マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第48話 カーター交通

 朝から2回戦に入ってついつい頑張りすぎてしまった俺達が身を清めてから遅めのモーニングを済ませて宿まで帰ると、忍者服を身に(まと)った猫耳少女のミュールに迎えられた。

 

「遅いにゃ! オマエら、今何時だと思っているにゃ!」

「10時だけど、それがどうかしたの?」

 

 彼女はどうやら遅刻した俺達に怒り心頭のご様子。

 

「柔らかいお布団でぐっすり眠って9時に目覚めたあちしは朝からお風呂で長湯して、それから食堂でおいしいお魚を山盛りお代わりした後からずーっとここで待ってたにゃ! アンタらはこんなに待たせたあちしに悪いとは思わないのかにゃ!?」

「めちゃくちゃ満喫しているじゃないか。しかもあんまり待ってなさそうだぞ」

「それとこれとは話が別にゃ!」

 

 この猫娘、いくら何でもせっかちが過ぎる。

 俺が呆れていると、アンバーがミュールに近付いてくんくん匂いを嗅いだ。

 

「うむ、ちゃんとクリーニングには出したようじゃな。感心感心」

「寝る前に宿の主人に預けたら朝に持ってきてくれたにゃ」

 

 俺はカウンターの向こうに座って新聞を読んでいた親父さんにお礼を言った。

 

「親父さん、いつもありがとうございます」

「お前さん達以外にウチの宿泊客は居ないからな。これくらいのことはさせてくれ」

 

 かつてはそれなりに繁盛していたこの宿も、あのモモちゃんがきてからは閑古鳥(かんこどり)が鳴いていた。

 げに恐ろしきはオーガの幼女である……。

 

 酒場の椅子に腰掛けた俺は、アンバーにこれからのことを尋ねることにした。

 

「アンバー、これからの予定についてだけど……」

「わしもそれについては少し考えておったんじゃがな、ティアラキングダムに向かう前にいくつかやるべきことがあるのう」

「知り合いに挨拶回りをして旅の支度をしたらすぐにでも出発するんじゃないの?」

「そうにゃ! 1日でも早く助けに行くのにゃ!」

「詳しいことはフライスのところへ向かいながら話すつもりじゃ。ハルト、タクシーを呼ぶぞ」

 

 タクシーか。

 まあ俺がバイクでミュールと二人乗りってのはアンバー的には嬉しくないよな。

 なんだかんだ言って、彼女は嫉妬深い子なのだから。

 

「分かった。行くぞミュール」

「よく分かんないけど分かったにゃ」

「ではの親父さん、行ってくるのじゃ」

「いってらっしゃい」

 

 俺達は宿を出ると、最寄りのバス停でタクシーがくるのを待つことにした。

 しばらくすると見慣れたタクシーがやってきてバス停の前に止まった。

 

「……久しぶりだな」

 

 カーター交通のカーター氏だった。

 俺はまだ彼のタクシーには二回しか乗ったことがないというのに、カーター氏に強い親しみを感じていた。

 きっとそれはあの雨の日の出来事のおかげだろう。

 

「フライス整備工場までじゃ」

「……任せてくれ」

 

 後部座席に座った俺の隣のアンバーがカーター氏に目的地を告げると、タクシーはすぐに走り出した。

 車中にはいつものようにサクレアの曲が流れていた。

 

「あっ、サクレアの歌にゃ。久しぶりに聞いたにゃー」

 

 助手席に座るミュールが両腕を頭の後ろに組みながらそんなことを言い出した。

 待て、カーター氏はサクレアファンクラブの上級会員、会員No.007だぞ……!

 下手な発言は命に関わる!

