マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第87話 フェニキスの兄妹

 空調の効いた和室に敷かれたふかふかの羽毛布団で暑い真夏の夜を快適に過ごした俺達は、広縁(ひろえん)(旅館の和室によくある謎スペース)の向こう側にあるガラス窓から差し込んできた朝日によって眠りから目覚めた。

 

 俺とアンバーは朝風呂でゆっくり身体を温めてから脱衣所で探索者服に着替えると二度寝していたミュールを起こして部屋の外に出た。

 パタパタと三人分のスリッパの足音を立てながら廊下を歩いて食堂に向かう。

 

 玄関近くにある広いロビーを経由して食堂に入ると、そこでは他の宿泊客が思い思いの格好で朝食を取っていた。

 

 3000年の歴史を持つ老舗(しにせ)の高級旅館だけあって、なかなかに盛況のようだ。

 朝食はバイキング形式になっているので、早速俺達もお盆を取って大皿に盛られた料理を物色し始める。

 

「食べ放題にゃ! 何から食べようかにゃー」

「ミュールよ、あまり取り過ぎるでないぞ。他の客の分も残してやるのがマナーというものじゃ」

 

 大皿に盛られていた刺身を丸ごと自分の皿に移したミュールにアンバーが注意すると、すぐ目の前で寿司を握っていた板前のオーガのお兄さんが笑いながら声を掛けてくる。

 

「お客さん、気にしないで好きなだけ取っていいですよ。無くなってもすぐに補充しますからね」

「ほら大丈夫って言ってるにゃ!」

「むう、気を利かせたようですまんのう」

「まあ見ておくんなさい」

 

 オーガのお兄さんがでかい魚の(さく)を上に放り投げると、青く光った包丁がシュバッと振り切られる。

 その下に彼が大皿をサッと出すと、切り分けられた刺身が綺麗に大皿に広がった。

 

「ビンビンマグロの刺身、一丁お待ち!」

「やるね、彼」

「ははは、自分はまだまだひよっこですよ。サワムラの叔父貴の域に到達するまで後どれくらい必要やら、とんと見当が付きません」

 

 謙遜(けんそん)しているオーガのお兄さんの胸の名札にはヒロキと書かれている。

 彼がモモちゃんの父親で、サクラさんの旦那のヒロキさんだった。

 

 立ち話をして他のお客さんの邪魔をするわけにもいかないので、俺達は手早く大皿の料理を自分のお盆に乗っている皿に取り分けると、確保していた四人掛けのテーブル席に着いて食事を始めたのだった。

 

 

 賑やかなバイキングで朝食を済ませた俺達は、玄関近くの広いロビーでギザードがやってくるまでゆっくりと時間を潰すことにした。

 俺は一人用のソファに腰掛けると、近くに置かれていた新聞を手に取って開いた。

 

 「日刊カナン」の一面には「イーラの探索者ギルドでバードマンの集団ヒステリーが発生 原因はアイドルの熱愛報道か」と書かれている。

 

 俺はその記事をスルーしてマーメイド議員の不倫問題を扱う記事を読み始めた。

 異世界の政治に関心を持っているだけで、決してカラー写真の谷間に()かれたわけではないので勘違いをしないように。

 

 

 新聞を読み飽きた俺がアモロ将棋を指しているアンバーとミュールの姿をぼんやりと眺めていると、背後からカチャカチャという足音が聞こえてきた。

 

 俺がソファの背に片手を乗せて振り返ると、玄関の方からギザードとオーブリーの二人がこちらに向かって歩いてきているのが見えた。

 思ったよりくるのが早かったな、時刻はまだ午前10時くらいだ。

 

「ようオーブリー、元気か?」

 

 俺が気さくに挨拶すると、オーブリーは両翼をバサバサ動かして憤慨(ふんがい)した。

 

「皆さんやってくれましたね! 兄さんの知り合いだなんて聞いていませんよ!」

 

 アンバーが次の手を指しながらオーブリーに返事をする。

 

「リサーチが甘いぞオーブリーよ。お主も海都カナンの新聞記者ならばわしのことくらいは知っておくべきじゃったな」

「うぐっ、痛いところを……」

 

 オーブリーの記者魂にクリティカル攻撃が入った。

 それと同時にミュールの棋士魂にも王手が入った。

 

「にゃっ!? それは……待った!」

「待ったはもう3回使い切ったじゃろう。わしの勝ちじゃ」

「くぅー、惜しかったにゃー!」

 

 悔しそうにしているが、既にミュールは6枚落ちで3連敗している。

 直感だけに頼ってすぐに指すのが良くないのだと俺は思う。

 

 アンバーがソファから立ち上がってミュールの隣に移動すると、その向かいのソファにギザードとオーブリーが腰掛けた。

 

 ちなみに俺は二つのソファの間にある一人掛けのソファに座っている。

 ソファの配置はコの字でイメージすると大体合ってる。

 

「さて、家出娘さんはどうしてダンジョンマスターになりたくないのか、わしらに本音のところを聞かせて貰えるかのう?」

「それは……だって……」

「だって?」

 

 オーブリーは恥ずかしそうに両翼をこすり合わせてもじもじしている。

 

「だって、ダンジョンマスターになったら好きでもない男の人を相手にして毎年のように卵を産まないといけないんですよ! ワタシはそんなの絶対に嫌です!」

「ギザード、どういうこと?」

 

