マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第74話 ミュール修行する

 夕暮れに赤く染まる大河の水面に、一人のワーキャットの少女が(たたず)んでいた。

 忍者服を身に(まと)い、目を閉じて両腕を組んでいるその少女の名はミュール。

 

 彼女は現在、Cランク迷宮ユースト三層、夕暮(ゆうぐれ)大河で行われているCランク昇格試験の真っ只中(ただなか)であった。

 

 ミュールはピクリとその赤い猫耳を動かすと、シュバっと水面から飛び上がった。

 その直後、水面から流線型をした巨大な灰色ワニが大口を開けて飛び出す。

 夕暮(ゆうぐれ)大河に住まう人食いワニ、ストリームアリゲーターだ!

 

 ストリームアリゲーターの噛みつき攻撃をジャンプでするりと(かわ)したミュールは、首輪型装具に両手を添えて取り出した二本の小太刀を振り切った。

 

「首切り!」

 

 青い軌跡を描いて延びた魔力の刃がストリームアリゲーターの首を跳ね飛ばした。

 血を流しながら水面に浮かんだ巨大ワニのつるりとした背に着地したミュールに、ヒュンヒュンと音を立てながら高速回転する緑色の円盤が何枚も飛来してくる。

 

 ミュールはその円盤が飛んできた方向へ向かって水面を駆け出した。

 左右に(かわ)した円盤が水面に浮かぶストームアリゲーターの死骸を切り裂く。

 とんでもない切れ味だ、少しでも(かす)っただけで大怪我は(まぬが)れない。

 

 円盤を(かわ)しながら水面を駆けるミュールの目前には、二匹の緑色をした大亀が水面から顔を覗かせていた。

 六角形の甲羅を高速で射出して探索者を襲うフリスビータートルだ!

 

 高速で接近するミュールから逃れようと水中に沈んだフリスビータートルに対して、彼女は小太刀を仕舞って両手で印を組んだ。

 

「忍法竜巻落とし!」

 

 水面に巨大な渦巻きが発生すると、竜巻状に高く伸び上がった。

 周囲の水ごと二匹のフリスビータートルが空中に巻き上げられる。

 

 バシャリと音を立てて水を含んだ竜巻が消えると、雨のように降る水に紛れてフリスビータートルが甲羅を背にして落ちてきた。

 

 シュバッと飛び上がったミュールが二匹のフリスビータートルとすれ違うと、バシャンと川に落ちたフリスビータートルの周囲の水面が深い赤に染まった。

 

 水面に着地したミュールはピクリとその赤い猫耳を震わせて索敵をした後、勝利宣言をする。

 

「あちしの勝ちにゃ!」

「よくやったミュール、もう戻っていいぞ!」

「はいにゃー!」

 

 俺とアンバーは、曲がりくねった大河の岸辺にあるジャングルを切り開いて石壁で囲んだセーフポイントからミュールの雄姿(ゆうし)を見届けていた。

 水面を駆けてこちらに戻ってきたミュールに、アンバーがお()めの言葉を贈る。

 

「お主の水面走りも随分(ずいぶん)と上達したのう。水蜘蛛(みずぐも)の使い方も完璧じゃ」

 

 忍者(ニンジャ)の代表的な忍術スキルの一つ、水蜘蛛(みずぐも)は水面に立つスキルだ。

 これは足が水面から離れるだけで解除されるので水面歩行には向いていない。

 水面走りで魔力を節約しつつ、要所だけで使えるようになるのがベストだ。

 

 ミュールは何度も何度も海で(おぼ)れながら、この水面走りと水蜘蛛(みずぐも)の切り替え方を練習していた。

 そして今日、彼女は修行の成果を実践で遺憾(いかん)なく発揮したのである。

 

「ふふん、もうあちしのことを足手(まと)いなんて言わせないにゃ!」

「次は化身スキルだな……」

「にゃ!?」

 

 獣人種固有の身体強化スキルである化身スキルは使いこなすのに非常に時間が掛かる高難易度スキルだ。

 毎日毎日、コツコツ練習しないと上達しない。

 サボり癖が付いているこの猫娘には監視する人間が必要だ。

 

「少し早いが、今日はもう帰るとするかのう」

「ミュールも川の水で濡れちゃったしな」

「賛成にゃ。あちしも早く試験の結果が知りたいと思っていたところなのにゃ」

 

 俺達は二足歩行で歩くイルカのうろつくジャングルを抜けて狭間(はざま)平原まで出ると、バイクに乗って帰路についた。

 

 バイクを運転する俺の後ろには忍術スキルの軽業で体重を減らしたミュールが立ち乗りしていて、その隣をアンバーがシュバババっと走っていた。

 

 

 ダンジョン出口のゲートを通り探索者ギルドまで帰ってきた俺達は、ロビーにある異界予約・昇格試験窓口の看板が下げられた受付までやってきた。

 

 背の高い椅子に座ったゴブリンのギルド職員さんが一枚の評価シートを片手にミュールに昇格試験の結果を告げる。

 

「ミュール様のCランク昇格試験の結果ですガ……」

「ゴクリ……」

「……問題ないでしょウ。私共探索者ギルドはミュール様を正式なCランク探索者として認定致しまス」

「やったにゃ!」

 

 喜色を上げてガッツポーズをしたミュールが懐から取り出したギルドカードを受付に置くと、職員のゴブリンさんはそっとギルドカードを()でて情報を更新した。

 

 ギルドカードを手に取ってステータスを眺めているミュールに、職員のゴブリンさんは一冊の冊子を差し出した。

 

