マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第66話 ノドグロP

 パワーレベリングの翌日、俺達は迷宮都市ジャスティンを離れ王都ラブオデッサに向かうことになった。

 

 明日の夜にはサクレアのライブコンサートが行われるのだ。

 それまでに彼女を王都ラブオデッサまで送り届けなければならない。

 

 帰り支度を済ませた俺達が城の食堂で朝食を取っていると、やたらと強そうな魔杖(まじょう)を持ったゴブリン兵に護衛されたイチゴロクニがやってきた。

 

「お前達が帰ると聞いてナ、慌ててやってきたのダ。約束した報酬が用意できたゾ」

「おお、待っておったぞ!」

 

 俺の隣の席に座っていたアンバーが喜びの表情を浮かべて席から立ち上がった。

 

 イチゴロクニは護衛の一人から渡された化粧箱をアンバーに差し出した。

 アンバーが受け取った化粧箱を開くと、その中には銀色に輝く腕輪が入っていた。

 

「ほぉ、これは装具か」

「こん棒だけではまるで足りないからナ。一番いいものを用意させタ」

「そこまでしなくともよいと言ったはずじゃがのう。まあええか」

 

 アンバーが腕輪型装具を左腕に()めて手を前に出すと、虚空から蒼銀色に輝くどでかいこん棒が姿を現した。

 

「こ、これは……!」

 

 出来立てほやほやのスペシャルなこん棒に目を輝かせるアンバー。

 とっても嬉しそうで何よりです。

 

 喜ぶアンバーにイチゴロクニはしたり顔でこん棒の仕様を解説する。

 

「ドフス鋼に希少なシーニウム鉱石を混ぜ込んだこん棒ダ。水中でも抵抗なく振るえるようになっているからナ、アクアマリンの五層でもきっと役に立つだろウ」

「わしは五層に挑戦する予定はないのじゃが……」

「いいヤ、必ず必要になるはずダ。覚えておくがいイ」

 

 俺もあの地獄に挑むのだけは勘弁願いたいんだが……。

 イチゴロクニさん、フラグを立てるのはやめて貰っていいですかね。

 

 アンバーはシードフス合金鋼製のこん棒を天にかざして命名した。

 

「わしはこのこん棒をかいおう丸と名付けるぞ!」

「にゃーパチパチ」

「変な名前だぜ……」

「良かったですね、アンバーさん」

「うむ。頑張った甲斐があるというものじゃ」

 

 アンバーがこん棒を仕舞うと、イチゴロクニは俺達に別れの言葉を告げた。

 

「オレの仕事はこれで終わりダ、もう会うこともないだろウ」

 

 ゴブリンは蟻のような真社会性を持つ種族だ。

 族長となった者だけが女の相手をして、それ以外の男は子供を作らない。

 だから彼はこれから城の地下でその寿命を迎えるまで生活することになる。

 

「イチゴロクニ、お主……」

「気にするナ、オレはゴブリンの勇者(ブレイブヒーロー)としての職責を全うすル。それだけのことサ」

 

 微かに微笑んだイチゴロクニは俺達に背を向けて歩き出した。

 

「さらばダ。こん棒の勇者達ヨ」

 

 こうしてゴブリンの勇者は去っていったのだった。

 さよなら、イチゴロクニ……。

 

 俺は食堂の出口を見ながらボーっと立ち尽くしているアンバーに声を掛ける。

 

「アンバーは感動的な空気に流されているみたいだけど、あいつはただハーレム生活を送るだけだぞ」

「ハッ、わしとしたことが……!」

「ほら席に着いて。早くご飯を食べて出発しようね」

 

 俺は正気に戻って席に着いたアンバーに甲斐甲斐(かいがい)しく世話を焼くのだった。

 

 

 朝食を終えた俺達が城を出て中庭から城門に向かっていると、応急処置で塞がれた城門の扉の向こうから警備をしているゴブリン兵と揉める男の声が聞こえてきた。

 

「ここにサクレアがいるんだろう!? 彼女に会わせてくれ!」

「城は関係者以外立ち入り禁止ダ!」

「これ以上騒ぐなら実力行使すル!」

「もういイ、拘束しロ!」

「はっ、離せっ! サクレアー! 僕だー! シンジロウだー!」

 

