マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第62話 月夜の決戦

 時刻は午後6時過ぎ。

 準備を終えた俺とアンバーは、ゴブリンレジスタンスを率いてホテルを出発した。

 

 太陽が沈み青白い月が天に輝く中、俺とアンバーの二人は横並びになって大通りの中央を練り歩く。

 その後ろには、マスケット銃に似た魔杖(まじょう)を縦に構えた軍服のゴブリン兵が整然と並んで付き従っていた。

 

 道行くジャスティン市民達は、その異様な光景に足を止めてこちらを眺めている。

 大通りは先回りしていた別動隊のゴブリン兵に封鎖されており、一切の車両が侵入できないようになっていた。

 

 しばらく歩くと、俺達は探索者ギルドの隣に建っている赤褐色の城を囲む城壁の前までやってきた。

 城壁の上にいた見張りがこちらを見て驚きつつも、大きな声で誰何(すいか)する。

 

「お前達は何者だ!」

 

 俺は無言で白くどでかいこん棒を取り出すと青い弾丸を撃ち放ち、城壁の上にいた見張りを巨大な氷塊に閉じ込めた。

 時間がないんだ、運が悪かったと思って諦めてくれ。

 

「ハルト」

「ああ」

 

 こん棒を仕舞った俺は城門の前に立つと、ポーチから取り出したマジックボムの安全ピンを抜いてレバーを握り魔力を込める。

 ぽいと投げると、数秒後にマジックボムの周囲5メートルほどの範囲が消滅して城門に大穴が開いた。

 

 俺は石を操って地面を(なら)してクレーターを埋めると、アンバーとともに城壁の中に侵入した。

 そこは芝生の生えた広い庭になっており、赤褐色の城からは長く突き出したバルコニーが顔を覗かせていた。

 

 バルコニーの先には台座に乗せられた大きな鳥籠が置かれており、その中には一人の美しい金色の羽毛をしたハーピィの女性が閉じ込められていた。

 

 青白い月明かりに照らされた中庭に、サクレアの美しい歌声が響き渡る。

 楽器一つないのにまるでオーケストラの如きイントロミュージックが流れている。

 これこそがサクレアの持つ(たぐい)まれなる歌唱スキルの成せる技だった。

 

「ガルムよ、おるのじゃろう! 出てくるがよい!」

 

 腕を組んだアンバーが大きな声で叫ぶと、バルコニーの手すりの向こうから一人の獣人が姿を現した。

 

 額に瞳を模した大きな刻印を持つ、毛むくじゃらのコボルトの男。

 迷宮都市ジャスティンを乗っ取ったコバルトファミリーのボス、ガルムだ。

 

「てめぇ、アクアマリンからきた探索者だな! 俺様の部下を何処(どこ)へやった!」

「あやつらなら先にあの世で待っておるわい! どうだ、怖気(おじけ)づいたか!」

 

 俺はゴブリンに連れて行かれた彼らがその後どうなったかは知らないが、まあ多分死んでいるだろうからそういうことにしておこう。

 

猪口才(ちょこざい)な……! ゴブリンともども、皆殺しにしてくれるわ!」

 

 アンバーの挑発に乗ったガルムは虚空から青白く輝く宝玉を取り出して右手に掴むと、バルコニーの手すりを乗り越えて飛び降りた。

 

 ガルムは空中でみるみるうちに大きくなって、身の丈4mもあるジャイアントサイズの大男に変化する。

 そして彼はズシンと大きな音を立てて芝生に降り立った。

 

「わしがお主の相手をしてやろう!」

 

 アンバーがいかずち丸を取り出して前に出ると、それに応えるようにしてガルムが首輪から巨大な両手斧を取り出して構えた。

 

「虫けらどもめ、踏み潰してやる!」

 

 いかずち丸を構えたアンバーがダッとガルムに突進すると、アンバーに向けて大斧が勢いよく振り下ろされた。

 

