マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第72話 海上の戦い

 翌日の早朝、俺達はブルーノに連れられて港の埠頭(ふとう)までやってきた。

 そこでは漁業関係者に紛れるようにして、天使とハーピィの女が待機していた。

 

「ようレビエルよぉ、早かったなぁ」

 

 ブルーノがおかっぱ頭をしたアルビノの天使に向かって片手を挙げて挨拶をすると、彼女はブルーノを無視して俺達に話し掛けてきた。

 

「君達がBランク探索者パーティー『こん棒愛好会』か。ボクは探索者ギルドユースト支部長レビエル。今回の緊急クエストの見届け人を務めさせて貰う」

「見届け人?」

「そうだ。君達がクエストを無事に果たすか、あるいは失敗して命を落とすか。我々探索者ギルドとしてはAランク海棲(かいせい)魔獣との詳細な戦闘記録が取れるのならどちらでも構わない。だから助けは期待してくれるなよ」

 

 例え俺達がシーサーペントにやられて死にそうになったとしても助けてはくれないってわけだ。

 

「わしらの雄姿(ゆうし)を見逃さぬよう、その二つの目をかっぽじってよく見ておくのじゃな」

「そうにゃ! あちしの凄いところを見せてやるのにゃ!」

 

 ミュールの仕事はシーサーペントの討伐が終わった後にしかないんだけどね。

 俺が微妙な笑顔を浮かべて意気込む二人の後ろに突っ立っていると、天使の隣にいたピンクの羽毛をしたハーピィの女が笑顔で俺達に挨拶してきた。

 

「どうもぉー、アモロ新聞社のオーブリーです。いやぁー、あのAランク探索者パーティー『獣の双牙』を返り()ちにしたシーサーペントをBランク探索者パーティーの三人だけでやっつけようだなんて、これは大きな記事になりそうですねぇ」

 

 カシャリと音を立ててフラッシュが()かれる。

 オーブリーと名乗った彼女は、ブン屋らしく高そうな一眼レフカメラを器用に両翼に持っていた。

 

「昨日の今日だってのに、よく俺達のことを聞きつけたもんだ」

「ワタシもプロですからねぇ、噂には強いんですよ。そこのブルーノさんの右腕を生やした、遺失スキルを使う謎の魔導士(ウィザード)の男とかねぇ?」

 

 リトルジャイアントのアンバーじゃなくて俺の方に注目するとはな。

 アモロ共和国の人間ならアンバーのことくらいは知っていそうなものだが、どうやら彼女はこの辺りの噂にしか強くないらしい。

 

「遺失スキル? 妙なことを言いますね。ねえレビエルさん?」

 

 俺がレビエルに顔を向けると、彼女はうんざりしたような表情を浮かべてオーブリーに忠告した。

 

「オーブリー、再生スキルのことを記事にするのはやめておいた方がいい。君も探索者ギルドを敵に回したくはないだろう」

「げげっ、禁則事項ですかぁ」

「その男の右腕もボクが治したことにする。それでこの話は終わりだ」

「分かりましたよ。その件は諦めますから、皆さんはちゃんとシーサーペントを倒してくださいよ? でないと本命のハムマン祭りの記事が書けなくなっちゃいますからねぇ」

「言われるまでもない。その為に俺達はここにきたんだからな」

 

 俺が話を打ち切ると、ブルーノが腕輪型装具から海に一隻の小型船を取り出した。

 バシャンと音を立てて水面に落ちたその船を、ブルーノは手際よくロープで埠頭(ふとう)の係留柱に繋げた。

 

「おめぇら乗り込めぇ! 出発するぞぉ!」

 

 俺達が小型船に飛び乗ると、係留していたロープを外してガラス窓のある扉のない運転室に入ったブルーノが魔道エンジンを始動させる。

 

 スクリュープロペラで作られた白い軌跡を残しながら、スタック銅のメッキが施された赤褐色の木造船は港から出航していくのだった。

 

 

 俺達の乗る小型船は波しぶきを上げて大海を駆けていく。

 そしてその上空を、天使とハーピィが並ぶようにして飛んでいた。

 

 シーサーペントが出没するのは、港街ユーストとプンレク島の中間地点だ。

 プンレク島は船で1時間くらいの距離にあるので、大体30分もすれば目標地点まで到達するだろう。

 

「ゆらゆら揺れて楽しいにゃー」

「ミュールよ、余り手すりから身を乗り出すでない。落ちたら困るじゃろう」

「あちしは忍者にゃ。片足立ちだって簡単……にゃっ!?」

 

 船首の手すりの上で片足立ちしようとしたミュールが、大波で揺れた船から落ちそうになって慌てて手すりにしがみついた。

 

「ほれ言わんこっちゃない」

「何をしてるんだか……」

「猫も木から落ちるっていうじゃにゃいか! あちしにもたまにはこういうこともあるにゃ!」

 

