界は結構な強度があるが、それでも弱めのBランク魔獣の侵入を防ぐまでが精一杯だ。

 その分だけ助長性があるから、破られてもすぐに修復されるけどね。

 

「結界を通った瞬間にみんな撃ち落とされておったわい。……被害の状況を見るに、こちらは戦闘領域の城壁をぶち抜かれたのじゃろうな」

 

 なお、こういったスタンピードで空飛ぶ魔獣の相手をするのは後衛職である。

 俺も中級医師免許を持っていなければ、そちらの方に配属されていたと思う。

 だってアンバーは強すぎて援護がまるで必要ないんだもん。

 

「大型魔獣の突進攻撃にでもやられたのかにゃ?」

「おおよそそんなところじゃろう。ほれ、まだあちらに死骸が転がっておる」

 

 アンバーが指差した先には、瓦礫(がれき)の山に紛れて2階建ての建物くらいのサイズがある巨大な亀の甲羅が見えた。

 絶賛、解体工事の真っ最中のようだ。

 

「どうしよう、わたし達も復興を手伝った方がいいかな」

「別に気にせんでええぞ。建物の地下には必ずシェルターがあるからのう、人的被害もそう多くはないはずじゃ」

 

 この程度の惨状、前線都市では日常茶飯事ということか……。

 確かに街を歩く人々の表情に陰りはなく、むしろどこか明るい気がする。

 

 復興予算が探索者ギルド持ちの今こそ稼ぎ時、といったところだろうか。

 土属性スキルを駆使した魔力チートで俺SUGEEEなんてしたら、大ブーイングを貰っちまうな。

 

「とりあえず、探索者ギルドに行って無事な宿でも探すか」

 

 大通りの道路は優先的に瓦礫(がれき)(たぐい)が片付けられていて、不整地に強いハムカーじゃなくても問題なく走れている。

 ……信号がぶっ壊れていて、代わりに交通誘導員がいたりするけど。

 

 流石に中心地の方は守りが堅いようで、探索者ギルドや魔道具職人(クラフター)組合、グンシモール……といった重要施設はほぼ無傷だった。

 

 やけに混雑している探索者ギルドのロビーでいつものように観光ガイドブック「みるだむ ケイロン」をゲットしつつ、受付で暇そうにしているケンタウロスの女の子—―サブマスターの職員さんに話を聞く。

 

「すいません。今日この街にきたんですけど、泊まれそうなホテルはありますか?」

「むむっ、その(たたず)まい……さては上級探索者さんですねっ! 遅刻はいけませんよ遅刻はっ!」

「わしらはちゃんとローディアで仕事をしておったぞ」

「それは失礼を……なんて騙されませんよっ! ギルドカードを見せてください!」

 

 何なんだこの人。

 まさかこの受付だけ空いていたのは受付嬢の性格に難があるのが原因だったのか?

 

「じゃあまあ……はい」

 

 俺が代表してギルドカードを差し出すと、ケンタウロスの職員さんはそのギルドカードを端末に通して情報をチェックした。

 

「Aランク探索者パーティー『こん棒愛好会』所属、Aランク探索者ハルト・ミズノ様……ぐぬぬ、確かにローディアで7日間の活動実績がおありのようですね……」

「ほれ見たことか」

「あっ、ハルト・ミズノ様宛にショートメールが届いていますよっ! すぐに印刷してきますので、ちょーっとだけお待ちくださいねっ!」

 

 ギルドカードを握り締めたケンタウロスの職員さんは、パカラッパカラッと蹄の足音を立てながら受付の奥まで走っていった。

 

 次元間通信を使った電報サービスは手紙と比べて送れる情報量が少ない上に、利用料金がかなり高いから使われることは滅多にないんだけどな。

 緊急の案件ならそれこそ指名クエストでも飛ばせばいいわけだし。

 

 そんなことを考えながら待っていると、しばらくしてケンタウロスの職員さんは2つの封筒を手に戻ってきた。

 

「こちらはローディアのマリエル様から、こちらはテバールのシルキー・カーン様からですっ! ハルト・ミズノ様、しっかりお渡ししましたからねっ!」

 

 わざわざ2階の銀行まで行ったのかなぁ。

 目の前の端末で連絡して、パシリの天使に持ってきて貰えば早かったのに。

 しかも声がでかいせいで周囲に俺の個人情報が駄々()れだ。

 

「それはどうも。ところで、ホテルの方はどうなんですか?」

 

 持っていた「みるだむ ケイロン」を差し出すと、ケンタウロスの職員さんはパラパラっと(めく)って営業停止中の宿泊施設にボールペンでバツ印を付けてくれた。

 ううむ、無事なのは五割ってところか……。

 

「前におすすめのホテルを教えたらお母さんに怒られちゃったので、後のことは自分で決めてくださいねっ!」

「はい、そうさせて貰います」

 

 忘れずギルドカードを返して貰った俺は、ケンタウロスの職員さんにお礼を言ってから受付を後にした。

 

「新人さんかな? とっても元気な人だったねー」

「それで済ませていいかは分からないけどな……」

「まあええじゃろ。して、その手紙には何と書いておる?」

「ちょっと待って」

 

 適当な長椅子に腰を落ち着かせて、それから封筒を開封する。

 まずはマリエルからにしよう。

 

「なになに……『貴様の審問記録は読ませて貰った。逃げ足の早い男め、命拾いしたな』」

 

 短冊状の紙片にはおどろおどろしい書体でそれだけが書かれていた。

 これ、元は絶対血文字だろ……。

 

「夜逃げして正解だったみたいにゃ」

「わしの勘も捨てたものではないのう」

 

 さっきギルドの端末にギルドカードを通した時に情報が更新されているだろうと思った俺は、自分のギルドカードをちょいちょい弄って隠しステータスを開いてみた。

 

 ずらずらと並んだ資格情報の一番下にあるユニエルの印(前に指名クエストで見た手紙に描かれていた紋章)の隣には、マリエルの印(恐らく)が輝いている。

 公私を分ける天使の(かがみ)だ。

 

「それで、シルキーさんの方は?」

「どうせ会いにきてとかそんな感じの内容だろうし、気が乗らないんだけど……」

 

 アクアマリンにいた時、俺はシャール経由で何通もシルキーからのラブレターを受け取っていた。

 きちんと返事は返していたんだけど、例によって直接会いには行っていなかった。

 

「男じゃろ、しゃんとせんかい」

 

 当然、その手紙はすべて正妻の検閲を受けている。

 

「……まぁ、読んでみるか」

 

 俺は渋々、2つ目の封筒を開けて短冊状の紙片を取り出した。

 するとそこには、驚くべき内容が記されていた――。

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