マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
俺達は西方諸国の首都を西から東へ渡り歩いた。
時代の波に目もくれず細々とペガサスの馬産業を続ける、イーリス騎士領。
小領の領主が腐敗した王権を打倒したことで生まれた、ニコチャン共和国。
活火山の
古都ムーンサイドにも立ち寄った。
あのムーンサイド事変で聖都ブルームーンは
これでムーンサイドの観光業も廃れたかと思いきや、若いダンジョンを抱えたこともあってむしろ以前よりも活気が増しているようだ。
ティアラキングダムの許可を取っているのかいないのか、サクレアをモチーフにした歌姫ホテルに歌姫劇場、歌姫記念館に歌姫闘技場(探索者ギルドの移転先)……歌姫通りの店には歌姫グッズや歌姫銘菓が勢ぞろい。
このムーンサイド市民のバイタリティがもしも負の方面に向かっていたらと思うと、背筋がゾッとするが……結果よければすべてよしの精神でいこう。
念の為に変装をしていた俺達は平和な街の様子にホッと胸を
ダイジェスト風味で西方諸国を飛び越えた俺達は、いよいよルメー砂漠の目前までやってきた。
ここで忘れてはいけないのがヘルモン山脈の山頂に建つグレゴリーホテルである。
旅が終わる前に、是非ともアイリスにも天上の美食を味わって貰いたい。
飛行機の普及によってアクセスが容易になったグレゴリーホテルは完全な予約制に変わっていたけど、事前に麓の探索者ギルドで予約を取ってあるので大丈夫だ。
真珠色に輝くダンジョンゲートを内に抱えるコの字型の豪邸、その屋上を丸々使ったヘリポートで軟着陸した忍者ハヤテ号から降りた俺達は、金属製の階段を降りて「GREGORY HOTEL」の看板の下にある大きな両開きの扉を押し開いた。
入口のカウンターで優雅にお茶をしばいていたグレゴリーホテルのオーナー、ホテルマン風の恰好をした短髪の天使ラファエルは俺達に気付くと、スッと椅子から立ち上がって身を正し、それから玄関口までやってきた。
「『こん棒愛好会』の皆様、ようこそいらっしゃいました」
「久しいのう、ラファエルよ。調子はどうじゃ?」
「ええ、ええ。おかげさまでとても充実した毎日を過ごしておりますとも」
ニコニコと笑みを浮かべたラファエルは、ラウンジの方に視線を向けた。
釣られて見ると、ヘルモン山脈の西側を見下ろせる大きなガラス窓の近くに置かれたソファには裕福そうな宿泊客が何人もおり、のんびりとくつろいでいた。
前回はいなかった従業員の天使の姿もちらほらと見える。
きっとラファエルの弟子が経営しているイクリプスの三ツ星ホテル「ARC ENGEL」に預けていた古参の従業員を呼び戻したのだろう。
「こうも賑やかだと、居候も煙たがっているんじゃないですか?」
せっかくグレゴリーホテルまでやってきたのだから、アザゼルに土産話でもと思って聞いてみたのだが……。
「彼なら1ヵ月ほど前にアクアマリンに行くと言って出掛けましたが、もしやまだお会いされていないのですか?」
カウンターで俺達のチェックインの手続きをしながら、ラファエルは不思議そうに首を傾げた。
「あちしらは西大陸帰りなのにゃ」
「なるほど、そういうことでしたか。でしたら……まずは、こちらをお読みになるとよいでしょう」
「これは、新聞?」
ラファエルが差し出した週刊アモロ新聞の日付は10月1日、俺達がローディアで緊急クエストに参加していた時期のものだ。
新聞の一面には夜の星空に尾を引く流れ星の写真、そしてこんぺい糖みたいな形をした巨大な物体がデスマウンテンに深くめり込んでいる写真が掲載されていた。
デスマウンテンの標高は5000m近くあるので、直径はおおよそ4㎞ほどだろうか。
「『デスマウンテンに謎の超巨大隕石あらわる!』……なんじゃこりゃ」
2538年9月29日未明、火を
「いやいや、本当にこのサイズの隕石が落下していたら人類滅んじゃってるだろう」
西大陸には情報が届くのが遅いとはいえ、ここまで気付かなかったのはアレだな。
サキュバス・グループの高級娼館ばっかり泊まっていたからだな。
普通のホテルに泊まっていたら、ロビーに置かれている新聞くらいは読むはずだ。
「ふむ、探索者ギルドと魔道学院が共同で調査をするようじゃな」
「それでアザゼルがアクアマリンに向かったのか」
続報が載っている5日後の日付の新聞もあったので軽く読んでみたが、どうやらアクアマリンでは市街地の上空をミニサイズのこんぺい糖型未確認飛行物体が飛んでいるのが頻繁に目撃されているらしい。
更には謎の隕石—―デススターと命名された――が落下した翌日より、頭痛や
探索者ギルドはこれらの病状を電波障害と断定、アクアマリン中の
「これは、まさか……」
「きっと宇宙人の仕業に違いないにゃ!」
いくらなんでも急展開が過ぎる。
「なあ、アイリスはどう思う?」
さっきからずっと押し黙って考え事をしていたアイリスに尋ねてみると、彼女はフルフルと首を横に振った。
「一度、話を聞いてみないと分からないかな。ラファエルさん、わたし達の部屋に案内して貰ってもいい?」
そうこう話している間に、チェックインの手続きが終わっていたようだ。
「ええ、すぐにご案内致しましょう」
貰った新聞の束を腕に抱えた俺達は、白い翼の生えた背を向けたラファエルの後ろをぞろぞろと歩き出したのだった。