マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第288話 エピローグ

 あれから1ヵ月が過ぎた8月の中旬、俺はハムカー御殿(ごてん)の裏庭でホームパーティーを開催していた。

 

 本当は去年の夏にやりたかったんだけど、デススター事件で先延ばしになっていたんだよね。

 招きたかった遠方の知り合いは家庭持ちが多いから夏休みに間に合って良かった。

 

 別の大陸に住んでいるメリーベルやギース、ミラといった友人、それとシルキーやシジオウみたいなお偉いさんはきていないが、それでも結構な面子が揃ったと思う。

 

 例えばノル王家のプライベートジェットを使ってお忍びでやってきたサクレアとカミエシを加えたファルコ一家とか、裏庭の4分の1を占めるプールで水に浸かって(くつろ)いでいるエクレアとか。

 

「やっぱり、ビールは外で飲むのが一番ねー。……あ、もうなくなっちゃった。ハルトー、お代わりちょうだーい」

 

 留守にしている間に、勝手に海外の豪邸にありそうなプールが作られていたんだ。

 エクレアは文字通りアクアマリンの生命線なんだから、探索者ギルドから車で10分の距離にあるハムカー御殿(ごてん)を別荘代わりにするのはやめて欲しい。

 

「分かった分かった。ちょっと待ってろよ」

 

 俺はプールサイドのテーブルの上に置かれたでかいビールサーバーに向かい、横に積み上げられていた新品のビールジョッキを手に取って魔道スキルで冷やした。

 

 すぐ隣ではエクレアが呼んだ寿司職人のバンチョ、そしてサワムラ氏がカウンター席に座るマーメイド――うちの5人娘と守り人2人—―に料理の腕を振るっている。

 

「それ、要らないならアタシが貰うわ」

「あー! 好きだから取っておいたのに!」

「最初に食べないアルちゃんが悪いのよ。ん-、美味しー」

 

 ジョッキにビールを注ぎながらチラっと横目に見ると、食べていた寿司を隣の席のヘラに横取りされたアルテミスがぷんすか怒っていた。

 水と油のような性格をした二人が揃うと、いつもこんな状況が生まれるんだよな。

 

「二人とも、そう喧嘩するな。お代わりはいくらでもあるんだからな」

 

 親父さんが超でかい大王マグロの頭をバーナーで(あぶ)っている横でバンチョの包丁が青く光り、瞬く間に握られた新たな創作寿司がアルテミスの皿に載った。

 

「はいよ、お待ちどうさん」

「ありがとー!」

「ちぇっ、つまんないのー」

 

 まぁ、ここではこれ以上の問題が起こることはなかろう。

 エクレアにビールを届けた俺は、他の人の様子を見に行くことにした。

 

 今回のホームパーティーの主催者として朝からひっきりなしにやってくる来客の応対をしていたから大体のことは分かっているけど、一応ね。

 そうだな、まずはバーベキューをしているモモちゃん達のところに行くか。

 

「美味いにゃああああ!」

 

 するとそこでは、ワーキャットやミノタウロス、ハーフリングなんかの子供達に紛れて、ミュールがバクバク串に刺さった肉を頬張っていた。

 

「良かったな、ミュール……」

 

 やってきた俺に気付いたモモちゃんが、こんがり焼けたいい匂いのする肉と野菜の刺さった串を差し出した。

 

「朝から大変だったでしょ。ハルトお兄ちゃんも食べて食べて」

「ありがとう、頂くよ」

 

 口元を汚さないように注意しながら(かじ)るが、これがまた美味い……。

 空きっ腹にドライブインユダ特製、ジンギスカンのタレの味が染み渡るぜ。

 

「ねえねえ、ハーフリングのお兄ちゃんはどうして髪の毛がないの?」

「そうだよ、おかしいよー!」

「……ゃ……」

 

 俺の貸したハーフリングオーブでハーフリング化したギリアムくんが巨乳ミノタウロス少女(カウリンの娘のカロリン)とノール・ショール兄妹に絡まれている。

 

「それは、僕がジャイアントだからだよ……」

「うっそだー、本当なら証拠見せてよ、証拠!」

「ここだと危ないから、後でね……」

「お兄ちゃん、指切りで約束してくれる?」

「もちろんだよ……」

 

 指切りげんまんをして満足したのか、3人は裏庭の端っこにあるテニスコートでテニスを始めたカミエシ達を観に行った。

 あそこは防護結界装置があるミュール専用の練習場だ。

 

 俺もちょっと気になったので、タケシくん(恋の進展はちっとも進んでいない)からジンギスカン串をもう1本貰ってその後ろをついていく。

 

「このような地でカミエシ様と出会えるなんて、まさしく運命ですわっ! 今度こそ、そこの鳥女と婚約破棄してわたくしと契りを結んでもらいますっ!」

「いつも言っているだろう、ジャクリーヌ。僕はエコー以外の女性と付き合うつもりはないと……」

 

 2年で見違えるように成長したイケメン王子様のカミエシとネット越しに向かい合っているのは、お嬢様然とした金髪縦ロールなワータイガーの美少女だ。

 

