マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第29話 アクアマリーンズ

『かんぱーい!!!』

 

 その日の夜、俺達は「鬼の隠れ家亭」の酒場を貸し切って行われた祝勝会に参加していた。

 店の中央に移動されてくっつけられたテーブルの上には、沢山の豪華な料理が並べられている。

 雨でずっと休業していたのもあって、2週間ぶりに見る賑やかな酒場だ。

 

「おじさんこれ取って、これもこれもこれもー」

「モモ、こんなに沢山食べられるのかい?」

「うん!」

「そうかい、たーんと食べて大きくなるんだぞ」

 

 今日に限っては、親父さんも席に座って酒を飲みながらモモちゃんの世話をしている。

 いくら異世界とはいえ流石に6歳児にお酒を飲ませるようなことはしないようで、モモちゃんの前にはフルーツジュースの入ったコップが置かれていた。

 

「アンバー、アンタももっと飲みなさいよぉ~」

「やめい、抱きつくでないわ! む、むぐぅ……」

 

 横では俺の隣に座っているアンバーにエクレアが絡み酒をしていた。

 アンバーの顔にぐりぐりと押し付けられているエクレアの豊満なバストに思わず鼻の下が伸びてしまう。

 いいなぁ、俺と代わってくれないかなぁ。

 

「エクレアちゃん止めなよー、アンバーちゃんが窒息しちゃうよー」

 

 アイリスはアンバーからエクレアを引っぺがそうとしているが、レベルの差が大きく上手くいかないようだ。

 アルメリアとフライスの保護者組はニコニコしながらその様子を見ているばかり。

 結局、アンバーが持ち前のパワーを活かして自力で脱出することとなった。

 

「ふー、ようやく離れたわい。エクレアと飲むとこれがあるから困るのじゃ」

「エクレアがあんな状態になるなんて、なんか意外だな」

「仕事でストレスが溜まっておるんじゃろ。ギルド職員はなんだかんだ言って忙しいからのう」

 

 まあこの世界の探索者ギルド職員は公務員みたいなもんだからな。

 どんな世界でもお役所務めは大変だ。

 

「や、止めてーエクレアちゃん! むぐぅー」

「またかよ……仕方ない、助けてやるか」

 

 今度はアイリスに絡みだしたエクレアの隣に、下心丸出しでさりげなーく移動しようとした俺が席を立とうとしたその時、宿の扉がぎぃーっと音を立ててゆっくりと開いた。

 招かれざる客に親父さんは断りの言葉を入れようとするが……。

 

「すまんな、今日は休みなんだ……ってプリメラじゃないか!」

 

 酒場に入ってきたのはプリメラ・アクアマリンその人であった。

 彼女は空中に浮かんだ大きな水の塊の上をゆらゆらと泳ぎながら笑顔を浮かべていた。

 

「あら、私がここにくるのがそんなに珍しくて?」

 

 アイリスをおっぱいから解放したエクレアが、プリメラさんに問いかける。

 

「ママ、こんな夜中に出歩いても大丈夫なの?」

 

 ダンジョンマスターはダンジョンを支える人柱であり、迷宮都市の長でもあった。

 夜道を歩いてうっかり暗殺でもされてしまえば、二重の意味で大変なことになる。

 

 だからほとんどのダンジョンマスターは自分の城に引き(こも)って出てこないし、外出する時は大統領もかくやというほどの護衛を付けるそうだ。

 

 もっとも、プリメラさんはマーメイドだから湖の中にある人魚の街に行くことはよくあるそうだが、それでも地上の街の中を出歩くことはまったくと言っていいほどなかった。

 

「この雨の中、夜闇に紛れてしまえばなんてことはありませんよ、エクレア」

 

 そう言うとプリメアさんは空中に水の道を作りながら酒場を泳ぐように移動して、空いている席に座ると身に(まと)っていた水をすべて消し去った。

 

「す、すげぇ……」

 

 俺はプリメラさんの極まった水操作スキルにただただ驚嘆(きょうたん)していた。

 スキルで生成した流体に乗って空中を移動するのがどれだけ困難か、俺はよく知っていたのだ。

 

 その上、生成した物質の魔力還元まで息をするように(おこな)っている。

 一体どれほどの修練を積めばこれだけの技術が身に着けられるというのだろうか。

 

