マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜 作:我島甲太郎
統一帝国の崩壊以降、中央大陸西部と東部を繋ぐ中継地として発展したアモロ共和国はネフライト王国に次いで長い歴史を持つ古い国家であり、この世界で初めて誕生した議会制を敷く民主主義国家でもあった。
国の
東には険しいディオゲネス山脈が
強い海軍力を持ち西にだけ注意していればそれだけで国を保つことができたアモロ共和国は、戦乱の世にあっても戦争とは無縁の平穏な時を過ごしていた。
そんなある時、マーメイドの子供が海都カナンの目と鼻の先にある岩礁地帯の海中に隠れるように口を開いていたダンジョンゲートを発見する。
スタンピードを恐れる必要のない安全な海中ダンジョンは、ダンジョンに入る為に水中に潜る必要がある不便性を除いても確保する価値は大いにあった。
この発見に喜び
イーラと名付けられたこの人工島にあるダンジョンの恵みはアモロ共和国を大いに
それから2000年が経ち、アザゼルによってダンジョンマスターシステムが開発されると、アモロ共和国の商人達は一にも二にもなく飛び付いた。
なぜならこのイーラにあるダンジョンは既にAランクまで成長していて、いつ寿命を迎えてもおかしくない状態になっていたからだ。
残る問題はただ一つ、月光教の聖人達ですら討伐を諦めたこの未踏破ダンジョンをどうやって踏破するかだけだった。
困った商人達は未踏破ダンジョンの専門家である冒険家ギースに大金を積んでイーラ迷宮の踏破を依頼した。
ハムマンの出現しないクソダンジョンを踏破する理由がないと
そこまで言うならやってみるかと仲間を引き連れてダンジョンに潜ったギースは、たった5日でAランク迷宮イーラを踏破して帰ってきた。
ハムマン愛好家の集う探索者パーティー「ギース海賊団」のメンバーの一人だった
商人達は余りの早さに驚いたが、約束は約束だ。
アモロ共和国はフェニキスに対して人工島イーラの自治権を与え、またギースに対しても莫大な報酬を支払った。
ギースはその報酬をそっくりそのままフェニキスに渡すと、すぐにゴールデンハムマンを探す冒険の旅へと戻っていった。
それに困ったのはフェニキスである。
フェニキスは子供の頃にギースに拾われた孤児で、その人生のほとんどを船の上で過ごしてきた。
そんな彼女がいきなり一都市を
困ったフェニキスがギルド本部から派遣されてきた天使ベリアルに相談をすると、彼は人工島と同じ大きさの巨大な塔を作ることを提案した。
「ここに、私達の愛の巣を作りましょう」という言葉を添えて。
百戦錬磨の天使にとって、
芸術家であり、優れた建築家でもあったベリアルはフェニキスの持つ莫大な資産に目を付けて、それを自身の芸術の糧にしようと目論んだのだ。
その本音はともかくとして、ベリアルはフェニキスが55歳で亡くなるまでに彼女との間に12男16女を儲けたのだからその愛は本物だったのだろう。
そしてこの美しい天使と美しいハーピィの間に生まれた子供達は非常に容姿に優れ(バードマン基準)、とてもバードマンにモテた。
ダンジョンから離れることができないサブマスターであるフェニキスの血族とお近づきになろうとして世界中からバードマンが集まってきたが為に、彼らの住処を用意しようとしてベリアルの塔はどんどん上に伸びていくことになった。
ベリアルが年に1階層積み上げたこの塔は、彼が月光歴1999年に月光教の聖人に暗殺されて命を落とした時には171階層、およそ900mもの全長となっていた。
ベリアルの死後、この塔の最上階は作りかけのまま放置されることになった。
彼の建築技術は余りにも驚異的で、後世の建築家には手も足も出せなかったのだ。
こうして迷宮塔イーラは未完のまま完成することになったのである。
かまめしどん
俺達の乗るタクシーは海都カナンから迷宮塔イーラへと続く海上にかかった巨大な橋の上を進んでいき、塔の手前にある巨大な駐車場で停車した。
運転席と助手席の間にある端末にギルドカードをタッチしてイーラペイで料金を支払った俺は、タクシーを降りると高い塔を見上げた。
「ベリアルはよくもまあこんなものを一人だけで作ったもんだな……」
「これはこの世界でもっとも高い建築物じゃからな。700年前の技術水準で作られているにも関わらず、大地震でもビクともしない耐震性を備えておる。天才建築家ベリアルの最高傑作と言われるだけのことはあるのじゃ」
「地震とかあるんだね、この世界」
「……? あるじゃろそれくらい。お主の故郷にはなかったのか?」
変なことを言ってアンバーを困惑させてしまった。
ゲーム脳もほどほどにしないといけないな。
「あったというかありまくりだったよ。年に一度は国のどこかで大きな地震が起きていたし」
「よくそんなところに国を作ろうとしたものじゃな。建物を建て直すのも大変じゃろうに」
「その分耐震建築技術は発展していたから、津波にさえ気をつけていれば問題はなかったんだ。……津波はガチでヤバいから地震が起きたら必ず高台に避難しようね」
「……お主の国では津波で何かあったのか?」
「まあ、ちょっとインフラ施設が事故って入ったら死ぬ呪いの地が生まれたくらいだ」
「それはそれで気になるのう……」