 アンバーはいかずち丸で真正面からその大斧を迎撃した。

 金属の打ち合わされるギイィィィンという金切り音が響く。

 

「チッ、ハーフリングの癖《くせ》によぉ!」

 

 巨人の膂力(りょりょく)でアンバーを弾き飛ばしたガルムが踏み込んで大斧を振り回す。

 それをアンバーは時に回避し、時には迎撃していく。

 

「甘い甘い、お主の力はその程度か!」

 

 アンバーとガルムが楽しそうに戦っているのを遠目に、俺は装具から取り出したマナバレットのこん棒を高く掲げて振り下ろした。

 

「撃て!」

 

 後ろに並んでいるゴブリン兵が魔杖(まじょう)を構えると、ガルムの顔にマナバレットを打ち込んでいく。

 

 青い豆鉄砲がバチバチと音を立てながらガルムの毛皮に弾かれている。

 俺達の嫌がらせにイライラを(つの)らせたガルムが大きな声で叫ぶ。

 

「うざってぇな! 先にてめぇらから始末してやる! アオォォォォン!!!」

 

 ガルムが遠吠えをすると、城の扉がバンと開き中から武装した獣人の男達がぞろぞろと出てきた。

 それを先導するのは大剣を持ったガラの悪いワータイガーの男だ。

 

「お前ら、このゴブリンどもを始末しろ!」

『うおぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

 ガルムの指示を受けた獣人の男達が雄叫(おたけ)びを上げながら一斉に走り出した。

 

 ゴブリン兵はそれに対してマナバレットを撃ち込むが、(かわ)されたり武器で弾かれたりしてまるで効いていない。

 突出したワータイガーの男が大剣を構えて真っ直ぐ俺に向かって突っ込んでくる。

 

「お前が(かしら)か! おっ()んじまいな!」

 

 高速で振り下ろされた大剣に対して俺は――

 

「—―プロテクション!」

 

 ――すべてを拒絶する半透明の青い障壁で対処した。

 

「なっ……!」

 

 意表を突かれて姿勢を崩したワータイガーの男に俺はこん棒の先を向けた。

 

「騙して悪いね」

 

 秒間10発の青い大谷魔球がワータイガーの男を滅多打ちにする。

 ボロ雑巾のようになって崩れ落ちたワータイガーの男を蹴飛ばして、俺は後ろから(せま)る獣人の男達にこん棒の先を向けた。

 

「マナバレット・フルバースト!」

 

 突っ込みすぎて引くに引けない状態になったガルムの部下達を、俺はスーパーマナバレットで片っ端からハチの巣にしていく。

 

 その光景を見て怖気(おじけ)づいたガルムの部下達はしっぽを巻いて逃げ出すが、そうは問屋が(おろ)さない。

 俺は白くどでかいこん棒を取り出すと城の門に向かって青い弾丸を撃ち放った。

 

「アイシクルカノン!」

 

 城の出入口が巨大な氷塊で封鎖され、ガルムの部下達の逃げ場は完全に失われた。

 氷を見上げて唖然(あぜん)とする男達の背中にゴブリン兵の青い弾幕が降り注ぐ。

 あっという間にガルムの部下達は全滅した。

 

「使えないゴミどもめ、かくなる上は俺様がやるしかないようだな……!」

 

 悪態をついたガルムが大斧を地面に突き刺してグッと身体に力を入れる。

 どうやら彼は化身スキルを使おうとしているようだ。

 

 今、こいつに本気を出されては困る。

 俺はガルムに対して大きな声で呼び掛けた。

 

「ガルム、聞きたいことがある!」

 

 城に潜入したクロとミュールによる人質の救出が終わるまで、俺達が時間稼ぎをしなければならないのだ。

 俺の言葉を無視するガルムに、さらに強く呼びかける。

 

「お前はなぜダンジョンマスターになろうとした!」

 

