マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第269話 シルキーからの手紙

 ――記されていた、という痕跡しか分からなかった。

 なぜなら短冊状の紙片には細かい字でびっしりと文章が書き込まれており、印刷された時にインクで文字が潰れてほとんど読めない状態になっていたのである。

 

「あちゃー……」

 

 次元間通信を使ったショートメールの仕様の限界だった。

 多分、テバールで受付を担当した職員が説明を怠ったのだろう。

 

 いや、そもそも職員自身が仕様を理解していなかった可能性すらある。

 検閲をしないという建前上、指摘するのも無理だったろうしな。

 

「アイリス、解読できるかのう?」

「これはちょっと無理かも。さっきの人にもう1回印刷できないか聞いてみる?」

「仮にできたところで、これじゃあ意味がないだろう」

「そっかー、困ったことになったね」

 

 シルキーは今や一国の女王、読めないからといって無視するわけにもいかない。

 大枚(たいまい)はたいて「さっきのお手紙ご用事なあに」と聞き返すか、あるいは……。

 

「ハルトよ、ついに覚悟を決める時がきたようじゃな」

「テバールまで会いに行くしかないか……」

「ハルトくんはどうしてそんなに嫌がるの? シルキーさんも別に悪い人ってわけじゃないんでしょ」

「どうしてって……」

 

 正直、戦争の引き金を引いたというか裏で操っていたのは全部アデニウムだからそれに対する負い目はあんまりない。

 ただ、俺は無垢な娘に性の喜びを教えてしまったことに深く後悔していた。

 

「……一度でも会いに行ったら、満足するまで絶対に返してくれないことが分かっているからだよ」

 

 忘れたい、あの砂漠の夜のことを。

 俺は経験を積んで怪物(サキュバス)になったシルキーと戦って勝てる自信がなかった。

 

「なーんか、ハルトくんらしくないなー。エッチなこと大好きな癖にー」

「そこに愛(巨乳)があるかどうか、それはとても重要なことだ……」

 

 これからの戦いに備えなければならない。

 決心を固めた俺は、おもむろに「みるだむ ケイロン」を開いた。

 

「お主、まさか!」

 

 ビリっと千切り取ったページを見て、アンバーは俺の目的を察した。

 

「行こう……俺達のユートピアへ」

 

 目指すはサキュバス・グループの高級娼館である。

 

 

 この惨状で無事なホテルはほぼ満室状態に違いないという予想もあったが、やはり房中術スキルのフルコースをするなら客室清掃員に気を遣わなくていいラブホテルが最適だ。

 

 真っ昼間だというのに1階のキャバレーにそれなりに客が入っていた――おおよそ独身の上級探索者だろう――高級娼館「ドリームクラブ」で1泊した俺達は、翌朝に前線都市ケイロンを出立した。

 

 復興途中の街にいつまでも居座ってもしょうがないからだ。

 スタンピードの対応で結構な時間を浪費したし、これからの寄り道は最低限にするとしよう。

 

「うー、まだ頭がふわふわするよー」

 

 PUIPUIと足音を立てて道路を爆走するハムカーの後部座席で、アイリスは倒した背もたれ(座席部分は石ではなく既製品)に身を預けてぐてーっとなっていた。

 彼女は房中術スキルによるご奉仕、その初級コースを初体験している。

 

「けっこー良かったにゃ。次は上級コースで頼むにゃ」

 

 リンパマッサージで耐性がそこそこあるミュールには中級コースを一通り。

 ミュールは化身スキルでケモ化した状態だともふもふしているので、ご奉仕するのもそこまで苦ではないことに気が付いた。

 

「ハルトよ、流石に毎日は大変ではないか?」

 

 アンバーとする時は大体マスターコース。

 特別な日にアンバーを(よろこ)ばせることだけを考えて作ったご奉仕メニューなのだから当然だ。

 

「でもさ、俺がサキュバス嬢に相手をして貰うのも嫌なんだろう?」

「まあのう」

 

 アンバーに試したこともない感度3000倍のウルトラマスターコースを耐え抜いたシルキーに対抗するには、俺自身の経験値を積み上げる必要がある。

 

 諸々の体力的な問題は医療スキルを使った自己回復でどうにかするとして……。

 ここからテバールに着くまでにできることとなると、行く先々でベテランサキュバス嬢から教えを()いつつ、嫁で実践して腕を磨くくらいだろう。

 

「あんなに凄いことを毎日しちゃったら、わたし馬鹿になっちゃう……」

「それは真面目に困る。アイリスから頭脳を抜いたら、ただのエッチな巨乳スク水ダークエルフしか残らないぞ」

 

 って言うか、それってアルメリアさんのことじゃん。

 

「ふむ、では1日1人ずつするならどうじゃ。それくらいの間隔を空けておけば問題なかろう」

「あちしは毎日でもイけるにゃ」

「それなら練習台はミュールだけでよいか。わしらはいつものラブラブエッチコースで――」

「お楽しみの相談もいいが、新しいお客さんだ」

 

 遠方の上空に小さく飛竜の影を見つけた俺は、ハンドル (ダミー)にくっつけていた懐中時計をチラ見して展開していたプロテクションの効果時間を確認した。

 残り5分くらいか、余裕がある今のうちに張り直しておこう。

 

「むーん、まだ気付いていないみたいにゃ。こっちにくるかにゃ?」

 

 助手席のミュールは立ち上がると、天井のルーフから身を乗り出して双眼鏡片手に偵察を始めた。

 

「分からぬが、備えるのは大事じゃな」

 

 それから10分後、俺達は即落ち二コマみたいにくたばったハイエナジーワイバーン――鱗の柄がエナジードリンクの缶と似ているからそう名付けられたらしい――を、道路脇に生えた大木の木陰で解体していた。

 

 勿体(もったい)ないお化けが出ちゃうから、倒した魔獣はきちんと素材を()ぎ取ってアンバーのポーチにINだ。

 移動優先のキャラバン旅ではできない、個人旅の醍醐味(だいごみ)だな。

 

「アンバー、こいつの肉は食えるのかにゃ?」

「竜種の中でもワイバーンは毒持ちが少ないから食えはするじゃろうが……このように老いた個体の肉はあまり高くは売れぬのう。その上スタンピードの直後では、業者に買い取り拒否もされかねん」

 

 ついでに言うと古傷が多いから、素材的価値も落ちている。

 歴戦個体がレア素材を落とすなんてことは、現実では決してあり得ないのだ。

 

 俺は目ぼしい鱗を()ぎ取って筋肉が剥き出しになったハイエナジーワイバーンの死骸を、お椀状にした石の流体に念動スキルで放り込んだ。

 

「ああ、あちしのお肉がっ!」

「……ちょっとだけだぞ」

 

 ミュールがうるさいので、味見用に背中の肉をちょっとだけ切り取ってクーラーボックスに入れる。

 ただでさえ4人では消費しきれないジビエ肉が更に増えてしまった。

 

 久々に登場したフレイムカノン改の魔杖(まじょう)で死骸を念入りに消し炭にしてから、残った灰を石の流体でぎゅっと圧縮、地面に深く掘った穴に埋めて後始末を終えた。

 

「これでよし、出発しよう」

 

 西大陸の東端に辿り着くまで後8日。

 それまでの道中、どれだけ多くの魔獣にエンカウントするだろうか。

 

「うーん、何を作ろっかなー」

 

 再び万里の長城沿いの道路を走り出したハムカーの車上で、アイリスは太陽の光を反射してキラキラと輝くハイエナジーワイバーンの鱗を眺めていた。

 少なくとも、この旅でアイリスの懐が温まることだけは確かなようである。

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