マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第282話 ミスリル工房ジャンガリア

 お引越しの翌日より、専業探索者を引退した俺達の新しい生活が始まった。

 

 まずアンバーだが、彼女はいつも通りアクアマ出版で「わしとこん棒(リターンズ)」の原稿作業をしている。

 

 今回の旅でネタが結構溜まっているみたいで、ハイランド編、前線都市編、西方諸国編、そして完結作となるデススター決戦編(予定)を執筆するつもりのようだ。

 執筆に使える時間は一杯あるから、前線都市編以降はゆっくり進めていくらしい。

 

 アンバーと一緒に顔を見せた時に編集長のタヌヨシに「わしとこん棒」コミカライズ企画について持ち掛けてみたけど、彼はかなり乗り気のようだった。

 またぞろやらかさないか心配だが、しっかり見張っていれば多分大丈夫だと思う。

 

 今はアンバーの出資で小さな漫画製作プロダクションを立ち上げて、金欠な芸術肌のハーフリングやドワーフに短編漫画を描かせて技術の蓄積をしているところだ。

 

 コネのあるアモロ新聞社の新聞に4コマ漫画を連載する企画も進んでいるし、滑り出しは順調と言っていいだろう。

 

 

 次にミュールについて話そう。

 彼女はフライス航空に社員として正式に入社した。

 職種はエンジニア兼テストパイロットだ。

 

 上級探索者のミュールは高レベルかつ器用さがBとハーフリングの平均値に近い。

 例え試作飛行機が高高度で空中分解を引き起こそうとも、絶対に生還できるミュールはテストパイロットに最適だ。

 

 貯蓄や給与を忍者ハヤテ号の改造や燃料代に費やしているのはどうかと思うが、家計は主人である俺の懐から出ているから気にしないことにしている。

 ハーフリングオーブも結局俺のものになったわけだし、おあいこだ。

 

 

 アイリスについて。

 彼女は宣言通り3日で工房の準備を終えた後、デスマウンテン近郊に拠点を構えた魔道学院の調査団に合流した。

 

 20日後に帰ってきた彼女が言うには、DCS(器用さ補正システム)装置の建造計画は魔杖(まじょう)FCS(射撃統制システム)の開発者であるバルサム教授が主導していたのだという。

 

 アイリスはバルサム教授から「若造が、私の手柄を奪いおって」と散々ちくちく言葉を貰いながら、彼の作ろうとしていた超巨大DCS装置の問題点をすべて修正。

 

 そしてテンションが天元突破している天文学科の教授や学生と交流を深めながら、デススターを実質的に支配している『(マザー)』と対話していくらかの情報を引き出した。

 

 技術体系に違いがあり過ぎて彼らの持つ技術を再現するのは不可能のようだが、『(マザー)』を通じてこの惑星上を周回している先史文明の人工衛星からデータを抜き出すことに成功した。

 

 アルカ文明とも異なる未知の言語ということもあり解析には長い時間を要するようだが、将来的に何らかの技術的ブレイクスルーに繋がるのではないかと期待されているようだ。

 

 

 さて、最後は俺の仕事だ。

 俺はみんながそれぞれやりたいことをやっている間、ミスリル製品を制作販売するアクセサリーショップの開店準備に追われていた。

 

 必要になる開業手続きについてはアイリスがちゃちゃっとやってくれたので、俺は職人街を巡ってミスリルを組み込む装飾品の仕入れの手配をしたり、販売用のミスリルキューブの製造などを行っていた。

 

 俺の自然回復魔力だけだと量産が効かないので、下地となる素材は全自動ミスリル製造機の設定を弄って魔石から生産したマンガン+24プレートを使うことにした。

 これなら原価はマンガン+24が10gに対して1万メルほどで済む。

 

 ここに俺の消費魔力量に比例した技術料などを上乗せして、実際の販売価格はミスリル10g3万メルからスタートする。

 20gなら6万メル、30gなら9万メル、上限の40gなら12万メルといった感じだな。

 

 様々な形をしたシンプルデザインのミスリルキューブを装飾品に組み込んでもいいし、オーダーメイド――魔力消費の関係上、後日引き渡し――で総ミスリルのアクセサリーを制作することも可能だ。

 

 店の屋号はハムカー御殿(ごてん)のデザイン元になったジャイアントハムマンがジャンガリアンハムスターっぽい見た目をしているところから採って「ミスリル工房ジャンガリア」にした。

 

 この店は将来的に子供が引き継ぐことも考えて、魔道具工房として登録してある。

 今のところ魔道具の販売者資格を持つのはアイリスだけだから、商品として魔道具を置いたりはしないけどな。

 

 魔道具を売りたかったら普通に資格持ちのバイトを雇えばいいんだけど、魔道具職人(クラフター)組合の受付の人に新人魔道具職人(クラフター)の間で喧嘩になるからやめた方がいいと忠告されたから諦めた。

