マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第51話 チューブ荒野を越えて

 翌朝、早起きした俺達が宿の酒場で朝食を取っていると、パジャマを着たモモちゃんがやってきてとても悲しそうな顔をしながらこう尋ねてきた。

 

「お姉ちゃん達、出て行っちゃうの?」

「親父さんに聞いたのか。そうじゃ、わしらはこれから旅に出るのじゃ。いつ帰れるかは、とんと見当がつかんわい」

「やだ! もう会えなくなっちゃうなんて! ずっとここにいてよ!」

 

 涙目のモモちゃんがアンバーに抱き着いて必死に懇願(こんがん)した。

 アンバーは心苦しそうな表情を浮かべながらも、モモちゃんにこう告げた。

 

「それは……できん。わしらには命を()けてでもやらねばならぬ使命があるのじゃ」

 

 ファルコをライブに連れて行ってサクレアに会わせるという使命がな!

 

「モモ、もうわがまま言わないから……美味しくない料理もあげないから、だから、だから……」

「モモちゃん……」

 

 モモちゃんはことここに(いた)り6歳児として大きな成長を遂げようとしていた。

 アンバーは抱き着いていたモモちゃんを引き()がすと、彼女の両肩に小さな両手を置いて語り掛ける。

 

「モモ、わしらは必ずここに帰ってくる。じゃからその時、お主の強く大きく成長した姿を見ることができるのを楽しみにしておるぞ」

「お姉ちゃん……分かった、モモ頑張る。だから絶対絶対、帰ってきてね!」

「うむ。約束しよう」

「嘘ついたら罰ゲームだからね!」

「ええじゃろう。どんな罰でも受けてやろうぞ」

 

 そう言うとアンバーはにっこりと笑みを浮かべてモモちゃんと離れた。

 

「モモちゃん、俺には何かないの?」

「お兄ちゃんは別にいいかな」

「そんな……!」

 

 この言葉には流石の俺も大きなショックを受けた。

 これまで怪我の治療とかで結構好感度を稼いでいたつもりなんだけどな。

 彼女にとって俺はヒーリングの杖程度の価値しかなかったようだ……。

 

「ハルト、よしよししてやろう」

「ありがとう、アンバー……」

 

 アンバーに頭をなでなでされている俺の向かいの席では、ミュールが山盛りの小魚をぼりぼりと(かじ)っていた。

 

 

 朝食を済ませた俺達は親父さんに別れを告げて宿を引き払うと、最寄りのバス停近くにあるカーター交通の事務所までやってきた。

 

 事務所の隣の駐車場には武骨なオフロードカーが鎮座(ちんざ)しており、そのボンネットの上には青い羽毛をした鳥頭のバードマン、ファルコが腰掛けていた。

 

「よぉお前ら、早かったな」

「ファルコよ、昨日のことはちゃんと覚えておったようじゃな」

「オレは記憶力だけはいいんだよ。酒を飲まない限り大抵のことは忘れないぜ」

「飲んだ後のことは?」

「……覚えてない」

 

 どうやらちゃんと例の話の記憶は飛んでいたようだった。

 まずは一安心といったところか。

 

「まあいいお前ら、早く乗りな。込み入った話は車の中でしようじゃねぇか」

「そうだにゃ! 早くティアラキングダムに向かうのにゃ!」

 

 俺達がファルコの車に乗り込むとブゥンとエンジン音を鳴らした車が走り出した。

 

 アクアマリン市を東へ真っ直ぐに進んだオフロードカーは、フライス整備工場の前を通り過ぎてチューブ荒野を駆け抜けていく。

 

 スピーカーから流れる疾走感のあるサクレアの歌声にノリノリな俺達。

 そんな中、ファルコが今いるチューブ荒野についての話題を投げかけてくる。

 

「お前らはこのチューブ荒野が大陸有数の危険地帯とされる理由を知っているか?」

「わしは知っておるぞ」

「知っているのかアンバー」

「うむ。このチューブ荒野の(いた)るところにはデスマウンテンのダンジョンから抜け出した魔獣がコロニーを作っておるのじゃ。そして特に危険なのは……」

「チューブニオンデスワームにゃ!」

「そうだ。連中のせいでかつては豊かな森林地帯だったこの中央大陸の中心地は、草の根一本生えない荒野に変えられたんだ」

 

 俺もこの世界の歴史や地理についてはそれなりに調べているから知っている。

 チューブニオンデスワームは植物、とりわけ木質を好む。

 大きな口で地面をガリガリと削り取って根っこごと食べてしまうのだ。

 

 こいつは非常に攻撃性が高く、近寄るものならそのずらりと並んだ歯で何でも(かじ)りついてしまう。

 その上めちゃくちゃでかくて繁殖力も高いという最悪の生態をしている。

 

