マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第77話 ギース杯ハムマンコンテスト

 この世界の有名な本に「海賊王ギースの冒険記」と呼ばれるものがある。

 右目に眼帯をしたオーガの男が帆を張った木造船の上に立つイラストが描かれたこの本は、月光歴1800~1900年代に活躍した冒険家のギースが書いた自伝本だ。

 

 ギースはプンレク島の出身で、ただでさえハムマン好きが多い島民の中でもとりわけハムマンが大好きだった。

 

 彼は幼少期に島の守り神であるゴールデンハムマンを探して島中の森という森を探索したが、何の痕跡も見つからずに途方に暮れた。

 だが、ここで折れないのがギースという男だった。

 

 本物のゴールデンハムマンに出会う為、ギースはハムマン好きの仲間を集めて島から飛び出すと世界中の未踏破ダンジョンを見つけては探索するようになった。

 

 そして彼はダンジョンの中で発見した新種のハムマンを捕まえては、生まれ故郷のプンレク島に送り出した。

 

 探索に必要になる資金はマッピングした未踏破ダンジョンの地図を売り払ったり、あるいはダンジョンの中で見つけた出現品(ドロップアイテム)を売って(まかな)ったという。

 

 ギースは200年近くの時を掛けて世界中のダンジョンを巡ったが、ついにゴールデンハムマンを発見することは叶わなかった。

 

 西大陸での探索行が終わり集まったメンバーが解散すると、ギースは故郷のプンレク島に帰り酒に(おぼ)れるようになった。

 こうして彼の長い冒険の旅路はここで終わりを告げたかに思えた。

 

 しかし不屈の男ギースはミン・ノルとその仲間達との運命の出会いによって生きる活力を取り戻し、再びゴールデンハムマンを求めて立ち上がることになる。

 

 彼は月光歴1989年に遺書代わりの自伝本を刊行すると同時に、船員を(つの)って未踏の東大陸へ挑むことを表明した。

 

 自慢の海賊船に乗り大型海棲(かいせい)魔獣が(うごめ)く大海を(へだ)てた東大陸へ向かったギースは、当然のように帰らぬ者となった。

 無謀ともいえる挑戦だったが、確かに彼はハムマンへの愛に生きた男だった。

 

 海賊王ギースの未帰還が広く(おおやけ)のものになると、プンレク島の住民達は世界中のハムマンをプンレク島に集めた彼の偉業を(たた)える為にハムマン祭りで一つのコンテストを開催することにした。

 

 それこそがギース杯ハムマンコンテスト。

 10年に一度行われる、世界一のハムマンを決めるコンテストだ。

 

 

 メイソンとの戦いを終えた俺がアンバーと二人でハムマン神社までやってくると、そこでは神社の前に作られた大きな土俵の上でハムマン同士が熾烈(しれつ)な戦いを繰り広げていた。

 

「いけっ、ジャガーマン!」

 

 ワーキャットの少年が指示を出すと、土俵にヒョウ柄のハムマンが飛び乗った。

 

「ちょびすけ、あなたの美しさを見せてやりなさい……!」

 

 ラミアのマダムが指示を出すと、土俵にちょんまげ柄のハムマンが飛び乗った。

 

「いざ尋常に……勝負!」

 

 土俵の上で向かい合った二匹のハムマンの間に立ったオーガの神主が旗を振ると、両者が勢いよく衝突した。

 

「くっ……頑張れジャガーマン!」

「ちょびすけ、そこです……そんなっ!」

 

 俺達が木で作られた階段状の応援席に座って二匹のハムマンがじゃれあっている姿を眺めていると、ちょびすけと呼ばれたちょんまげ柄のハムマンがお腹を上に向けてころりと土俵に転がった。

 

 露わになったハムケツからぴょこりと飛び出した小さなしっぽに向けて、カメラマン達が一斉にシャッターを切る。

 どうやらフラッシュ厳禁らしく、カシャカシャという音だけが響いていた。

 

「そこまで! アマゾン代表、ジャガーマンの勝ち!」

 

 オーガの神主がワーキャットの少年の方に旗を振るうと、応援席からぱらぱらとしたまばらな拍手が勝者に贈られた。

 

「よくやったジャガーマン、帰ってこい!」

「ちょびすけ……よく頑張ったわね」

 

 勝負が終わると、飼い主に向かって二匹のハムマン達が帰っていった。

 応援席の後ろにあるトーナメント表が更新されるとすぐに次の試合が始まった。

 

「そこだっ、頑張れミケランジェロ!」

 

 俺がかわいい三毛柄のハムマンに声援を送っていると、白けた顔をしたアンバーが心無い言葉を口にした。

 

「のうお主……何かしょぼくないか?」

「俺がずっと心の中で思っていたことを口にしたな……!」

 

 そう、世界一のハムマンを決めるバトルにしては余りにもしょぼいのである。

 応援席で観戦している観客はまばらで、座席はスカスカだ。

 

 唯一埋まっているのは、土俵の間近にあるカメラマンの撮影場所だけだった。

 そこではハムマン愛好家のカメラマン達に紛れてピンク色の羽毛をしたハーピィの女がベストなアングルを求めて必死にシャッターを切っていた。

 

「実はこのハムマンコンテストのメインイベントはハムマン愛好倶楽部の懇親会(こんしんかい)の余興で行われるハムマンバトルトーナメント、つまりかわいいハムマン同士がじゃれあうラットファイトの撮影会なんだよね……」

 

 ハムマンコンテストの出場者は全員、全国のハムマン愛好倶楽部で行われた予選を勝ち抜いて参加しているエリートハムマンだ。

 

