マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第36話 白衣の天使

 あれから数日後、いつものように岩塊(がんかい)台地下層でのマーブルゴーレム狩りを終えた俺達がダンジョン出口のゲートを潜って外の広場に出ると、ゲートのそばの川辺で待機していたギルド職員の人魚さんから声を掛けられた。

 

「もしもーし、ハルトさーん、今ちょっとよろしいですかー?」

「お主、また何かしでかしたのか?」

「またって何だよまたって。俺はアクアマリン(いち)善良な探索者だぞ」

 

 ほんの1ヶ月前にちょっとばかり一般市民を脅迫したりしたくらいだ。

 まさかそれが問題になっていたりはしないよな……?

 ははは、まさかね。

 

 俺は川辺に近付くと職員の人魚さんに話し掛けた。

 視線はもちろん彼女の谷間にロックオンだ。

 

「えーと、俺に何か用事でしょうか?」

「ハルトさんにギルド本部から呼び出しが掛かっていますよ。二階の院長室でユニエル様がお待ちです」

 

 ユニエルは探索者ギルドアクアマリン支部で総合病院の院長をしている天使だ。

 彼女とはリジェネレーションの検証でしょっちゅう顔を合わせていたので、恐らく今回の呼び出しもそれに関連したものなのだろう。

 

「なんじゃ、ただの業務連絡か。つまらんのう」

「せっかくだし、今日はアンバーも一緒に行かないか?」

「嫌じゃ、わしはあそこの空気が苦手なんじゃ」

 

 どうやらアンバーの病院嫌いは未だに克服されていないようだった。

 きっと精密検査で色々されたんだろうなぁ。

 ぶっとい注射針で血を抜かれたりとか、お口に何かを突っ込まれたりとか。

 

「そっか、なら先にマーヤさんのところに行ってていいよ」

 

 今日はアルストツカ洋裁店に注文していた新しい探索者服を受け取りに行く予定だったので、早めに狩りを切り上げて帰ってきたのだ。

 

「すまんのう、ハルト。わしは先に行っておるわい」

「じゃあそういうことで。ナナミさん、ありがとうございました」

「ではでは、お仕事お疲れ様でしたー」

 

 俺は職員の人魚さん(本名ナナミ)に礼を言ってその場を後にした。

 ……ナナミさん、やたらとこの川辺で見るけどこれが仕事なのだろうか?

 

 どうでもいい疑問は置いといて、俺は探索者ギルドのロビーでアンバーと別れるとロビーの中の階段を(のぼ)って探索者ギルドの二階までやってきた。

 ここにはギルド本部が運営している銀行と病院が併設されているのだ。

 

 

 ちょっとややこしいので少し解説すると、ギルド本部とは西大陸に本拠地を持つ金融業と医療業を生業(なりわい)としている探索者ギルド本社のことを指している。

 

 過去に月光教を追放された天使を中核として運営されているこの巨大組織は、アザゼル事件から続く長い闘争の果てに、月光教に成り代わり世界の警察としての地位を手に入れていた。

 

 そして俺達が普段、探索者ギルドと呼んでいるのは迷宮都市の行政機関の方だ。

 こちらはダンジョンマスターと血縁であるサブマスターによって運営されている。

 

 ギルド本部と探索者ギルドの関係は、ざっくり言うとコンビニのフランチャイズ経営みたいな感じだな。

 ギルド本部はダンジョンマスターに技術と資金を提供して、円滑な迷宮都市の運営ができるように補助している。

 ダンジョンという資源がある以上、貸し倒れが無いのは(うらや)ましい限りだ。

 

 

 そんなことを考えつつも、俺は広い探索者ギルド二階の廊下を歩いて目的の院長室の前に立った。

 するとノックをするまでもなく扉が勝手に開いた。

 

 ……これだから天使は怖いんだ。

 俺は院長室の中に入ると、この部屋の主人に声を掛けた。

 

「お呼びと聞きましたが、何か進展でもあったのですか? ユニエルさん」

 

 豪奢(ごうしゃ)なベッドでうつ伏せになって(くつ)いでいる白衣の天使の背には大きな白い翼が生えていた。

 彼女は色素の抜け落ちた白い髪をボーイッシュなハンサムショートに仕上げており、気だるげにこちらを見つめるその瞳は(あか)い血の色に染まっている。

 

「ええ、とても良い便りが届きましたよ、ハルト様……」

 

 ユニエルが手を動かすと、天井の高い院長室の上にいくつもある棚から一つの鳥籠がふわふわと降りてきた。

 鳥籠の中には一匹のずんぐりとした身体をしたネズミが入っている。

 プレーリーラットだ……。

 

 ユニエルがまた手を動かすと、ベッドのそばに置かれた鳥籠の中のプレーリーラットの前足が千切れ飛んだ。

 悲鳴を上げるプレーリーラットにユニエルがベッドの上から手を伸ばす。

 

「リジェネレーション……」

 

