マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第95話 飛刈高原を望んでピクニック

 それから数度の戦闘を(こな)しながら水晶洞窟内を進んだ俺達は、紫滅晶洞(しめつしょうどう)を抜けて外にある狭間(はざま)平原まで辿り着いた。

 

 見慣れた草原を挟んですぐ向こう側には、ところどころに赤い点のあるなだらかな草原の丘が広がっていた。

 

 俺が懐から取り出したギルドカードのマップを指でスワイプして縮小してみると、大きな円の中に二つの小さな円がぴったりと収まっているような感じの表示がされている。

 

 三層には4つの異界が存在したが、四層には2つの異界しか存在しない。

 飛刈(ひかり)高原、ここにあるゲートを抜けたら俺達はいよいよ目的地の五層に到達する。

 

「午前10時12分、思ったよりも早く着いたね」

 

 アザミが懐中時計を片手に現在時刻を知らせると、ギザードは俺達を見回してにこりと笑顔を浮かべた。

 

「ちょっと早いけど昼食休憩にしよう。今日は飛刈(ひかり)高原を望んでピクニックだ」

「待ってたにゃ!」

 

 俺は水晶洞窟の出口のそばに絨毯(じゅうたん)を敷くと、靴を脱いでその上に上がりパイレーツオブギース亭の料理人ヒロキさんにお願いして作って貰った五段の重箱を広げた。

 

 重箱の中には新鮮な海の幸をふんだんに使った総菜の数々が並べられている。

 おお、おにぎりの代わりに入っているのは三種類のいなり寿司だ。

 

 俺達は絨毯(じゅうたん)の上でくつろぎながら重箱を囲み、早めの昼食を取り始めた。

 ガツガツと天ぷらを食べているミュールの隣では、女の子座りをしたアンバーがいなり寿司を片手に飛刈(ひかり)高原の景色を眺めている。

 

「美しさと奇妙さが同居している面白い光景じゃ。わしもこの景色を一度はお主に見せたいと思っておったからのう、今回は良い機会じゃったわい」

「遠目に眺める分にはいいけどさ、これからあそこに突入することを考えると気が()入るなぁ」

 

 デスクトップの背景にありそうな美しい高原の丘からは時々、パンと何かが破裂するような音とともに黒い塊が天高く打ち上げられていた。

 その黒い塊は空中でばらけると、黒い針となって高原に降り注いでいる。

 

 あれはこの飛刈(ひかり)高原の代名詞でもある赤い花を咲かせる植物の魔物、ソウセンカの打ち上げた種子だ。

 

 空を飛ぶ生体に反応して発射された槍状の種子が天から降り注ぎ探索者を串刺しにする……のだが同じ異界に出現するニードルバードにも反応して暴発しちゃうので、この異界ではああいった光景がよく見られるそうだ。

 

 ニードルバードは大型のライチョウっぽい魔物なのだが、ソウセンカの種子で串刺しにされて死んでいる姿しか見られない為にその名前が付けられた可哀想な鳥だ。

 

「なに、アザミがおるんじゃから槍の雨が降ろうが何も問題はなかろう」

「そうかな……そうかも……」

 

 魔力と器用さが高い種族の扱うプロテクションはほとんどの外的攻撃を無効化する万能バリアだ。

 

 対人だとまた話は別になるんだが、ダンジョン探索においては非常に有用だ。

 1万年の歴史を持つ魔道学院が勧める魔道スキル100選に入るだけのことはある。

 

 俺は器用さEしかないから10秒も持たないが、器用さAあれば一度発動するだけで10分くらいは持続できるので、アザミが居ればあの槍の雨も安全にやり過ごせることだろう。

 

「アンバー達が一緒じゃなかったらボクは絶対に協力しなかったけどね。だってここにはアイツがいるし」

 

 アザミがチーズインハッシュポテトを片手にポロリと本音を()らした。

 

「その時は僕が空から運ぼうと思っていたんだけど、駄目だった?」

「君が五層の途中で力尽きたらボクはどうやって家に帰るのさ」

 

 アザミの正論に、伊達巻をくちばしに放り込んだギザードは天を見上げた。

 

「……それもそうだね」

 

 ギザードには致命的なまでに人望がなかった。

 無償で協力をしてくれる俺達の存在がなければ、アザミへの借金漬けで上級探索者を雇う金もない彼が五層へのダンジョンアタックを行うことは不可能だったようだ。

 

 

 30分ほどで昼食休憩は終わったので、俺達は探索の準備を始めることにした。

 

「さて、五層に挑む前にまずはこれを身に付けないといけないね」

 

 アザミが腕輪から赤系統のグラデーションをした尾羽が幾重(いくえ)にも()い付けられた美しいケープを取り出して俺達に差し出した。

 

「これは……もしやフェニキス族の尾羽を使っておるのか。わしはてっきりサラマンダーの首飾りでも持っているものだと思っておったのじゃが……」

 

 真っ先に受け取ったアンバーがそのケープを()でて感嘆(かんたん)の声を上げる。

 