 世界各地のハムマン愛好家達が(えら)んだ()りすぐりの美ハムマンが一堂に会する機会などこの場を除いて他にない。

 いわばこれはハムマン界におけるオリンピックなのである。

 

「なるほどのう、要はこん棒愛好倶楽部の定期集会のようなものか」

「毎年集まるのは大変だから、10年に一度だけ開催することにしたらしいよ」

 

 そんな感じのことがハムマン図鑑のコラムに書いてあった。

 

「やっと見つけたにゃ!」

 

 背後から聞こえてきたミュールの声に振り返ると、そこにはミュールとカウリン、それにカウルーが立っていた。

 

 三人とも、俺達みたいなハムマン柄の浴衣を着ている。

 ミュールの頭にはハムマンのお面が掛けられていて、右手には大きな綿あめを握り左手にはたこ焼きの船皿が乗せられていた。

 

「おお、無事に合流できて何よりじゃ」

「みんな楽しんでいるみたいだね」

「見て見て、射的でかわいいぬいぐるみゲットしちゃった!」

 

 カウルーは大きなハムマンのぬいぐるみを胸に抱えていた。

 あの射的は見た限り結構キツい設定だったはずだけど、よくゲットしたな。

 

「カウルーよ、良かったのう」

「ミュールさんには(おご)って貰ってばかりで、ちょっと申し訳ない気分です」

「今のあちしは金持ちにゃんだから気にするにゃ。今日は限界まで楽しむのにゃ!」

 

 この間の緊急クエストで100万メルの臨時収入が入ったので、旅費の分を差し引いてもミュールにはそれなりのお小遣いが支給された。

 だが、この分だとそれもすぐに底をつくことになりそうだ。

 

 

 それから2時間ほどが経過しハムマンバトルトーナメントもついに佳境に入った。

 こうなってくると流石に応援席も満席に近い状態になっている。

 

 俺達がミュールの買ってきたハムマン焼き(たい焼きみたいなやつ)を魔導スキルで温め直して食べていると、土俵の左右に二人のハムマン連れの男がやってきた。

 いよいよハムマンバトルトーナメントの決勝戦が始まるのだ。

 

「……行け、トマホーク」

 

 タンクトップを着たガタイのいいヒューマンの男が指示を出すと、精悍(せいかん)な顔つきをした巨大なジャンガリアンハムスターがどしんと土俵に飛び乗った。

 

「スオミー、出番だ」

 

 華奢(きゃしゃ)なエルフの男がキザに指示を出すと、雪のように白いハムマンがひょいと土俵に飛び乗った。

 

「ハムマンバトルトーナメント決勝戦、いざ尋常に……勝負!」

 

 神主が旗を振ると、両者が勢いよく衝突した。

 

「速い……!」

 

 ジャイアントハムマンの頭突きをさっと(かわ)したスノーハムマンが勢いよくジャイアントハムマンの背中の上に駆け上がった。

 相手を見失ったジャイアントハムマンは周囲をきょろきょろ見回している。

 

 スノーハムマンはその上で丸くなって毛繕(けづくろ)いを始めた。

 バランス感覚に優れているのか、スノーハムマンはコロコロ転がっているのに背中の上から落ちる気配がまったくない。

 

「か、かわいい……!」

 

 SNSに動画をアップしたらバズりそうなハプニングに会場がざわめく。

 しばらくすると、ジャイアントハムマンは勝ちを確信したのか土俵を降りて飼い主の(もと)へ戻ってしまった。

 

「そこまで! ネフライト代表、スオミーの勝ち!」

 

 オーガの神主がエルフの男の方に旗を振るうと、応援席からパチパチパチという盛大な拍手が勝者に贈られた。

 

「スオミー、よくやったね」

 

 スノーハムマンが走って飼い主の(もと)に戻ると、エルフの男の身体を駆け上がり左肩に乗った。

 どうやらそこが彼女の定位置らしかった。

 

「すまん、ナタリー……」

 

 惜しくも優勝を逃したタンクトップの男はFEでロストした時みたいなセリフを吐きながらジャイアントハムマンの頭を()でていた。

 

 ハムマンバトルトーナメントの決勝戦が終わったところで、今回のハムマンコンテストの参加者が土俵の後ろに集められた。

 土俵の上に神主と優勝者のエルフの男が立つと、神主が大きな声で語り掛ける。

 

「最後にこのハムマンコンテストの参加者による厳正(げんせい)なる投票の結果決められた、世界一のハムマンを発表したいと思います!」

 

 二人のオーガの巫女によって土俵の前に布の掛けられた一枚の板が運ばれてきた。

 

「第54回ギース杯ハムマンコンテスト、ゴールデンハムマン賞受賞者は……アクアマリン代表、トマホーク!」

 

 布が取り払われるとそこにはコンテストに参加しているハムマンの写真がずらりと並べられており、写真の下部には参加者の名前入りの丸いシールがべたべたと貼られていた。

 

 どうやらそのシールが票扱いされているらしく、人気のあるハムマンには多くのシールが貼られていた。

 この人気投票ではトマホークが僅差(きんさ)でスオミーを破って勝利したようだ。

 

「ドルカスさん、トマホークくん、どうぞこちらへ!」

 

 タンクトップの男がジャイアントハムマンを連れて土俵の上に立つと、金色のハムマン像が乗ったトロフィーを持った二人のオーガの巫女がやってきてトーナメントの優勝者とコンテストの受賞者にそれぞれトロフィーを手渡した。

 

「皆さん、彼らに盛大な拍手を!」

 

 神主の呼び掛けに応じて、パチパチパチと大きな拍手が会場中に響き渡った。

 

 最後に参加者全員がハムマンと一緒に土俵の前に並んで記念撮影をしてから、第54回ギース杯ハムマンコンテストは終わりを告げたのだった。

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