マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
港街ユーストの近海で二匹のシーサーペントを倒した俺達は、ハーピィの新聞記者オーブリーによる記念撮影を済ませた後に港へ帰ることとなった。
戦勝ムードの俺達がのんびり船首で波に揺られていると、陸地の方から何隻もの船がこちらへ向かってやってきた。
金属製の大型船で、どことなく捕鯨船のような見た目をしている。
「でっかい船がこっちにやってくるにゃ!」
「アレは大型
「そいつはどうも……」
さっきレビエルが空に音の出ない花火みたいなものを打ち上げていたが、どうやらそれが合図だったらしい。
俺達の乗る船の横を通過する回収船の上から乗組員達がこちらに手を振っている。
俺達もそれに応じて手を振ると、彼らに後の仕事を任せることにした。
それから少しして港に戻った俺達を、多くの人々が出迎えた。
そしてその中心にいたのはミノタウロスの
船のエンジンを停止させたブルーノは係留柱にロープを繋ぐと、俺達と一緒に船から港へ飛び移った。
すると群衆から飛び出したカウラがブルーノに抱き着いてぎゅうっと抱き締めた。
「ブルーノ、よく無事で……。本当に、本当に心配したのよ……」
「カウラぁ、俺がこのくらいで死ぬわけねぇだろうがよぉ。泣くんじゃねぇ……!」
「だって、だって……」
朝方に宿から出発した時にはカウラは俺達を笑顔で送り出してくれたのだが、やはり本音のところはとても心配していたようだった。
それもそうか、上級探索者でもない一介の船乗りが海の男でも尻込みするような危険な任務を買って出ているのだ。
一度目は右腕を無くした、二度目の挑戦では命を無くすのではないか。
そういった不安が彼女の
「よかったね、お母さん……」
カウリンがその爆乳をたゆんたゆんと揺らしながら二人に寄り添っている。
俺達がミノタウロス家族のエモいシーンを見ていると、船から飛び立ったレビエルが空中の目立つ位置に陣取って大きな声で群衆に呼び掛けた。
「探索者ギルドユースト支部長レミエルが、Bランク探索者パーティー『こん棒愛好会』によるシーサーペントの討伐、そして緊急クエストの完了をここに宣言する。
レビエルの宣言を聞いた市民達からワッと大きな歓声が上がる。
そしてすぐに彼らは
「あちしら結構頑張ったんだけど、何かみんな冷たくないかにゃ……」
ミュールの愚痴をレミエルは鼻で笑った。
「フン、この程度のことは数十年に一度は起こる。今回はたまたま時期が悪かった上に前任者がヘマをしたせいでみなが気を揉んでいたのさ」
「要はマイナスがゼロになっただけってことか……」
ギガンティックタイタンの時もそうだけど、緊急クエストを達成して街を救ってもあんまり凄い事をしたって感じがしないんだよな。
市民の評価が辛口の現代的というか。
この世界にSNSがあったら倒すのが遅いとか言われて叩かれてそう。
「海戦特化の探索者ならばあれくらいの敵は楽勝じゃが、問題は必要な時に限っていないことじゃ。わしらが失敗していたらどうなっていたことやら」
「その時は引退した探索者を
「長命種はずるいのう」
最初に会った時にカウリンはブルーノを引き留めていたが、どうやらそれで片付くというのも理由の一つだったらしい。
まあ、1日でも早くシーサーペントを倒して物流を再開させたいというブルーノの気持ちも分からんでもない。
特に彼はプンレク島との橋渡しを務める責任者なわけだしな。
俺達がそんな話をしていると、まだ抱き合っていたミノタウロス夫婦に声を掛ける人物が現れた。
「船長、いつまで奥さんと抱き合っているんですか! みんな待っているんですから早く仕事に行きますよ!」
ヒューマンの彼はブルーノが船長を務めるプンレク島への定期船の乗組員らしい。
彼の着る制服の胸の部分にはかわいいハムマンのバッジが付けられていて、ハムマンの下にはゴールデンハムマン号と書かれていた。
「わりぃ、すぐ行くからよぉ。……カウラぁ、続きはまた夜になぁ」
「……はい、あなた」
ようやく離れたブルーノが、乗組員に返事をしてからカウラにそう告げた。
夫婦仲が良好なようで結構です。
「おめぇらもよぉ、仕事が終わったらまた会おうぜぇ」
「ああ、またなブルーノ」
ブルーノは装具に小型船を仕舞ってから、乗組員と一緒に足早に去っていった。
彼らを見送った後、カウラとカウリンがこちらにやってきて話し掛けてきた。
「みなさん、今日は本当にありがとうございました」
「おかげでお父さんも元気になったみたいで……きっと大変だったでしょう?」
「なに、わしらにかかればシーサーペントなど屁でもなかったわい」
「でもブルーノはいい仕事をしたよ。でなきゃ俺達は今頃ここには居なかったさ」
あの不意打ちラムアタックはガチのマジで危なかったからな……。
海の上は危険がいっぱいだ。
「ところで、今日の晩飯はご馳走を期待してもいいのかにゃ?」
「ふふ、もちろんです。腕によりをかけて作りますから、期待していてくださいね」
「やったにゃ!」
