マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第273話 同化の法

 翌日、グレゴリーホテルを発った忍者ハヤテ号は東の方角に舵を切る。

 波打つ砂丘の広がるルメー砂漠の上空を飛ぶこと数時間、遠くに見えてきたのは崩れかけた城壁に囲われた廃墟の街だ。

 

「見よアイリス、あそこが話しておったストーレじゃ」

「どれどれ……」

 

 アイリスの膝の上でアンバーがコックピットのガラス越しに指差すと、アイリスは双眼鏡を覗き込んで観察を始めた。

 

「確かにハムマンっぽいものが見えるね。アレがハルトくんが作ったっていう遊具かな?」

「ハムマン滑り台ね」

「あっ、上から子供が手を振ってる! おーい!」

 

 俺の力作が後の世代にしっかり受け継がれているようで何よりだ。

 

「アイツら、元気にしているかにゃー」

「同化の法の影響下では腹は減らぬし、(やまい)にもならぬと聞く。そう心配することはないじゃろう」

「同化の法、ダンジョンマスターシステムの元になった(いにしえ)の術式のことだよね」

「人柱を用いてダンジョンの老化を早め、Aランクに成長しきる前に崩壊させる……恐ろしい呪いの術法じゃ」

「確かに効果を反転させたらダンジョンの延命に使えるかもって思うけど、アザゼルはよく実用レベルまで組み上げたよね。わたし、尊敬しちゃうなー」

「今はアクアマリンにいるみたいだし、アイリスも色々と話を聞けるだろうさ」

 

 そんなことを話している間に、俺達の乗る小型プロペラ飛行機はあっという間にストーレの上空を通過していった。

 

 後部座席の後ろの荷物置きから身を乗り出していたハーフリングスタイルの俺は、再びクッションの山に深々と埋もれた。

 

「のう、本当に寄らなくともよかったのか?」

「前回はうっかり立ち寄ったけど、普通に入っちゃいけない流刑地だからな……」

 

 アクアマリンの近くにも一つ、かつてはカーン族が住んでいた廃墟の街—―すなわち贖罪(しょくざい)の民の集落—―が存在したが、50年ほど前にダンジョンが寿命を迎えたことで消滅していた。

 

 贖罪(しょくざい)を終えて新たな氏族を立ち上げる権利を得た彼らは、近隣にある砂漠の民の迷宮都市に温かく迎え入れられたそうだ。

 

「アルマに会うのはお主の立場が許さんか。難儀なことじゃのう」

 

 俺が良かれと思って渡した飛行機を戦争に利用してルメー首長国連邦をぶち上げたアルマ・カーンは、クーデターでとっ捕まった末にストーレまで追放されていた。

 

 公的にはシルキーの夫(実際は仮面夫婦だが)となっている以上、表立って砂漠の民のしきたりを破るようなリスクは負えない。

 

 

 それからしばらく空の旅を続けているうちにお昼の時間になったので、俺達は小休止を取ることにした。

 今回はルメー砂漠の各地に点在するダンジョンの塔を利用させて貰うとしよう。

 

 どうやらここのダンジョンの塔――航空地図にはターレスと書かれている――につい最近ダンジョンが口を開いたようで、石造りの塔の屋上に描かれたサソリの影絵の中心には真珠色のダンジョンゲートが存在していた。

 

 ホバークラフト機構を発動してふわっとダンジョンの塔の縁に軟着陸した忍者ハヤテ号から降りた俺達は、飛行機の翼の下の日陰に絨毯を敷いて、朝にラファエルから貰ったランチセットを広げる。

 

 塔の上は風の通りも良く、日差しが強い砂漠でもそれなりに快適だ。

 環境的には目の前のダンジョンゲートの先にある狭間(はざま)平原の方がいいに決まっているが、せっかくの旅だから俺達は見晴らしのいい塔の上を選んだ。

 

「このサンドイッチ、なんか変な形だけど美味しいにゃー」

 

 ミュールはランチボックスを開けて、たっぷり具材の詰め込まれているピタサンドを両手に一切れずつ持ってパクついた。

 

「ううむ、どれがよいかのう。目移りしてしまうわい」

「わたしはこれにしよっと。いただきまーす」

 

 俺も適当に一つ選んで、まずは一口。

 芋と鶏肉のマヨ炒めに、ナッツ入りのピタか。

 いいね、水筒に入っていたアメリカーンなアイスコーヒーとの相性も抜群だ。

 

