マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第49話 幼馴染

 俺達の乗るタクシーは鬼の隠れ家亭の最寄りのバス停……の目と鼻の先にある駐車場に止まった。

 隣の建物の看板には小さな文字でカーター交通と書かれている。

 

 ここはタクシードライバーであるカーター氏の事務所兼自宅だった。

 道理で都合よくカーター氏のタクシーがやってくるわけである。

 

「……細かいことは事務所で話そう」

 

 車から降りた俺達はカーター氏の後ろについて建物の中に入っていった。

 事務所の中は普通の小さなオフィスのような感じになっていた。

 壁には出勤表のようなものが貼られており、そこには外に出ているドライバーの名前が書かれた札が掛けられていた。

 

「……客だ! 茶を出してやれ!」

「はーい!」

 

 ハードボイルドな大声でカーター氏が呼び掛けると、事務所の奥から女性の声が返ってきた。

 

「……席に着け。茶でも飲みながらゆっくり話そう」

 

 俺達が向かい合わせになっている応接用のソファに座ると、湯気の立つお茶の入ったコップと茶菓子を乗せたお盆を持ったハーフリングの女性がやってきた。

 女性用のスーツを着ている釣り目の彼女は、小麦色の髪を肩まで伸ばしていた。

 

「お客様、お待たせしました~。うげっ!」

「……うげ?」

「い、いえ何でもありませんことよ、ほほほほほ……」

 

 どっかで見た顔だと思ったらリジーじゃねえか。

 カーター氏の言っていた孫夫婦ってこいつのことかよ。

 

「……お前達、知り合いか?」

 

 カーター氏の後ろに立つリジーがキッと俺を(にら)み付ける。

 分かってるって、他人の振りをしたらいいんだろう?

 

「いえ、彼女とは初対面のはずですが。カーターさん、紹介していただけますか?」

「……彼女の名はリジー。俺の孫の嫁だ」

「ご紹介に預かりましたリジーと申します。以前は私の義祖父(ぎそふ)が大変お世話になったようで、本当にありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそいつもお世話になっているようなもので……」

 

 リジーに合わせて適当に話をごまかした俺は、話題を()らすためにカーター氏に依頼の話を聞くことにした。

 

「ところでカーターさん、頼みたいことというのは?」

「……お前達には俺が面倒を見ている、とあるバードマンの男をサクレアのライブコンサートに連れて行って貰いたい」

「バードマン?」

「……そうだ、その男の名前はファルコという。彼はサクレアの幼馴染(おさななじみ)だ」

 

 幼馴染(おさななじみ)という言葉を聞いて期待に胸を膨らませた俺とアンバーは、前のめりになってカーター氏の話を聞こうとする。

 その隣ではどうでもよさそうな顔をしたミュールが茶菓子をボリボリ(かじ)っていた。

 

 

 カーター氏とファルコの出会いは現在からおよそ15年ほど前までさかのぼる。

 

 当時、趣味の音楽コンサート鑑賞の為にティアラキングダムの王都ラブオデッサを訪れていたカーター氏は、運転中にとある人気(ひとけ)のない公園の木の上で泣いている一人のバードマンの少年を見つけて声を掛けた。

 

「……おい坊主、なぜ泣いている」

「あんた誰だよ」

「……俺はタクシー運転手(ドライバー)のカーターだ。坊主、そこから降りてこい。話を聞いてやる」

「一人になりたいんだ。オレのことなんか放っておいてくれ」

「……ホップソナー」

「うわっ!」

 

 カーター氏が探知スキルで怪音波を放ってバードマンの少年を木から落とすと、彼は起き上がりざまにカーター氏に怒りの声を上げた。

 

「いてて……。いきなり何をするんだ!」

「……聞き分けのないガキを(しつ)けてやったまでだ」

「クソったれな大人め!」

「……いいから話せ。次はもっと痛いぞ」

「分かったよ! 話せばいいんだろ話せば!」

 

 それから公園のベンチに移動したカーター氏がバードマンの少年から聞き出した話はこういうものだった。

 

 バードマンの少年ファルコには一人の幼馴染(おさななじみ)がいた。

 その幼馴染(おさななじみ)の少女の名前はサクレアといって、親が親友同士ということもありずっと一緒に遊んでいたのだという。

 

 サクレアの母親は売れない歌手をしており、その影響を受けたサクレアとファルコはともに歌手を夢見るようになった。

 10歳になり初等学校を卒業した二人は王都ラブオデッサの音楽学校へ入学した。

 

 しかし、才能というものは余りにも残酷であった。

 つぼみが開くかのように才能を開花させていくサクレアとは対照的に、ファルコはどれだけの努力を重ねてもその能力を認められることはなかった。

 

 学校始まって以来の才媛と学校始まって以来の落ちこぼれ。

 周囲から(ささや)かれるその言葉に、次第に二人の距離は離れていった。

 

 そして今日、彼は目撃してしまった。

 サクレアが美しい羽毛をしたイケメン(バードマン基準)と親しげに話している場面を……。

 