こうして朝一の緊急クエストを終えた俺達は、海の見える喫茶店でオーブリーから取材を受けることになった。
店の名前は「ラ・ソレイユ」といって、どうやらここは洋菓子店の店舗の一部をカフェにしているようだ。
今は午前中の早い時間帯ということもあり、客は俺達以外に一人もいなかった。
オーブリーによると支払いは経費で落とすというので、店の外のテラスにあるテーブル席に着いた俺達は遠慮なく高そうなケーキとコーヒーを注文した。
「改めまして自己紹介をさせていただきます。ワタシはオーブリー、アモロ共和国の海都カナンに本拠を持つアモロ新聞社の記者をしています」
向かいの席に座ったオーブリーが自己紹介をしてアンバーに名刺を差し出した。
「うむ、確かに。ところでお主は見たところフェニキス族のようじゃが、イーラのダンジョンマスターとどのような関係があるのか聞かせて貰えるかのう」
Aランク迷宮イーラを抱える迷宮塔イーラは海都カナンの目と鼻の先にある。
そこでは代々、バードマンの一種族であるフェニキス族の女性がダンジョンマスターをしているらしい。
「いやー、そんなことを言われましても。ワタシは地元では落ちこぼれもいいところでして、ギルド職員の採用試験にも落ちちゃったくらいですから。仕方なくこうして外に出て自分で稼いでいるというわけです」
「イーラのギルド職員に採用試験なぞあったかのう……?」
アンバーが
「うぐっ、いいじゃないですかそんなこと。ほら、ワタシのことよりも先に皆さんのお話を聞かせて貰えますか? えーとそうですね、お三方はアクアマリンからきたと聞きましたが、一体どのような目的でこの街までやってきたのですか?」
まあ、このハーピィの女の事情なんてどうでもいいことか。
俺は彼女の質問に適当に答えることにした。
「目的と言われても、俺達は友人の依頼でジャスティンまでドフス鋼の採掘に行った帰りにこの街に立ち寄っただけだからな」
「ほう、ジャスティンと言えばワタシも先月ちょっとした事件があったと耳にしましたよ。何でもティアラキングダムの上級大臣がダンジョンマスターと結託して不正を働いていたとかいないとか……」
「実はあちしらがその事件を解決した張本人なのにゃ!」
「なんと! それはそれは……詳しく話を聞かせて貰えますか?」
「オーブリーよ、お主は記事にしたら
アンバーがにっこりと笑みを浮かべてそう尋ねると、オーブリーは少し悩んだ後にこう答えた。
「また禁則事項ですか。……分かりました。では、両方聞かせて貰いましょうか!」
「それでこそじゃ。まずわしらがジャスティンへ向かう契機となった出来事から話すとするか。きっかけはわしとハルトがアクアマリンの歓楽街で夜のデートを楽しんでいた時にそこのミュールがのう――」
アンバーはオーブリーに旅の話を交えながら「わしとこん棒7」のストーリーを話し始めた。
王様の娼館通いの件には一切触れず、ガルムと繋がっていたことになっている上級大臣エガルトの汚職の話を主題にしているようだ。
クロから受け取ったネタは本物だから、その嘘がバレる心配はないだろう。
アンバーがオーブリーに話をしている間に、俺とミュールは店とテラス席を何度も往復して他人の金でケーキバイキング食べ放題を勝手に楽しんでいた。
バインダーに留められたオーダー伝票が2枚目に入った頃、ようやくアンバーの長い旅の思い出話は終わった。
「なるほどなるほど、これは確かにヤバいネタですねぇ……」
「じゃが、サクレアとファルコの話は使えるじゃろう?」
アンバーに向けて、オーブリーは悪い笑みを浮かべた。
「いやぁ、これをスクープしたらイーラ中のバードマンに
迷宮塔イーラは住民のバードマン率が馬鹿みたいに高いからな。
アイドルの熱愛報道にサクレアガチ恋ファンが片っ端から
そんなことを
あいつはカーター氏から護身術を習っているから対人戦はお手の物だ。
パワーレベリングでレベルも爆上がりしたし、何も心配はいらないだろう。
「さて、わしらの話はこれくらいでええじゃろう。次はお主の話を聞かせて貰うとするかのう」
「やっぱり言わなきゃ駄目ですか……?」
アンバーの言葉にまたオーブリーは焦り始めた。
仕方ないな、俺が助け船を出してやるか。
「アンバー、あんまり人様の事情に深入りしようするのはよしなよ。誰だって言いたくないことの一つや二つくらいあるだろう?」
俺だって他人に探られたくない秘密はいくつもあるしな。
例えばマジックバッグの奥底に眠っている秘密の写真集とか。
「ハルト……そうじゃのう、わしが悪かったわい。すまんのうオーブリーよ」
「いえいえ、気にしないでください。全部ワタシが悪いので。……もういい時間ですね、ワタシはこの辺りでお暇させていただくとします。それでは皆さん、またどこかでお会いしましょう」
オーブリーは席を立つと、伝票の留められたバインダーを手に取った。
チラリとそれに目を通した彼女は、伝票を二度見して驚きの声を上げた。
「げげっ! いつの間にこんなに……編集長に怒られるぅ~」
「オーブリーさん、ごちそうさまでした!」
「ごちそうさまにゃ!」
俺達は落ち込むオーブリーに、笑顔でお礼を言うのだった。