 それを言うなら猿も木から落ちるだ。

 俺達が遊んでいると、ブルーノが船室から大声で呼び掛けてきた。

 

「おめぇら、遊んでないでこっちにこいよぉ!」

「ごめんなさーい! 今行きまーす!」

 

 俺達がブルーノの船室に行くと彼はブラウン管みたいな魔道具の画面を指差した。

 

「こいつは海中ソナーだぁ、海棲(かいせい)魔獣の接近を知らせる魔道具だがぁ、この赤い点が見えるかぁ?」

「いくつかある赤い光点の中でもとりわけ大きいものがあるのう。こやつがシーサーペントか?」

「恐らくなぁ。今から呼び寄せるからよぉ、こいつを海に投げ込んでくれぇ」

 

 ブルーノはアンバーにスイカ大の丸い球体を手渡した。

 

音響(おんきょう)爆弾だぁ。マーメイドのいるところで使うと怒られるからよぉ、忘れるんじゃないぞぉ」

「こんなものを使う機会なんて二度もないわい」

 

 ツッコミを入れつつアンバーがぽいと海に投げ込むと、ブルーノは船を切り返して音響(おんきょう)爆弾を落とした場所から背中を向けるように船を走らせた。

 

 すると水面が盛り上がり、ザパァァァァンという大きな音とともに一匹の大海蛇が姿を現した。

 でかいな、この船くらいなら簡単に丸呑みできてしまいそうだ。

 

 怒っているのか頭を水面に出してこちらを追い掛けてくるシーサーペントを見た俺達は、船の最後尾まで移動して迎撃の構えを取った。

 

「アンバー、準備はいいか!」

「うむ。わしに任せるがよい!」

 

 船尾に立った俺はブレイズノヴァの杖を取り出してチャージを開始する。

 船に追いついたシーサーペントが大口を開けてこちらに食らい付こうとするのを見計らって、アンバーが船から飛び出した。

 

 残像を残して水面を駆けたアンバーが蒼銀色をしたシードフス合金鋼製のこん棒、かいおう丸を抜き打ちしてシーサーペントの(あご)をかち上げる。

 ンェェェェと奇妙な悲鳴を上げるシーサーペントに、俺は蒼炎球を撃ち放った。

 

「ブレイズノヴァ!」

 

 山なりの軌道を描いて飛翔した蒼炎球が、海面に向けて下がっていくシーサーペントの頭に直撃する。

 急拡大した蒼炎球が瞬く間にシーサーペントの脳を焼き尽くした。

 

 バシャーンと音を立てて海面に倒れ込んだシーサーペントが起こした大波を背に、海面を駆け抜けたアンバーが船に飛び乗ってミュールに呼び掛ける。

 

「ミュール、今じゃ!」

「ロングスロー!」

 

 ミュールが投擲スキルで槍のような魔道具をいくつも投げると、シーサーペントの長い胴体に間隔を開けて突き刺さり、槍の石突に付いた赤い球体がぷくーっと風船状に膨らんでいく。

 

 Aランク海棲(かいせい)魔獣の素材など滅多に入手できるものではない。

 海中に沈まないように目立つブイで浮かせて、後で業者に回収して貰うのである。

 

「思ったよりも余裕じゃったのう」

「流石はアイリスだ。シーサーペントも一撃か」

 

 俺達が気を抜いていると、いきなり船室のブルーノが大きな声で叫んだ。

 

「バリアを張れぇ!!!」

「—―プロテクション!」

 

 俺が反射的にプロテクションを使うと、青い半透明の障壁が船体を包み込んだ。

 その直後、下方向に強烈なGが掛かって身体がべしゃりと船に押し付けられる。

 

「ぐぁっ!」

「ふぎゃっ!」

「これは……!」

 

 斜め後方に向かって空中を吹き飛んでいく船上から見えた先の海面に、一匹のシーサーペントが顔を覗かせてこちらを睨み付けていた。

 

 先ほどよりも遥かに大きいその大海蛇の左目には巨大な大剣が突き刺さっている。

 まさかこいつがAランク探索者パーティーを返り()ちにしたシーサーペントか!?