そんなことを話しながら大きく開いた塔の入口から探索者ギルドの中に入った俺が中を見回してみると、塔の中は大きな吹き抜けになっていてバードマンが空を飛んで自由に階層を移動できるようになっていた。
その内装は非常にデザイン性に富んでいて、ヨーロッパの有名な教会にある彫刻みたいな模様があちこちの壁や天井に刻まれていた。
「な、なんじゃこれは……」
その美しい探索者ギルドの床のいたるところには若いバードマンの男達が転がっていて、時折うめき声を上げていた。
余りにも異様な光景なのだが、他の探索者達はそんな彼らをまるで空気でも扱うようにスルーしている。
「コイツら、大丈夫なのかにゃ?」
ミュールがツンツンと足先でつついてもまるで反応しない。
どうやら生きてはいるみたいだが……。
「アンバー、これイーラだと普通の光景なの?」
「そんなわけあるかい! わしも初めて見たわ!」
よかった、異常な光景で。
「どうしてこんなことが起きているのか確かめる必要があるな。まずは受付で話を聞いてみるとしよう」
「そうじゃのう……」
俺達が床に転がるバードマンを踏まないように気を付けながら近くの受付に行くと、
「あらら、アンバーちゃんじゃないですか。あなたのアクアマリンでの活躍は耳にしていますよ。お元気そうで何よりです」
「久しぶりじゃのう。どうじゃ、お主は変わりないか?」
「それがですね、実はつい先日3人目の子供が産まれまして。これがまたワガママで手を焼いていて――」
「その話はまた後日聞かせてくれぬか。ところでのう、あれは何じゃ?」
アンバーが床に転がるバードマン達を指さすと、3児の母らしいハーピィの職員さんは困った顔をしながら事情を説明してくれた。
「なんか、憧れのアイドルに恋人ができたとかどうとかで今朝からずっとこうなんですよ。いい年して恥ずかしくないんですかね」
アイドルに恋人ねぇ……。
俺がアンバーをジト目で見つめると、彼女はサッと俺から目を
「二人とも、これを見るにゃ!」
俺達がミュールの声に振り返ると、彼女は一枚の新聞を手に持っていた。
ミュールが掲げたその新聞の外枠には「アモロスポーツ」と書かれているので、どうやらこれはゴシップ紙のようだった。
そしてカラー印刷されているその新聞の一面に、バルコニーの手すりに乗りファルコと両翼を重ねるサクレアの写真がでかでかと掲載されていた。
写真の端っこにはアンバーのふわふわの金髪がちょっとだけ写り込んでいる。
「『ティアラキングダムの歌姫、ジャスティン城でラブソングを贈る』か……」
ゴシップ紙の飛ばし記事はよくあるものだが、決定的な場面が切り取られた写真に添えて二人の馴れ初めを含めた詳細なエピソードを語られたら、サクレアガチ恋ファンが心を折られるのも無理もないことだろう。
「なんということじゃ。あやつめ、とんでもないことをしてくれたのう!」
ネタ自体はジャスティン市民から聞き取りをすれば手に入るだろうが、詳細な情報は関係者からしか入手することはできない。
そしてこの写真は、アンバーが
つまり、この惨状の原因はアンバーにあるということになる。
俺はしらばっくれるアンバーの肩を押さえて両目の視線を合わせた。
「アンバー、責任転嫁をするのはやめようか」
「わしもここまでの惨状になってしまうとは思っていなかったのじゃ……すまぬ」
アンバーは床に転がるサクレアガチ恋ファンに小声で謝った。
反省できてよろしい。
「まあ負け組の一般バードマンにいつまでも構ってはいられない。さっさと用事を済ませてしまおうか」
「そうじゃな……。のうメールよ、ギザードはおるか?」
「ギザードくんですか。すぐに呼びますから、ちょっと待っててくださいね」
手元の端末をいじって連絡したハーピィの職員さん(本名メール・イーラ)の近況を聞きながら待っていると、塔の吹き抜けを通って上の階層から朱色の羽毛をした一人のバードマンが飛んできた。
「アンバー!」
「おお、ギザード!」
ばさりと羽音を立てて降り立ったサブマスターの刻印を持つ鳥頭の優男が、両翼を抱くように組みながらアンバーに話し掛けてくる。
なんだかちょっとジョジョ立ちっぽい。
「アクアマリンを襲ったギガンティックタイタンのことは話に聞いているよ。死に掛けたんだってな、心配したんだぞ……!」
「お主は心配性じゃのう、わしがその程度でどうこうなるわけなかろうに。……紹介しよう、わしのフィアンセのハルト・ミズノとパーティーメンバーのミュールじゃ」
「あのこん棒狂いのアンバーにフィアンセだって……?」
残念だがお前の知っているこん棒狂いのアンバーはもういない。
ここにいるのは夜のこん棒すら使いこなすこん棒マスターのアンバーだ。
「どうも、フィアンセのハルト・ミズノだ」
怪しんだ様子で俺を見ているギザードに、俺はアンバーの肩を抱いて挨拶した。
「あちしはミュールにゃ。よろしくにゃー」
「そ、そうか。元気にやっているようならいいんだけど……」
「それでのう、お主にいい報告が二つあるのじゃ。聞きたいか?」
そのアンバーの言葉に、ギザードの目つきが真剣な眼差しに変わった。
「分かった、別室で詳しい話を聞かせて貰うとするよ。僕についてきて」
床に転がるサクレアガチ恋ファンを踏みつけながら歩くギザードの後ろを、俺達はゆっくりと歩き出すのであった。