マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第二章 ティアラキングダムの秘宝
第34話 ポンポコ出版


 現役Bランク探索者の描く冒険小説第6弾!

 

 わしはハーフリングのアンバー、Bランク探索者じゃ。

 今回の事件はわしがいつものようにアクアマリン迷宮の三層で狩りをしていた時に、突然ダンジョンマスターから救援要請が入ったことが始まりだった。

 その場所は一層の爪獣(そうじゅう)の森。

 珍しいこともあるものだと思いつつも、ダンジョン内を駆け抜けたわしは間一髪のところで対象者の救助に成功する。

 しかし、わしが助けたハンサムな謎の男には何やら複雑な事情があるようで……?

 新たな出会い、蘇る古代文明の兵器、そしてロマンス……。

 

 これはわしの初めての、恋の物語。

 

 

 とある平日の昼前、俺は宿の酒場のテーブルでアンバーの書いた新作自伝風小説「わしとこん棒6」の原稿を読んでいた。

 

「どうじゃ? 危ないところは上手くぼかしたつもりなんじゃが、お主の意見を聞かせてはくれぬか」

「そうだな、これは……」

「ゴクリ……」

 

 固唾を飲んで評価を待つアンバーに、俺はグッと親指を立てた。

 

「グッドだアンバー。こいつぁ売れるぜ」

 

 俺は彼女の過去作である「わしとこん棒」1~5巻を読破している。

 その経験から踏まえると、これはかなりの大作だ。

 

 それに何より、濃密なベッドシーンがあるのがいい。

 どの世界でもエロは強いからな。

 こいつはでかいシノギの香りがするぜ……!

 

「お主、それは本当かのう。今度は百部くらいは売れるじゃろうか?」

 

 アンバーはとある出版社で、自著を何度か自費出版していた。

 彼女の言い分ではその本は毎回十数冊は売れていたみたいだが……。

 

「百部と言わず一万部だって売って見せるさ、俺に任せてくれ」

「おお、それは楽しみじゃ。善は急げじゃ、早速出版社に持ち込もうぞ!」

「俺もアンバーがお世話になったっていうその編集さんには一度会ってみたかったんだ。紹介してくれるかい?」

「もちろんじゃ!」

 

 ささやかな胸を張ったアンバーのお腹がグーっと鳴った。

 いつもはこういうのは俺の役目なのに、珍しいな。

 

「……その前にリブトンでランチじゃの」

「……ああ、そうだな」

 

 白いほっぺを赤くして照れているアンバーを見てニコニコと笑みを浮かべる俺の心の中には、表情とは裏腹に深い闇が渦巻いていた。

 

 ……俺はこれから、彼女の為に手を汚す。

 天に輝くお月様よう、少しくらいは見逃してくれよな。

 

 

 いつものように喫茶リブトンでランチを終えた俺達は、バイクに乗ってアクアマリン市のオフィス街までやってきた。

 そして俺達が尋ねたのは小さな雑居ビルの三階にオフィスを構える小規模な出版社、ポンポコ出版だった。

 

 勝手知ったる何とやらか、アンバーはノックもせずにオフィスの扉を開いた。

 すると中で事務作業をしていた獣人の社員がやってきて、俺達を応接用のソファまで案内した。

 

「すいませんねぇアンバーさん、今うちの社長は営業に出ていまして……すぐに呼んできますので、しばらくお待ちいただけますか?」

「アポなしで尋ねたのはわしらじゃからのう。ゆっくり待たせて貰うわい」

 

 どうやらお目当ての相手は外出中のようだった。

 俺達は出されたお茶を飲みながらのんびりと待つことにした。

 

 お昼ご飯でお腹がいっぱいになっているアンバーは俺の横でうとうとし始めた。

 俺は彼女の肩を()でながら、オフィスの中を眺めまわす。

 

 どうやらこの出版社は絵本や自伝本の出版を主に手掛けているらしい。

 オフィスの壁には本の販促に使っているのだろう沢山のポスターが貼られていた。

 

 その中のいくつかは俺も書店で売っているのを見たことがある。

 売り文句の部数を見るに結構な売れ行きがあるようだ。

 俺はまだ読んだことがないが、少し興味が出てきたな。

 

 しばらく待っていると、オフィスの扉が開いて待ち人がやってきた。

 俺は隣でぐーすか眠っているアンバーを揺すり起こそうとしたが……。

 

「アンバー、そろそろ起きな。社長さんが帰ってきたよ」

「んぅ……もう食べれんのじゃ」

「どうもどうもアンバーさん、ご無沙汰(ぶさた)しております」

 

 そこに立っていたのはでっぷりと太った狸獣人(ワーラクーン)の男だった。

 揉み手をしながらこちらに胡散臭い笑みを浮かべている。

 

「悪いね、うちのアンバーはおねむみたいだ。先に俺達だけで話を進めても構わないかい?」

「それは構いませんが、あなたは?」

「俺はアンバーのパーティーメンバーのハルト・ミズノだ。よろしくな、タヌヨシさんよぉ……」

 

 俺はおもむろにソファから立ち上がると、彼の肩にガッと腕を回した。

 タヌヨシは俺の突然のボディタッチに困惑している様子だった。

 

「い、いきなり何をするんですか!?」

「まあまあ、ちょっとこちらへ……」

 

 俺は他の社員から見えない死角になっている壁際までタヌヨシを連行すると、声を潜めて詰問(きつもん)した。

 

「お前、俺達に何か隠していることあるよな?」

「……何の話ですか?」

(とぼ)けるのもいい加減にしな」

 

 俺はポーチから一枚の写真を取り出すと彼に見せつけた。

 そこにはタヌヨシとワーウルフの女性が、夜の街で密会している決定的な場面が写されていた。

 