 同行している幽霊部隊(ゴースト)の人にも分けてあげたいな。

 そう思って二切れお皿に取り分けて置いてみたが、特に消えたりはしなかった。

 流石は本物の忍者……任務中のつまみ食いはNGらしい。

 

 

 小一時間ほどでお昼休憩を終えた俺達は出発の支度を始めた。

 いつもマジックバッグで持ち運んでいる簡易トイレ(ダンジョン探索でも使うやつ)で小用を済ませ、絨毯を丸めて片付ける。

 

「さて、そろそろ行くとするかのう」

「ちょっとだけお昼寝もしたからにゃ、やる気十分にゃ!」

 

 俺達が忍者ハヤテ号に乗り込もうとしたその時のことだ。

 目の前のダンジョンゲートから、数人の人影が飛び出してきた。

 

 砂漠の民の戦士がひいふうみい……4人、それと厚手のローブを着込んだ褐色肌の中年の女性だ。

 顔に入った入れ墨を見る限り、砂漠の民の(まじな)い師に違いない。

 

「悪いのう、少し使わせて貰っておる。すぐに離れるから、気にせんでおくれ」

「旅人か。いや、その風体……貴様はハルト・ミズノか?」

 

 (まじな)い師の女の鋭い視線が俺を貫いた。

 

「よく分かったな。そうだ、俺がハルト・ミズノだ」

 

 飛行機に乗り込む直前だったので、俺はハーフリング化した状態だった。

 

「ミミル様、それは本当なのですか?」

「この男が……!」

 

 ミミルと呼ばれた(まじな)い師の背後に立っている戦士達が一斉にざわついた。

 中には、脇に差したカトラスの持ち手に手を添えている者までいる。

 おいおい、勘弁してくれよ。

 

「やめなさい、お前達の敵う相手ではない。ヒューマンと聞いていたが……恐るべき力を持つ魔導士(ウィザード)というのは、本当のようだね」

 

 なんか魔道の力で姿形を自由自在に変えられるようなヤバい魔導士(ウィザード)だと勘違いされているっぽい。

 美化される分には問題ないし、わざわざ訂正する必要はないか。

 

「キサマら、何者にゃ!」

「私はロンド族の(まじな)い師をしている、ミミル・ロンドだ。今しがた、ダンジョンコアに同化の法を刻んできたところさ」

 

 ダンジョンの延命を図るダンジョンマスターシステムとダンジョンの老化を早める同化の法は同居できない。

 一度ダンジョンコアの核に刻んだ術式を後から書き換えることは不可能だ。

 

 だからアルマが追放される原因となったダンジョンマスター宣言は、実際には意味のないものだった。

 アレはただ、国民のヘイトを引き受けてシルキーに権力を明け渡す為の狂言だ。

 

 次元間通信に使われているディメンションクラウドストレージ――通常はブラックボックスにダンジョンマスターシステムと一緒にパッケージ化されている――は別枠なので、テバールなどのダンジョンにはそちらだけがインストールされている。

 

 そのお陰で銀行や病院を建てることが可能になったわけだが……ダンジョン内部を監視できない以上、外部の探索者を国内に受け入れることができない。

 

 つまりルメー首長国連邦は、資金繰りの面で他国に大きく劣らざるを得ないのだ。

 俺がシルキーに呼び出されている理由も、それが深く関係していた。

 

「しきたりを変えるつもりはない、ということか」

「文化を失えば私達は砂漠の民ではなくなる。祖霊にも、贖罪(しょくざい)の民にも、申し訳が立たない。覚えておきなよ、それを忘れた時がカーン族の最後さ」

 

 ミミルは口角を上げて、不敵な笑みを浮かべた。

 

「その時がこないよう祈っているよ」

「よくよく、言い聞かせておくことだね」

 

 言いたいことは言えたようで、満足した様子のミミルは戦士を引き連れて階段から塔の中へと消えていった。

 

「国が一つに(まと)まろうと、争いの火種は尽きぬようじゃな」

「将来、アクアマリンに飛び火しないといいけどねー」

「そこはアデニウムの手腕に期待しよう。行こう、みんな」

 

 忍者ハヤテ号に乗り込んだ俺達はターレスのダンジョンの塔を後にしたのだった。

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