マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第89話 魔道具工房シスル

 ミノダムバーガーでハンバーガーをテイクアウトした俺達は、迷宮塔イーラの1階にあるアザミの住居へと向かうことになった。

 

 広い階段を降りて1階の探索者ギルドまでやってくると、ギザードはギルドの奥にある関係者入口と書かれた扉の横にある認証装置にギルドカードをかざした。

 すると認証装置が青く光り、扉が横にスーッとスライドする。

 

 ギザードを先頭に通路をコツコツ歩いていくと、蝶のデザインのあしらわれたプレートが掛けられた扉が見えてきた。

 魔道具工房バタフライの扉に描かれた蝶とまったく同じデザインだ。

 

「ここが魔道具工房シスルか。店の名前くらい書けばいいのに」

「アザミはギルド関係者に紹介された顧客への受注販売しかしていないからね。看板は必要ないんだよ」

 

 苦笑いを浮かべたギザードがギルドカードを扉のドアノブにかざすと、ガチャリと音を立てて鍵が開いた。

 ギザードがドアを引き開けて中に入ると、俺達もそれに続く。

 

 部屋の中は広々としていて、魔道具工房にしては整理が行き届いているようだ。

 壁際にいくつも設置された大きな棚には魔道具制作に使うのであろう雑多な資材が大量に積まれているが、この部屋は天井が高いのでそのスペースには余裕がある。

 

「ギザードだ! アザミはいるか!」

 

 ギザードが大声で呼び掛けると、工房の一角にあるソファやテーブルの置かれた生活用のスペースから返事が返ってきた。

 

「いるよー」

 

 ソファの背中から細い褐色の腕が伸びて左右に振られる。

 どうやら起き上がる気はないようなので、俺達はソファの向こう側に回り込んだ。

 

「なんだ、アンバーに……あとの二人は……ああ、アイリスの手紙に書いてあったハルト・ミズノとミュールかな?」

 

 ソファに寝転がっていたのは紺色のスクール水着を着た紅顔(こうがん)の美少年だった。

 ショートパーマの銀髪に褐色の肌、赤い瞳に泣きぼくろ……もっこりした股間とその胸元を見れば男であるのは明白なのに、蠱惑的(こわくてき)で何とも言い表せないような魅力がある。

 

 俺は男の娘がスク水で生活していることに何の違和感も覚えないようになってしまった。

 

「アザミには僕から頼みたいことがあるんだけどね、その前にまずは食事にしよう」

「ありがとう、ボクもそろそろ昼食を取ろうと思っていた頃だったんだ」

 

 ギザードがアザミにハンバーガーの包みを渡すと、彼はソファに寝転がったまま包みを開いてもぐもぐと食べ始めた。

 

「お行儀が悪いにゃ」

「ここはボクの部屋だから、何をしようとボクの自由だよ」

「変わらんのう、お主は」

 

 アザミは細い指先で口の周りについたソースをつーっと(ぬぐ)うと、口に運んでちゅぷりとしゃぶってから答えた。

 

「そう言うアンバーは変わったね。すっかり女になっちゃった」

「それをアザミに指摘されるとはのう。むふふ、わしにも大人の色香というやつが身に付いてきたようじゃ」

 

 俺の腕を掴んで身を寄せるアンバーに、アザミはジトっとした目をした。

 

「そこまでは言ってないよ」

 

 ダークエルフのアザミ、彼はイーラのダンジョンマスターが金を積んで用意したオーブリーの許嫁(いいなずけ)であり、優れた魔道具職人であり、そして高魔力の子を求める裕福な女性に春を売る男娼でもあった。

 

 2000年の時を生きるエルフは基本的に性欲や繁殖能力に(とぼ)しい種族で、それを生業(なりわい)にして生きる奇特なエルフはそう多くない。

 金の為なら何でもするアザミは、何でもした結果この場所に行き着いた。

 

「座りなよ。君達はボクの食事を眺める為にきたわけじゃないだろう」

「そうだにゃ。ハルト、あちしの『ミノダムほんしゃビル』頂戴(ちょうだい)にゃ」

「いいよ、はいこれ」

 

 俺は紙袋から縦に長いハンバーガーの包みを取り出してミュールに渡した。

 ついでにアンバーにも渡すと、俺は自分の分を取り出して適当な場所に腰掛けた。

 

「よいしょっと、いただきまーす」

 

 俺は大口を開けて分厚い「Wトンカツミノダムブーグ」に(かじ)りついた。

 まあ、その名前と見た目の通りにソーストンカツの味がして美味い。

 

 小さなお口でちびちび「とりのしたいバーガー」を食べるアンバーの隣では、ミュールが「ミノダムほんしゃビル」から口で一枚ずつサーロインステーキを引き出しては(かじ)りついている。

 

 ギザードは自分の紙袋からハンバーガーとドリンク、フライドチキン、それと車のオモチャを取り出してテーブルの上に並べた。

 

「ギザード、またそれ買ってるんだ。よく飽きないね」

「これは僕のおふくろの味、ハッピーセットなんだよ。飽きるわけがないさ」

「おふくろの味がミノダムバーガーか……」

「母上は致命的なまでに料理が下手なのにそれを子供に食べさせたがる悪癖がある。だから僕達は生きる為にミノダムバーガーへ(かよ)ったんだ。『友達に誘われて夕食を食べちゃったのでもうお腹はいっぱいです、ごめんなさい母上!』なんてね」