 

 言われてみれば、魔道学院の教授に師事できるなんて滅多にない機会だ。

 それでいてお給料まで貰えるんだから、争いになるのも頷ける。

 

 できないのは仕方ないので、アイリスの作る魔道具を求めてやってきた一見さんのお客には姉妹店の魔道具工房バタフライを紹介することに決定したのだった。

 

 

 1ヵ月の準備期間を経て正式オープンした「ミスリル工房ジャンガリア」。

 アクアマリン魔道具職人(クラフター)組合を通じて宣伝をしたものの、店は開店からものの半月足らずで閑古鳥が鳴くようになっていた。

 

「今日も暇だなぁ……」

 

 俺はカウンターの前で安楽椅子に腰掛け、のんびりと医学書や料理本を読む毎日を送っている。

 

 基本的には金のある魔導士(ウィザード)の探索者を相手にする商売なので、アクアマリンの初期需要を満たした今は1日に2、3人も来店したら多い方だ。

 

 ミスリルアクセサリーはショーケースに入れて展示するような品ではないから、店内の棚に並んでいるのは俺が作ったハムマンフィギュアくらいしかない。

 でも冷やかしでやってきた客が話の種に買っていくので、結構売れていたりする。

 

「ハルトくん、午後は病院で仕事があるって言ってなかった?」

 

 暇そうにしている俺と違って、働き者のアイリスは作業台に向かいお得意様に依頼されたこん棒型魔杖(まじょう)の制作をしていた。

 ゴブリン界にその名を(とどろ)かせたこん棒マイスターアイリス、復活の時である。

 

「そうなんだけどさ。できる限り魔力を温存しておかないといけないのがな」

 

 俺はアクアマリン総合病院の現院長、中級天使コカビエルにアレコレ理由を付けて呼び出されては、再生スキル必須の面倒な大手術をさせられていた。

 もう探索者は引退したってのに、指名クエストを出されては断るのも一苦労だ。

 

「お医者さんは大変だねー」

「まぁ、腕が鈍るよりはマシかもしれないな」

 

 来年の大仕事に備えて少しでも錬金術スキルの熟練度を上げる必要があるんだけど、ぶっちゃけもう上限に到達している感が半端ない。

 

 世界樹の雫を使ってミスリルのこん棒を作った時に能力限界の壁を破ったのか、40g程度なら鼻歌を歌いながら昇華できてしまうくらいだ。

 

 デススターの生態を聞いた分だと維持を続ける方が大事っぽいし、そっち方面でのアプローチを考えるかな……。

 うーんと頭を悩ませていると、カランカランと扉の鈴が鳴って来客を知らせた。

 

「いらっしゃいませ――って、アンバーか」

 

 近所の産婦人科に行っていたアンバーが帰ってきただけだった。

 

「なんじゃ、残念そうにして。嫁が帰ってきたならもっと嬉しそうにせんかい」

「あー……まぁ、そうだね」

 

 安楽椅子から立ち上がった俺は、カウンターの向こうから回り込んできたアンバーをぎゅっと抱き締めた。

 

「先生はどうだって?」

「別段、問題はないようじゃ。お主の見立て通りじゃな」

「そりゃあそうでしょうとも」

 

 アンバーは現在、妊娠5週目。

 避妊薬を飲むのをやめたので当然っちゃ当然だが1発で当たるとは嬉しい悲鳴だ。

 

「わたしも早く子供が欲しいなー」

 

 長命種のエルフは生理周期が長いので、タイミングはもうちょっと先になる。

 女の子しか産まれないけど、もし外れた時はエルフの秘薬に頼るつもりだ。

 

 医療スキルで排卵を(うなが)すことも可能ではあるが、多胎児になるリスクがあるので極力避けたいところである。

 なお、獣人のミュールは発情期待ちだ。

 

「そう思うのなら、デススターの調査は諦めたらどうじゃ。もうお主の役目は終わったのじゃろう」

 

 デススターの周囲には強力な磁気嵐が吹き荒れている。

 他人種でも明確に影響を受けるほどの、天使のサークレットと魔力障壁なしでは命を落としかねない危険な場所に妊婦が行けばどうなるかは想像に難しくない。

 

「それでも、わたしは最後までハルトくんに付いていたいから……」

「アイリス……」

 

 万が一に備えて子作りを優先するアンバーと、俺のサポートを優先するアイリス。

 優柔不断と言われるかもしれないが、俺はどちらの考えも支持している。

 

 そもそも、死ぬつもりなんて毛頭ない。

 最上級天使のアザゼルだっているし、なんだかんだで上手く行くだろう。

 

 俺はそう信じることで心の中の不安に蓋をして、退屈な日々を平穏に過ごしているのだった。

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