 

 車内に緊迫(きんぱく)した空気が流れる。

 しかしミュールは気にせずに話を続けた。

 

「あちしはまだ一度もサクレアのライブに行ったことがないんだにゃ。いつかは行ってみたいものだにゃー」

 

 車内の空気が弛緩(しかん)する。

 どうやらミュールは命拾いしたようだ。

 

「ミュールはサクレアが大好きなのじゃな」

「当然にゃ! あちしはサクレアが嫌いなティアキン民なんて見たことないにゃ!」

「まったく、とんでもない歌姫と同じ時代に生まれちまったもんだぜ……」

 

 これもう百年後には新しい宗教ができてそうな勢いだな。

 この世界の人間の趣味に()ける情熱は怖すぎる。

 

「さて、そろそろ話を始めようとするかのう。わしらはこれからティアラキングダムの迷宮都市ジャスティンへ向かうわけじゃが、そこで一つ困ったことがあるのじゃ」

「困ったこと?」

「アクアマリンのBランク探索者がジャスティンに向かう理由付けが必要なのじゃ。下手に動いて人質でも取られたら、わしらは迂闊(うかつ)には手が出せんじゃろう?」

 

 ミュールの話を聞く限り、コバルトファミリーは迷宮都市ジャスティンへの出入りを厳しく制限しているようだ。

 だからバックストーリーを描いて少しでも連中の警戒を()く必要があるのか。

 

「それとフライスがどう関係するんだ?」

「お主はジャスティンの特産品であるドフス鋼が高騰(こうとう)している、という話をフライスから聞いたことを覚えておるか?」

「確かアンバーのいかずち丸を作って貰いに行った時の話だったか」

「そうじゃ。ミュール、お主はジャスティンで働くジャイアントがどうなったか知っておるか?」

「そう言えばコバルトファミリーがきてからアイツらの姿を見てないにゃ。一体どうしてなのかにゃ?」

「あの周到(しゅうとう)な連中のことじゃ、ジャイアント・ホールディングスと敵対する愚を犯すことはないじゃろう。恐らく、ダンジョンマスターの権限を使ってジャスティンから強制退去させたのじゃろうな」

 

 殺しも(いと)わないマフィア組織でも世界的企業のジャイアント・ホールディングスには敵わないか。

 ボスの性格が透けて見えるぜ。

 

「それでのう、わしらはフライスの依頼でドフス鋼を採掘しにきたことにするのじゃ。後のことはその時になってから考えればよかろう」

「行き当たりばったりだな……」

「情報が足りないのじゃから仕方ないじゃろう」

 

 アンバーは肩を(すく)めて首を横に振った。

 

「……着いたぞ」

 

 どうやら俺達が話しているうちに目的地に着いたようだ。

 俺は運転席と助手席の間にある決済用の魔道具にギルドカードをタッチして運賃の支払いをした。

 

「カーターよ、わしらの用事が済むまで30分ほど待って貰えるかのう?」

「……いいだろう」

「うむ、助かる」

 

 俺達はタクシーを降りるとフライス整備工場に向かって歩き出した。

 いつものようにアンバーがフライスを呼ぶと、フライスは普通の顔をしてこちらにやってきた。

 今日は可もなく不可もなくということらしい。

 

「よう、二人とも。……後ろのワーキャットの小娘は誰だ?」

「実はかくかくしかじかでのう」

「それじゃ分からん。奥で話そう」

 

 俺達は整備工場の奥にある休憩所に行くとフライスに例の話をした。

 

「……なるほどな、道理でドフス鋼が入ってこないわけだ」

「フライスよ、頼めるか?」

「ああ、これは儂にも得のある話だ。すぐに依頼書を用意しよう」

 

 どうやら交渉は上手く行ったようだ。

 俺とミュールはアンバーの後ろでハイタッチした。

 

「ついでにわしのこん棒コレクションを預けたいんじゃが、倉庫は空いているかのう?」

「確かに採掘した金属を運ぶ為にマジックバッグを空ける必要があるな。こっちだ、ついてこい」

 

