マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第52話 アルビオン平原

 青白い月に照らされる夜の闇の中、バシン、バシンという音が廃墟に響いていた。

 

「にゃっ! にゃっ! にゃああああああ!」

 

 そこではお尻を丸出しにしたミュールがアンバーから百叩きの刑に処されていた。

 俺とファルコはそれを無視して、粛々(しゅくしゅく)とキャンプの準備を進めている。

 

 あの愚かな猫娘のせいで、ティアラキングダムに着く前に死ぬところだったんだ。

 この程度の罰で済むだけありがたいと思って欲しいくらいである。

 

「ハルト、これよろしく」

「おう」

 

 俺は石の触手を操ってファルコから受け取った芋の皮を()くと、一口大にスパスパと切断した。

 切り分けられた芋は石の滑り台を滑って大鍋にぽちゃぽちゃ落ちていく。

 

「変なスキルの使い方をするなお前……」

「そうか? 魔導士(ウィザード)ならこれくらい普通だと思っているんだが」

「いや絶対変だぞ。オレの知ってる魔導士(ウィザード)はもっとこう、じゃらじゃら身に着けた装具に入れた杖であれこれ運用するんだよ」

 

 俺の魔道スキルの扱い方は、エクレアとプリメラさんのやり方を真似た上で前世のサブカル知識を詰め込んだものだ。

 

 器用さEをごまかす為に色々とやったせいでなんか変なことになっているという自覚はあるが、ハムマン職人の道を極める為には手段は選べないのである。

 

「それにしても、こんなにいい場所がずっと放置されているなんてな。誰も住もうとは思わないのかね」

 

 荒野を抜けた俺達は、草原にぽつりと浮かんだ廃墟でキャンプをしていた。

 

 ここには統一帝国時代の遺構であるスタック銅製の建物がいくつも遺されている。

 そしてそのうちの一つの建物がカーター氏とその仲間達によって整備されており、旅人が快適に寝泊りするのに十分な環境が用意されていた。

 

「近くに街がないとどうにも不便だからな。ダンジョンでもあるならまた話は別なんだが……」

 

 ファルコが鍋の味見をしながらそう俺に返事をする。

 どうやらちょっと塩が足りなかったらしい。

 ファルコは岩塩を鍋の上でガリガリと削った。

 

「そういうもんか」

 

 俺達が雑談をしながら飯の支度をしていると、建物の中から出てきたアンバーがこちらに向かってとことこ歩いてきた。

 その肩にはだらりと身体を伸ばしたミュールがかけられている。

 

「ハルト、終わったぞ。治してやるとええ」

「ふぎゃっ!?」

 

 アンバーがミュールをごろりと地面に転がすと、その痛みで悲鳴を上げたミュールが赤く()れ上がった尻を上にして、くの字の状態になった。

 

「うっわ、痛そう……」

「は、早く治して欲しいにゃ……」

「しょうがないな」

 

 俺がミュールの尻に片手をかざしてハイヒーリングを使うと、青い光がミュールの尻に流れ込んで傷を癒していく。

 

「にょほ~、効くにゃあ~」

「何だこいつ……」

 

 恍惚(こうこつ)の笑みを浮かべるミュールにファルコがドン引きしている。

 治療が終わって復活したミュールは尻を仕舞うと元気よく飯を催促(さいそく)した。

 

「あちし復活にゃ! お腹が減ったから早く飯くれにゃ!」

「お仕置きが足りんかったかのう……?」

「ここまでやってこれならもう何をやっても無駄だろ。好きにさせてやれ」

 

 こいつならギルド本部の懲罰が終わった後もケロリとしてそうだな。

 彼女が悪の道に進まないことだけを祈りたい。

 

「ほらメシができたぜ。お前ら、食え食え」

 

 ファルコは大鍋から大きなお椀に中身をよそって一人一人に差し出した。

 そのお椀の中に入っている赤みがかった汁には、ゴロゴロとした具材がこれでもかというくらいに転がっている。

 

