マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
年が明けた1月の半ば、俺は一人アクアマジャイアントランドに足を運んでいた。
今日は半月に1度の休園日だが、完成した映画館の公開に先駆けて関係者やメディアを集めてハムカーTHEMOVIEの試写会をするのだ。
俺はハムカー社によく顔を出しているから、ハムカーのフェルト人形を使ったストップモーションアニメの制作風景は何度も見学させて貰っていた。
それでも完成品を見るのは今日が初めてなので、結構ワクワクしている。
入場口で係員に招待券を見せた俺は、アトラクションの整備に励む従業員の姿がポツポツと見えるだだっ広い園内を歩いて目的地の映画館に向かった。
順路には案内板もあるので、うっかり迷うことはないだろう。
やってきた「PUIPUI!ハムカーシネマ」の外観はかなり子供向けを意識したファンシーなものになっていた。
まぁ、子供向けのアトラクション施設なのだから当然なのだが。
映画館の入口ではアクアマジャイアントランドの園長をしているジャイアントのガラテア、ハムカー社の社長でアラクネのクードル、そして「PUIPUIハムカー」の脚本家であるハーフリングのソルティ氏がやってきた関係者に挨拶回りをしていた。
「ハルトさん、おはようございます」
「おはよう。なんだ、思ったよりも盛況みたいじゃないか」
クードルは映画館の外観をパシャパシャと撮影している記者達に目を向けた。
「受け入れて貰えるか、不安半分なところはありますけどね」
「フンッ、俺の傑作を評価しない記者は出禁にしてやる!」
ソルティ氏は一見ご機嫌ナナメに見えるけど、彼の足先はトントンと揺れている。
承認欲求の塊である芸術家の端くれとして、内心の期待が隠せていないようだ。
「それにしても、ハルトさん。ハムカーは本当に大きなコンテンツになりましたね」
初期も初期の頃からハムカーのIP創出に協力してくれていたガラテアは感慨深そうに園内を見渡している。
絵本「PUIPUIハムカー」が生まれてから13年、アクアマジャイアントランドはハムカーランドと呼ばれるくらいにはハムカー色に染まっていた。
マスコットキャラクターのジャイアントくんの影は薄くなっていく一方である。
「みんながハムカーのことを好きになってくれて、盛り立てようと懸命に努力してくれたおかげだな」
ただの色物絵本が、今や知らぬ者はいない大人気キャラクターだ。
フリー素材のライザは殿堂入りとしても、ハムカーグッズはグンシモールのマスコットキャラクター、ミノリューに続いて世界第2位の売り上げを誇っていた。
当然ながらそのロイヤリティは俺ではなく商標権を持つエクレアの懐に入る。
つまるところ、アクアマリン市の財政は
そりゃあ、莫大な投資が必要な魔道列車の路線も通せるはずである。
「おやおや、皆さんお揃いのようですね。ワタシにも一枚、撮らせて貰えます?」
俺達が談笑していると、ピンクの羽毛をしたハーピィの女がやってきた。
彼女の額には金属製のサークレットが嵌っている。
バードマンの必須装備となりつつある、電波障害を防ぐマジックアイテムだ。
「誰かと思えばオーブリーじゃん。何しにきたんだ」
「何って、取材ですよ取材。もちろんちゃんと招待されてますよ?」
オーブリーはドヤ顔で俺に名刺を差し出した。
名刺に印刷されたアモロ新聞社のロゴを見るに、どうやら復職に成功したらしい。
万年金欠女の懐事情が解消されたのは非常に喜ばしいことだが、プライベート生活については一切聞かないことにする。
男ができたらドヤ顔で俺に自慢するに決まっているからである……。
「まぁいいか。それで、写真だったな」
「一面に載せますからね、一番いい構図でお願いしますよ!」
俺、ガラテア、クードル、ソルティ氏の4人は「PUIPUI!ハムカーシネマ」の前に並び、集まってきた記者の要求に応じてフラッシュを浴びる仕事に移ったのだった。
さて、写真撮影が一通り終わったらいよいよ試写会の時間だ。
招待を受けてやってきた関係者や記者がスタッフに誘導されて映画館に入っていくのを見届けてから、最後に入館する。
中の売店で試供品としてジャイアントポップコーン(一粒が大人の頭くらいのサイズ)とソフトドリンクを配っていたので、俺も一つ貰ってみた。
順路を歩きながら一口
ううむ、たっぷり掛かったキャラメルが甘々だ。
やってきたシアタールームは本格的な映画館仕様で、座席は50席ほどと少な目。
ただし全てがジャイアントサイズになっている為、実際はその5倍くらいの観客が一度に入れそうだった。
俺達が一番後ろの席に腰を落ち着けるとすぐにブザーが鳴り、照明が落とされて室内が薄暗くなった。
「撮影時のフラッシュはお控えください」といったスタッフの案内アナウンスの後、「ハムカーTHEMOVIE」の放映は始まった。
映像として動いていると、より元ネタのモ〇カーに近付いた感じがする。
鳴き声や身振りで感情表現をするのは一緒だが、ナレーションの解説で物語が進行するのが大きな違いだろうか。
オープニングはシンプルでスタッフロールも流れなかったが、遊園地のアトラクションとしては上出来な部類だと思う。
少なくとも、観客のリアクションを見る分には評判は良さそうだ。
子供向けにしてはウェットの効いたネタが細部に仕込まれた、クスリと笑える20分の短編映画は5分のインターバルを置いて3本連続で放映された。