 フライスは席を立つと、休憩所の近くにある重そうな金属製の扉の横にある認証装置にギルドカードをタッチした。

 そしてフライスは扉を引き開けて中に入ると壁のスイッチを押して照明を付けた。

 

「凄いにゃ! マジックコンテナがこんなに沢山あるにゃ!」

 

 倉庫の中には数えきれないほど多くの金属製コンテナが置かれており、大きな数字で番号の振られたコンテナの側面には中に入っている金属の種類が書かれていた。

 

 壁には大きな黒板が設置されていて、そこには白いチョークでコンテナの番号と無数の数字が書かれていた。

 これは恐らく在庫の確認の為のものなのだろう。

 

 フライスは一つのコンテナの前で立ち止まると、俺達の方に振り向いた。

 

「これが空のはずだが、念の為に中を覗いてみろ」

 

 俺達がコンテナの蓋を開いて中を覗き込むと、確かに空っぽのようだった。

 ミュールが勝手に隣のコンテナを開けて中を覗いているが、そちらの方には小さな金属が入っているのが見えた。

 

「確かに。では入れるぞ」

 

 アンバーはポーチをがさごそして取り出したこん棒を一つ一つ丁寧にコンテナに収めると、ぱたりとコンテナの蓋を閉じた。

 照明を消してから倉庫を出て扉を閉めると、ガチャリと音がして鍵が掛かった。

 

「これが依頼書だ、後で探索者ギルドに行って正規の書類を発行して貰うといい。それを向こうの探索者ギルドに提出すれば異界の利用を拒否されることはないだろう」

 

 休憩所で待っていたフライスがアンバーに書類の入った封筒を差し出した。

 

「ありがとうフライス。この恩はいずれ必ず返させて貰うわい」

「儂とお前は友人同士だろう。恩に着る必要はない」

「そうか、そうじゃったな」

 

 アンバーは気恥ずかしそうにはにかんだ。

 隣に立つ俺はそれをにこにこしながら眺めていた。

 

「じゃあなフライス、助かったよ」

「ありがとうにゃ!」

「またのう、フライス」

「アンバー、ハルト、そしてミュール。また会える日を楽しみにしているぞ」

 

 こうしてフライスに別れを告げた俺達は近くで待機していたタクシーに向かった。

 

「カーターさん、お待たせしました」

「……次の目的地は宿で間違いないか」

「はい、それでお願いします」

「……任せてくれ」

 

 俺達を乗せたタクシーはまた道路を走り出した。

 それからしばらく走っていると、カーター氏が俺達に質問をしてきた。

 

「……お前達、ティアラキングダムに行くつもりか」

「うむ、先ほど話していた通りにのう。迷宮都市ジャスティンを支配するガルムというコボルトを倒してミュールの母親を助けに行かねばならんのじゃ」

「……急ぎか?」

「ミュール、どうじゃ?」

「ぶっちゃけあんまり急いでないにゃ」

「そうなの? さっきは1日でも早く助けに行きたいって言ってたじゃん」

「あれは言葉の(あや)にゃ。母ちゃんが捕まって何日経っていると思っているのかにゃ? 数日遅れたくらいじゃ何も変わらないにゃ」

 

 確かにミュールの言う通りだ。

 しいて言うなら弟妹(ていまい)が増えるかもしれないくらいだろう。

 

「……お前達に一つ頼みがある」

「頼み? カーターさんの頼みなら嫌とは言いませんが……」

「……俺の頼みを聞いてくれるなら、お前達はティアラキングダムの王都ラブオデッサまでの1ヵ月の道のりを3日に短縮できるだろう」

 

 カーター氏の言葉にアンバーはハッとした表情を浮かべた。

 

「まさか、チューブ荒野を抜けるつもりか!」

「……そうだ。お前達に走り屋の秘密のルートを使わせてやろう」

 

 バックミラー越しに、カーター氏はにやりとハードボイルドな笑みを浮かべた。

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