マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第46話 コバルトファミリー

 夜の歓楽街の路地裏にある空き地で、ハムマンチェアに座る俺達の前で赤い猫耳を伏せてしょんぼりとしている赤毛のワーキャットの少女の名前はミュールといった。

 

 ミュールはティアラキングダムの迷宮都市ジャスティンで生まれた。

 探索者をしていた両親の愛を一心に受けて育った彼女はすくすくと成長し、成人すると両親と同じく探索者となった。

 

 同じ学校の友達と一緒にパーティーを組んで、Bランク迷宮ジャスティンで探索者として順調に活動していたそうだ。

 

 そんなミュールに転機が訪れたのは、彼女が16歳になった時のことだった。

 ある日の早朝に彼女がパーティーメンバーと一緒に探索者ギルドを訪れると、ギルドの中にはざわざわとしたどよめきが広がっていた。

 

 それもそのはず、探索者ギルドの受付の向こう側に見慣れない姿の武装した男達がずらりと並んでおり、ギルド職員達がまるで人質のように(まと)められていたのだ。

 

「お前達、ギルド職員に一体何をしている!」

 

 やってきた上級探索者達が武器を取り出して救出に動こうとすると、武装した男達の背後からにやにやとした笑みを浮かべる一人のコボルトの男がやってきた。

 毛むくじゃらのその額には、紛れもないダンジョンマスターの刻印が輝いている。

 

「貴様、やりやがったな……!」

「悪いが、この街は今日から俺様のものだ。実力行使がお望みならば、どうぞ好きにするがいい」

「そうさせて貰うさ、行くぞ!」

 

 上級探索者達がそれぞれの武器を手に攻撃を仕掛けようとすると、コボルトの男がみるみるうちに大きくなっていく。

 

 まるでジャイアントのように巨大になったコボルトの男は、首輪から巨大な両手斧を取り出すとぶんと振り回した。

 

 その大斧の一振りを受けた上級探索者達はまるで紙切れのように千切れ飛んだ。

 探索者ギルドのロビーに血と肉片が散らばっていく。

 

 その惨劇を見た他の探索者達は恐怖に(おび)え、我先にと逃げ出していった。

 そして、その中にはミュールとその仲間達も混じっていた。

 

「俺様を殺せるやつはいるか! いないよなぁ!」

 

 街にはゴーン、ゴーンというダンジョンマスターの代替わりを告げる鐘の音が響いていた。

 

 迷宮都市ジャスティンの新たなダンジョンマスターとなったコボルトの男はガルムと名乗った。

 彼はティアラキングダムの王都に根拠地を持つマフィア組織、コバルトファミリーのボスだったようだ。

 

 どのような手段かは知らないが、強大な力を手に入れたガルムは部下を引き連れて探索者ギルドを強襲し迷宮都市ジャスティンの行政機構を乗っ取った。

 

 このガルムの凶行に対してギルド本部は静観の構えを取った。

 迷宮都市ジャスティンはティアラキングダムの一都市だ。

 対処するべきはティアラキングダムの役目であり、この争いにギルド本部が手を出すことは内政干渉に他ならない。

 

 過去の教訓からギルド本部はあらゆる個人・組織・国家間の闘争に中立を保っており、ギルド本部の定めた禁忌に抵触しない限り天使達が手を出してくることはない。

 ガルムはそれを知っており、ギルド本部に一切の干渉を行わなかったのだ。

 

 こうしてコバルトファミリーによる迷宮都市ジャスティンの支配は始まった。

 迷宮都市ジャスティンを囲む外壁の門はガルムの部下によって固く閉ざされ、住民は街を離れることを禁じられた。

 

 ガルムは以前のダンジョンマスターが住んでいた城に居を構えると、女を集めて女色(にょしょく)にふけるようになった。

 理由はもちろん自身の血を継ぐ子を作り、サブマスターに()える為だ。

 都市の行政そのものは、部下と以前からいたギルド職員に丸投げである。

 

 迷宮都市ジャスティンの市民達は国軍が助けにくるのを期待したが、待てども待てども国からの助けはこなかった。

 

 そんな状況でも探索者は生きる為に働かなければならない。

 コバルトファミリーの影に怯えながらも、迷宮都市ジャスティンの探索者達はダンジョンに潜る日々を送っていた。

 

 そしてジャスティン襲撃事件から1年後、コバルトファミリーの魔の手は探索者ミュールにも伸びることになる。

 

 

