マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第90話 深都コーラル

 人魚族、それはこの世界の海を支配する長命種であるマーメイドの総称だ。

 1000年もの寿命を持つこの人魚族はゴブリンに次いで多産であり、その子供のほとんどが女性として生まれるのが種族的に大きな特徴といえる。

 

 男性のマーマンが生まれる確率はおよそ1000分の1、とてつもない男女比だ。

 太古の昔からマーマンは人魚族の宝として住処(すみか)で大切に守られていた為に他の種族からは長らく女性しか生まれない種族だと思われていたそうだ。

 

 このような生態を持つ人魚族であったが、かつては中央大陸南部の近海で魚の骨や貝殻を削り出した槍やナイフを使って原始的な狩猟生活を送る少数民族だった。

 

 地上で暮らす人類種と違い、ダンジョンで狩りをして効率的にレベルを上げることのできない魚人種は低レベルの状態で大海からやってくる海棲(かいせい)魔獣と戦わなければならなかった。

 

 当然その死傷率は非常に高く、中央大陸近海に生息していた他の魚人種は月光歴に入る前に人魚族を除いてすべて絶滅していた。

 彼女達が生き残ったのはただただ多産だったという、それだけのことが理由だ。

 

 統一帝国崩壊後、海路での交易を目指した商人達が商船の保護を求める為にマーメイドに接触すると、彼らから多くの文化が人魚族の社会に流入することになった。

 

 ドワーフの鍛えた鉄器を手に入れエルフの進んだ魔道スキルを学び力を手に入れたマーメイドは爆発的に数を増やし、そして人魚族の社会に深刻な食糧危機が訪れた。

 

 その対策として人魚族は、地上人類社会から輸入した一夫一妻制度を導入した上でマーメイドの産児制限を設けた。

 

 こうして人魚族の数はある程度安定したが、一部の上流階級にマーマンを独占されて数を産むことができなくなったマーメイドは次第に質を追い求めるようになった。

 

 アモロ共和国の商人との商売で金を稼いで高い魔力を持つエルフから種を買い、優れたマーメイドを産むことが彼女達のステータスになったのだ。

 

 そしてこのマーメイド文化の象徴となる者こそ、探索者として大成しアクアマリンのダンジョンマスターとなったプリメラ・アクアマリンだった。

 俺達がこれから会いに行くのは彼女の母親である人魚族の長、テティスだ。

 

 

 魔道具工房シスルの一角にあるシャワールーム前の脱衣所を借りて、俺達は一人ずつ水着に着替えた。

 

 アンバーとミュールはもちろん紺色のスクール水着を着ており、俺は以前買ったハムマン柄の海パンでギザードはぴっちりしたブーメランパンツを()いている。

 

「用意ができたようだね。早速、深都コーラルへ向かうとしよう」

 

 魔道具工房シスルから出た俺達は、アザミの後ろについて通路を歩くとギルド関係者用の裏口の扉を通って迷宮塔の中心にある中庭の広場までやってきた。

 

 中央にある50メートルはありそうな広い海水プールの前に立ったアザミは、俺達に腕輪から取り出した酸素マスク型魔道具を差し出した。

 

「使って。ボク特製の潜水マスク『マーメイドの喉笛』だよ」

「あちしはもうマスクは持ってるにゃ」

 

 ミュールがポーチから自前の酸素マスク型魔道具を取り出すと、アザミはそれに呆れたような表情を浮かべた。

 

「それじゃ水中で会話できないでしょ。これからマーメイドに会いに行くというのにハンドジェスチャーだけでやり取りするつもり?」

「イケなくもないにゃ」

 

 ミュールはシュッシュと身振り手振りでジェスチャーする。

 ええと、パン、ツー、マル、ミエかな。

 まるで使い物にならない。

 

「これ、使い方は?」

「横のここに魔石を入れてスイッチを入れたらそれで大丈夫。魔石の魔力が無くなっても自前の魔力を込めたら短時間は持続できるようになっているから、魔力切れで(おぼ)れる心配をする必要はないよ」

 

 市販のものとは比べ物にならないくらい高性能だな。

 アルメリアが育てた優秀な魔道具職人なだけはある。

 

「これから深都コーラルに向かうわけだけど、その移動には水中スクーターを使う。この中でバイクを運転したことがある人はいる?」

 

 俺が手を挙げると、その隣のミュールもシュバっと手を挙げた。

 

「ミュール、バイクを運転したことあるの?」

「ないけどやってみたいにゃ!」

「流石にそれはやめておいた方がええじゃろう。借りたもので事故を起こすわけにはいかんからのう」

 

 フライスから借りたバイクで事故を起こしかけた俺としては耳の痛い話だ。

 

「ハルトばっかりずるいにゃ! あちしもたまには運転してみたいにゃ!」

「むう。そうじゃな、ならば後で何か代わりになるものを買ってやろう。今回はそれで我慢してはくれぬか」

「やったにゃ! 言ってみるものだにゃ!」

 

 ゴネ得は癖になるからあんまり良くないんだけどね。

 最近は化身スキルの練習も頑張っているし、そのご褒美には丁度いいだろう。

 

「じゃあ君はこっちの1人乗りの方を使って。ボクは4人乗りのものを使うから」

 

 アザミは装具から取り出した二台の水中スクーターを水面に浮かべた。

 一台は1mくらいの長い流線型をしたタイプで、後ろの方に金属製の網でカバーされたスクリューがついているようだ。

 

 もう一台は4mくらいの流線型をした大型サイズで、運転席の後ろにバナナボートみたいな感じで並んで掴まれるようになっていた。

 

「お主、こんな大物をいつ買ったんじゃ。使い道がないじゃろう」

「子供ができたら一緒に遊ぼうと思ってアクアマリンを出る前にフライスに作らせたんだけどね。残念ながらお蔵入りになっちゃったのさ」

 

 フライスが余りにも便利キャラ過ぎる。

 色物ガジェットを作らせたら彼の右に出る者はいないようだ。

 

 俺はアザミから軽く運転方法を教わると、潜水マスクを身に付けて水面に浮かぶ水中スクーターに(またが)った。

 

 アンバー達も同じように潜水マスクを身に付けてアザミの運転する大型水中スクーターに(またが)ると、アザミは魔道エンジンを起動して潜水を開始した。

 

 俺が同じように魔道エンジンを起動してざぱりと水中に沈み込むと、10mくらいの深さのところに大きなダンジョンゲートが口を開いているのが目に入った。

 水着を身に付けた探索者やマーメイドが水中を泳いでゲートを出入りしている。

 

『ハルト、ちゃんとボクについてきてね』

『分かっているって』

 

 俺はアクセルを回すと、ゲートの左右にある5mほどの広さの海中トンネルの片方に入っていくアザミの大型水中スクーターを追いかける。

 海中トンネルの天井には照明がついているので視界に困ることはないようだ。

 

 こちらに手を振るマーメイドとすれ違いながら緩やかなカーブを描く海中トンネルを進んでいくと、少しして人口島の外へと出た。

 

 どうやらここは迷宮塔の出入口のそばのようで、海中に伸びた太い橋の橋脚(きょうきゃく)が右側に見えている。

 

 太陽の日差しが差し込んで青く染まる視界の先には豊かな珊瑚礁(さんごしょう)と泳ぐ熱帯魚、そして海底には見渡す限りの人魚の街が広がっていた。

 

 おいおい、いくら何でも規模が大きすぎる。

 これ、海都カナンよりも広いんじゃないか……?

 

 そう思わざるを得ないほどの広大な人魚の街の上を、俺達の乗る水中スクーターは駆け抜けていくのだった。

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