 彼女はパスカルの一人娘なのだが、プンレク島にバカンスに行った際に叔父の家—―牧場(まきば)亭のことだ—―でいとこのカロリン達がアクアマリンに旅行に行く話を知り、そのまま一緒についてきたらしい。

 

「それは刷り込みによって生まれた偽りの愛ですっ! わたくしの愛の力で目を覚まさせてあげますわ!」

「君は相変わらず、人の話を聞かないな。……まあいい、少し遊んであげよう」

 

 こうして試合の火蓋は切られた。

 Aランク探索者の父親から継いだ血によるものか、ジャクリーヌの繰り出す魔球は11歳のものとは考えられないほどに練り上げられていた。

 

 だがそれでも、テニスの王子様たるカミエシの腕前には遠く及ばないようだ。

 完全に魅せプレイのダシにされちゃってる。

 

「エコー、今日はいつもみたいに怒らないのか~?」

 

 テニスコートを囲う結界の外で俺と一緒に観戦していたファルコが隣のエコーに尋ねた。

 

「せっかくのハネムーンですもの、少しくらいのことは多めに見てあげましょう」

 

 エコーは来年には高等学校を卒業し、カミエシと挙式を挙げてティアラキングダムの正式な王妃となる。

 だから焦っているジャクリーヌと違い、精神的にも余裕があるのだろう。

 

「もっとも……これ以上オイタをするようなら、パスカルを首にすることも考えなければいけませんね」

「!?」

 

 護衛の黒服――ノル王家親衛隊に混じっていたパスカルに流れ弾が飛んだ。

 

「は、はは……これは離婚かな……転職先を探しておかないとな……」

 

 諦めるのが早すぎる。

 それだけ矯正不可能と見ているのか。

 ぼんやりと虚空を見つめるパスカルを弟のブレーズが励ます。

 

「兄者、ユーストはいいところですよ。ジャクリーヌも気に入ったと言っていましたし……もしよかったら、うちで一緒に暮らしませんか」

「ありがとう、ブレーズ。優しい弟を持った俺は幸せ者だ……」

 

 いたたまれない気持ちに包まれた俺は、そっと静かにその場を離れた。

 パスカル、幸せになれよ……。

 

 

 さて、俺が次に向かったのはお茶会エリアである。

 裏庭の中央にはオシャンティーなハムマンデザインのテーブルと椅子が並んでいるのだが……そこでは女性陣が集まっておしゃべりに興じていた。

 

「ぱあぱ、ぱぁぱ」

「はーい、パパだよぉ~」

 

 小さい子供連れのママ友と談笑していたアンバーの近くに行くと俺に気付いたコハクがアンバーの膝から降りてこちらにとことこ歩いてきたので抱き上げてあげた。

 うっ、よだれかけが赤いジャムでベタベタに汚れている……。

 

「ハルトよ、テニスコートの方はどうじゃった? 結構派手にやり合っておるようじゃが……」

「カミエシが上手いことやっているみたいだから、大丈夫だと思うよ」

「ふむ、それならばよいか」

 

 空いていた席に腰掛けた俺は、ぐずり始めたコハクをあやしながら周囲の様子を観察することにした。

 

 3児の母となりすっかりカウラに似てきたカウリンはアラクネのマーヤやクードルと裁縫の話をしているし、物々しい女性親衛隊員の護衛に囲まれているサクレアはリジー(カーター氏の関係で面識が深い)とのんびりアモロ将棋をしている。

 

 レクナム・コツラ夫妻のテーブルの周囲には、アイリスを筆頭に褐色スク水ダークエルフが群れを成していた。

 その中でも特に目立つのは、目尻に泣きぼくろのある紅顔の美少女だろう。

 

「—―私が知っているシャムロックの噂はこんな感じです」

「ありがとう、参考になったよ。やっぱり生の声を聞くのは大事だね」

 

 どうやらアザミは魔道学院内の噂に詳しいコツラから、シャムロックの学生時代の話を聞き出していたようだ。

 

 彼――トランスオーブを完成させた今は彼女だ――は自身の性別を隠して、アバロンの里に住むシャムロックと文通をしている。

 

 エルフの男娼として活動していたアザミの名前は界隈ではかなり有名だからな。

 彼の過去を知る者が誰もいないアバロンの里でなら、大手を振って女として生きることができるというわけだ。

 

「話を聞けば聞くほど変な子みたいねぇ。アザミ、本当にその子でいいのかしら?」

 

 アルメリアさんが膝に乗せたアマリリスにスプーンですくったショートケーキを食べさせながら尋ねる。

 

「ボクはそれくらいの方が扱いやすいと思うんだよね。さてと、十分に情報が集まったことだしそろそろ狩るかな……」

「かるかなー!」

 

 アザミがペロリと舌なめずりをすると、口元を生クリームでベタベタに汚していたアマリリスが楽しそうにその真似をしたのだった。

 

 

 あやしていたコハクがおねむ状態になったので再びアンバーに預けた俺は、お茶会エリアを離れてハムカー御殿(ごてん)の方に移動した。

 ハムカーのお口のようにも見える掃き出し窓は全開にされている。

 

