マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第286話 狂気の食卓

 きっかり3時間が経過し、ついに世界樹の雫の効力が切れた。

 俺はひゅうひゅうと掠れるような呼吸をしながら、ぐったりと玉座の背もたれにもたれかかる。

 

 限界を越えて無我の境地に至りながら作り続けたミスリルは、まるで地上に現れたブルームーンのように巨大な塊に成長していた。

 

「まだ、終わりじゃない……」

 

 俺に課せられているミッションは支配下のミスリルが不壊性質を発揮しないよう常に管理しつつ、デススターに完食して貰うことだ。

 

 探索者ギルドが1兆メルもの資金をつぎ込んでこの超巨大DCS(器用さ補正システム)装置を作ったのも、全ては強力な磁気嵐にギリギリ巻き込まれない安全な遠方から魔力の繋がりを維持し続ける為なのである。

 

 ミスリルの塊を最も作り慣れたハムマンの形に変形させた俺は、それを残った魔力をつぎ込んで作った100mくらいはあるオシャンティーな石のお皿に乗せた。

 

「ミスリル職人ハルト・ミズノのこだわり人工ミスリルハムマン仕立て~チューブ荒野を吹き抜ける春のそよ風を添えて~、どうぞ、お召し上がりください!」

 

 俺がそう大きな声で宣言すると、黒光りするピラミッドの上空でふよふよと浮かびこちらをじーっと見つめていた『(マザー)』がすーっとお皿の下に移動し、無数の触手で下から支えるようにお皿を持ってデススターの方へ飛んでいった。

 

 様子を観察していると、ゴゴゴゴゴ……という地揺れとともに銀色のこんぺい糖—―デススターのトゲの付け根の部分の部分に大きな穴が開いた。

 どうやらあそこから内に入れるらしい。

 

 俺の手料理を持った『(マザー)』が穴の中に消えると、再びゴゴゴゴゴ……という地揺れとともに大きな穴が閉じていった。

 俺は目を閉じると、お皿に仕込んでおいた念動スキルの魔力に意識を集中する。

 

 ミスリルの放つ青白い魔力光に明るく照らされたデススターの内部は、球形をした広い空間になっていた。

 その内壁には光沢のある色とりどりの金属の球体が貼り付いている。

 

 生きた流星として星々を渡り歩く宇宙の旅人、デススターの作った保存食だ。

 球体の中には、ギガンティックタイタンを10体ほど(まと)めてプレス加工した感じの見た目をした黄金球も存在していた。

 

 『(マザー)』はそれらには目もくれずに、真っ直ぐ空間の中心部に向かっていく。

 ようやく本体のお目見えか。

 

「どうハルトくん、見える?」

「ああ。だが、これは……」

 

 そこには漆黒の闇が存在していた。

 デススターが『(マザー)』と似たような姿をしていて『(マザー)』10倍以上のサイズを持っているということだけが、内殻に伸びた影から見て取れる。

 

 宇宙空間を構成するダークマターに溶け込むような保護色を持つ、まるでベンタブラックのように光を吸収する特性を持った外皮。

 それはこの恐るべき星食いの怪物にも天敵が存在することの証明でもあった。

 

『’#!”(%%%##』

 

 お皿を頭上に掲げ、(かしず)くように頭を垂れた『(マザー)』。

 デススターからしゅるしゅると伸びた漆黒の触手が巻き付いたミスリルのハムマン像は、ゆっくりと闇の中に埋もれて消えた。

 

 宇宙怪獣の冒涜的な構造をした体内に取り込まれたミスリルのハムマンフィギュアが飴玉のようにべろんべろんに舐め回される感覚が、魔力の繋がりから俺の脳みそに強烈にフィードバックされる。

 

 1D100の正気度ロール……失敗。

 一度に大量のSAN値を失った俺は発狂した。

 

「あばばばば……」

 

 唐突にハーフリングの本能に目覚めた俺は走り出そうとしたが、玉座に()い留めている拘束具に引っ掛かって立ち上がることすらできなかった。

 

「なんだっ、この、邪魔だ!」

 

 いきなり暴れ出した俺を、必死にアイリスが押さえつける。

 

「だめっ、ハルトくん!」

「正気に戻り(たま)え」

 

 俺の頭を挟み込むようにガシッと掴んだアザゼルの両手から放たれた医療スキルの魔力によって失ったSAN値が回復し、俺の意識は現実に引き戻された。

 

「危ない危ない。全部台無しになるところだった」

 

 すぐそばに精神分析の使えるお医者さんがいてくれてよかった!