「またとない機会です、古馴染みの同窓会と行きましょう」

(ひさ)しいな、プリメラよ」

「お前さんがここにくるのはあの時以来か……お互い年を取ったものだ」

「ここにイクコが居たらアクアマリーンズの全員が揃ったというのに、残念ねぇ」

「アクアマリーンズ……?」

 

 赤ら顔のフライスが、酒を片手にアンバーの疑問の声に答えた。

 

「アクアマリーンズは儂らが探索者をしていた時のパーティー名だ。この都市の名前もそこから取っている」

「ふふ、あなた達が気にすると思って、昔の写真を持ってきちゃいました」

 

 プリメラさんは額縁に入った一枚の写真を取り出してテーブルの上に立てた。

 そのモノクロの写真には、海を背景にして五人の若い男女が笑顔で並んでいた。

 マーメイドを中心にしてその両隣にダークエルフとドワーフ、そして後ろにはオーガの男女が立っている。

 

「あっ、これもしかしてママ? すっごい若いねー」

「今が若くないみたいな言い方をするの、止めて欲しいわねぇ」

「こんな頃からスク水着てたのかよ……」

「ふうむ、このおなごは見たことがないが、もしかして親父さんの連れなのか?」

「ああ、そうだ。彼女はイクコと言ってな、俺の妻だった(ひと)だ」

 

 そう言うと親父さんは右目の眼帯を抑えた。

 これもしかして、聞いちゃいけないことだったんじゃないか?

 写真を見るに親父さんも昔は両目があったようだ。

 

 まさか、ダンジョン探索の最中に夫を(かば)って命を落としたとか……。

 俺はこっそりアンバーに耳打ちした。

 

「(おいアンバー、ちょっと無神経だったんじゃないか?)」

「(うっ、まずかったかのう)」

「聞こえているぞ二人とも。そんなに重い話じゃない、ただ喧嘩別れしただけさ」

 

 この街からポリー川を南に下ったところにあるアモロ共和国の、妻の実家の旅館を継ぐか継がないかで揉めて、この街から離れることを(しぶ)った親父さんに愛想を尽かした奥さんは子供を連れて出ていってしまったらしい。

 

 それから何十年も会っていないとはいえ一応連絡は取っているらしく、うちで世話をしているモモちゃんも妻の実家で持て余していたのを見かねた親父さんが引き取ったそうだ。

 

 まあ街一番の高級旅館であのモンスターが暴れまわっていたらそりゃあ困るわな。

 口コミサイトで★1評価待ったなしだ。

 

「それじゃあその眼帯は一体……?」

「これか? これはただのファッションだ」

「えぇ……」

 

 お腹がいっぱいになって膝の上で眠るモモちゃんの背中を()でながら、親父さんはこともなげにそう言った。

 

 せっかくリジェネレーションが使えるようになったんだから、いずれ恩返しの為に親父さんの右目を治そうと思っていたのだがアテが外れてしまったな。

 

「こいつはな、海賊王ギースに憧れていたイクコの気を引く為に探索中の怪我を装って眼帯を付け始めたんだ。馬鹿みたいだろう」

「その嘘はすぐにバレたんだが、あいつは俺が眼帯を外すと目に見えて不機嫌になるからな……もう片目で生活するのも慣れてしまったよ」

「嫁とはもうずっと会っておらんのじゃろ? 見えているなら外したらええじゃろ」

「それがバレたら、今度こそ離縁されちまう」

 

 そう言って親父さんは遠い目をした。

 どうやら親父さんの奥さんであるイクコさんはかなりの恐妻のようであった。

 悲しい世界だなぁ。

 

「みなさんは私達の昔話、もっと聞きたいですか?」

 

 プリメラさんがテーブルに身を乗り出してそんなことを言い出した。

 聞きたい聞きたい、超聞きたい。

 

「そうじゃのう、わしはダンジョンを踏破した時の話が聞きたいのう」

「え、じゃあわたしはパーティー結成時の裏話とか知りたいなー」

「俺は親父さん達の故郷の話が聞きたい。アモロ共和国ってどんなところなんだ?」

「うーん、もう一杯……」

 

 なんか一人だけ酔い潰れている人が居るようだが、別にいいか。

 

「それではアイリスさんから行きましょうか。私達が出会ったのは――」

 

 こうして俺達はアクアマリーンズの昔話を(さかな)にして、楽しい一夜を過ごしたのだった。

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