マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第96話 イーラで一番タフなアイツ

 五層へ繋がるゲートへの最短ルートを通る為に狭間(はざま)平原のある地点から飛刈(ひかり)高原へ侵入した俺達は、ひんやりとした冷たい風の流れるなだらかな高原を真っ直ぐに進んでいた。

 

 定期的に上空から降るソウセンカの打ち上げた黒い槍の雨がアザミの張った10mくらいの広さのプロテクションに弾かれてカンカンと音を立てている。

 

 そして俺達の足元には同じく10mほどの広さの石の道路が敷かれており、その草原に浮かぶ小さな浮島は俺達の進行に合わせて少しずつ前方へと移動していた。

 

 この高原のあちこちには地面に刺さったソウセンカの種子が草むらに隠れるようにして埋もれているので、不用意に歩くと足を貫かれて大怪我をすることになる。

 だから俺の土属性スキルで道を作って安全なルートを確保しているのだ。

 

 これ、他の探索者はどうやって突破しているのだろう。

 やっぱりプロテクションを張って空を飛んだりするのだろうか。

 俺が疑問を抱えながら石の道を動かしていると、ギザードが警告を発した。

 

「アンバー、北北東から1匹」

「お出ましか。ハルトよ、アレをやるぞ」

「了解」

 

 俺はアンバーの構えたいかずち丸の持ち手に手を添えて魔力を込めた。

 メツのイボイボがバチバチと音を立てながら雷を(まと)う。

 

 その間に前方の小高い丘を越えてドカドカと大きな足音を立てながら(せま)ってくる巨大な黒い影。

 四足歩行で高原を駆けるその姿はまさしく百獣の王。

 

「ニードルベアにゃ……!」

 

 槍の雨が降るこの飛刈(ひかり)高原で唯一生き残っている4mもの体高を誇る大熊だ。

 全身にソウセンカの槍を生やしたまま生活している為にニードルベアと名付けられた可哀想な熊である。

 

 現在進行形で降り続ける槍の雨を受けて全身から赤い血を流しながら突撃してきたニードルベアが、バリアをすり抜けてその槍だらけの右腕を大きく振りかぶった。

 前に出たアンバーはそれに合わせていかずち丸を振り上げて迎撃する。

 

「ライトニングバスター!」

 

 雷鳴が(とどろ)き、俺の視界が一瞬だけ白く焼き付いた。

 細めた視界に映ったのは、炭化した槍の生えた右腕をひしゃげさせて全身から黒い煙を上げながらも残った左腕でアンバーを攻撃しようと闘志を燃やすニードルベアの姿だった。

 

 なにっ、アンバーの必殺技を受けて倒れないというのか!

 タフという言葉はニードルベアの為にあった!

 

 アンバーはいかずち丸を収納してニードルベアの釘バットみたいな左腕から放たれたテレフォンパンチをさっと(かわ)すと、かいおう丸で刺さった槍ごと左腕を叩き折った。

 

 それでも諦めないタフなニードルベアは、8mくらいはありそうなその巨体を使ったのしかかり攻撃をしようとその二本の後ろ脚で高く飛び上がった。

 天高く舞う槍だらけの大熊から伸びた影が俺達の上に落ちてくる。

 

「まずい!」

 

 俺は広げていた石の道路の一部を持ち上げると、ごん太の石柱をつっかえ棒のようにしてニードルベアのフライングボディプレスを受け止めた。

 

「ナイスじゃハルト!」

 

 アンバーが石柱にぶらりとぶら下がったニードルベアの槍だらけの頭に全力の一撃をお見舞いすると、ニードルベアは全身の力をくたりと抜いて力尽きた。

 

 俺は石柱をぐんと伸ばしてその巨体を仰向けに転がすと、爪の先からゆっくりと蒸発していくニードルベアに両手を合わせた。

 

「とんでもない強敵だった。成仏してくれよ……」

「守らねばならぬ者がおると戦い辛いのう。ここでの戦闘はできるだけ(ひか)えたいものじゃ」

「大丈夫、他のニードルベアはかなり離れた場所にいる。これ以上の戦闘は起こらないはずだよ」

「ならええんじゃが……」

 

 サブマスター権限を使って索敵したギザードのその言葉に俺達はホッとした。

 このイーラで一番タフなニードルベアはそう何度も戦いたい相手ではない。

 

 ニードルベアの巨体が蒸発するのを待ちきれなかったミュールが小太刀で胸を切り裂いてサッと魔石を回収したので、俺達は再びゲートへ向けて歩き出した。

 

 

 槍の雨が降る中をさらに30分ほど進むと、登った丘の頂上から見下ろした先に円形のゲートが口を開いていた。

 

 そのゲートの上には金属製の大きな屋根をした壁のない東屋(あずまや)が設置されており、その周囲には屋根から転がり落ちたソウセンカの種子が堆積(たいせき)している。

 

 俺達が丘から真っ直ぐに降りてその屋根の下に入ると、アザミはずっと張り続けていたバリアを解除した。

 

「ふー、やっと落ち着けるにゃ」

 

 ミュールはレンガ敷きの床に座り込むと、ポーチからドライイツカデーツの入った小袋を取り出してもぐもぐと食べ始めた。

 アンバーは柱に寄りかかって水筒を片手に水を飲んでいる。

 

「思ったよりも遠かったね」

「アザミ、魔力残量は大丈夫?」

 

 彼は飛刈(ひかり)平原を抜ける為に広範囲のプロテクションを4回は張り直している。

 俺の経験から考えると、余り余裕はないように思える。

 

「6割ってところかな。一応マジックポーションは持っているけど、できれば使いたくないね」

 

 魔力を回復できるマジックポーションは馬鹿みたいに高いからな。

 俺も何本か持っているが、一度も使ったことがない。

 

 回復量的に俺が使っても焼け石に水だし、それならミュールにでも飲ませた方がまだ効果的というものだろう。

 

「分かった。五層はできるだけアザミのプロテクションなしで何とかするよ」

「ボクだけ楽しちゃってごめんね」

「役割分担は大事だし、気にしないでくれ」

 

 ぶっちゃけこのパーティーは最強前衛職のアンバー頼りだからな。

 彼女が万全の状態で活躍できるようにサポートするのが俺達の仕事なのだ。

 

 俺はアザミと会話しながら石の流体を少しずつ魔力に還元していた。

 五層での戦闘を考えたら少しでも魔力を回復しておきたい。

 

 すべての石を魔力に還元するのには時間が掛かったが、これで少なくともアイシクルカノン1発分の魔力は回復できた。

 

 たかが1発、されど1発だ。

 ちゃんと練習はしておくものだな。

 

「終わった。今は何時?」

「11時47分。約束の時間まで後10分ちょっとだね」

「マーメイド達はちゃんと仕事をしてくれておるかのう。心配じゃ」

「既に彼女達は動いているみたいだ。さっきから見ていたけど、一層のゲートを通る探索者の姿が見えない」

「ほう、約束は守ってくれたようじゃな。ならばわしらもそろそろ行くべきか」

 

 床に座り額の刻印に翼を当てていたギザードは立ち上がると俺達を見回した。

 

「ゲートの周囲に敵はいない。今のうちに突入しよう」

 

 槍の雨の降る高原に建てられた東屋で最後の小休止を終えた俺達は、五層に繋がるゲートへと飛び込んだのだった。

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