マイマイダンジョン〜転生して魔力極振りチート魔導士になった俺は現代知識で世界を救う〜   作:我島甲太郎

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第98話 獣の双牙

 紫滅晶洞(しめつしょうどう)から三層へと続くゲートが隠されたシェルターの前に、まるで門番のように立ちはだかった二人のワータイガーの男。

 

 左の男の名はパスカル、双子の兄の剣豪(ソードマン)

 右の男の名はブレーズ、双子の弟の斧勇士(ウォーリア)

 どちらも優れた対人戦闘能力を持つ、Aランク探索者だ。

 

 彼らは武器も構えず丸腰のように見えているが、そんなものはこの世界の探索者にとって何のハンデにもなりはしない。

 不用意に近付けば装具から取り出した得物で真っ二つにされてしまうだろう。

 

「俺達はAランク探索者パーティー『獣の双牙』だ。痛い目を見たくなければ、今すぐその男を差し出すんだな」

「イーラの(おきて)を破った男、ギザード・イーラをな」

 

 掲示していたギルドカードを懐に仕舞ったパスカルが忠告すると、ブレーズがそれに合わせて凄んだ。

 

「それをわしらが了承すると思っておるのか」

「討伐要請が出た者を(かば)えばお前達も同罪だ。死にたいのか?」

「リトルジャイアントのアンバー、相手にとって不足はない」

 

 フンと鼻を鳴らしたアンバーが懐から取り出したギルドカードを左右に振る。

 

「Bランク探索者のわしらには討伐要請は出ておらん。つまりこれはセシリーの独断ということじゃ」

「母上は相当焦っているみたいだね。勝手に討伐要請なんて出しちゃって、後でどうギルド本部に弁明(べんめい)するんだろうか」

 

 上級探索者に対する救援要請と捕縛要請の発令は現地の探索者ギルドの裁量で行えるが、討伐要請だけは別だ。

 

 ダンジョン内での殺人はギルド本部によって厳しく制限されている。

 そうでなければ証拠の隠滅が容易なダンジョン内の治安は世紀末を迎えてしまう。

 

 ギルド本部の天使達はあらゆる個人、組織、国家間の闘争に中立を保っているが、ダンジョンの中だけは別だ。

 要は殺り合いたければ外でやれってことだな。

 

「ダンジョンから出る前なら探索中の事故として揉み消せるとでも考えたんだろう。『リザーブマスターになると大口叩いたはいいものの、溶岩ダイブで行方不明』ってね」

 

 アザミはおどけて肩を(すく)めた。

 

「お主らにわしらは殺せんし、わしらもお主らは殺せん。それが探索者の法じゃ」

 

 ワータイガーの双子は顔を見合わせて相談を始めた。

 

「どうする兄者?」

「ううむ、そこまで言われると困るな……」

 

 なんか悩んでいるし、あと少し押せばイケそう。

 ……と思ったが相談を終えた二人はこちらに向き直って装具から取り出した武器を構えた。

 

「要は殺さなければいいんだ。ちょっとくらいなら大丈夫だろう」

「そうだね兄者。これをネタにダンジョンマスターからお金を引き出そう」

 

 全然駄目だった!

 

「仕方がないのう……」

 

 一歩前に出たアンバーが左腕に()めた銀の腕輪から銀の大剣を取り出した。

 こんなこともあろうかと、事前にかいおう丸と入れ替えておいたのである。

 

「そっ、それは俺の剣!」

「あれは兄者が海で無くしたはず……まさか!」

 

 アンバーは銀の大剣を思い切り地面に突き立てると、今度はいかずち丸を取り出してぐいと横に振りかぶった。

 大剣をへし折るフルスイングの構えだ。

 

「すんなり通してくれるのなら返してやろうと思っておったが、やめじゃ。こやつは()潰してわしのこん棒コレクションに加えてくれるわ!」

「ま、待て! 待ってくれ!」

「ほーん? 聞こえんのう?」

「俺達が悪かった! ほら、こうだ!」

 

 二人は持っていた武器を背後に放り投げると五体投地して降参した。

 

後生(ごしょう)だからそれだけは勘弁してくれ。そいつは俺の相棒なんだ……」

「シーサーペントに敗れ海に落ちたお主を助ける為に一人の男が右腕を失った。まさか忘れてはおらんじゃろうな」

「……ブルーノのことか」

「お主は彼に謝りもせず逃げ出した。一人の男として恥ずかしいとは思わんのか」

 

 ああ、アンバーの説教が始まった……。

 だが相手も負けてはいないようで、顔を上げると男らしく反論をした。

 

「俺にだってプライドはある! 尻尾を巻いて逃げ出した負け猫として、絶対に謝るわけにはいかんのだ!」

「負け猫なのは認めるのじゃな」

「あんな大物、どうやって倒せというのだ。俺はもう、二度と海には出ない……」

「兄者……」

 

 彼らは対人戦闘能力には()けていたが、対海棲(かいせい)魔獣戦闘はそこまでだったらしい。

 適材適所って大事だな。

 

「そうか、ならよい。これ以上は責を問わぬことにしよう」

「もう終わったことだしな。だって無くしたブルーノの右腕も生えてるし」

 

 ちなみに俺が生やした。

 

「どういうことだ?」

「まあ、気になったら会いに行くといいよ。『牧場(まきば)亭』はいい宿だ」

 

 俺がアンバーに目配せすると、彼女はうむと頷いて銀の大剣を装具に仕舞った。

 

「やるべきことがあるのでな、わしらは先へ向かうとしよう。これはギルドに預けておくからのう、後で取りに行くとよいじゃろう」

「……ありがとう」

「でもアンバーに剣を向けたのは許さないけどね」

 

 俺は石の触手を生み出すと、二人をぐるぐる巻きに拘束した。

 

「兄者ー!」

「何をする!? 離せ!」

「いやだってさ、隠し武器とかで不意打ちされたら困るじゃん。安全第一だよ」

 

 俺達は二人を拘束して転がしたままアンバーの引き上げた鉄扉(てっぴ)を潜ってシェルターの中に入った。

 

 俺は閉まった鉄扉(てっぴ)の隙間からさっと石の触手を回収して二人を拘束から解放すると、鉄扉(てっぴ)の前を石で埋め立てて侵入できないようにした。

 この壁がダンジョンに吸収されるまで、もう誰もシェルターには出入りできない。

 

「よし、これで1時間くらいは時間を稼げるだろう」

「お主、マジか……」

 

 用心深すぎてアンバーに引かれてしまった。

 でも俺にだって言い分はある。

 ここはビシッと言ってやらないといけない。

 

「人を信用しすぎるのはアンバーの悪い癖だよ。世の中、悪いやつなんていくらでもいるんだからね」

 

 例えばポンポコ出版の社長のタヌヨシとかな。

 

「ハルトの言う通りにゃ。アイツらは食べ物を粗末にする悪いやつにゃ!」

 

 ここぞとばかりに今まで空気になっていたミュールが同調した。

 空気っていうか隠密スキルで隠れていたんだけどね。

 最悪の場合、初手で彼女が不意打ちして数を減らす予定だったのだ。

 

「油断できない相手だったのは確かだ。会話している間、僕はずっと冷や汗が止まらなかったし……本職の出す殺気は怖いよ」

「……そうか。わしが間違っておったわい」

「ま、そういうこともあるさ」

 

 俺は落ち込むアンバーになでなでしてあげたのだった。

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