 そこから見えるリビングでは、フライスやタヌヨシ、カーター氏にソルティ氏、ブルーノやチャオズやシャール……といったおっさん連中がソファで酒を飲みながら黙々とテーブルゲームに興じていた。

 

 彼らがプレイしているのは、ハムカー社のハムマン愛好家達やジャイアント・ホールディングス関連企業で働くテーブルゲーム好きの有志による2年間のテストプレイの末に満を持して発売されたすごろく「ハムマンゲーム」だ。

 

 アンバーがアバロンの里で冬ごもり中の暇つぶしとして考案したこん棒ゲームは、大人でも夢中で遊べる洗練されたパーティーゲームとして生まれ変わった。

 これならきっと、ハムマン狂いの海賊王ギースも満足してくれることだろう。

 

 俺はそんな彼らを横目に見ながら、縁側の日陰で膝の上に医学書を広げているアヤノに声を掛けた。

 

「なあ、アヤノは他の子とは遊ばないのか? せっかくのお休みだろうに……」

 

 彼女は1年前から医学の勉強のためにアモロ共和国のカナン大学に留学している。

 一緒に医学を学びたい人がいる、と言われて(もちろん手紙だ)魔導士(ウィザード)養成塾の学生30人分の学費を要求された時は流石にビビったが……俺は2つ返事で了承した。

 

 恐らくはアデニウムの入れ知恵だろうけど、砂漠の民の医療を改革するならそれくらいはしないと焼け石に水だ。

 こういうのは継続するのが大事だから、将来的に基金を設けることも考えている。

 

「最上級天使様から教えを得られる機会なんて二度とありません。だから私は、1分1秒でも無駄にしたくないんです」

「参ったなぁ。ユニエル、どうにかならないのか?」

 

 俺はアヤノの隣に座って勉強を見ているユニエルに尋ねた。

 シルキーと同じアルビノだし、翼を隠して髪を伸ばせば親子に見えなくもない。

 いや、それにしては身長差がありすぎるか。

 

「私は、未来ある若者の努力に水を差したくはありません……」

 

 デスマウンテンの発掘調査を終えて東大陸に渡ったアザゼルとバトンタッチしたユニエルは、イクリプスのギルド本部で定期的に行われる幹部会議に出席する前の休暇がてらアクアマリンに立ち寄っていた。

 

 普段は欠席している彼女がわざわざ出席するなんて、理由は一つしかない。

 そうなれば採種を口実にエルからナニをされるか……想像するに恐ろしい。

 俺を敵視するマリエルの根回しで審議が否決されることを祈るばかりである。

 

「勉強だけが人生じゃないと俺は思うけどな。……アヤノ、今から大事なことを教えるからよく聞いておけ」

 

 アヤノは医学書から顔を上げると、俺の顔を見て首を傾げた。

 

「なんですか、お父様?」

「ここには今、中央大陸の未来を担う若者が大勢集まっている。それは分かるか?」

 

 俺はカミエシとミュールがバトっているテニスコートの方に視線を向けた。

 

「それくらいは分かりますけど……」

「今日は彼らと交流を深めるまたとない機会だ。ルメー首長国連邦を束ねるカーン族の後継者として、やるべきことを考えなさい」

 

 要するに子供らしく遊んでこいということだ。

 飛び級で大学に入った頭でっかちの秀才ちゃんにはキツい仕置きかもしれないが、ここは一人の父親として譲りたくない。

 

 俺は無言でジーっとアヤノを見つめ続けた。

 はいと言うまで俺が動かないことが分かったのか、彼女は小さなため息を吐くと医学書を閉じて腰のポーチに仕舞った。

 

「……行ってきます、お父様」

「失敗してもいいんだ、楽しんできなさい」

「はい」

 

 俺は、小走りでテニスコートの方に向かうアヤノの背中を見送った。

 が、その直後に大きな声が聞こえてきた。

 

「みなさーん、これから写真撮影をしますよー! 中庭に集まってくださーい!」

 

 中庭の上空でバサバサと飛んでいるオーブリーの声だ。 

 彼女は取材がてら、パーティーのカメラマン役を買って出ていた。

 

「タイミングがいいのか悪いのか。行くぞ、ユニエル」

「ええ、ハルト様……」

 

 オーブリーが指定した場所はハムカー御殿(ごてん)の真正面だ。

 そこでギリアムくんがハーフリング化を解いてジャイアントに戻ると、少し離れた場所で見ていた子供達からワッと歓声が上がった。

 

「ほんとだ、ほんとにジャイアントだー!」

「すっげー、上に登ろうぜ!」

「こらっ、危ないから降りてきなさい!」

 

 喧騒が広がる中、俺達はあぐらをかいて座ったギリアムくんの前に集合する。

 もちろんその中心にいるのは俺とアンバー、アイリスとミュールの4人だ。

 

 なんとか全員がカメラに収まるポジションに着いたのを確認したオーブリーは、いつものようにピンク色の羽毛をした両翼で器用に持った一眼レフカメラを構えた。

 

「それじゃあ撮りますよー! はいっ、あくあ~まりんっ!」

 

 パシャリ。




「マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜」 おしまい
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