 その叫び声を聞いたサクレアがハッとした表情を浮かべた。

 どうやらサクレアの知り合いらしい。

 

「ゴブリンさん、大丈夫ですから扉を開けてください!」

 

 サクレアの声に応えた中庭のゴブリン兵が城門の扉を開けると、そこには縄で雁字搦(がんじがら)めにされたイケメン(バードマン基準)なバードマンの男が転がっていた。

 その姿を見たファルコが小さく言葉を漏らす。

 

「こいつ、あの時の……」

「あの時?」

「シンジロウさん!」

 

 サクレアが地面に転がるシンジロウに駆け寄って彼のそばにしゃがみ込んだ。

 シンジロウはサクレアの姿を見て驚きつつも、大きな声で叫んだ。

 

「サクレア、無事か!?」

「無事ですよ。ピンピンしてます」

「よ、よかった……」

 

 安心したのか、彼は身体の力を抜いてぐったりとした。

 

「サクレアよ、紹介してくれるか?」

「彼は私のプロデューサーをしているノドグロミュージックのシンジロウさんです」

「プロデューサー……?」

「そうですよファルコ。私は彼のプロデュースのおかげで歌手になることができたのです。そうでなければ私も母のように、売れるようなことはなかったと思います」

 

 サクレアは謙遜(けんそん)しているようだが、そんなことはないと思う。

 彼女が歌手として成功したのはひとえに彼女の努力と才能のおかげだ。

 

 ステータスが支配するこの世界において、生まれ持った素質は何にも代えがたいものであることを異世界からきた俺だけが知っている。

 

 俺達が話している間に、しゃがみ込んだミュールが小太刀で縄を切ってシンジロウを拘束から解放した。

 

「いてっ、いてて……。僕の身体まで切らなくてもいいじゃないか……」

「あんな状態じゃ無傷で開放するのは無理にゃ。ハルトに治して貰うといいにゃ」

 

 立ち上がったシンジロウは身体のあちこちから血を流していた。

 俺は彼に右手を向けると、ヒーリングを使って切り傷を(いや)してあげた。

 

「ありがとう。……ところで、君達はサクレアとどういう関係なんだ?」

「誰かから話は聞いていないんですか?」

「僕はサクレアがジャスティンに連れて行かれたと聞いて、いても立ってもいられなくなって車を飛ばしてやってきたんだ」

 

 よく見ると道路に一台の赤いオープンカーが止まっていた。

 その車の側面にはでかでかと「ノドグロミュージック」のロゴが描かれている。

 車の運転席にはグラサンを掛けたドワーフの男が座っており、こちらにサムズアップをしていた。

 

「あちしらはサクレアを誘拐した悪党のガルムをとっちめてこの迷宮都市ジャスティンを救ったのにゃ!」

「しかもその直後に行われたサクレアの即席ライブコンサートで、サクレアがファルコにラブソングを贈って二人は恋人になったんだよね」

「そうなのか、サクレア!?」

「はい、ずっとお待たせしてごめんなさい。ラブソング、解禁です!」

 

 それを聞いたシンジロウは余りの感動に涙を流しているようだった。

 

「サクレアのデビューから苦節13年……。ついに僕の書き溜めたラブソング100曲をお披露目できる時がやってきたというのか……!」

「いくら何でも書きすぎだろ……」

「シンジロウさんは優秀な作曲家でもあるんです。私の曲の9割くらいはこの人が書いたんですよ」

 

 あのどこかで聞いたことのあるような曲はほとんどこの男が書いたのか。

 道理でやたらとサクレアの出す曲の数が多いと思ったよ。

 世紀の歌姫といえど、ゴーストライターなしでやっていけるはずがないもんな。

 

「サクレア、今すぐラブオデッサに帰ってリハーサルを始めるぞ! 明日のライブは新曲祭りだ!」

「はいっ!」

 

 サクレアを乗せた赤いオープンカーはあっという間に走り去っていった。

 

「行っちゃったにゃ」

「ファルコ、追わなくても大丈夫なのか?」

「サクレアにはサクレアの仕事がある。オレだって荒野の運び屋を辞めるつもりはないしな。また明日のライブ会場で会えばいいさ」

「そっか、ならいいんだけど……」

「わしらはわしらのペースで王都に行けばよかろう。ファルコよ、車を出してくれるか?」

「おうよ」

 