 俺がギザードに質問すると、彼は困った顔をしながら鳥頭を右翼で()でた。

 

「ダンジョンマスターの継承のことを考えると優秀な子供を沢山作っておかないと困るんだよね。君達はフェニキス族固有の化身スキルのことは知っているかい?」

「知らないにゃ」

「俺も知らない。バードマンって化身スキル使えたっけ?」

 

 俺とミュールが頭に疑問符を浮かべていると、アンバーがしたり顔で解説する。

 

「イーラの初代ダンジョンマスターであるフェニキスは太古の昔に絶滅したと言われていたバードマンのフェニックス族唯一の生き残りだったのじゃ。じゃからフェニキスの血族には自らを炎に変える特別な力が宿っておる」

「こんな感じにね」

 

 ギザードが掲げた両翼を炎の翼に変化させると、炎の翼から発せられた強烈な熱波が空調の効いたロビーの室温を上げていく。

 

 ……天井に設置されていた防火用の魔道具から勢いよく放水されてギザードとオーブリーは水浸しになった。

 遠くから走ってやってきたサクラさんが腰に手を当てて二人に注意をする。

 

「お客様、このような場所でスキルを使われては困ります!」

「……ごめんなさい。ほらオーブリーも謝って」

「どうしてワタシまで……ごめんなさい」

「ロビーの清掃を行いますから、皆様は外出でもされているとよろしいでしょう!」

 

 笑顔で怒りを燃やしているサクラさんに、俺達は(まと)めて空調の効いた涼しいロビーから追い出されてしまった。

 

 うっ、外は真夏の日差しでカンカンに照らされている。

 仕方がないので庭先にある松の木の木陰に集まって話を再開した。

 

「それで、それとオーブリーの話がどう関係するんだ?」

「イーラのダンジョンマスターには守らなければならない三つの(おきて)が存在するんだ。一つ、ダンジョンマスターは女性でなければならない。二つ、魔力に優れた異種族を夫とする。三つ、子供は少なくとも10人は作ること」

 

 どれも高い魔力を持つ優秀なフェニキスの血族を増やして、ダンジョンマスターの代替わりと探索者ギルドの運営を円滑に行う為のものだろう。

 

「効率厨の考えた古臭い(おきて)ですよ。この700年の間にフェニキスの血族は増えに増えて血も薄れているというのに、お母さんはお金で買ったダークエルフの男娼なんかと(つがい)になれって言うんですよ? アホらしいったらありゃしません」

 

 オーブリーが松の木の枝に腰掛けながら愚痴を(こぼ)すと、その隣の枝に止まっているギザードが補足する。

 

「ダンジョンマスターの継承にはフェニキス族固有の化身スキルを使いこなす必要がある。でも僕達の代は不作で、女性で満足に化身スキルを扱えるのがオーブリーしかいなかったんだ」

「それで成人したオーブリーは土壇場になって逃げ出したと。だからってお兄さんに嫌がらせをすることはないんじゃない? 泣いていたよ、彼」

 

 アンバーとギザードの出会いは酒場で涙を流しながら一人酒をしていたギザードにアンバーが声を掛けたのがきっかけだった……と「わしとこん棒3」に書いてあった。

 

「あの時は若かったんですよ……。ワタシもやり過ぎだったと反省しています」

「その割には9年も逃げ回っていたがのう」

「だってお母さんに見つかったら今度こそサブマスターにされちゃうじゃないですか! ワタシはプンレク島に通えなくなるなんてまっぴらごめんですよ!」

 

 オーブリーはハムマン愛好家だった。

 だからサクレアのライブに行けなくなった一般サクレアファンのお兄さんに復讐されるのを恐れて今まで逃げ隠れしていたってことかな。

 

「僕は(おきて)固執(こしゅう)する母上のやり方にはほとほと困り果てていてね、いい加減どうにかしたいと思っていたんだ。だから(おきて)を破って僕がリザーブマスターになろうと考えていた。でもその前にオーブリーの意思を確認しておく必要があったんだよね」

 

 ダンジョンを踏破してダンジョンコアに触れた最初のサブマスターには特別な権限が付与され、ダンジョンマスターの死後に全権限を引き継ぐことができる。

 予約(リザーブ)、つまり次のダンジョンマスターを予約する為のシステムだ。

 

 このリザーブマスターがいない場合はダンジョンマスターは空席になり、次にダンジョンコアに触れた者がそのダンジョンのダンジョンマスターとなる。

 

 ジャスティン襲撃事件の当時、ガルムは深夜にジャスティン城に押し込みゴブリンのダンジョンマスターとリザーブマスターである勇者(ブレイブヒーロー)を殺害した後、四層にあるダンジョンコアに触れたことで新たなダンジョンマスターとなったのだ。

 

「なんじゃ、サクレアのライブが見たかっただけではなかったのか」

「流石にそれだけの理由でダンジョンマスターになろうとは思わないよ。僕だって長生きはしたいからね」

 

 ギザードは止まっていた松の木の枝からバサリと飛び降りると、日向(ひなた)に出て俺達の方に振り返った。

 

「僕は母上からダンジョンマスターの地位を奪い取るつもりだ。例えそれが原因で親殺しの罪を背負うことになろうとも構わない。……もちろん手伝ってくれるよね?」

 

 化身して火の鳥と化したギザードは、燃え盛るその両翼を組んで(あや)しい微笑みを浮かべたのだった。

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