マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
ダンジョンが人間の魂を捕食して生み出すダンジョンの卵、正式名称をダンジョンパールと呼ぶこの大きな真珠状の宝珠は古来より貴重な宝物として扱われていた。
それでも当時はただの珍しいだけの宝物であり、
だが統一帝国崩壊後にネフライトの魔道学院がこれまで
小物しか入らないような低ランクのマジックバッグならともかくとして、倉庫を丸ごと持ち運べるAランクのマジックバッグともなればその輸送力は天地の差、戦争の形すら変える代物だ。
これから先の時代、高ランクダンジョンをより多く抱える国がその地域の覇権を握ることになる……為政者達がそう考えるのも当然のことだった。
こうして多くの国々がダンジョンを求めて土地を奪い合い、戦乱の世を更なる混迷に落とし込んでいった。
しかしAランクの宝珠を生み出すAランクダンジョンはいつ寿命を迎えるか分からない危険な存在でもある。
国土に抱えたAランクダンジョンがスタンピードを起こしたが為に国が滅ぶのも珍しくないことだった。
これを問題視した(という建前で)月光教の指導者アモンによって月光歴1515年にダンジョン討伐令が発令されると、彼の抱える私兵である聖人達によって中央大陸の高ランクダンジョンは次々に討伐されていった。
その結果、高ランクダンジョンの生み出す宝珠の供給は先細り、同時に希少性が増した高ランク宝珠の価値は更に跳ね上がっていく。
時は流れ月光歴1822年、アザゼルが開発したダンジョンマスターシステムを利用した探索者ギルド銀行が世界各地に進出すると、世界経済の発展により資本家がどんどん力を持つようになった。
その資本家達の投資先は多岐に別れたが、その中でも最も手堅いと言われていたのがダンジョンパール投資だった。
探索者ギルドの発足により西大陸のダンジョンから採取された高ランク宝珠が運ばれてくるようになっても、それだけでは世界中の需要を満たすには不十分だ。
それに商機を見た欲深い投資家達は、こぞって資産をダンジョンパールに変えると家の金庫へと仕舞い込んだ。
こうして市場に出回る宝珠を減らし、更なる価値の上昇を生み出そうとしたのだ。
その主導者であった月光教の指導者アモンの思惑通り、ダンジョンパールは更なる高騰を見せていた。
しかし彼らは月光歴2010年、アザゼルの聖都襲撃事件の翌年にティアラキングダムの宰相ベネディクトが仕掛けたゴブリンダンジョン製宝珠の大量売却により地獄を見ることになる。
ティアラキングダムの政商によって世界中の取引所で同時多発的に行われた宝珠の売り抜けにより、たった一晩で宝珠の価値は半分にまで下落した。
欲深い投資家達は預金を吐き出して買い支えようとしたが、遠方の取引所でも同様のことが行われていることを知った耳の早い者が損切りを始めたことにより宝珠相場は地の底まで落ちていく。
悪夢の5日間と呼ばれるこの経済戦争により宝珠の価値は全盛期の10分の1まで下落し、この世界における富のおよそ8割が失われたと言われるほどの金融不安が巻き起こった。
ダンジョンパール恐慌と名付けられたこの金融危機から逃げ遅れ多額の負債を負った投資家達の行動は、首をくくるか、夜逃げするか、あるいは元凶のティアラキングダムに報復を目論むかの三択に別れた。
この投資家達の行動を見越していた宰相ベネディクトはあらかじめ結成していた暗部組織を動員し、彼らのミン・ノル暗殺計画が芽を出す前に摘んでいった。
当時の暗部組織の構成員は全員、8年戦争を生き抜いた歴戦の老兵達だった。
これがのちのノル王家親衛隊、
ダンジョンパール恐慌によって多くの企業が倒産することになったが、職を失い路頭に迷った人々には探索者という名のセーフティーネットが残されていた。
アザゼル事件の影響で聖職の締め出しが行われていたこともあり、彼らは生きる為に自らの信仰を捨てざるを得なくなった。
これが月光教の衰退を大きく加速させる要因になったのは間違いないだろう。
この世界で初めて起こった世界恐慌により多くの富が失われたが、驚くべきことに落ち込んだ経済は瞬く間に回復していくことになる。
忘れてはいけないことだが、この恐慌の発端となった宝珠はマジックバッグの制作に必要不可欠な素材だ。
土地や建物みたいな不動産やチューリップの球根なんかとはわけが違うのである。
ティアラキングダムがばら撒き、投資家達の金庫から放出された大量の宝珠が市場に出回ると、目端の良い者はすぐに動き出した。
ある者はマジックバッグの術式を改変した装具を作り出して探索者に広め、ある者はお抱えの魔道具職人にマジックコンテナを作らせて企業に売り込み、ある者は安価で手に入るようになったマジックバッグを使って郵便業を始めた。
その中でもマジックコンテナの普及はこの世界の流通にある種の革命を起こした。
輸送費の削減はあらゆる物の値段を引き下げ、それは人々の生活に余裕を生み、その余裕は新たな消費を生んだ。
こうして世界中のあらゆる国や地域で経済活動が活性化したことにより景気が向上していき、その経済的余裕は技術投資へと向かっていくことになったのだ。
後はどこかの天才がインターネットに相当する通信技術を発明するだけで、時代は現代を飛び越えて近未来に突入するだろう。
そんな話を以前アンバーにしたのだが、その時にギルド本部が既に銀行業務でダンジョンを利用した次元間通信を使っていることが分かった。
しかもそのやり取りは一部の上級天使しか知らないムーンライト語で高度に暗号化されているらしいので、その解読やハッキングに使えるような技術が現れたらまず確実に潰されるとのこと。
要するに禁則事項ってことだ。
そんなことばかりしているからリジェネレーションが遺失スキルになったんじゃないかな。
まあ、インターネットには悪いところも多いし無い方がいいこともあるだろう。
俺にはネットでサクレアを叩いてリアルアタックを受けるネット民達の姿がありありと想像できてしまった……。
隣に座るアンバーの読んでいる「ダンジョンパール恐慌から立ち上がった男 バードマン郵便の生みの親ベルガーの挑戦」と書かれた本の表紙を横から眺めながら、俺はそんなことを考えていた。
窓の外は真っ暗闇で、時折思い出したかのようにオレンジ色の
俺達の乗る魔道列車は現在、中央大陸東部と南部を
このトンネルは大体1時間くらいで向こう側に抜けられると聞いているから、そろそろ出口に出るはずなんだが……。
俺が懐中時計を片手にそわそわしながら待っていると、いきなり闇が晴れて窓の外から眩しい日差しが飛び込んできた。
ようやく長いトンネルを抜けて、魔道列車がアモロ共和国に入ったようだ。
「ふにゃああー」
大きくあくびをする声が聞こえたかと思うと、寝癖で髪がボサボサになっているミュールがポリポリと尻を
「よく寝たにゃー」
「おはようミュール。じゃあ早速だけど化身スキルの練習を始めようか……」
「にゃ!?」
ミュールには悪いが、彼女には俺の暇つぶしに付き合って貰うとしよう。
俺はポーチから手帳を取り出すと彼女の特訓メニューを再確認するのだった。