 鳥籠に青い光が降り注ぎ、プレーリーラットの腕がゆっくりと再生する。

 傷が治り元気を取り戻したプレーリーラットは、落ちていた自分の前足を拾って(かじ)り始めた。

 

「あれからまだ1ヵ月も経っていないというのに、よく習得できましたね」

 

 俺の提唱したふわっとしたDNA理論にはかなりの粗があったので、ただそれを伝えただけではスキルの習得に必要な強固なイメージを確立するのは不可能だった。

 

 なので俺はその存在を証明する為の方法論、つまりミクロの世界に挑戦する方法を論文として提出した。

 要はナノメートルまで確認できる精密な顕微鏡を作って観察しろってことだ。

 

「リジェネレーションの習得は我々天使の悲願でもありました。ハルト様には本当に感謝しています……」

 

 よくもまあこの短期間でスキルが習得可能なレベルまで研究をしたものだ。

 ギルド本部はよほどの資金と人員を投入したらしい。

 もしこれでその研究が失敗していたら、俺は消されていたかもしれない。

 

 まあ、俺としては再生スキルの件は結構楽観視していたんだけどな。

 こいつら天使は統一帝国時代に自分達の遺伝子をいじくった形跡がある。

 かつてはただのバードマンだった有翼人が神の奇跡で不老長寿を手に入れたなんて与太話(よたばなし)、到底信じられない。

 

 だからその辺りを突けば何らかの成果が見られるんじゃないかと俺は考えた。

 結果として俺の狙いは的中したようで一安心だ。

 

「しかし、残念なことにレベル100を越えている私の魔力でさえ腕一本を生やすのが限界です。やはりこの先は魔導学院を頼るしかないようですね……」

「まだ俺の論文を魔導学院に送っていなかったのですか?」

「ええ。この論文が世界に与える影響を考えると、事前に十分な検証を行う必要がありましたから……」

 

 絶対に嘘だろうけど、それもあながち間違いじゃないんだよな。

 だってミクロの世界は原子論に繋がって、原子論は核兵器の開発に繋がるもの。

 しかもその研究は魔力の秘密を解明することにさえ繋がるかもしれない。

 へへへ、うっかり知識チートっぽいことしちゃったかもな。

 

「やはり帰還者(リターナー)は特別な存在だったようですね。長い時の流れに飲まれて記憶の多くを失いながらも、月光教の秘奥(ひおう)にすら到達するとは……」

 

 鳥籠を棚の上に戻したユニエルはそう言っておもむろにベッドから立ち上がった。

 

「長い時の流れ? 一体どういうことですか」

 

 俺は親しい人間の顔を忘れただけで、別に前世の記憶を失ったわけじゃないぞ。

 

 頭に疑問符を浮かべる俺に、ユニエルがゆっくり近付いてくる。

 すらりとした長身の天使は俺を見下ろすと、俺の頬にそっと手を添えた。

 

帰還者(リターナー)はみな、遠い過去にダンジョンで命を落とした者でしょう。数千年の時を越えてダンジョンに生み出された出現品(ドロップアイテム)。つまりあなたは、過去に滅んだ文明の生き証人なのですよ……」

 

 この話を聞いた時、俺の顔は固く強張(こわば)っていたのだと思う。

 まさかこの世界は未来の地球なのか?

 いや、まさかな……。

 猿の惑星展開なんて俺は信じないぞ。

 

「ふふふ、可哀想なお人。せめてもの礼に僕が慰めてあげましょう……」

 

 いきなり豹変(ひょうへん)したユニエルは俺の右手を取って自らの豊満な谷間に(うず)めた。

 

「え?」

 

 その柔らかな感触に俺の頭の中身は一瞬でピンク色に染まっていく。

 

「お、俺にはアンバーという愛する者が……!」

「ここには僕とあなたの二人しかいませんよ……」

 

 何とか腕を引き()がそうとしたが、レベルの差が大きく抵抗することができない。

 俺はユニエルに腕を引かれてベッドへ背中から押し倒された。

 こちらを見下ろす白衣の天使から漂う薬品のような甘い香りが俺を包み込む。

 

「さあ、僕に身を(ゆだ)ねるのです……」

「すまねぇアンバー……俺は、弱い……」

 

 俺はこのおっぱいに抗うことができなかった。

 三つ折りを覚悟した俺がすべてを諦めようとしたその時。

 俺の下腹部にむにゅりと硬いものが押し付けられた。

 

「――プロテクション!」

 

 すべてを拒絶する半透明の青い障壁が白衣の天使を弾き飛ばす。

 俺はバッとベッドから飛び上がるとダッシュで院長室から脱走した。

 

「あぁ、残念……」

 

 すっかり忘れていたが、天使は両性具有だった。

 危ない危ない、ピンクな空気に流されるところだったぜ。

 

 もう二度とあの天使とは二人きりにならないようにしよう。

 俺は決意を固めると、早足で病院内を駆け抜けていくのだった。

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