 

「こやつら、ツガイじゃ!」

 

 シーサーペントの海中ラムアタックによる勢いが頂点に達して落下しつつある船の上で、ふわりと空中に浮かんだ俺をアンバーが捕まえて手すりに引き寄せた。

 バシャーンと音を立てて青いバリアに包まれた船が海中に沈み込む。

 

 ブクブクと泡を立てて海中に沈み込んだ青い半透明の球体は、抱え込んだ空気の浮力で海面に上昇していく。

 俺は船が海面に飛び出したのを見計らってプロテクションを解除した。

 

「ブルーノ! やつに向かって全速前進だ!」

「おめぇら、マジでやるのかぁ!?」

「俺達を信じてくれ! アンバー、アレをやるぞ!」

「空で見ているあやつらにわしらの合体技を見せてやろうぞ!」

 

 俺は船尾に転がるミュールを放置して船首に移動すると、アンバーが装具から取り出したいかずち丸の持ち手に手を添えて魔力を込める。

 

 ぐんぐん勢いを増して正面から向かってくる船に対して、シーサーペントは待ち構えるようにしてその長い鎌首をもたげた。

 

 いかずち丸の魔力チャージが終わった俺は、手すりに腕を回すようにして身を乗り出すと白くどてかいこん棒を取り出して構えた。

 

 プロテクションで結構魔力を使ったから、残魔力的にもチャンスは一度しかない。

 ……今だ!

 

「アイシクルカノン!」

 

 連射した青い弾丸がこちらに向かって大口を開けたシーサーペントの口の中に飛び込み、ガシャリと巨大な氷塊を作り出した。

 二発、三発と詰め込まれた氷塊にシーサーペントが声にならない悲鳴を上げる。

 

 その横を(かす)めるようにしてブルーノの操る船が通過すると、バチバチと音を立てるいかずち丸を構えたアンバーがシーサーペントの背に飛び移って走り出した。

 アンバーは背びれの横を駆け抜けて、その大きな頭にいかずち丸を振り下ろす。

 

「ライトニングバスター!」

 

 雷鳴が走り、俺の視界が一瞬だけ白く焼き付いた。

 アンバーの必殺の一撃を受けたシーサーペントはゆっくり水面に向けて倒れ込んでいき、先ほどよりも大きなバッシャーンという音を立てて大波が広がった。

 

「ミュール!」

「はいにゃー、ロングスロー!」

 

 俺が指示を出すと、ミュールが予備の槍型ブイをぽいぽい投げてシーサーペントの胴体に突き刺していった。

 すぐに槍の石突に付いた赤い球体がぷくーっと風船状に膨らんでいく。

 

「やれやれ。一時はどうなることかと思ったが、何とかなったな」

 

 この世界の外洋にはこんなものがうようよいるっていうんだから恐ろしいぜ。

 

 ブルーノが船をシーサーペントの頭の近くに移動させると、左目から抜き取った大剣を肩に担いだアンバーが船に飛び移ってきた。

 

「アンバー、おかえり」

「見よハルト、総パルマ銀製の大剣じゃ。これはいいものを手に入れたのう」

「……まさか溶かしてこん棒にするつもり?」

「駄目かのう?」

「駄目でしょ。持ち主は生きているんだから返してあげないと」

 

 「獣の双牙」の皆さんは全滅した割にはピンピンしていて、クエストが失敗に終わるとすぐに海都カナンへ逃げ帰ってしまったらしい。

 

 彼らは片腕を無くしてまで命がけで回収してくれたブルーノにちゃんとお礼をした方がいいと思う。

 

「おめぇらすげぇなぁ。俺も流石に死んだかと思ったぜぇ」

 

 船のエンジンを止めて船室から出てきたブルーノが俺達に話し掛けてきた。

 俺がブルーノに返事をしようとすると、ばさりと羽音を立てて空からレビエルとオーブリーが船に降りてきた。

 

「君達、よくやったな。今回のクエスト報酬は期待していいだろう」

「本当に? 100万メルとかじゃなくて?」

「……100万メルだ」

 

 やっぱり100万メルじゃん!

 

「皆さん凄いですねぇー、いい写真がバッチリ撮れました。これは明日の朝刊の一面間違いなしですよ!」

「オーブリーよ、できればわしらにもその写真を焼き増しして分けてはくれぬか? アクアマリンに帰ってから友人に見せてやりたいのじゃ」

「それは構いませんが、その代わり後で取材をさせて欲しいんですけど……」

「ええじゃろう。後でたっぷりとわしらの武勇伝を聞かせてやろう」

「無知な新聞記者にあちしらの活躍を教えてやるのにゃ!」

 

 ミュール、無知は言いすぎだと俺は思うよ。

 異国からハムマン祭りの取材にきた新聞記者に、遠い迷宮都市ジャスティンのローカルネタまでチェックさせるのは流石に無理があるだろう。

 

「ありがとうございます! ではまずはこの巨大なシーサーペントを背景に一枚撮らせてください!」

 

 俺達がオーブリーに言われるがままに横に並ぶと、彼女はその両翼で一眼レフカメラを構えた。

 

「いいですよー、そんな感じで。はいっ、あ~もろっ!」

「アモロなんだ……」

「もう一枚撮りますよー、今度は笑顔で――」

 

 こうして俺達は海に浮かぶシーサーペントを背景に記念撮影をしたのだった。

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