 汁から立ち昇る芳醇(ほうじゅん)な香りに我慢できずスプーンですくって食べてみると、豆味噌の濃厚な旨味と唐辛子のピリリとした辛さが口いっぱいに広がっていく。

 

 美味い……。

 

「はふ、はふっ、おお、野外で食べる汁物は最高じゃのう」

「うみゃ! うみゃいにゃ!」

「お代わりはいくらでもあるぜ。好きなだけ食え……」

 

 草原の夜、冷え込んだ寒空の下で食べる唐辛子鍋は格別のものだった。

 鍋のシメに入れたうどんまですべて平らげた俺達は、片付けを終えると膨れた腹を抱えて赤褐色の建物の中に消えていったのだった。

 

 

 すべては月光歴1976年、中央大陸中東部のアルビオン平原から始まった。

 

 草原に行き倒れていた旅人の男を見つけた心優しい遊牧民の少女オデッサは助けた彼を親身に介抱した。

 

 少女の献身によって目覚めたその男はミン・ノルと名乗った。

 彼は自身の名前以外のすべての記憶を失っていたが、それにもめげずにオデッサとともに草原で羊の世話をしながら楽しく暮らしていた。

 

 しかしその平穏な日常は長くは続かなかった。

 中央大陸東部に覇を唱えようとするグライズ帝国の魔の手が、ついにこのアルビオン平原まで伸びてきたのだ。

 

 馬に乗った武装した兵が遊牧民を攻め立てると、瞬く間に草原が血に染まった。

 男は殺され、若い女性は次々に兵に捕えられるといずこかへ連れ去られていった。

 

 ミン・ノルとオデッサの二人は(から)くもその魔の手から逃れると、グライズ帝国の手が及ばない安全な場所を求めて放浪の旅に出た。

 

 こうして二人のグライズ帝国との長い戦いの歴史が幕を開けたのである。

 

 ――10分で読めるティアラキングダムの歴史

 

 

 俺達を乗せたオフロードカーは、中央大陸中東部のアルビオン平原を走っていた。

 空にはぽつりぽつりと白い雲が流れており、その間から明るい太陽の日差しが降り注いでいる。

 

 ずっと同じ車で移動していた俺達は既に話せるような話題も尽きており、ミュールはぐうぐうと鼻ちょうちんを浮かべながら昼寝をしていた。

 

「お主、あっちに羊がおるぞ」

 

 アンバーが指差した先、ずっと遠くに羊を追う馬に乗った遊牧民の姿が見えた。

 

「本当だ。ちょっと見てみるか」

 

 俺はポーチから双眼鏡を取り出して覗き込んだ。

 こんなこともあろうかと、一昨日買い物に行った時に買っておいたのである。

 

 上手いことピントを合わせると、どうやら見えていたのは馬に乗った遊牧民ではなく、下半身が馬のケンタウロスだったようだ。

 とてつもない巨乳の若い女性で草原を駆ける馬体に合わせて、たわわな乳がゆっさゆっさと揺れている。

 

「こ、こいつはすげぇ……!」

「何が凄いんじゃ? は、早くわしにも見せんか!」

「絶対嫌だ。これは俺だけのものだ……!」

 

 アンバーが俺の双眼鏡を奪おうとするが、俺は(かたく)なに手放そうとはしなかった。

 あの素晴らしいおっぱいを一秒でも長く眺めていたかったのである。

 

 すぐに姿が見えなくなっちゃったので、俺はアンバーに双眼鏡を手渡した。

 

「どれどれ……むう、どれが凄いんじゃ?」

「凄いのはもう行っちゃったよ」

「なんと、残念じゃのう」

 

 しょんぼりとした顔をしているアンバーもかわいい。

 車の窓枠に右翼を置き、左翼でハンドルを握って運転しているファルコがバックミラー越しに、フンと鼻を鳴らした。

 

 車のスピーカーからは草原をイメージしたサクレアの曲が流れ続けていた。

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