マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第86話 金鼠の間の秘密

 露天風呂から出た俺達が脱衣所に置いてあった浴衣に着替えて部屋でくつろいでいると、部屋の外から「失礼いたします」という声が聞こえてきた。

 アンバーが「どうぞ」と返事をすると、障子がスッと開いた。

 

「皆様、お食事のお時間でございます」

「待ってたにゃ!」

 

 サクラさんの後ろに立っていた何人もの獣人の仲居(なかい)さんがお膳を運んで部屋の中央にある木のテーブルに豪勢な料理を並べていく。

 

「お食事が終わりましたらこちらの魔道具でご連絡ください。それでは皆様、ごゆっくりお召し上がりください」

 

 サクラさんが手のひらで指し示したのは、壁際に置かれている鐘のような魔道具が入っている化粧箱だ。

 

 アルストツカ洋裁店でマーヤが使っていたものと同じ連絡用の魔道具だな。

 これを振ると対になる鐘が音を鳴らすらしい。

 

 

 サクラさん達が退室して部屋が静かになったところで、俺達は夕食を取り始めた。

 ちなみにミュールはとっくに料理に手を付けている。

 

「ではいただくとするかのう」

「いただきます」

 

 座布団の上に正座している俺達の目の前に並んでいるのは、地元で採れた新鮮な海の幸をふんだんに使用した豪華な懐石料理だった。

 

 俺は小鉢(こばち)に盛られた料理に一つ一つ手を付けていくがどれも満足のいく味だった。

 まあ、それでも親父さんの作る料理には敵わないな。

 イクコさんが親父さんと喧嘩した理由が分かった気がした。

 

 そう言えば刺身を食べるのはこの世界にきてから初めてかもしれない。

 俺が青色に発光する謎の生物の刺身を醤油につけて食べながらそんなことを考えていると、いきなりシャーッと音を立てて障子が開いた。

 

「よう、アンタらがうちの旦那が世話になったっていう探索者かい」

 

 ズカズカと部屋に入ってきたのは海賊服を着た大柄のオーガのおばさんだった。

 俺には彼女が鬼の隠れ家亭の店主サワムラ氏の奥さんのイクコさんであることが一目で分かった。

 

「初めましてイクコさん。ハルト・ミズノです」

「わしはアンバーじゃ」

「あちしはミュールにゃ」

 

 俺達が箸を置いて自己紹介すると、あぐらをかいて座り込んだイクコさんもそれに(こた)えた。

 

「アンタらはアタシのことを旦那から聞いて知っているみたいだけどねぇ。仕事だから自己紹介しとくよ。アタシはイクコ、『パイレーツオブギース亭』の若女将さ」

「若女将……?」

 

 400代はアラウンドファイブハンドレットですよ。

 略してアラファイ。

 

「心はいつでも若いのさ。どうだいうちの旅館は。楽しんでいるかい?」

「あちしは温泉に入るのは初めてだったけどにゃ。料理も美味いし最高の気分にゃ」

「高級旅館の内装に似つかわしくない玄関の海賊グッズを除けば、おおむね満足しています」

 

 お世辞を嫌いそうな相手なので、ここは正直なところを()べるのがいいだろう。

 どうやらそれは正解だったらしく、イクコさんはガハハと笑った。

 

「アタシは海賊王ギースの大ファンでね。この旅館の跡目を継ぐのなら少しくらいは楽しみが欲しいと思ったのさ」

「その結果がアレですか。そんなんで商売は上手く行っているんです?」

「サービス自体は昔と変わっていないからねぇ。従業員を食わせるには十分さ」

「さいですか」

 

 イクコさんは腰の袋から鬼米酒の入った一升瓶を取り出すとゴクゴク飲んだ。

 じ、自由すぎる……。

 

「一つ聞くが、あの肖像画は何じゃ。ギースオタクが飾るものとは到底思えんぞ」

 

 ミュールが最初に気付かなかったように、玄関に飾られていたギースの肖像画はジョニアート美術館で見た絵に描かれていた姿とはまるで別人だった。

 ……というかギースのコスプレをしたサワムラ氏の肖像画だった。

 

「おっ、気付いてくれて嬉しいねぇ。指摘してくれたのはアンタで二人目だよ」

「やはりアレは踏み絵じゃったか。一体何が目的じゃ?」

「ここは金鼠(ゴールデンハムマン)の間。つまりこういうことさ」

 

 イクコさんは立ち上がると、腰の袋からギルドカードを取り出して部屋の奥にある柱に触れさせた。

 するとゴゴゴゴゴと音を立てて彼女の目の前の壁が下がっていく。

 

「こ、これは……!」

 

 壁の裏から現れたのは、分厚い耐魔ガラスで守られた状態で飾られている絵画や道具の数々だった。

 どれもとても古いものだが、かなり保管状態はいいようだ。

 

「これがアタシのギースコレクションさ。ここまで集めるのに苦労したんだよ?」

「ほぉ、これは本物のジョニアートか。よく手に入れたのう」

 

 返り血で汚れた海賊服を着たギースと翡翠色の魔道士(ウィザード)服を着た華奢(きゃしゃ)なエルフの男が木箱に座って酒を飲んでいる姿を描いた絵画を見てアンバーが感嘆(かんたん)の声を()らす。

 

「よく知ってるねぇ。もしかしてアンタらもジョニアート美術館に行ったのかい?」

「つい先月のう。そうでなければ肖像画の違いに気付くこともなかったじゃろう」

 

 それはどうだろうか。

 親父さんのことを知っていればツッコミを入れるくらいはすると思うのだが……。

 いや、ギースにそこまで興味のない人間は俺みたいにスルーするのかもしれない。

 

「まあ確かに、この絵は珍しくはあるけど……ここまでする必要あるかな?」

「売れば億は下らないからのう。隠す必要はあるじゃろう」

 

 この世界は売れば億は下らないものが多すぎる。

 例えばサクレアファンクラブ上級会員専用スペシャル席のコンサートチケットとか。

 

「こういうのは大体、探索者ギルドに登録されているから盗んで売ったらすぐに足がつくけどにゃ。懲罰必至にゃ」

「詳しいな。まるで盗賊博士だ」

「忍者を舐めないで欲しいにゃ」

 

 俺は彼女が悪の道に進まなかったことを喜びたい。

 

「どうだい、アンタらはアタシのギーストークを聞いていくかい?」

「ギーストークですか」

「わしは少し興味があるのう」

 

 まあ俺も興味がなくはない。

 一般的な書籍で手に入る情報と一部の関係者しか知らない情報とではかなりの乖離(かいり)があるからな。

 

 俺達は「わしとこん棒」とかピンクの羽毛をしたブン屋とかを使ってデマを流す側の人間だから、その辺りのことはよく理解している。

 

「アタシはギースオタクだから色々と裏話を知っているのさ。例えば、ギースがわざわざ前人未踏の東大陸に向かった理由とかねぇ」

「理由って、ゴールデンハムマンを探しに行ったんでしょう」

「一度は諦めてユーストの酒場で飲んだくれていた男がかい? 無謀と勇気をはき違えるような男が200年も未踏破ダンジョンの探索者を続けられるわけがない」

「言われてみれば、確かに……」

 

 俺が(あご)をさすりながら頭を巡らせると、イクコさんはにやりと笑って話を続けた。

 

「じゃあどうしてギースはそんなことをしたのか。それはねぇ――」

 

 こうして俺達はイクコさんのギーストークを(さかな)に豪勢な夕食を楽しむのだった。

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