「オレはもう音楽学校を辞めるつもりだ。どうせ才能なんてカケラもないしな」

「……坊主は学校を辞めて何をするつもりだ?」

「どこか遠くの迷宮都市に行って、探索者にでもなれば後はどうにかなるだろ」

「……坊主はダンジョンを舐めているな。探索者になれば半年も持たずに死ぬぞ」

「じゃあどうしたらいいんだよ!」

「……俺についてこい。お前を一人前の走り屋に変えてやる」

「!」

 

 カーター氏はファルコの親に話を通して彼の身元を引き受けると、ファルコをアクアマリンに連れて帰った。

 業界では名の知れた音楽通であったカーター氏はサクレアの母親やファルコの両親とも面識があったので、特に反対されるようなことはなかったという。

 

 そしてアクアマリンでカーター氏とその仲間達から指導を受けたファルコは、秘められていた走り屋としての才能を開花させる。

 

 成人した彼はカーター氏から教わった秘密のルートを使って、アクアマリンとティアラキングダムを往復する運び屋になった。

 

 こうしてチューブ荒野を駆ける運び屋ファルコは誕生したのである。

 

 

 ファルコについて語り終えたカーター氏は長話で冷めてしまった茶を飲み干した。

 

「……ファルコはもう15年間サクレアと会っていない。だが俺は見たんだ。あいつがサクレアのライブ会場に入ろうして、諦めて引き返す姿をな」

「ファルコの恋の炎はまだ燃え尽きてはいないということか……!」

 

 アンバーが小さな拳をグッと握ってそう結論付けた。

 

「サクレアの方はどうなんだ? 彼女ももう28歳なんだから、表向き公表していないだけで意中の人くらいいるんじゃないか?」

「……ハルト、お前はサクレアが絶対に歌わない曲があることを知っているか?」

 

 ティアラキングダムの歌姫サクレアは仕事を選ばないことで有名だ。

 だからそんな彼女が歌わない曲なんて言われても、にわかの俺には分からない。

 

「……それは、ラブソングだ」

 

 カーター氏の言葉にミュールがハッとしたような表情を浮かべた。

 どうやら彼女には心当たりがあったらしい。

 

「バードマンは意中の相手にラブソングを贈るのがプロポーズの定番なのにゃ! これはきっとサクレアのファルコに向けたラブレターなのにゃ!」

「……サクレアのライブにファルコを連れて行けば、きっと彼女は特別な曲を歌うことだろう。だから頼む、ファルコをサクレアに会わせてやってくれないか」

 

 そう言ってカーター氏はハードボイルドに頭を下げた。

 

「ええじゃろう。わしらの力で二人をくっつけてやるのじゃ!」

 

 アンバーは自信満々にそんなことを言っているが俺は内心不安でいっぱいだった。

 

「どのような結果になっても構いませんか?」

「……二人を会わせることさえできるのならそれ以上は求めない。これはサクレアファンクラブ上級会員の総意だ」

 

 俺はサクレアとファルコが結ばれることでサクレアガチ恋ファンを敵に回すことを恐れていたので、この言葉を聞いて安堵(あんど)した。

 

 上級会員の総意なら仕方ないね。

 恋敗れて反転アンチになったやつは湖に沈められるがいい。

 

「あちしもサクレアのライブが見られるのかにゃ? 今からチケットが取れるか心配にゃ」

「……その心配はない」

 

 カーター氏は羽のデザインがあしらわれた金の指輪から一枚のチケットを取り出してテーブルに置いた。

 金で(ふち)取られたその豪華なチケットには、サクレアファンクラブ上級会員専用コンサートチケットと書かれている。

 

「……上級会員にのみ許されたスペシャル席のチケットだ。一枚で4人まで参加できる。これがお前達への報酬だ」

「ほ、本物かにゃ!?」

 

 ミュールがチケットをそっと優しく手に取って天にかざした。

 どうやらこのチケットには偽造防止の透かしが入っているようだ。

 

「……俺は会員No.007だ」

「マ、マジかにゃ……。ナンバーズなんて初めて見たにゃ……!」

 

 その筋の人間にしか通用しない業界用語を使わないで欲しい。

 

「ミュールよ、これはわしが大事に預かっておくとしよう」

 

 アンバーがミュールの手からチケットを奪ってポーチに仕舞った。

 

「にゃっ!? これはあちしのにゃ! 返して欲しいにゃ!」

「ミュールに持たせて無くされる方が困る。リーダーのアンバーに従えないならお前はライブに連れて行かないからな」

「くっ……!」

 

 そんなに葛藤(かっとう)するようなことじゃないだろう。

 目先の利益に釣られるのがこの猫娘の悪いところだな。

 

「……話を進めていいか?」

「あ、すいませんカーターさん。続きをどうぞ」

「……ファルコは今、この街に滞在しているはずだ。夜にここでコンタクトを取るといいだろう」

 

 カーター氏が差し出したスナックの名刺をアンバーが受け取る。

 

「カーターよ、わしらが他に聞いておくべきことはあるかのう?」

「……そうだな、サクレアの次のライブは8日後にティアラキングダムの王都ラブオデッサで行われる。きっとあいつは(しぶ)るだろうから、その時はふん縛ってでも連れて行ってくれ。頼んだぞ」

「うむ、任せるがよい」

 

 こうして俺達はファルコを連れてサクレアのライブコンサートに行くことになったのだった。

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