マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第276話 将来の夢

 あれからどれだけの時間が経っただろうか。

 空調完備のシルキーの部屋には窓一つなく、時計の針が動く音も聞こえない。

 

「ハルト先生っ……」

「まだ、ついてくるか……!」

 

 夕食も取らずに激しい運動を続けているせいで、空きっ腹がしくしくと痛む。

 (かすみ)を食うにしても、魔力の消費に回復が追い付かない。

 

「もっと、もっと私を愛して……」

 

 段々と疲労が積み重なってきた俺と違って、シルキーは未だに体力が有り余っている様子だ。

 彼女が蓄えた脂肪を燃やしてエネルギーに変えたのは失敗だったかもしれない。

 

 アルビノ整形巨乳美女とのまぐわいも、長く続けば段々と苦行に変わってくる。

 頼む、誰かこの怪物(サキュバス)を止めてくれ――。

 

「おはざーっす。シルキー様、朝だぜー!」

 

 俺の祈りが天に通じたのか、勢いよく扉が開いて侍女のビーバーが入室してきた。

 

「す、すげぇ。ハルトの兄ちゃん、まだやってるぜ」

 

 クーラーでも換気しきれていないむせ返るような男女の匂いに鼻をつまみながら、ビーバーはベッドの上でドッキングしている俺達を見て目を丸くした。

 

「んっ……ビーバー、ハルト様と呼びなさい……」

「りょーかい。朝食の時間だから、お楽しみも終わりにしてくれよな」

 

 非常に喜ばしいことに、時間切れのようである。

 

「そういうことらしい。悪いが、勝負は引き分けだ」

「うう、残念です……」

 

 外に出るにしても、まずは身を清めなければならない。

 俺はドッキングを解除すると、シルキーをお姫様だっこで抱き上げて部屋の奥にあるガラス張りのバスルームに向かった。

 

 空っぽの浴槽に魔道スキルで生み出したお湯を張って、スケベ椅子に座らせたシルキーの髪の毛を高そうなシャンプーを使って念入りに洗う。

 

「こいつはとんでもねぇぜ。急いで応援を呼んでこないと!」

 

 色々と飛び散ってヨゴれたベッドの状態を確認したであろうビーバーの声がバスルームの外から聞こえてくる。

 すいませんね、本当に。

 

「これが、私……?」

 

 髪を洗い終えたのでお湯でバシャーっと泡を流すと、目を開いたシルキーは鏡に映る自身の姿に驚きの声を上げた。

 あら不思議、たった一晩でふくよかな聖母が美しい聖女に生まれ変わった。

 

「妻には常に美しくあって欲しいと思うのは、贅沢なことか?」

 

 俺はこれまた高そうな石鹸を泡立てて、彼女のスレンダーなのに出るとこは出ている全身にこれでもかと白い泡を塗り付ける。

 

「ハルト先生……」

 

 おもむろに振り返ったシルキーは、全身に泡を(まと)ったまま俺に抱き着いてきた。

 ぬるぬるとした柔らかいおっぱいの感触が不覚にも俺の一部を元気にしてしまう。

 

「待て、今日はもう終わりだって」

「愛しています……」

 

 部屋に戻ってきたビーバーと侍女集団にレフェリーストップで止められるまで、俺は発情したシルキーにいいようにされてしまったのだった。

 

 

 それからしばらくして風呂から上がった俺は、ビーバーによってスク水—―その上には綺麗なドレス—―に着替えさせられたシルキーと一緒に食堂までやってきた。

 

 どんなお偉いさんであろうと屋敷の者と同じ食事を取るのが砂漠の民スタイルだ。

 支度にちょっと時間が掛かったので、アンバー達は先に朝食を取っていた。

 

「おはよー、ハルトくん」

「少し遅かったのう、心配したぞ」

「これは徹夜かにゃ、よくやるにゃ」

 

 一緒に食事を取っているのは、長い黒髪を背中に流した褐色肌の少女だ。

 シルキーをそのまま幼くしたような顔形に、砂漠の民特有の深緑の瞳。

 そして彼女の胸元にはハムマン型のミスリルの首飾りが提げられている。

 

「おはようございます。シルキーお母様、ハルトお父様」

 

 席から立ち上がった少女は、姿勢正しくぺこりと頭を下げた。

 

「おはよう。君がアヤノか、祖父に似ていい目をしている」

 

 アヤノ・カーンはあの一夜でエルフの秘薬によってデキた俺の娘だ。

 シャールに聞いた話だと、アデニウムから英才教育を受けて育ったアヤノはカーン族の次期族長と目されている才女らしい。

 

「顔も知らない祖父なんかよりも、母に似ていると言って欲しいものです」

「父親としては、似過ぎて貰っても困るからな。君は魔導士(ウィザード)養成塾に通っていると聞いているが――」

 

