マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第272話 幽霊部隊

 2階の客室に案内して貰った俺達は、ひとまず作戦会議をすることにした。

 今日は早めにやってきたので、夜までまだまだ時間がある。

 

「さっき話を聞くって言っていたけど、あれってどういう意味?」

 

 広々としたスイートルームのリビングにあるソファに腰掛け、備え付けのティーセットで紅茶(セルフィア王国産の最高級茶葉)を()れる。

 ミュールは早速、大きな缶に入った茶請けのクッキーを物色しているようだ。

 

「アンバーちゃんが嫌がると思って、今まで黙っていたんだけど……今のわたしにはネフライト王国を出る時に付けられた護衛がいるんだよね」

「護衛じゃと? 一体どこに……」

 

 アイリスが指先をベランダの方に向けると、何もない場所にゆらりとした陽炎(かげろう)が浮かび上がった。

 すぅーっと虚空から現れたのは、真っ黒な忍者装束を着た金髪の女エルフだ。

 

「ま、まさかあの伝説の幽霊部隊(ゴースト)かにゃ!?」

 

 エセ忍者のミュールが(かじ)りかけのクッキーをポロリと取り落として驚きの声を上げると、忍者エルフ(本物)は不愉快そうに眉を歪ませた。

 

護り手(ガーディアン)第三特務部隊所属、ローズ・パイライトよ……」

 

 ちょっと休職したくらいで、ネフライト王国の機密情報を山ほど抱える要人が護衛も監視もなしで街中をプラプラできるなんて甘い話があるわけないか。

 

 それにしても、ローズ・パイライトねぇ。

 どこかで聞いたような……。

 

「もしかして、ハム学の作者の人?」

「ハズレで悪かったわね……ハルト・ミズノ……」

 

 この女、アズライト行きの飛行機でアンバーと交わした会話を知っているのか。

 こうなると書店の棚に紛れ込んだあの本が偶然とは考えにくい。

 アクアマリン、いやその前……アバロンにいた時から?

 

 心の内を覗いて秘密を(あば)く探索者ギルドの審問官といい、どこで誰が見ているかも分からない世界で悪いことはするもんじゃないな。

 壁に耳あり障子に目あり、教授の後ろに幽霊(ゴースト)ありだ。

 

「ローズちゃん、あの隕石について知っていることを教えて」

「私はそこの男を決して死なせることのないよう、追加の指令を受けただけ……他には何も知らないわ……」

「……そう、ハルトくんの力が必要なんだ。分かった、もういいよ」

「お楽しみも、ほどほどにすることね……」

 

 忍者エルフ(本物)はすぅーと陽炎(かげろう)のように消えていった。

 

「のうアイリスよ、もしやずっと監視されておったのか?」

「多分ねー」

「多分って、お主……」

 

 旅の道中でシたあんなことやこんなことを思い出したのか、グッと拳を握り込んだアンバーはほっぺたを真っ赤に染め上げてぷるぷると震えている。

 

「あの人達だってプロなんだからさ、そこまで気にする必要もないだろう」

 

 俺はそんなアンバーの脇を両手で持ち上げて、膝の上に乗せた。

 

「それにさ、思い出して見てよ。ついこの間だって審問官に見せちゃったでしょ」

 

 どちらかというと、俺はどうやって忍者ハヤテ号に乗り込んだのかが気になる。

 幽霊部隊(ゴースト)って言うくらいだし、普段は霊体化でもしているのかなぁ。

 

 クロだって初めて会った時になんかガラスをすり抜けたりしていたから、絶対に有り得ない話でもないと思う。

 

「それはそうじゃが……ただ事務的に記憶を読まれるのとはわけが違うのじゃ」

「知らぬが仏、知らない方が幸せだったかもな」

 

 俺達の意識は謎の隕石の話からどんどん離れていっているが、ことの発端のアイリスは新聞の山を前に黙々と記事を読み込んでいる。

 

「ふおぉ、本物の忍者を見ちゃったにゃ……!」

 

 ミュールは3秒ルールで拾い直したクッキーを食べながら感動に打ち震えていた。

 ……腹を壊しても知らないぞ。

 

「ハッ、護衛が一人だけとは考えられん。交代要員が必ずおるはずじゃ!」

 

 アイリスは肯定も否定もしなかった。

 つまりは、そういうことである。

 

「どこじゃ、どこにおる。この覗き魔めっ、わしがお仕置きをしてやるぞ!」

 

 膝の上からぴょんと飛び降りたアンバーは部屋中を探し回るが、そんな方法で隠密スキルを極めた忍者エルフ(本物)を見つけられるはずもなく……。

 

 探すことを諦めたアンバーはむすーっと不機嫌そうにほっぺを膨らませると、俺の膝枕でふて寝を始めたのだった。

 

 

 数時間後、俺達は食堂でグレゴリーホテルのオーナー、ラファエル特製のスペシャルディナーを頂いていた。

 

 周囲のテーブル席では紳士服やドレスを着た裕福そうな宿泊客が歓談しているが、俺達はドレスコードも気にせず普段着のままである。

 

 本日のメニューはスクエアサーモンのマリネにびっくりカボチャのポタージュ、秋野菜のニコチャン風サラダなど……メインはアサルトバッファローのローストだ。

 相も変わらずそよ風は添えられまくっているが、どうでもいいので省略する。

 

「つまり、あの隕石の正体は宇宙船ってこと?」

「今ある情報からだと、それ以外には考えられないかなー」

 

 ラファエルから貰った新聞の記事を一通り読み込んだアイリスの推理によると、デスマウンテンに深々とめり込んだこんぺい糖っぽい超巨大隕石は外宇宙からやってきた異星人の宇宙船だという。

 

「ふふん、あちしの勘が当たったみたいだにゃ」

「にわかには信じがたいが……もしそれが本当なら、アクアマリンは大丈夫なのじゃろうか」

「探索者ギルドと魔道学院の立ち回りから見て、侵略が目的ではないと思う。多分、事故か何かで不時着でもしたんじゃないかなー」

 

 街の上空を飛行していたドローンらしき物体の目撃情報がある時期からパタリと途絶えていることを踏まえると、対話によって意思の疎通が図られたと考えるのが妥当のようだ。

 

 それでもアクアマリンを襲った電波障害は変わらず続いている。

 発生源は宇宙船の動力か?

 異星人の生命維持に必要不可欠なのかもしれない。

 

「それとローズちゃんへの指令から、相手方がミスリル技術者を必要としていることも分かっているね。でもそれは今すぐにというわけじゃなくて、時間的猶予はかなりあるみたい」

「まぁ、本当に緊急事態なら真っ先に指名クエストが飛んでくるだろうしな」

 

 別段、エクレアから連絡がきたりもしていない。

 遠方から俺にショートメールを送りつけてきたのはシルキーだけだ。

 

「わたしとしては、高度な技術を持つ異星人の癖にミスリルの加工技術を持たないことが推測されるのが残念なくらいかなー」

 

 そう結論付けたアイリスは、デザートで出されたハジケマロンのモンブランをパクついた。

 

 ともかく旅程は変わらずということに決まったので、ディナーを終えた俺達は窓から綺麗な星空が見えるオシャンティーな浴場(男女別で入れるように改装されていた)で身も心も温まった後、客室に戻ってそのまま就寝したのだった。

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