 彼の琴線(きんせん)に引っかかったのだろうか、身体の力を抜いたガルムは俺に顔を向けて返事をした。

 

「金の為だ、文句あるか!」

「ではなぜ女を集める! サクレアまで誘拐して、お前は何がしたいんだ!」

「気晴らしの為だ、悪いか!」

「悪いに決まっているじゃないか!」

「てめぇらは俺様がこのジャスティンのダンジョンマスターになりどれだけ苦労したか知らないだろうが……!」

 

 ガルムは握った拳をわなわなと震わせて心中(しんちゅう)を吐き出した。

 

「毎日毎日好きでもないゴブリンの女を抱かないといけねぇ俺様の気持ちが、てめぇらに分かってたまるかよ……!」

 

 成長の早いゴブリンのサブマスターを量産して宝珠生成を加速させ、ダンジョンコアから収穫したBランク宝珠を売却して莫大な稼ぎを得るというのがこの迷宮都市ジャスティンの運営方針だ。

 

 それを知らずにジャスティンのダンジョンマスターになって、課せられた莫大な国税で首が締まって身動きが取れなくなってしまったのがこのガルムという男だった。

 

「嫌なら辞めたらいいじゃん」

「辞められねぇから困ってるんだよ!」

 

 一度ダンジョンマスターになったら死ぬまでそのままだ。

 寿命は削れるし、迷宮都市からも一生離れられなくなる。

 

 だから西大陸にいるような強い探索者でも、他所のダンジョンを乗っ取ってまでダンジョンマスターになろうとはしないんだよ。

 わざわざそんなことをしなくても一生遊んで暮らせるくらい稼げるわけだからな。

 

「じゃあ税金踏み倒せば? ジャイアントオーブ持っているんだしできるでしょ」

「国税庁のやつら、税金を踏み倒したら俺様の銀行口座を凍結するとか抜かしやがってよぉ……!」

(おど)している側が逆に(おど)されてどうするんだ……」

 

 俺がいい感じに時間稼ぎをしていると、バルコニーに置かれた鳥籠の扉がガシャンと音を立てて開いて、中に閉じ込められていたサクレアが鳥籠の外に飛び出した。

 月明かりに照らされた空を二人のバードマンが隣り合うようにして飛んでいく。

 

「みんにゃー! 救出成功にゃー!」

 

 バルコニーの手すりから身を乗り出したミュールが手を振っている。

 その後ろには多くの獣人の女性達の姿があった。

 

「わしらの方が一枚上手だったようじゃのう。さて、お主はこれからどうする?」

「どうするだと? こうするに決まっている!」

 

 ガルムが再び身体に力を入れ始めると、ミシミシと音を立てながらガルムの身に(まと)った毛皮の下にある筋肉が肥大していく。

 ビリビリと音を立てて服が破け、毛むくじゃらの上半身が(あら)わになった。

 

 化身スキルを使い二足歩行の怪物と化したガルムが、地面に突き刺していた巨大な両手斧を抜き取って構えた。

 

「まずはてめぇから血祭りに上げてやる!」

「その意気やよし!」

 

 アンバーがずっと出したままだったいかずち丸を仕舞うと、天高く舞うサクレアの歌声が処刑用BGMに変化した。

 

「死ね!」

 

 手ぶらで無防備な状態のアンバーに大きく踏み込んだガルムの大斧が襲い掛かる。

 バルコニーの上にいた獣人の女性達が彼女の悲惨な末路を想像して息を呑む。

 

 ブンと振り回されたガルムの大斧は空を切った。

 アンバーの姿は影も形もない。

 

「どこへ行った!?」

 

 周囲を見回すガルムのそばを一瞬、残像のようなものが通り過ぎる。

 バキャリと音を立ててガルムの右腕がひしゃげて砕ける。

 

 痛みに腕を抑えようとするガルムの背後をさらに残像が通り過ぎる。

 次は左の膝が砕けた。

 

