マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第92話 狭間浅海

 人魚族の長テティスの協力を取り付けることに成功した俺達は魔導具工房シスルに戻ると、今後の予定を再確認し一時解散となった。

 

 俺達は帰りに海都カナンのとある店でミュールのご褒美を買ったりなんかしつつ、日が傾いた頃に旅館に帰って休息を取った。

 

 翌日はアンバーの案内を受けて三人で海都カナンの観光地を巡った。

 呑気なようだが、俺達も予定を消化しておかないと仕事に集中できないからな。

 

 ギザードは海都カナンの海沿いにあるマーメイドの議員事務所でテティスに呼び出された政治家に挨拶回りをするのに忙しく、アザミは魔導具工房で溜まっている依頼を片付けると言っていた。

 

 俺はリゾートビーチのパラソルの下で透明なグラスに入ったドリンクを片手に、日光浴をするアンバーを眺めながら優雅な1日を過ごした。

 

 

 そしてその翌日の早朝、迷宮塔イーラの前でタクシーから降りた俺達をギザードとアザミの二人が出迎えた。

 

「午前6時52分、丁度いい時間だね」

 

 懐中時計を片手にアザミが微笑むと、ギザードはアンバーを見てげんなりとした。

 

「アンバー、日焼けしてるし……」

 

 スク水を着ているアンバーはこんがり褐色に日焼けしていた。

 紺色の布地と日焼け跡の隙間から覗く白い肌がフェチズムを感じさせる。

 

「ちょっと焼いてみたんじゃ。ええじゃろ?」

「ライザオタクが喜びそうだね」

「ハルトは喜んでくれたぞ」

 

 いやー、昨晩はかなり盛り上がったな。

 俺はミン・ノルという男を見(あやま)っていたのかもしれない。

 日焼け跡は、いいものだ……。

 

「僕がカナンの魑魅魍魎(ちみもうりょう)どもと会談している間に君達はさぁ……」

「別にいいでしょ。オンとオフの切り替えくらいはちゃんとするさ」

 

 俺達が立ち話をしている間にも目の前の駐車場にはひっきりなしにバスが到着し、水着を着たカナン市民達が続々とバスから降りて迷宮塔へと入っていく。

 今日は5日に一度の休日だ。

 

「話の続きは昼にすることにして、ボクらも移動を始めようか」

 

 アザミに催促(さいそく)された俺達は、カナン市民達に紛れて迷宮塔の中庭広場にある海水プールへと向かった。

 

 潜水マスクを付けて水中に飛び込むと、泳いで10mほどの深さにある30mほどの大きさがあるダンジョンゲートを通る。

 

 ふわりとした慣性に引かれてゲートの先の海中に出た俺達は、丸く光の差し込む水面に向かって真っ直ぐに浮上していく。

 

 水面に出るとそこも50mほどの広さの海水プールになっていて、その周囲には赤褐色の金属に舗装されたドーナツ状の港が広がっていた。

 

 港には探索者向けの露店が(のき)を連ね、その外周には異界へ向けた小型の渡し船がいくつも浮かんで客を待っている。

 

 ここはAランク迷宮イーラ一層、狭間浅海(はざまさいかい)の海上に作られたスタック銅の人口島。

 そして狭間浅海(はざまさいかい)は700年前にテティスが狭間(はざま)平原に作った魚の大養殖場だ。

 

 一層に12ある異界のうちの1つ、海月深海(くらげしんかい)狭間(はざま)平原の間に太く短いパイプを何百本も並べて海水を引き込んで、ダンジョンに吸収される分と相殺して現在の水位を保っているそうだ。

 

 俺達は泳いで港に上がると、東側の外周へと移動した。

 アザミが腕輪の装具から水上バイクを取り出すと、その隣でミュールも同じく水上バイクを取り出した。

 

「へぇ、今日は君が運転するんだね」

「ふふーん、あちしの新車にゃ!」

 