 俺達はファルコが足輪の装具から道路に取り出したオフロードカーに乗り込むと、ジャスティン城を後にした。

 

 赤褐色の街並みを抜けて広い農地の中の二車線道路を真っ直ぐ走ると、遠くにブロンズラインが見えてきた。

 

「あっ、何か人がいっぱいいるにゃ!」

「本当だ、どうしたんだろう?」

 

 ミュールの指差す先には、城塞の外壁の上からこちらに手を振るジャスティン市民達の姿があった。

 

 ガルムの虜囚(りょしゅう)になっていた獣人の女性達を中心に、その友人知人や家族などが集まっているようだ。

 その中にはミュールの母チュールや元パーティーメンバーも含まれていた。

 

 オフロードカーが開け放たれている城門の前までくると、チュールが大きな声で呼び掛けてきた。

 

「ミュール、元気に過ごすのよ! アンバーさん達にも迷惑を掛けないように! ちゃんとお風呂には入ること! それと――」

 

 ミュールが助手席から身を乗り出して大声で返事をする。

 

「かーちゃん、うるさいにゃ! あちしはもう17歳になるんだから、それくらい言われなくたって大丈夫にゃ!」

 

 ミュールの元パーティーメンバーのワーキャットの双子(名前はショコラとバニラ)も呼び掛けてきた。

 

「ミュールちゃーん、またねー!」

「元気でねー!」

「絶対でっかくなって帰ってくるから、みんな覚えておくのにゃー!」

 

 ミュールはガルムに売られたとか言っていたけど、別に彼女達はそういうことはしていなかったらしい。

 

「ミュール、ちゃんと聞いているの!? そもそも――」

 

 またぞろチュールが説教をしてきたので、耳を塞いで助手席に戻ったミュールがファルコに出発するよう(うなが)した。

 

「残ってたらいつまで説教されるか分からないにゃ。ファルコ、早く車を出して欲しいにゃ」

「もういいんだな?」

「いいにゃ」

「じゃあ出発するぜ!」

 

 ファルコがアクセルを踏み込むと、オフロードカーは城門を抜けてブロンズラインの外に飛び出した。

 

 俺が座席から後ろに振り返ると、手を振るジャスティン市民達の姿が段々と小さくなって消えていった。

 後ろを見るのをやめて席に腰を落ち着かせると、アンバーが俺に話し掛けてくる。

 

「この7日ばかりで本当に色々とあったのう、お主」

「エレメンタル狩りをしていた頃は、まさかこんなことになるなんて夢にも思わなかったよ」

「そうじゃのう。わしの人生にもこれで新たなる一ページが刻まれたといえよう。いずれ探索者を引退して自伝本を出す日がくるのが楽しみじゃ」

「引退、引退ねぇ。アンバーはいつまで探索者を続けるつもりなのかな」

「そりゃあお主、のう?」

 

 アンバーは白いほっぺを赤くすると、俺の手をぎゅっと握った。

 なるほど、明るい家族計画ってわけですか。

 

「わしは20歳で、お主も18歳じゃ。それまではまだまだ余裕があるじゃろう。養わなければならぬ娘も増えたわけじゃし、もっと冒険せねばなるまい」

「そうだね。二人よりも三人の方がきっと楽しい冒険になるだろうさ」

 

 俺とアンバーはそんな話をしながらも、ミュールが助手席で食べていたドライイツカデーツをファルコに取られて憤慨(ふんがい)している様子を眺めていた。

 

「ファルコ、あちしのイツカデーツを取らないで欲しいにゃ!」

「ちょっとくらいイイだろー? オレだって食いてえんだからさー」

「でも、あちしの……」

「ハハハ、まあ元気出せって」

 

 そんなミュールを見てくちばしをもぐもぐさせながら笑ったファルコは、車のダッシュボードから一枚のマジックディスクを取り出した。

 

 音楽プレイヤーに挿入して再生スイッチを押すと、いつものようにサクレアの歌声が車内に響き渡る。

 

 広大なジャングルの真上に通る高架(こうか)道路を、真っ直ぐに武骨なオフロードカーは駆け抜けていくのだった。

 

 

 こうして俺達のティアラキングダムへの旅は一区切りつくことになった。

 これから先、どのような冒険が待っているかはまだ分からない。

 だけど、きっとそれはとても楽しいものになるだろう。

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