マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第80話 海都カナン

 時刻は昼を過ぎた頃、寝台車の個室から見える窓の外の景色は青々とした水田へと変わっていた。

 普段俺達が口にしている一粒が大豆サイズの米、鬼米を栽培している水田だ。

 

「ううむ、鬼米の水田を眺めながら食べる駅弁は乙なものだな……」

 

 俺は窓際の狭いベッドにあぐらをかいて、アモロ共和国側の国境の街キャスピアの駅の売店で買ったローストビーフ駅弁に舌鼓(したづつみ)を打っていた。

 

「ああやって栽培されたお米が世界中に輸出されるわけじゃからのう。わしらも額に汗して作ってくれている農家への感謝の気持ちを忘れずにいたいものじゃ」

 

 俺の隣で足を横に並べて座っているアンバーはそんなことを言いながら、新鮮な魚介をふんだんに使った海鮮ちらし寿司駅弁を食べていた。

 

「あ、あちしにも早く食べさせて欲しいにゃ……!」

「まだ魔力は残っているだろう。あと1セット済ませてからだ」

「うにゃあ……」

 

 三畳くらいのスペースがある寝台車の個室には俺が土属性スキルで作ったランニングマシンが置かれていて、その上でミュールがべたりと倒れ込んでいた。

 

「さあさあ、頑張った後のご褒美はもう目の前だ。もうひと踏ん張り行ってみよう」

 

 俺が横に積まれていた三種の駅弁を掲げて彼女に発破をかけると、ぐうぅぅぅーと腹の音を鳴らしながらよだれを垂らしたミュールがゾンビのように立ち上がった。

 

「え~き~べ~ん~にゃあああああ!」

 

 化身スキルを使いケモ化したミュールがランニングマシンの上を走り出した。

 俺は彼女の動きに合わせて石を操作して、ランニングマシンの速度を調整する。

 

 化身スキルはステータス補正による発動時間制限のない持続型のスキルだ。

 俺の多用している土生成スキルと同じく、最初に一定の魔力を消費した後は精神力の続く限り維持し続けることができる。

 

 真に熟練した化身スキルの使い手なら、24時間365日生きている間ずっと化身し続けることすら可能だ。

 

 獣人種が太古の昔からセックスアピールの一種としてこの化身スキルを使っていたこともあり、民族文化が廃れつつある現代においてもケモナー性癖を持つ獣人の異性にモテる為に子供の頃から練習する者は多い。

 

 俺の元パーティーメンバーである猪獣人(オーク)のラインはこの化身スキルを非常に上手く使いこなしていた。

 彼もまたセックスアピールの為に血の(にじ)むような努力をしたのだろうな。

 

 ちなみに俺は飲み会で彼の友人にクスリを盛られて以降、ラインとは一度も会っていなかったりする。

 

 その時は解毒スキルでこっそり治して事なきを得たが、気付いていなければどうなっていたことやら……。

 

「ふにゃあっ!?」

 

 化身スキルが解けて転び、ランニングマシンのベルトに吹き飛ばされたミュールが壁に敷かれていた毛布と寝袋を重ねたクッションに激突した。

 

 俺はランニングマシンを石の流体に戻すと、床に落ちたミュールを柔らかく受け止めた。

 

「よく頑張ったな。飯の時間だ」

「アチシ……メシ……タベル……」

 

 ゾンビみたいな動きでゆらりと立ち上がったミュールは駅弁を手に取ると、包装を破り捨て箸も使わずに口だけでむしゃむしゃと食べ始めた。

 

「こやつ、知能が退化しておる……」

「ちょっとやりすぎたかな?」

 

 俺とアンバーがその姿にドン引きしていると、胃袋が刺激されたのか正気を取り戻したミュールが駅弁を抱えながら床に座り込んで愚痴をこぼした。

 

「あちしは、こんな辛い思いをする為に探索者になったわけじゃないのにゃ……」

「学生時代に化身スキルの練習をサボってきたツケが回ってきただけだろう」

 

 俺が割り箸をミュールに渡すと彼女は口を使って片手でパキンと割り箸を割った。

 口の周りが汚れているのも気にせずに、ミュールは文明的な食事を始めた。

 

「サボってたわけじゃないにゃ。あちしは子供の頃からずっと忍術スキルの練習ばかりしてたのにゃ。毎日毎日、魔力が空っぽになるまで頑張って……今のあちしがあるのは全部その努力のおかげなのにゃ」

 

 確かに、ミュールは魔力が低い割に多彩な忍術スキルを扱えるのは事実だけども。

 

