マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第91話 竜宮城の主

 俺達が水中スクーターに乗り深都コーラルの街並みの上を進んでいくと、遠くに大きな瓦屋根の城が見えてきた。

 赤と白の派手なカラーリングをしていて、なんだか竜宮城っぽい雰囲気がある。

 

『ここがマーメイドの長、テティスの屋敷だ。侵入防止の結界が張られているからね、まずは正門へ向かおう』

 

 アザミの案内を受けて正門まで行くと、そこではトライデントを持った二人のマーメイドが門番をしていた。

 

 俺達が降りた二台の水中スクーターをアザミが装具に収納していると、門番のマーメイドの一人が用件を尋ねてきた。

 

『アザミ様、本日はどのようなご用件でこちらまでいらっしゃったのですか。どうやらお連れ様もいらっしゃるようですが』

『テティスにちょっとお願いがあってね。ギザードがきたと伝えて貰えるかな』

『ギザード……ギザード・イーラですか。分かりました、すぐに伝えましょう』

 

 水中に浮かぶ朱色のバードマンを見たマーメイドは泳いで城の中に入っていった。

 5分ほど待つと、そのマーメイドはもう一人のマーメイドを連れて戻ってきた。

 

『テティス様がお待ちです。すぐに皆様をご案内致しましょう』

『こっちの端末にギルドカードをタッチしてねー!』

 

 テンカイ城の時と似たような感じで結界に侵入できるように登録をするのだろう。

 何だか元気のいいマーメイドが抱える箱型の魔道具に、俺はマジックポーチ用のベルトに付けていたカード入れからギルドカードを取り出して触れさせた。

 

『ラーラ、後は頼んだわよ』

『分かっております、お姉さま!』

 

 ラーラと呼ばれた元気なマーメイドに門番の引継ぎが行われたので、責任者らしきマーメイドに案内された俺達は竜宮城の中へと泳いでいくことになった。

 

 俺は魔力極振りの貧弱ステータスなので、水中を泳ぐのはちょっと疲れる。

 一人だけ遅れた俺を見かねたミュールが俺をおんぶしてくれた。

 

『ありがとう、ミュール……』

『ふふん、ハルトは貧弱だからあちしがいないと駄目みたいだにゃ』

 

 化身スキルを使ってケモ化したミュールが俺を背負ったまま水中を加速した。

 どうやら彼女をユーストに置いて行かなくて正解だったようだ。

 

 俺達が広い竜宮城の中を進んでいくと、大きな両開きの扉の前でマーメイドが立ち止まった。

 彼女が腕を振るうと、音を立てながら大きな両開きの扉が開いていく。

 

『皆様、どうぞお入りください』

 

 俺達が扉を通って部屋の中に入ると、また音を立てながら両開きの扉は閉まった。

 照明の光に照らされた広い部屋の中は美しい珊瑚(さんご)や海藻で飾られていて、その正面には大きな貝殻のベッドの上に一人の人魚が横たわっていた。

 

 透き通るような青い髪に紺色の瞳、包容力のある大きな双丘……それはまるでプリメラ・アクアマリンの生き写しのようだった。

 

『コーラル城へようこそ。私がこの城の主、テティスです』

『わしはアンバーじゃ。よろしくのう、テティスよ』

『俺はハルト・ミズノだ』

『ミュールにゃー』

『「こん棒愛好会」の皆様、よくぞいらっしゃいました。娘が世話になりましたね』

 

 どうやらテティスには俺達のことを知られていたらしい。

 それも当然か、彼女はプリメラさんの母親だ。

 アクアマリンのマーメイドから報告を受けていても何もおかしくはない。

 

『アクアマリンはわしらの街じゃからのう。あの街を守る為なら何だってするわい』

 

 ん? 今何でもするって言ったよね?

 

『そうですか、それはいいことを聞きました』

 

 紺色のスク水を着たアンバーが「あんばー」と名前の書かれたささやかな胸を張ると、テティスはにこりと微笑んだ。

 

『テティス。ボクから一つ頼みたいことがあるんだけど、いいかな?』

『言ってみなさい、アザミ』

『明後日の昼から夕方に掛けて、イーラのダンジョンゲートを封鎖したいんだ』

『……なるほど、そういうことですか』

 

 ギザードをちらりと見たテティスが得心の行った様子で小さく(こぼ)した。

 

『ギザード、ダンジョンマスターはそう甘いものではありませんよ。ダンジョンを支える人柱(ひとばしら)として、その命を捧げる覚悟があなたにありますか?』

 

 テティスの責めるような問いに、ギザードは目を伏せてその心中(しんちゅう)を吐き出した。

 

『僕は本音を言えば、ダンジョンマスターになんてなりたくない。でも、だからといってこのイーラを現状のまま放置するのも良くないことだと思っている。女性だけをダンジョンマスターに()える今のやり方は、余りにも一人の負担が大きすぎる』

 

 ギザードは伏せていた目を上げて、貝殻のベッドに横たわるテティスを真っ直ぐに見据(みす)えた。

 

『誰かが声を上げなければならない。拡大の時は終わって、安定を求める時がきたと。そうでなければ、いずれイーラは立ち()れを起こすことになる』

 

 最初は一人しかいなかったフェニキスの血族。

 それが十になり、百になり、千を越えて万になった。

 だからもう一人が全てを背負う必要などないのだとギザードは言っている。

 

『妹の為、子供の為、サクレアのライブの為……言い訳はいくらでも思いつくけれど、正直なところは一つだけ。僕は愛する生まれ故郷の未来の為に何かできることがしたいんだ』

『いいでしょう、それだけの覚悟があるのなら十分(じゅうぶん)です。あなたに私の力を貸してあげましょう』

『ありがとうございます、テティス様』

 

 ギザードが頭を下げると、テティスは指先で水中に氷の人形をいくつも作りながら言葉を繋いだ。

 

『私の方でアモロの議員に根回しをしましょう。イーラは独立した自治都市ですが、ベリアル亡き今、外部からの影響力を抑え切るほどの力はありません』

 

 テティスは氷のチェス盤に氷の人形をコツコツと乗せていく。

 どうやらこの氷の人形はアモロ共和国の議員を模しているようで、マーメイドのクイーンとハーピィのクイーンにそれぞれ勢力が別れていた。

 

『それは助かるね。ギザードがリザーブマスターになった後のことを考えると協力者はいくらでも欲しいんだ』

『ふふふ、久しぶりに血沸き肉踊る交渉が楽しめそうです』

 

 若い頃に商人として財を成したテティスは、ベリアルとの交渉によってイーラの一層を丸ごとマーメイドのものに変えたくらいなのだからその手腕は恐るべきものだ。

 味方としてこれほど頼りがいのある者は彼女の他に存在しないだろう。

 

『さて、地上の人を余りここに長居させてしまうわけにもいけません。皆様は地上に戻って探索の準備を進めるとよいでしょう』

『それもそうだね。ボクらはそろそろお暇させて貰うとしよう』

『「こん棒愛好会」の皆様も、アクアマリンのことを頼みましたよ』

『……そうじゃな。考えておくわい』

 

 隣に浮かぶアンバーの(まと)う雰囲気に、俺は少し違和感を覚えた。

 アクアマリンで何かあるのだろうか。

 

 ……いや、今はそんなことを気にしている場合ではないか。

 もしも何かあるのならアンバーは必ず俺に相談してくるだろう。

 

 俺達はテティスに礼を言って別れを告げると、コーラル城を後にしたのだった。

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