 バランスを崩してゆっくりと背中から倒れ込むガルムにさらに残像が通り過ぎる。

 左肩と右足が砕け散った。

 

「ぐ……あ……」

 

 四肢を打ち砕かれて背中から芝生に倒れ込んだガルムの顔を、小さな少女の影が見下ろした。

 処刑用BGMが終わって良い感じの曲が流れ始める。

 

「わしの勝ちじゃ。降参してジャイアントオーブを手放すがよい」

「へっ、嫌だね……」

「何じゃと?」

「ジャイアントオーブは俺様のものだ。こいつは冥途(めいど)の土産に貰っていくぜ……」

 

 俺はとことこ歩いてアンバーの隣に立った。

 

「ガルムはそんなことを言っているけどどうする?」

「巨人化を解除せねばオーブは取り戻せないからのう。強情(ごうじょう)なやつめ」

「何とでも言え……」

 

 俺達が困っていると、スッと闇の中からクロが姿を現した。

 クロはガルムを見下ろして問いただす。

 

「ガルム、本当に手放す気はないのか?」

「俺様に二言はない……」

「そうか、残念だ」

 

 クロは懐から小さな鈴のようなものを取り出すと軽く左右に振った。

 ……何も音はしないな。

 

「クロ、何をしているんだ?」

「まあ待っていろ。すぐにくるはずだ」

 

 待っていると、城壁を越えてこちらの方に一人の天使が飛んできた。

 そうか、この城の隣には探索者ギルドがあるんだ。

 

 白い翼をはためかせて空中に静止するように飛んでいる長髪のアルビノの天使が笑顔でこちらに挨拶してきた。

 

「呼ばれて飛び出て、オリエルでーす! 皆様ごきげんよう!」

「何だこいつ……」

「こいつとは失礼ですね! 私はこの街で一番偉いんですよ!」

「アクアマリンのユニエルとどっちが偉いんですか?」

「ユニエル様の方です!」

 

 どうやらユニエルの方が偉いらしかった。

 俺がオリエルと話していると、クロが何やら言い出した。

 

「ノル王家直属の親衛隊隊長、調停者(モデレーター)クロの権限により、只今(ただいま)を持ってガルム・ジャスティンの市民権を剥奪(はくだつ)する。ついては探索者ギルドに対してガルム・ジャスティンの第一級懲罰を要請する」

 

 クロは懐からギルドカードを取り出してオリエルに見せた。

 すると急に無表情になったオリエルがクロに返答する。

 

「探索者ギルドジャスティン支部長オリエルの権限によりこれを承認致します」

 

 それを聞いたガルムは急に血相を変えて命乞いを始めた。

 

「お、俺様が悪かった! 今すぐジャイアントオーブを返す! だから懲罰だけは許してくれ!」

「お主、男に二言はないと言っておったじゃろう」

「お前は懲罰を知らないから言えるんだよ!」

 

 そう言ってガルムは見る見るうちに小さくなっていった。

 バキバキに折れた右手からころりと青白く輝く宝玉が転がり落ちる。

 

「これでいいだろう……?」

 

 懇願(こんがん)するガルムに対して、宝玉を拾い上げて懐に仕舞ったクロがゴミを見るような目をしてこう告げた。

 

「俺はサクレアファンクラブ上級会員、会員No.001だ。サクレアに手を出した愚か者よ、地獄すら生ぬるい懲罰を受けてその罪を(あがな)うがいい」

 

 ガルムはすべてを諦めたのか項垂(うなだ)れて動かなくなってしまった。

 

 その姿を見た俺は不意にモーニングフロッグの肉が食べたくなった。

 まだ5日も経っていないというのに、アクアマリンが恋しい。

 

「楽しい懲罰の始まりですよー!」

 

 笑顔のオリエルは動かなくなったガルムを脇に抱えると、探索者ギルドに向かって飛んでいったのだった。

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