 

 うちのモモちゃんも自分の手料理を宿泊客に食べさせたがるが、それはあくまで試食であって無理強いをしたりはしない。

 

 ただ断ると好感度が下がって露骨にサービスが低下した上に目に見える嫌がらせを受けて宿から追い出される羽目になるだけだ。

 まあ、6歳児のやることだから仕方ないね。

 

「それにしても、この車のオモチャはいつになったら新しいものに変わるのだろうか。僕の子供の頃からずっとこれなんだけど……」

 

 ギザードはハンバーガーをついばみながら、木製のシンプルな車のオモチャを転がして疑問を(こぼ)すのだった。

 

 

 昼食が終わったところで、ソファから起き上がったアザミがギザードに尋ねた。

 

「それで、頼みって何?」

「僕は五層に行きたいんだ。アザミにも手伝って欲しい」

「ふーん、オーブリーが見つかったんだ……。どうしようかなぁ」

「アザミさえ手伝ってくれるなら僕は次のダンジョンマスターになれるんだよ。頼む、協力してくれないか」

「ボクとしてはオーブリーをセシリーに差し出した方が楽に稼げるんだけど。ギザード、君はセシリーとボクの契約を反故(ほご)にする為にいくら出せるのさ」

 

 セシリー・イーラはギザードとオーブリーの母親、つまりイーラのダンジョンマスターの本名だ。

 

 彼女は次期ダンジョンマスターの夫として、当時アクアマリンに住んでいた魔道具職人のアザミをイーラの探索者ギルドに招致(しょうち)した。

 

 しかしオーブリーがサブマスターになる直前に逃げ出したことでその契約は宙に浮いてしまい、違約金代わりの住居と仕事を貰ったアザミはこの場所で生活することになったのだ。

 

 それから4年後、迷宮塔イーラにやってきたアンバーがギザードとパーティーを組んだ際、ギザードから彼の話を聞いたアンバーが自室に引きこもる彼を説得してダンジョンへと連れ出したことで3人の2年間に渡る冒険が幕を開けるのだが、それはまた別の話だ。

 

「僕は500人いる子供の養育費を支払わないといけないから金は出せない」

 

 ギザードはキリッとした顔でそう言っているが、これじゃ甲斐性があるのかないのか分からないな。

 

「じゃあ駄目。お帰りはあちらだよ」

「そこをなんとか! 一生のお願いだから!」

 

 アザミが玄関の方を指差すと、ギザードは両翼を合わせて一生のお願いを使った。

 

「それはもう聞き飽きたよ。君はボクからどれだけ借金していると思っているのさ」

「借金じゃと? お主、あの車は……」

 

 アンバーが疑いの目を向けるとギザードは必死にごまかし始めた。

 

「あ、あれは違うんだ。母上が仕事で使っているものを個人的に拝借しているだけで何も問題はないんだ」

「公用車を私用で使うのは十分(じゅうぶん)に問題じゃないか?」

「あの車もいずれ僕のものになるんだから大丈夫だ!」

「こやつ言い切りおった……」

 

 俺達は本当にこの男を手伝ってもいいのだろうか。

 この男がダンジョンマスターになった後、イーラの探索者ギルドが財政破綻を起こしてしまわないか不安でしょうがない。

 

「逆に聞くけど、アザミは何をしたらギザードのことを手伝ってくれるのかな?」

「そうだね……」

 

 俺が尋ねると、アザミはソファに背をもたれてうーんと悩んだ末にこう答えた。

 

「宝珠を全部くれるなら手伝ってあげてもいいよ」

「……分かった。それで手を打とう」

 

 苦渋(くじゅう)の決断をしたような雰囲気のギザードがアザミに片翼を差し出すと、アザミはその翼を握って握手した。

 

「契約成立だね」

 

 Aランクダンジョンのダンジョンコアから採取されるAランク宝珠は市場で買おうとしたら1個1000万メルはする貴重品だ。

 

 イーラではサブマスターを使った宝珠の養殖はしていないので、頻繁(ひんぱん)にダンジョンマスターが代替わりしていることを加味するとギザードが彼に支払う報酬はおよそ数億メルになるだろう。

 

「高い報酬を支払うんだから、きちんと仕事はして貰うよ」

「それはいいけど、君のクーデターもまったくの無計画ってわけでもないんでしょ? どうやるつもりなのさ」

「まあね、僕の計画では――」

 

 ギザードが事前に俺達と共有していたクーデター計画をアザミに話すと、彼は細い眉をひそめた。

 

「それだと行きはいいけど帰りが怖いね。ちょっと考えが足りないんじゃない?」

「ごめんね、人望が無くて……」

 

 ギザードはイーラに住む若いバードマンの男達から蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われている。

 彼は最低でも500人のハーピィの女に手を出して孕ませたのだから、それも当然のことである。

 

「でも先にボクのところにきたのは正解だ。これならまだ軌道修正はできるだろう」

 

 アザミはソファから立ち上がると、おもむろに準備運動を始めた。

 

「マーメイドの長に会いに行こう。彼女ならきっとボク達を手伝ってくれるはずさ」

 

 褐色スク水男の娘ダークエルフは、腕を十字に組みながら蠱惑的(こわくてき)な笑みを浮かべるのだった。

 

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