 今から400年前近く前にアデニウムが立ち上げた魔導士(ウィザード)養成塾は、このテバールで唯一高等教育を受けられる学校だ。

 ここの卒業生がルメー首長国連邦の行政府を回していると言っても過言ではない。

 

「—―実際のところ、どうなんだ?」

 

 俺は一番詳しそうなアイリスに目を向けた。

 多分、アヤノは昨日のうちにアンバー達と交流をしているだろう。

 

「高等学校卒業レベルってところかな。10歳にしてはまあまあだねー」

「まあまあ、か」

 

 神童であっても、魔道学院に行けるほどではないという意味だ。

 つまり、20過ぎればただの人になる可能性が高い。

 

「おはようございます、シルキー様!」

 

 俺達の話を(さえぎ)るようにシュバっと走ってきたおばちゃんの料理人が、豆の入ったスープをドンとテーブルの上に置いた。

 

「おはようございます、マリア。いつもありがとう」

「これがアタシの仕事ですからね! ほら、アンタもつっ立ってないで早く席に着きな!」

「あ、はい……」

 

 おばちゃんの圧に負けた俺は、席に着いて木のスプーンを手に取った。

 ふかしたルメー芋とスパイスの効いた豆のスープは砂漠の民のソウルフードだ。

 くぅー、空きっ腹に熱々の旨辛いスープが染み渡る。

 

「ところで、お母様のその姿は一体?」

 

 みんな気付いていてスルーしていたが、アヤノはシルキーのまるで聖女のように美しい姿に疑問を(てい)した。

 

「アヤノ、ハルト先生は上級天使に並ぶ医療スキルの腕を持つ名医なのですよ……」

「それは知っています。一体何をされたのか聞いているのです」

 

 アヤノの視線はシルキーの豊満な胸元に注がれていた。

 性に乱れに乱れまくっている母親の影響か、まだ10歳なのにマセてやがる。

 

「そんなに知りたいか?」

 

 俺は大皿に山のように盛られたふかしたルメー芋を手に取って二つに割った。

 

「はい。私は将来、医学を専攻したいと思っているんです」

「天使でもないのに奇特なことだ」

 

 ちょっと冷めていたので、断面を空中に浮かべた火の球で軽く(あぶ)る。

 

「それをお父様が言いますか」

「命を預かる仕事は楽じゃない。俺だって、きっかけがなければ医師免許なんて取らなかったさ」

 

 こんくらいかな。

 俺は火の球を消して、少し断面が焦げたルメー芋にかぶり付いた。

 うまし、ルメー芋、うまし。

 

「……お父様は、この国で暮らすつもりはないのですか?」

「俺の暮らすべき場所はテバールではなくアクアマリンだ」

「ハルト先生、やはり気持ちは変わりませんか……」

「勝負は引き分けだろう。次はない」

 

 この国は国土と人口に対して医者の数が圧倒的に足りない。

 なにせ国内に13もの迷宮都市があるわけだし、ギルド本部がそれぞれの銀行と病院に派遣した天使も必要最小限レベルだ。

 

 そもそも砂漠の民の所得水準が先進国の域に達しておらず十分な医療費を支払えないから、医者を増やしたところで意味がないという。

 ただでさえ外貨を稼ぐ手段も乏しい現状、国が負担したら財政破綻待ったなしだ。

 

 仮にシルキーの望みを叶えたとしよう。

 確かにこの街で俺が医者として暮らせば、多少はマシになるだろう。

 

 砂漠の民の産婆に取り上げられ、しきたりに従いそのまま()み子としてダンジョンに還されるような可哀想な赤子の命を救うことも可能になる。

 

 でも、それも所詮は一人の力に過ぎない。

 テバールだけを優遇し続ければ、必ずどこかで不満は噴出する。

 それはこの国の未来にとっても良くないことだ。

 

「まぁ、アヤノが医者になりたいというのなら止める理由もない。その気があるならティアラキングダムかアモロ共和国の大学に留学して、初級医師資格の取得を目指すといい」

 

 天使の教育センターは現世の地獄だからな。

 ただの少女が予備知識なしで突っ込んだらPTSDになりかねないような場所だ。

 

「今度、アデニウムと相談してみます」

「決まったら連絡してくれ。学費くらいは俺が出そう」

「いいのですか?」

「娘の将来の為だ、いくらでも出すさ。……頼むから、悪いことには使うなよ?」

「誓って、祖父のようにはなりません」

「それならいい。医者の道は険しく長い、毎日コツコツ頑張りなさい」

 

 短い朝食の後、魔導士(ウィザード)養成塾に登校するアヤノの脇には俺のお下がりの分厚い医学書が抱えられていた。

 

 彼女がこれからどのような人生を送るかはまだ分からない。

 どこかで挫折を味わうかもしれないし、あるいは別の道を見つけるかもしれない。

 

 天秤がどちらに傾くにせよ、俺は娘がより良い将来を掴むことができればそれでいいと思っている。

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