「それってつまり、強さばかりを追い求めて女を捨てたってことだよね?」

 

 獣人種の女にとって化身スキルの練度は化粧と同じくらいの価値があるんだぞ。

 まあケモ性癖のない普通の異種族で満足するのは自由だが、ファッションセンスの欠片もない私服しか持っていないミュールにそれができるだろうか。

 

「あちしは探索者にゃ! 強くなればオトコなんて掃いて捨てるほどやってくるに決まってるのにゃ!」

「ミュールよ、強さだけでは愛は買えぬぞ」

 

 経験者は語る。

 

「まあいいにゃ。コドモが欲しくなったらハルトに頼めばいいからにゃー」

 

 ミュールは二つ目の駅弁を開封しながら気楽に言っているが、果たしてそれをアンバーが許してくれるかな?

 

「ミュールはそんなことを言っているけど、アンバーはどう思う?」

「その時は四つ折りじゃな」

 

 四つ折りにされちゃう!

 

「アンバー、アルメリアさんの時とは違うみたいだけど評価ポイントはどこなの?」

「そうじゃのう、乳の大きさじゃろうか」

 

 ミュールのおっぱいは並みなので、俺は彼女にはちっとも()かれていなかった。

 アンバーがいる以上、変な媚薬でも盛られない限り俺が彼女に手を出すことはないだろう。

 

「けぷっ、お腹いっぱいにゃ」

 

 あっという間に三つの駅弁を平らげたミュールは、口周りをべたべたにしたまま床に寝転がった。

 仰向けになった彼女のぽっこりとしたお腹がその満足感を主張する。

 

「あーもう、しょうがないやつだな……」

 

 俺はポーチから白いハンカチを取り出すと、彼女の口を拭き始めるのだった。

 

 

 俺達が乗っている魔道列車の座席には三つの等級がある。

 三等級は後列車両、いわゆる普通のグリーン席。

 二等級は中間車両のボックス席、俺達が最初に乗っていた向かい合わせの個室席。

 一等級は前列車両の寝台車、泊まり込みの客の為の個室席だ。

 

 夜になると、俺達は別の車両にある食堂車まで移動してディナーを取った。

 列車の中だけあって座席はちょっと狭いが、出てくる料理はラブオデッサで泊まったホテルで出てきたものと比べても遜色(そんしょく)のないものだった。

 

 それから別の車両にあるシャワー室で手早く身を清めると、窓際のベッドでアンバーを抱き締めながら大きな窓から見える星々を眺めつつ眠りについた。

 

 翌朝に食堂車で朝食を取った後、ミュールの修行に付き合っているうちに時間は過ぎ去っていき、俺達の乗る魔道列車はいよいよ目的地である海都カナンのすぐそこの距離までやってきていた。

 

「あれが噂に聞く迷宮塔イーラか……!」

 

 海沿いを走る魔道列車の車窓から、遠くの海に真っ直ぐ突き刺さる巨大な大剣状の塔が見えていた。

 そしてその周囲にはうっすらと光る青い網のような半円の結界が張られている。

 

「ブルーウェブが見えてきたのう。これを見るのも3年ぶりじゃ、懐かしいわい」

 

 ブルーウェブはAランク迷宮イーラの範囲内であることを示すものだ。

 サブマスターのバードマン達が見えない壁にぶつからないように、目印として作られている幻影のようなものらしい。

 

「や、やっとこの地獄から解放されるのかにゃ……」

 

 そこではケモ化したミュールが頭に本を山のように積みながら片足立ちしていた。

 両手で印を組み、ガタンゴトンと揺れる列車の上でバランス感覚を養っている。

 

 俺はミュールに化身スキルを使いながら日常生活を送る訓練をさせているのだが、これらの修行っぽい姿には特に何の意味もない。 

 同じ事ばかりさせても飽きるので彼女の好きなようにやらせているだけである。

 

「暇つぶしとはいえ密度を上げすぎたか。今日はもう終わりにしていいよ」

「やったにゃ!」

 

 喜色を上げたミュールが化身スキルを解くと、頭の上に乗っていた本がバサバサと床に落ちていった。

 俺はその本を拾い集めてポーチに仕舞うと、荷物を(まと)めて降車の準備を始めた。

 

 

 それから少しして、魔道列車は海都カナンの北にある駅に停車した。

 魔道列車から降りた俺達がプラットフォームを通って駅の外に出ると、目の前には和風情緒(あふ)れる街並みが広がっていた。

 

 ここはアモロ共和国の首都、海都カナン。

 オーガとマーメイド、そしてバードマンの(おさ)める和の国だ。

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