マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第50話 運び屋ファルコ

 カーター交通の事務所を出た俺達は夜までどう過ごすか相談することにした。

 

「アンバー、夜になるまでどう時間を潰そうか?」

「そうじゃのう。今日のうちに挨拶回りはしておくとして、ミュールは何かやっておきたいことはあるかのう?」

「あちしはお腹が減ったにゃ……」

 

 現在時刻は13時過ぎである。

 どうやら出された茶菓子だけでは彼女のお腹を満たすには足りなかったようだ。

 

「ふむ。ここは一つ、わしらのお勧めの店で優雅にランチと行くかのう」

「行っちゃいますか、喫茶リブトン」

 

 バスに乗って人魚通りの商店街に移動した俺達は、いつものように喫茶リブトンでランチを済ませ、それから顔見知りに挨拶回りに行った。

 

 魔道具工房バタフライのアイリス(アルメリアは留守だった)、アルストツカ洋裁店のマーヤ(ミュールのフードをネコミミ型のよく聞こえるものに新調した。頭巾はもうやめておいた方がいいと思ったのだ)、探索者ギルドのエクレア(正規の依頼書を発行して貰った。彼女にはティアラキングダムのお土産を頼まれた)。

 

 ついでにグンシモール迷宮前店で以前から予定していた買い物も行う。

 ここでは四層で使う予定だったキャンプセットやいくらかの保存食を購入した。

 

 フライスのバイクがあるとはいえ、万が一ということもある。

 徒歩での旅も想定しておいた方がいいだろう。

 

 そうこうしているうちに日が暮れたので、俺達はいよいよファルコに会いに行くことになった。

 

 

 夜の道を歩いた俺達は歓楽街の裏通りにある「スナックしずよ」までやってきた。

 細い階段を降りて、地下1階にある葉っぱのマークの書かれた扉を引き開ける。

 

 店の中はとても狭く、カウンター席の他には一つのボックス席しかなかった。

 その小さなスナックの店内にはムーディーなサクレアの曲が流れている。

 どうやらくるのが早かったようで、客はまだ一人の獣人しかいないようだ。

 

「いらっしゃい。あっ、初めてのお客様ですね! スナックしずよへようこそ!」

 

 スナックのママをしているワーウルフの女性が入店の挨拶をしてきた。

 俺は挨拶も抜きに、彼女にファルコのことを聞くことにした。

 

「ここにファルコという男がいると聞いたんだが、知っているか?」

「ええ、彼なら毎日のようにきますよ。もう少ししたら会えると思います」

「ならよかった。どうやら手ぶらで帰らずに済みそうだ」

「ファルコくんがやってくるまで、ボックス席でゆっくりと待つといいでしょう。みなさん、お飲み物は何にしますか?」

「わしらはお大臣じゃから、値段は気にせず好きなものを持ってくるとええ。それと、夕食がまだじゃから何か摘めるものもあると嬉しいのう」

「あちしはがっつり食べられるものが欲しいにゃ!」

「じゃあそういうことで、よろしくお願いします」

「それはありがたいですね。うちの常連はケチな人が多くて困っていたんですよ」

 

 スナックのママがカウンター席に座る太った獣人の男に目を向けると、彼は背中を丸めて(ちぢ)こまった。

 

 少し待つと酒の瓶とドリンク、そして作り置きの軽食をお盆に乗せたママがボックス席に座る俺達の前までやってきて、テーブルに並べながら自己紹介を始めた。

 

「わたしはこのスナックの店主のシズヨといいます。あなた達の名前を教えていただけますか?」

「わしはアンバー。そっちの男がハルト・ミズノでそこのワーキャットがミュールじゃ。よろしくのう、シズヨよ」

「もしかして、タヌヨシくんの言っていた作家のアンバーさんという方はあなたのことなのでしょうか?」

「お主、タヌヨシの知り合いなのか?」

「ええ、良くここにきますから。彼なら今もそこに座っていますよ」

 

 シズヨの声にカウンター席に座る太った獣人の男がびくりと肩を震わせた。

 

「どうしたんですタヌヨシくん、いつもみたいに元気にお話しないんですか?」

「シズヨちゃん……」

 

 泣きそうな顔をしながらこちらに振り向いてきた太った獣人の男の正体はポンポコ出版の社長、タヌヨシであった。

 

「おお、タヌヨシではないか! 壮健であったか?」

「アンバーさん、その節はどうも……本当に、本当にありがとうございました」

「わしが無事に作家でびゅーできたのも全部お主のおかげじゃからのう。ほれ、こっちにくるがよい。今日はわしが好きなだけ(おご)ってやろう」

「あ、ありがとうございます……」

 

 タヌヨシはボックス席までやってきて、空いていた俺の隣の席に座った。

 俺は彼の肩にガッと腕を回して笑顔で挨拶した。

 

「よう、タヌヨシさんよぉ……。会社の経営は順調かい?」

「ええ、おかげさまで新しいオフィスに移れそうです」

「そりゃあよかった。お前の会社にはまだ潰れて貰っては困るからな……」

「お主ら、妙に仲が良くないか? わしはちょっと心配じゃ」

「おいおい、俺がアンバー以外の人間に手を出すような男に見えるかい?」

「見えんから困っておるんじゃろう」

「ははは、まあいいだろうそんなこと。ほら飲むぞタヌヨシ!」

「い、いただきます……」

 