「こちらの冊子にCランク探索者の受けられるサービスと課せられる義務が書かれていますからネ。ちゃんと後で確認してくださいヨ」

「あちしだってBランク探索者パーティーの一員なんだから、それくらいのことは言われなくても分かってるにゃ」

「なら結構でス。これからも頑張ってくださいネ」

「ありがとうにゃ」

 

 冊子を受け取ったミュールは職員のゴブリンさんにお礼を言ってから、少し離れた場所で待っていた俺達の方に戻ってきた。

 

「無事に昇格できてよかったな、ミュール」

「えへへ、これであちしも上級探索者の仲間入りにゃ」

「頑張ったお主にも何かご褒美が必要かのう」

「じゃあ、あちしは『ラ・ソレイユ』のホールケーキが食べたいにゃ」

随分(ずいぶん)と安上がりだなぁ」

「お祝いにはケーキと相場が決まっているものなのにゃ!」

 

 探索者ギルドを出た俺達は牧場(まきば)亭に帰ることにした。

 今日は早めに狩りを切り上げたので、まだ時刻は昼の3時過ぎである。

 

 

 俺が宿の扉を引き開けると、入口から見える広いリビングのテーブルで書き物をしていたオーブリーがその音に気付いて顔を上げた。

 

「皆さんお帰りなさい。昇格試験はどうでしたか?」

「もちろん合格にゃ!」

「それはよかったですねぇ」

 

 この5日間で色々あってオーブリーはこの宿に1晩だけ泊まることになった。

 色々って言っても要は牧場(まきば)亭の宣伝を兼ねた取材の為なんだけどね。

 

 アンバーはアモロ新聞社にお金を積んで、オーブリーにいい感じの特集記事を書かせるつもりらしい。

 

「ほれミュール、(はよ)うシャワーを浴びてくるのじゃ」

「分かってるにゃ」

 

 アンバーはミュールを連れて脱衣所に行くと、服の入った籠を持って戻ってきた。

 

「わしはクリーニングのついでに買い物をしてくるからのう。お主はここでゆっくりしているとええじゃろう」

「いってらっしゃい、アンバー」

「うむ、いってくるのじゃ」

 

 アンバーを見送ってソファに座った俺がテーブルに魔石の詰まった袋を置いて中から取り出した魔石を布で磨いていると、氷の入ったアイスカフェオレを()れて持ってきたカウリンが俺に質問してきた。

 

「ハルトさん、何をやっているんですか?」

「ダンジョンで手に入れた魔石の汚れを取っているんだ。そうしないとバイクのカートリッジに詰めた時に汚れが溜まって故障しやすくなるからね」

「へー、そうなんですか」

 

 ちなみにこれは三層の別の異界で手に入れた魔石だ。

 夕暮(ゆうぐれ)大河はその地形上、魔石の回収が困難だから狩りには向かない。

 

 一応、ジャングルにはウォーキングドルフィンという弱くて高い等級の魔石を落とす魔物が出るが、こいつを狩ろうとして大河の方から飛んできたフリスビータートルの円盤に輪切りにされる事故が相次いだので異界の予約が必須になったらしい。

 

 俺達も事故でうっかり即死はしたくなかったので、ミュールの昇格試験が終わった時点でさっさと帰ることにしたのである。

 

「それと、カフェオレありがとう。丁度喉が渇いていたんだ」

 

 魔石をテーブルに置いた俺がアイスカフェオレをゴクリと飲むと、氷でキンキンに冷えたカフェオレが喉を滑り落ちて火照った身体を芯から冷やしていった。

 中央大陸南部の蒸し暑い昼過ぎに飲む冷たいドリンクは最高の贅沢(ぜいたく)だった。

 

「ついでですから、気にしないでください」

 

 カウリンは自分の席に着くと、テーブルに広げていた布切れと針を取って()い物の続きを始めた。

 

 手芸でちょっとした小物を作るのが彼女の趣味らしい。

 出来上がったものは友達にあげているようで、俺もこの間牛柄の巾着袋を貰った。

 

「ふー、スッキリしたにゃー」

 

 三人が黙々と自分の仕事を進めていると、シャワーを終えたミュールが下着姿のままこちらにやってきた。

 さらしにふんどしで見るからに忍者って感じだ。

 

 テーブルに置かれていたアイスカフェオレを一気飲みしたミュールは、どしんと俺の隣に座るとゴロンと横になって俺の(ひざ)に頭を乗せた。

 こいつ、早速昼寝をするつもりか。

 

「おいミュール、魔力はまだ残っているよな?」

「もう残ってないにゃ」

「嘘つけ。まだ半分は残っているはずだ」

「はぁ、しょうがないにゃあ……」

 

 ミュールはため息をつくと、寝転んだままフンと身体に力を入れた。

 するとみるみるうちに彼女の白い肌に赤い毛が生えてきた。

 

「む、む、む……」

 

 ケモ化したミュールが眉を歪ませながら我慢している。

 俺はポーチから取り出した懐中時計を見ながら化身スキルの持続時間を計る。

 

「にゃあ……」

 

 ミュールが力を抜くとスッと毛が体内に引っ込んで消えていき元の姿に戻った。

 

「2分34秒」

「やったにゃ、新記録にゃ」

「少し休んだら続きをやるよ」

「にゃあ……」

 

 ミュールの修行は夕方にアンバーが宿に帰ってくるまで続いた。

 

 ミルクやチーズをたっぷり使ったカウラお手製の夕食の後、ミュールはアンバーが買ってきたホールケーキを丸ごと一つ平らげた。

 

 俺達は別に買ってきたケーキを食べながら、ポッコリとしたお腹を抱えて幸せそうにソファーで寝転ぶミュールを眺めたのだった。

 

 

 いよいよ明日はプンレク島でハムマン祭りが行われる。

 ユーストとの別れの日は近い。

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