最後の映像が終わって照明が点くと、シアタールームには拍手の輪が広がった。
試写会が終わって招待客が感想を口々に話しながら帰っていく中、俺達のところに話を聞きにやってくる人が結構いた。
多くは取材が目的の記者で、オーブリーはその筆頭である。
「いやあ、凄い面白いじゃあないですか。期待の10倍の出来ですよ!」
「フンッ、当然だろう! 俺はこの映画で世界を獲るんだからな!」
集まってきた記者から
「子供騙しの駄作を作っただけで調子に乗るとは、呑気なものだ……」
「!?」
群衆の向こう側から、グラサンを掛けたハーフリングの男がやってきた。
ミノリュー柄のスーツを着たその男は、ポケットに両腕を突っ込んでスタイリッシュなジョジョ立ちをしている。
「貴様、シュガー!」
ソルティ氏の声に怒りの色が混じった。
ピン〇ーマニア……もとい、ミノリューマニアと何やら因縁がありそうなご様子。
「誰?」
俺が頭に疑問符を浮かべていると、隣にいたクードルが解説してくれた。
「あの人はグンシリテール株式会社の広報宣伝部長のシュガーさんです。ミノリューのデザイナーをされている方、と言えば分かるでしょうか」
マニアどころか生みの親だった。
「なるほどな……」
周囲に配慮して座席に座ったままのガラテアも補足するように言葉を繋いだ。
「お二人は同じラブオデッサ国立芸術大学の出身と聞いていますが、犬猿の仲だという噂は本当のようですね」
「これは面白くなってきましたねぇ」
剣呑な空気に周りの人間が距離を取る中、ソルティ氏とシュガー氏は互いに向かい合った。
「てめぇ、俺の作品にケチを付けるつもりか?」
「他に表現する言葉があるなら知りたいくらいだ……」
「一発屋のデザイナーが、映画を撮ったこともない癖に偉そうにしやがって!」
ハムカーが世に出る前は弱小出版社で売れたり売れなかったりする絵本作家として活動していた一発屋の男が自分のことを棚に上げて文句を言った。
「それが甘いと言っている。映画はお前だけの専売特許ではない……」
ポケットから右手を引っこ抜いたシュガー氏は、虚空から映画フィルムの入ったケースを取り出した。
「何ィ!?」
「全世界の迷宮都市にショッピングモールを展開している我が社が映画事業に乗り出す。この意味が分かるか……?」
グラサンを掛けていても分かるほどのドヤ顔をしたシュガー氏は、見せびらかすようにフリフリとフィルムケースを振った。
「最近グンシモールの改装しているなーと思ったら、映画館を作っていたのか」
「どんな作品を上映するつもりなのでしょうか。気になりますね」
「これはスクープですよ、スクープ!」
その話を聞いたところで、危機感を覚える人間はソルティ氏以外にはいなかった。
そもそもジャイアント・ホールディングスの本業は人材派遣業だし、この映画館もアクアマジャイアントランドのアトラクションの一つに過ぎないのだ。
「くっ、それがどうしたってんだ!」
ソルティ氏は悔しそうに歯噛みしているが、クリエイターの一人としてライバル(恐らく)のシュガー氏が撮った映画がどんなものか気になっているようだ。
「見たいか……?」
「いいだろう、散々に
「フッ、それでこそだ……」
ガラテアに呼び出されてやってきた映画館スタッフが、預かったフィルムケースを持って映写機の置かれている機材室に向かった。
どうやら試写会の延長戦が始まるようだ。
「どんな作品なんでしょうね、ハルトさん」
「さて、な……」
座席に腰掛けて食べ残しのジャイアントポップコーンを
薄暗い闇の中、スクリーンに映った映像に俺達は度肝を抜かれた。
「こ、これは……!」
ピン〇ーそっくりな見た目をしたグンシモールのマスコットキャラクター、ミノリューを主人公にしたクレイアニメだ。
作品タイトルは「ミノリューのパンケーキ」。
南極に住むペンギンのミノリューが家族の作ったフライパンのパンケーキを上手いことひっくり返そうとするも散々な失敗を繰り返すという、どこかで見た覚えのあるようなストーリーだった。
先ほどのハムカーと比べても
……ただし、アテレコが適当で担当声優の声がやたらうるさいことを除けばだが。
ニコニコに投稿されたMAD動画じゃないんだぞ。
こんなん子供が泣いて逃げ出すわ。
大言壮語吐いてどんな凄い映画が飛び出すのかと期待していた記者達も、これには絶句して言葉が出ないようだ。
俺は気になって一つ隣のジャイアントサイズの座席にちょこんと腰掛けているシュガー氏を見てみたが、スクリーンの反射光で色づいた彼の頬には冷や汗が
「誰だ、音源を差し替えたのは……」
「助けてぇ!!!」とミノリューが命乞いをする声が爆音で響き渡る中、シュガー氏がそう小さく
10分ほどでショートアニメの放映は終わり、シアタールームの照明が点いた。
石のように固まったまま動かないシュガー氏に、ソルティ氏が声を掛ける。
「言い訳を聞こう」
「フッ、これはただのデモンストレーションに過ぎない……」
シュガー氏はにやりと不敵な笑みを浮かべた。
それでごまかせるつもりなのだろうか。
「まさか続きは劇場で、ということか?」
ソルティ氏は苦々しげな表情を浮かべた。
ごまかせたらしい。
「その通りだ。記者の君達も、この『ミノリューTHEMOVIE』が劇場公開される日を楽しみに待っているといい……」
スタイリッシュにジャイアントサイズの座席から降り立ったシュガー氏はそれだけ言い残すと、クールにシアタールームから去っていったのだった。