 俺がタヌヨシに高い酒を飲ませていると、店の扉が開いて新しい客が入ってきた。

 青い羽毛をした鳥頭のバードマンの男だ。

 彼はチャラチャラした兄ちゃんみたいな派手な恰好をしている。

 

「シズヨちゃーん、お酒ちょーだい!」

「いらっしゃいファルコくん。あなたにお客様がきていますよ」

 

 どうやら彼が目的の人物、ファルコだったようだ。

 

「客? ここにオレの客がくるなんて珍しいこともあるもんだぜ」

 

 ファルコはカウンター席から椅子を引っ張ってくると、俺達のボックス席の横に座って鳥の足を組んだ。

 

「オレを尋ねたんなら知ってるとは思うがまずは自己紹介をしよう。オレの名前はファルコ、運び屋ファルコだ。お前らは誰の紹介でここにきたんだ?」

 

 アンバーが先ほどと同じやり取りをする。

 

「わしはアンバー。そっちの男がハルト・ミズノでそこのワーキャットがミュールじゃ。よろしくのう、ファルコよ」

「早速だが本題に入ろう。俺達はチューブ荒野を抜けてティアラキングダムに向かおうと思っている。最終目的地は迷宮都市ジャスティンだ」

 

 それを聞いたファルコは怪訝(けげん)な顔をした。

 

「おいお前ら、今のジャスティンがどうなっているのか知ってて言っているのか?」

「当然にゃ! あちしらはガルムのやつをとっちめる為に迷宮都市ジャスティンに向かうのにゃ!」

 

 ファルコは両翼を上に挙げて肩を(すく)めると首を振った。

 

「悪いことは言わないからやめておけ。今のコバルトファミリー相手に戦争なんて、命がいくらあっても足りないぜ」

 

 ファルコの忠告に、アンバーはいかずち丸を取り出して答えた。

 

「コバルトファミリーとギガンティックタイタン、どっちが強いのかわしに教えて貰えるかのう?」

 

 この店は狭いんだからそういうのはやめて欲しい。

 メツのイボイボがミュールの顔にむぎゅってなっているぞ。

 

「てめぇ、そのこん棒……リトルジャイアントのアンバーか。カーターのおっさんの紹介だな? クソったれ、これは断れねえじゃねえか……」

「嫌なら嫌と言ってくれてもええぞ? わしらは別に急いではおらんからのう」

「やる気満々の(くせ)に言うじゃねえか。お前ら、旅の用意はできているか?」

「ああ、昼のうちに済ませてきたぞ」

「よし。明日の早朝、カーター交通で落ち合おう。お前らを3日でラブオデッサまで届けてやる」

 

 ファルコがいやいやながら仕事を引き受けてくれたので、ようやくアンバーがいかずち丸を仕舞ってくれた。

 不機嫌そうに軽食を摘んでいるミュールの顔には赤い跡が残っている……。

 

「悪ぃなシズヨちゃん。オレ、しばらく帰れそうにないぜ」

「いいのよファルコくん。今日はアンバーさんがファルコくんの分まで支払ってくれるから。ね?」

「依頼料の前払いじゃ。しっかり飲んで英気を養うがよい」

「他人の金で飲む酒ほど美味いものはねぇからな。シズヨちゃん、いつものくれ!」

「はーい!」

 

 それからしばらくの時が経過した。

 俺達が楽しく酒を飲みながら雑談をしていると、シズヨが持ってきたカクテルを何杯も飲んでぐでんぐでんに酔っ払ったファルコが何やらぐちぐち言い出した。

 

「ちくしょお~オレはぁ~、ダメなやつなんだぁ~」

「のうお主、どうダメなんじゃ?」

「うううぅぅ~、サクレアぁ~」

 

 泣き出したファルコの肩をシズヨさんがポンポンと叩いて(なだ)めた。

 

「ファルコくんは酔っ払うといつもこうですからね。気にしないでください」

「シズヨさんは、ファルコとサクレアの関係は知っているんですか?」

「ええ。素面(しらふ)に戻ったファルコくんは何も覚えていないみたいですけれど、彼には散々愚痴を聞かされましたからね」

「初恋に敗れた男は女々(めめ)しくて困りますなあ」

 

 俺の調査によるとこのタヌヨシという男は妻子持ちである。

 妻は非常に家計に厳しいようで、彼は少ない小遣いでこのスナックに通っている。

 

 だからといって、アンバーに詐欺を働いていい理由にはならないけどな。

 俺は未だにこの男のことを信用してはいなかった。

 

「泣くにゃファルコ! あちしらがオマエをサクレアに会わせてやるにゃ!」

「オレはほんとぉ~に会えるのかぁ~? サクレアにぃ~」

「そうにゃ! あちしらに任せるにゃ!」

「ミュール、ファルコが素面(しらふ)の時にはそのことは言うなよ。逃げられるから」

「分かってるにゃ!」

「心配だなぁ……」

「サクレアぁ~!」

 

 こうしてアクアマリンで過ごす最後の夜は()けていったのだった。

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