 このチューブニオンデスワームの生息域の封じ込めは、統一帝国崩壊から続く戦乱の世にあっても何よりも最優先されたという。

 そうしていなければ、この中央大陸全土はチューブニオンデスワームによって草の根一本生えない荒野に変えられていたことだろう。

 

「オレ達はこれからチューブニオンデスワームの巣を突っ切ることになる」

「ほ、本当に大丈夫なのかにゃ!?」

「カーターのおっさんが開拓したルートだ。何も心配はいらないさ」

 

 俺達を乗せたオフロードカーは荒野を駆け抜けて、デコボコとした起伏のある岩石地帯までやってきた。

 

 そこには遠目からでも分かるくらい、うぞうぞと(うごめ)く巨大なワームのコロニーがあちこちに転がっていた。

 その隙間を()うようにして、オフロードカーは走り抜けていく。

 

「思ったよりも大したことないのにゃ。もっといっぱい襲い掛かってくるものだと思ってたにゃ」

「今は雨期明けだからな。連中は満腹の状態なら強く刺激しない限り反応はしない」

「ふーん……」

 

 どうでも良さそうに返事をしたミュールは小腹が空いたのか、ポーチをごそごそして小袋を取り出すと何かを食べ始めた。

 

「ああそうそう言い忘れていた。連中の一番の好物は植物の果実だ。どれだけ腹が減っていようが、間違ってもここでイツカデーツなんか取り出すんじゃないぞ」

 

 イツカデーツはアクアマリン市の特産品だ。

 名前の通り5日で成長して枯れるのが特徴なのだが、馬鹿みたいに水を食うのでこの街でも雨が降った時くらいにしか作られない珍しいフルーツだ。

 

 この間の長雨ではとても沢山のイツカデーツが栽培されたので、今は大量のドライイツカデーツが安価で流通していた。

 栄養価が高く保存食として優秀なので俺達のマジックバッグにも沢山入っている。

 

「おいミュール、お前何を食べているんだ?」

 

 俺の言葉にミュールはびくりと身体を震わせた。

 ま、まさかこいつ……。

 

「にゃ、にゃー……もっと早く教えて欲しかったにゃ……」

 

 ミュールの見せたその小袋には、ドライイツカデーツが詰まっていた。

 

「早くそれを仕舞え!」

 

 俺が叫んだと同時にズゴゴゴゴと辺りから地響きが鳴り響く。

 周囲にいたチューブニオンデスワームが、ガリガリと地面を削りながらこちらに向かって集まってきていた。

 

「畜生! お前ら、飛ばすからしっかり掴まっていろよ!」

 

 ファルコが強くアクセルを踏み込むと、オフロードカーがぐんぐん加速する。

 

 ジャイアントよりもでかい口をしたチューブニオンデスワームの突進攻撃を、ファルコはその卓越したドライビングテクニックにより回避していく。

 

 だがしかし、その先に待っていたのは更なるチューブニオンデスワームのコロニーだった。

 もはや逃げ場はどこにもない。

 

「チッ、ここまでか……!」

「いいや、まだ諦めるんじゃない! アンバー、足を!」

「分かったのじゃ!」

 

 シートベルトを外した俺はアンバーに足を支えられながらオフロードカーから身を乗り出すと、装具から白くどでかいこん棒を取り出して青い弾丸を連射した。

 進路の左右にいたチューブニオンデスワームが発生した巨大な氷塊に固められる。

 

 アイシクルカノンの杖を仕舞った俺は、今度はブレイズノヴァの杖を取り出すと構えてチャージを始めた。

 杖先に頭サイズの炎の球体が発生して、その中を蒼炎がぐるぐると渦巻いていく。

 

「プロテクション!」

 

 プロテクションを発動すると、半透明の青い障壁が車体を包み込んだ。

 俺の器用さでは持って数秒だが……!

 

「そのまま突っ切れ! ブレイズノヴァ!」

 

 正面のチューブニオンデスワームに直撃した蒼炎の球体が急拡大する。

 金属さえ溶かす灼熱の炎の中を、青いバリアを身に(まと)ったオフロードカーが真っ直ぐに突き抜けた。

 

「ヒューッ! やるじゃねえか!」

 

 魔力Sのプロテクションに守られたオフロードカーには傷一つない。

 背後のチューブニオンデスワームのコロニーはどんどん遠くに消えていった。

 

 俺はブレイズノヴァの杖を仕舞うと、自分の席にどしんと腰を下ろしてシートベルトを身に着けた。

 

「まさに危機一髪といったところかのう。わしも肝が冷えたわい」

「ファルコ、もう大丈夫なのか?」

「ああ、もうコロニーは抜けた。ここから先は安全だぜ」

「ホッとしたにゃ……」

「ミュールよ、お主は後でお仕置きじゃからな。覚えておくがよい」

「にゃ!?」

 

 こうして岩石地帯でのピンチを切り抜けた俺達の乗るオフロードカーは、再び荒野を駆け抜けていくのだった。

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