 

「ハルトくんがあんなことになっちゃうなんて……一体、何を見てしまったの?」

「見てしまったというか、現在進行形で体感しているというか……」

 

 石の流体でデススター(本体)に舐め回されるハムマンフィギュアの様子を再現すると、アイリスはげんなりとした表情を浮かべた。

 

「アザゼルさんがハルトくんにお願いしたのって、そういうこと?」

 

 アイリスの視線を受けたアザゼルはこくりと頷いて肯定した。

 

「この場の誰かが狂ってしまっても私ならばすぐに治療できるが、逆に私を治療できる者は他にいない。適材適所、ということだ」

 

 とはいえ何度も暴れられると困るからこれ以上余計なことをしないように、としっかり忠告された俺は、ぶり返してきた疲労感で全身にずっしりとした重みを感じながらがっくりとうなだれた。

 

「以後、気を付けます……」

 

 支配下のミスリルから意識を逸らすよう(つと)めたおかげで、今の状況にも少しずつ慣れてきた。

 

 要は、気の持ちようだ。

 『(マザー)』だって気を遣って慣れないぱふぱふをしてくれたんだ。

 

 頭の中でデススターを女体化させて丸呑みプレイだと思い込めば、気も紛れるに違いない。

 きっと、いや確実にしばらくの間は悪夢を見続けることになるだろうけど……。

 

「うおお、家族の為に頑張るぞー!」

 

 ピラミッドの屋上に日除け用テントの設営を始めたエルフ研究員達を横目にギラギラと照り付ける真っ赤な太陽を見上げて吠えた俺は、アイリスにあーんして貰ったエナジーバーをもぐもぐしながらこれからの軟禁生活に思いを()せたのだった。

 

 

 既にお分かりだとは思うが、デススターの食事は非常にスローペースだ。

 ただしそれは『(マザー)』という名の外付けの良心回路で抑えられているだけで、繁殖の為に星の核に侵入して暴食の限りを尽くすのが本来の彼らの姿らしい。

 

 3人の審問官が不定の狂気に陥るという犠牲を払いながらもデススターの記憶を読んで調査したアザゼルの話では、デススターを恐れた原住民が外殻の「リング」を破壊して制御が外れた事例が過去にも複数に渡って確認されているようだ。

 

 その時は『(マザー)』に管理されている近くの仲間が制御の外れたデススターやその子供に新たな「リング」を嵌めに行くのだというが……惑星を滅ぼされた原住民にとっては災難極まりない存在だ。

 

 ところで、ここで一つ思い出して欲しいことがある。

 現在デススターが埋まっているデスマウンテンの地下には、かつてポゴスタック帝国の帝都とそれを支えるダンジョンが存在していたはずだ。

 

 つまりそこには、新しいダンジョンが口を開いている可能性が高い。

 もしもダンジョンゲートが長期間塞がれることで発生するダンジョンアポカリプスによる大爆発が起こったら、デススターはどうなってしまうだろうか。

 

 星の核を凝縮して作られた強固な外殻はちょっとやそっとの衝撃では壊れない。

 「リング」もまた同様に、非常に頑丈に作られている。

 アザゼルの試算でも、億が一の可能性と断じられるほどだ。

 

 それでもデスマウンテンが吹き飛べばアクアマリンに被害が及ぶ可能性は大きい。

 どれだけコミュニケーションを取ったところで、『(マザー)』はデススターを別の場所に移動させてはくれなかった。

 

 だから探索者ギルドはデススターの退去の為に全力を尽くしたし、ネフライト王国も研究員の派遣に加えて希少な世界樹の雫を提供するという形でそれに協力した。

 

 ただでさえ東大陸のカースダンジョンという片付けなければならない問題があるというのに、これ以上の負債を抱えていられないのだ。

 

 

 俺は大切なアクアマリンを守る為、ひいてはこの世界を救う為に人柱となった。

 ピラミッドの頂点に存在する玉座に拘束具で縛り付けられ君臨する姿はまさしく人身御供(ひとみごくう)の如し。

 

 不幸中の幸いと言うべきか、アザゼルが24時間体制で体調を管理してくれるおかげで、俺は風呂トイレ問題やエコノミークラス症候群を気にせず座りっぱなしでいられる。

 

 ショタボーイ形態といえど、流石に便座にフルチンじゃ恰好がつかないからな。

 ネタじゃなく実際、当初に計画されていた案の一つだったそうだし……中止になってくれて本当によかった。

 

 さて、こうして始まった長い長い人柱生活。

 俺が玉座にちょこんと座り何をしていたかと言うと、普通にミスリル職人としてリモートワークに励んでいた。

 

 ミスリルアクセサリーを求めて遠方からアクアマリンにやってきたお客さんに対して大事な指名クエスト中だから売れません、ごめんなさいなんて言えないからだ。

 魔力も暇も持て余していたし、やらない理由は一つもなかった。

 

 アイリスは俺の世話をしながらアザゼルと共同研究をするのに忙しかったから、アンバー (たまにアザミ)に店番をお願いして、定期的にミュールに注文の品や物資の運搬などを行って貰った。

 

 デスマウンテンの付近は禁足地に指定されているから本当に最低限の交流しかできなかったけど、子供が産まれてからはアンバーも俺の顔を見にやってきてくれたから、俺はスケベ行為禁止の苦しみにも耐え続けることができた。

 

 実際は何度も性欲に負けそうになったところをアザゼルの医療スキルで強制的に賢者モードにされていたのだが、格好悪いので誰にも言わず黙っておくべきだろう。

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