「ついにあちしの家にもコバルトの女狩りがやってきたにゃ。アイツらは父ちゃんを殺してあちしを連れ去ろうとしたにゃ。でも、母ちゃんがあちしの身代わりになって逃がしてくれて……あちしは一人で迷宮都市ジャスティンから脱出したのにゃ」

「なんというやつらじゃ、許してはおけぬな! のう、ハルトよ!」

 

 彼女はすっかりミュールに感情移入してしまっているようだった。

 それも当然か、アンバーはこういう悪い連中が大嫌いだもんね。

 俺はアンバーに合わせて拳を握ると怒りを(あら)わにした。

 

「ああ、許せんよなぁ! ……それで、ミュールはそれからどうしたんだ?」

「あちしは王都の警察署で助けを求めたけど全然取り合ってくれなかったにゃ。別室で待たされて、少ししてからあちしを迎えにきたのはコバルトの連中だったのにゃ」

「腐ってんな、まるで神奈◯県警みたいだ」

「きっと賄賂でも貰っておったのじゃろうな」

 

 都会のマフィアといえば警察の汚職と相場が決まっているようなものだしな。

 迷宮都市から得た莫大な上がりがあれば大抵のことは白くできるのだろう。

 

「あちしは忍者(ニンジャ)だったから逃げるのだけは簡単だったにゃ。追っ手を撒いたあちしは魔導列車の貨物室に潜り込んで、ここまで逃げてきたのにゃ」

 

 ここで名探偵アンバーがミュールに鋭い指摘をした。

 

「一つ()せないことがあるのう。お主はどうしてこの街にきたのじゃ? 強い助っ人が欲しいのなら、西大陸に向かうのがベストじゃろう。あそこの連中ならチンケなマフィアくらい、赤子のように(ひね)られるじゃろうに」

 

 その指摘を受けたミュールはしまった! というような表情を浮かべたが、すぐに気を取り直して反論した。

 

「あちしもそれは考えたにゃ。でもあそこの連中を動かせるほど、あちしはお金を持っていないにゃ。だから海都カナンで噂に聞いた、アクアマリンで一番強いジャイアントの探索者に助けを求めることにしたのにゃ」

 

 ミュールのその言葉にアンバーは目を輝かせた。

 

「ほう、そんな強いジャイアントの探索者がこの街にいたとはのう。して、どんな名前じゃ。わしはジャイアントにはツテがあるからきっとすぐに紹介できると思うぞ」

 

 こん棒愛好倶楽部の名誉会員の名は伊達じゃない。

 ミュールの言うその探し人もジャイアント・ホールディングスのネットワークを使えばすぐに見つけられるだろう。

 

「そのジャイアントの名前はラージャンと言うにゃ! 金色のこん棒を武器にしているBランク探索者で、何でもとってもでかいゴーレムを倒してアクアマリンを救った英雄らしいのにゃ!」

「ラージャン……聞いたことがないのう。ハルト、お主は知っておるか?」

 

 知っておるかって。

 絶対それアンバーのことじゃん。

 

 いや待て、ラージャンか。

 ラージャン、バージャン、バーちゃん……。

 やっぱりそれアンバーのことじゃん。 

 

「それギガンティックタイタンを倒したアンバーのことでしょ。どうせまた聞き間違いでもしたんじゃないの?」

「そんにゃ!? アクアマリンで一番強いジャイアントがこんなへなちょこハーフリングだったなんて、あちしは信じられないにゃ!」

 

 俺はアンバーに印籠(いんろう)を突きつけるように(うなが)した。

 

「アンバーさん、見せておやりなさい……!」

「わしが本当にへなちょこかどうか、その目で確かめるがよい!」

 

 ミュールはアンバー突き出したギルドカードに目を通すと驚きに目を丸くした。

 

「筋力S……す、凄いにゃ!」

 

 アンバーは鼻の穴を大きくしてご満悦のようだった。

 ちょっとブサイクになった彼女もかわいい。

 

「わしならそのガルムという男などすぐにコテンパンにできるじゃろう。ここは一つ、わしらに任せてみるというのはどうじゃ?」

「ほ、本当にいいのかにゃ? でもあちしは返せるものは何も持っていないにゃ……」

「Bランク探索者パーティー『こん棒愛好会』は正義の味方なのじゃ! のう、ハルト!」

「俺も面白そうなイベントは大歓迎だ。それじゃあいっちょ救ってみますか、迷宮都市ジャスティンを!」

 

 猫娘の願いを聞き届けた俺達は、コバルトファミリーに支配された迷宮都市ジャスティンを救う為に立ち上がることを決意したのだった。

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