「それは依頼で作るくらいでボクは一つも持っていないし、仮に持っていてもすぐにオークションに流して金に換えるよ。これはイーラで回収したフェニキス族1万人分の羽毛から抽出した属性を込めたボク特製の耐熱装備『不死鳥の羽衣』さ」

 

 赤い尾羽で飾られたケープを肩に羽織った褐色スク水男の娘ダークエルフ魔道具職人アザミがない胸を張ってドヤ顔をした。

 

「イーラの清掃業者にコネがあるアザミの専売特許って感じだね。僕も彼が雇ったバイトと一緒に嫌になるほど羽毛の選別をさせられたよ」

「それは借金を返さない君が悪い」

 

 どうやらギザードはことあるごとにアザミの雑用に使われていたようだった。

 

「わしは結構気に入ったんじゃが、これは貰ってもええものなのかのう?」

 

 アンバーが羽織ったケープを俺に見せながらアザミにおねだりすると、意外にも彼は頷いてくれた。

 

「原価は安いし売らないならいいよ。これさ、頑張って作ったのに市場に流そうとしたら買い叩かれちゃったんだよね。酷くない?」

「ううむ、それは量産性と信憑性(しんぴょうせい)の問題じゃろうな。見た目だけ似せたパチモンが出回る可能性を考えると魔道具販売業者はまず手を出さんじゃろう」

「僕がダンジョンマスターになったらギルドの備品として常備しようと考えているから、そこまで気にしないでも大丈夫だよ。……高くは買えないけどね」

「耐熱装備は高いからこれで一攫千金(いっかくせんきん)できると思ったのに、その結果がこれだ」

 

 アザミはため息をつくと、自身の(つや)やかなショートパーマの銀髪を()でつけた。

 

「前から気になっていたんだけど、アザミはどうしてそんなにお金に(こだわ)るんだ?」

 

 俺が「わしとこん棒」を読んでからずっと気になっていたことを聞いてみると、彼は両手を後ろで組んで前かがみになって俺の方を見上げた。

 

「研究用に欲しいマジックアイテムがあるんだよね。とても珍しいアイテムで、オークションに流れたのは歴史上でも一度きり。……その名も『ジャイアントオーブ』」

「ああ、あのティアラキングダムの国宝の……」

「へぇ、知ってるんだ?」

「知ってるも何も、わしらはつい先月に現物をジャスティンで見たばかりじゃからのう。手のひら大の卵型で青く発光しておったわい」

「それは良い情報を手に入れた。やっぱり現物はライザに描かれていたものとは別物なんだね」

 

 アザミはにこりと笑みを浮かべると背筋を正して言葉を繋いだ。

 

「ステータスに干渉して種族すら変えるこの魔法のオーブは過去に滅んだ文明によって作られたものだ。まれにこういったマジックアイテムはダンジョンや古代遺跡から出土するけど、それを現代の魔道具職人(クラフター)が再現することは困難を極める――」

 

 素材から属性を抽出して制作されるマジックアイテムは魔道具と違い魔力を込めずとも恒久的に効果を発揮する為、探索者の装備として扱われることが多い。

 

 魔道具のように厳密な術式があるわけではないので、過去の魔道具職人が制作したマジックアイテムが再現不可能なオーパーツ化することはさして珍しくもないのだ。

 

「—―それでもボクは作れるようになりたいんだ。その研究には沢山のお金が必要だからボクはお金を稼ぐ為に何でもしている。文字通り、何でもね」

 

 古代の魔道具職人が制作したのがジャイアントオーブ一つだけとは限らない。

 他の種族にその身を変えることができるオーブも必ずこの世界のどこかに存在していると彼は考えているのだろう。

 

 そして、そのオーブをオークションで落札する為には多額の現金が必要になる。

 流石に大国の国家予算ほどの金額は掛からないだろうが……。

 

「作ってどうするのじゃ。お主は別にジャイアントになりたいわけではなかろう」

「ボクは手にした者の性別を変えるマジックアイテムを作りたいだけ。だから類似品を手に入れて研究する必要があるのさ」

「ああ、そういう……」

 

 確かにそれは男の娘の夢と言えなくもないが、その為に身体を売るのは本末転倒ではなかろうか。

 

 ……いや、アルメリアさんの息子として考えたらそれもアリなのか?

 まあ、彼なりに考えた結果なのだろうし好きにさせておくべきだろう。

 

「ボクの話はこれくらいでいいだろう。丁度いい時間だしそろそろ出発しようか」

「そうだな。……ほらミュールも起きて」

 

 この短時間で草原に寝ころんで昼寝をしていたミュールを起こした俺は、自分用のケープを身に(まと)ってミュールにも同じくケープを被せた。

 最後にギザードが全員を見回して音頭を取る。

 

「全員、準備はいいね。よし、焔斑(ほむら)火山に向けて出発だ!」

 

 こうして狭間(はざま)平原でのピクニックを終えた俺達は、ダンジョンの探索を再開したのだった。

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