 これは一昨日、アンバーが帰りに買い与えたものだ。

 昨日はビーチで散々練習(という名の遊び)をしたので、今の彼女ならば十分に運転手を務めることができるだろう。

 

 俺が運転席のミュールの間にアンバーを挟んで乗ると、二台の水上バイクは水の上を勢いよく走り出した。

 その上空ではギザードが朱色の翼を広げて飛んでいる。

 

 

 10分ほど水上を走ると、遠くに青々とした森が見えてきた。

 三層へのショートカットがある清水(せいすい)の森だ。

 

 俺達は異界の手前にあるスタック銅の桟橋(さんばし)で水上バイクから降りると、幅の広い階段を降りて森の中に降り立った。

 

 振り返ると森の切れ目に高い水の壁ができており、その底を緑の草が揺れていた。

 異界は独立した空間で人為的に手を加えない限り外部の影響を受けることはない。

 

「何を見ているの? 早く行くよ」

「ああ、ごめん」

 

 俺は先を行くみんなを慌てて追いかけた。

 

 

 森のところどころに設置された目印を頼りに苔のむした道なき道をしばらく進んでいくと、俺達は大きな泉の前まで辿り着いた。

 泉の近くには赤褐色の建物があり、その隣には地下へ続く階段が設置されている。

 

「まずはここで身体に付いた塩を落とすよ。その後はあっちの更衣室で着替えね」

 

 ダンジョンに出入りする度にこうやっていちいちシャワーを浴びたり着替えたりするのは面倒だな。

 まあ、ここの住人は慣れているから気にならないのだろうけど。

 

 俺達は水着を着たまま泉で身体を洗うと、更衣室でいつもの探索者服に着替えた。

 水場をうろつくウォータースライムを蹴飛ばしつつ、幅の広い階段を降りて二層へ向かう。

 

 スタック銅で囲われた長い地下空間を抜けると、視界が開けて二層の上空に出た。

 近くから見ると階段が空に空いた穴から出ているように見えるが、空に見えている部分はただの擬態で実際には岩石状をしたダンジョンの内殻だ。

 

「うわ、高いな」

「これがイーラ名物、奇岩の森じゃ」 

 

 階段の手すりから見下ろした先には高い石柱が林立しており、その先端が緑に覆われていた。

 中国の世界遺産、武陵源(ぶりょうげん)を小規模にしたものをイメージすると正しいだろう。

 

 俺達の先を歩いていたバードマンの探索者達が手すりを乗り越え、空を飛んで別の異界へと向かっていく。

 

 階段の先は奇岩の先端に繋がっていて、レンガで舗装された広場の中央には三層へのゲートが口を開いていた。

 

 昔の人は徒歩でこの奇岩の上にあるゲートまで登っていたというのだから、それはもう大変な苦労だっただろうな。

 

 岸壁に杭を打ち込んで階段を作っても1日も経てばダンジョンに吸収されて元通りになる以上、バードマンの協力なしでは三層に到達することすら困難だっただろう。

 本当に、ダンジョンマスターさまさまだ。

 

「ギザード、シェルター内は安全かな?」

「うん、大丈夫。……外はアレだけどね」

「了解。頼んだよアンバー」

「分かっておるわい」

 

 サブマスターである彼はダンジョン内の魔物の配置が手に取るように分かる。

 制限はあるようだが、それでもゲートの向こうの安全を確認するには十分だ。

 

 長い階段から降り立った俺達は、三層に続くゲートの前に並んだ。

 もちろん、ゲートの周囲の赤と青で塗り分けられたレンガの青い入口の部分だ。

 

「さてと、では行くとするかのう」

「みんな、よろしくね」

「ボクにとっては3年ぶりのダンジョン探索だ。君達には期待しているよ」

「へへん、あちしの格好いいところをたっぷり見せてやるにゃ」

「まあ、なるようになるだろう」

 

 探索はここからが本番だ。

 観光気分はここまでにするべきだろう。

 俺は気合を入れると、みんなに続いて三層に続く大きなゲートへ飛び込んだ。

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