「こっ、これは……」

「シズヨちゃんだっけ、アンバーから騙し取った金で飲んだ酒は美味かったかい?」

「うっ……」

 

 最初に俺が違和感を覚えたのはアンバーから「わしとこん棒」の話を聞いた翌日――マジックバッグを買ってアイリスの乳を揉んだ日――のことだった。

 

 プロテクションの練習で魔力を使い果たした俺は、アンバーの自費出版したという「わしとこん棒」シリーズを購入する為に書店へ足を運んだ。

 

 しかし、どの店を探しても「わしとこん棒」は一冊も売られていなかった。

 在庫が無いか尋ねた書店員さんからは「ポンポコ出版からはそのような本は出版されていないはずですが」と告げられた。

 

 出版社に問い合わせるかどうか()かれたが、俺は(つつし)んで辞退し独自に調査を始めることにした。

 

 以前リジーから酒の席でその手の身辺調査を行う会社があるという話を聞いていた俺は、歓楽街の近くにあるヤの付くグレーな会社に調査を依頼したのだ。

 

 その結果分かったことは、タヌヨシが書店の棚を確保する為と(しょう)してアンバーから多額の現金を引き出してはそのほとんどを懐に入れていたという事実だった。

 

 最低ロットで製本した「わしとこん棒」はすべて倉庫に仕舞い込んで、確保した棚には代わりに自社が推す本を並べていた。

 彼女の本が十冊も売れたなんて真っ赤な嘘だ。

 

「Bランク探索者に対する詐欺、ついでに脱税に業務上横領……これをギルドが知ったらお前、どうなるかな?」

 

 こちとら街を救った英雄様だぞ?

 さらにはギルド職員とのコネクションも山盛りだ。

 俺がちょっとエクレアに告げ口するだけで、タヌヨシはこの街で生きていくことができなくなる。

 

 そして「わしとこん棒」を読んだことのある彼の脳裏には、騙されたことを知って怒り狂ったアンバーにミンチにされるという悲惨な末路が浮かんでいることだろう。

 かくなる上は、会社を畳んで夜逃げするしか未来はない。

 

「……私は何をしたらいいんですか?」

「なあに、簡単な話だ。まともな契約書を用意した上で、会社が傾くギリギリまでアンバーの本を刷って貰おうか。当然、広告も打って書店に本を平積みだ」

「そ、そんなことをしたら会社が潰れてしまいます」

「お前が選べる選択肢は二つ。今すぐ身体を潰すか、後で会社を潰すかだ」

「ひっ……」

「アンバーの新しい原稿を読んでから、もう一度答えを聞かせて貰うとしよう」

 

 俺はタヌヨシに写真を押し付けると、返事も聞かずに席に戻る。

 そしてのんびり昼寝をしているアンバーを全力で揺すって起こした。

 

「んぬぅ……おはようハルト……」

「おはようアンバー。よく眠れたかい?」

 

 まだ彼女は寝ぼけているようだった。

 

「ハッ! ここはどこじゃ!?」

「ポンポコ出版だよ、覚えてない?」

「そうじゃったそうじゃった。わしとしたことがうっかりしておったのう」

 

 俺達がイチャイチャしていると青ざめた顔をしたタヌヨシがこちらにやってきた。

 彼もようやく覚悟が決まったようだ。

 

「アンバーさん、こんにちは」

「おおタヌヨシ、ご無沙汰(ぶさた)じゃのう。……お主、何か顔色が悪くないか?」

「はは、少し車酔いしてしまいまして……」

「それはいかんな。ハルト、治してやるがよい」

 

 俺はおもむろにハイヒーリングの杖を取り出すと、タヌヨシに向けて発動した。

 彼は俺の行動にかなりビビッているが、それでも少し顔色は良くなったようだ。

 

「あ、ありがとうございます……」

「さあ席に着くといい。アンバー、彼に原稿を見せてあげようか」

「ほれ、これじゃ。今度のは自信作じゃぞ」

 

 席に着いたタヌヨシにアンバーが原稿を差し出す。

 彼は暗い顔をしながらも、すぐに受け取った原稿に目を通していく。

 腐ってもプロらしい、驚くほどの集中力だ。 

 

 しばらくして最後のページまで読み終えた彼は、目を閉じて思案を始めた。

 何しろこの原稿には彼の人生が()かっているのだ。

 下手な回答はできない。

 

 それから短くも長い沈黙の末に目を開いた彼は、アンバーの目を真っ直ぐに見て一つの提案をした。

 

「……まずは一万部、刷りましょうか。その為に必要な費用もすべてこちらで持ちます。アンバーさん、これでいかがでしょうか?」

「おお、それは本当かのう!」

 

 会社を傾けるには足りないが、まあ十分な成果だろう。

 余りやり過ぎたら他の社員に不正がバレてしまうかもしれないからな。

 

 俺の目的はタヌヨシを()らしめて破滅させることじゃないのだ。

 アンバーを喜ばせることが大事なのであって、それ以外は些事(さじ)でしかない。

 

「ついにメジャーデビューだ。良かったなぁアンバー」

「これも全部ハルトのおかげじゃ!」

 

 俺は飛び付いてきたアンバーを抱き締めつつも、タヌヨシを見て一つ頷いた。

 すると彼はほっとしたような表情を浮かべた。

 

 おいおい、まだ安心されちゃあ困るなぁ。

 俺が自分のポーチをトントンとつつくと、タヌヨシはがっくりと肩を落とした。

 

「これからもアンバーのことをよろしく頼むよ、タヌヨシさん!」

 

 こうして俺は小さな出版社を丸ごと傘下に収めることに成功したのだった。

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